GE2RB ザ・ファーマー
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皆で
晴天が広がり、草木の匂いが風に乗って吹き抜ける聖域にて、一本の鍬が一定のリズムで高く掲げられては地面へと降り下ろされていた。
「ふう……」
鍬を振るうのはブラッド隊に所属するジュリウス・ウィスコンティ。
様々な準備が整ったため、本格的な農作業を開始していた。
「ジュリウスー!」
聖域の一部とはいえ広大な範囲を畑として耕してるなか、ジュリウスの名前を呼ぶ大きな声がする。
振り向いて見ると、そこにはブラッドの仲間達が勢揃いしている。
先程大きな声で名前を呼んでいたナナが手を勢い良く振ってジュリウスを呼んでいる。
ジュリウスは耕す手を止め、久々に合う仲間達の下へ歩み寄った。
「ジュリウス、これは一体……」
「畑だ。今耕してる所には、馬鈴薯を植える」
シエルの質問に、ジュリウスはさらりと自分のしている事を答えた。
「ばれいしょ……?」
「ああ、馬鈴薯とはジャガイモの事だが、フェンリルのプラントで生産される巨大な物とは違う、本物の馬鈴薯を畑で育ててるんだ。……見ろ」
ロミオへ捕捉情報を伝えながら耕してる畑を示す。
ジュリウスの畑は一般的な外部居住区の家、数十件分の土地を合わせた位の広さで、様々な種類の野菜が植えられており、緑が少ない部分はジャガイモの様に地面の中で育つ野菜が植えられている所だろう。
「聖域では、神機使いとしての力は使えないはずだが、こんなにとは……」
「凄いな。聖域の土壌は外に比べ柔らかいとはいえ、ここまで耕すのは生半可じゃあないだろう」
「予定していたペースに比べると、大分遅れはあるがな。フッ、大地とは本当にままならないものだな」
「一人でやったなら十分でしょ。というか、短期間にどうやったらここまで出来るのよ……」
ギルとリヴィの感嘆にズレた感想を述べるジュリウスにホワイトが呆れながらジュリウスが開拓して耕した畑を見渡す。
明らかにオーバーワークである。
「ねえねえ、ジュリウス。もしかして、あれ全部食べられるの?」
「ああ。手前の畑は根菜類、右側は葉物野菜。向こうの木立ちは柑橘類だ。見ての通り、育成観察の準備は整った。ここまでは一人でも可能だったが、本番はこれからだな」
ジュリウスはブラッド全員の顔を見渡し、
「ここを拠点に、農業技術の復興と聖域での生活方法の探求を行う。……頼めるか?」
「オッケー!俺達も負けてらんないぜ!なっ!みんな!」
「はいはーい!わたしは大根植えて、美味しいおでんパン作るっ!」
「俺は井戸を掘ろう。農作業にしろ生活にしろ、水は欠かせないからな」
「じゃあ俺はこのデザインセンスで家を建てるぜ!」
「鶏は飼うべきだ。卵は継続的に入手可能、栄養価でも有利で、鶏自体も食材になる」
「私は!……ええと、私……でも、私に手伝えそうな事は、なにも……」
ブラッドの面々が主に自分がしたい事を挙げる中で、シエルが自分に出来そうな事が思い付かずに弱気になってく。
そんな姿も実に可w(ry
「シエル、動物が好きなら、ここで育てるのはどうだ?」
「あら、いいじゃない。シエルはカルビの事もあるし、好きでしょ。動物」
「動物……!そうですね、何からの動物と私、緑の中で……!とても素敵だと思います!」
ジュリウスの助け船にその風景を想像したのか、シエルが喜色満面に頷いた。
ブラッドの隊員達がどうやって進めるかをワイワイ話し合うのを見ながら、さて、自分はどうしようかとホワイトが首を傾げ考えていると、ジュリウスが此方に手を差し伸べ、言った。
「ホワイト。俺と一緒に、畑をやろう」
「っ!?」
聞き様によっては文面以上の意味がありそうなジュリウスの言葉を受け、第三者的視線からしたら今更この程度でという感じはあるが、ホワイトは仄かに顔を赤くする。
深い意味が無いのは分かるが、それでも反応してしまうのが乙女。
数秒程、口をパクパクさせて何かを言おうとしていたホワイトだが、諦めたのか顔を隠す様に下を向き、ジュリウスの手を取った。
ジュリウスはその手を優しく握り締め、ホワイトを先導する。
「こっちへ来てくれ。今日は人参の種を撒くぞ!」
ブラッド隊による聖域での農作業再興と生活環境の実地研究。
緑豊かで清浄な空気での満ちる、晴天の下で輝きを増している聖域で、人類が奇跡の様な積み重ねを絶え間無く続けていく希望溢れる未来への投資となるこの計画はまだ始まったばかり。
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