| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

夢のような物語に全俺が泣いた

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

目が覚めたらそこは…

「ん……ここは…?」

目を覚ますと、そこは少し薄暗い洞窟の様な場所で、何故だろうか、不思議な感覚と緊張感に包まれていた。

「そうだ、特典は…」

大丈夫。確りと感じられる。
胸のなかに確かな暖かさを感じとり、俺はゆっくりと立ち上がる。

「さて…ここは何処だ?」

辺りを見回しても特にこれと言った物は見つからない。
取り合えず歩こう。そうしたところで―――

『あああいああああああ!!』

―――奥の方から悲鳴が聞こえてきた。

「っ!!何だ!?」

慌てて声がした方へ振り向く。
ドドド…と、次第に大きくなる音に警戒をし、ゴクリも唾を飲み込んだその時だった。

「助けてぇぇぇえ!」

『グルォォォォオ!』

「……えぇ…」

白い髪の少年と、その少年を追いかけている…見た感じミノタウロスが現れ、俺の横を通りすぎて行った

「――ら良かったのになぁ…」

昔からこうなのだ。
俺の真横で急停止して睨んでくるミノタウロス(仮)。
俺は昔から…ヘイトを稼ぐのが上手かった。

「俺、何かしたか?」

特に何をするでもなく、ただ立っているだけでこの様だ。
もはや呪いなのではないかと疑うほどにこの体質は俺を苦しめた。

「そこの人!逃げてください!」

先程の少年が俺に撤退を進言するが、そうは問屋がおろさない。
ミノタウロス(仮)は俺の顔を狙って拳を振り上げているのだから。

「そんなに大振りじゃあ…」

『グラゥッ!』

「当たらないぞ」

俺は降り下ろされた拳に添えるように手を置き、軌道を剃らす形で受け流した。
その勢いをそのままに、軸足に遊び足を交差させてミノタウロス(仮)の足を掻ける。
ミノタウロス(仮)は仰向けに転倒し、後頭部を地面にぶつけた。

「これでも何種類か武術を嗜んでるんだ。
そう簡単に攻撃を受けるわけには行かないな」

格好よく決めてみた。
だが相手は人外…果てはモンスターなのだ。
この程度の事でやられるほど弱くはないのが普通だろう。
そのでかい目玉に充血の模様を浮き立たせ、如何にもな怒りむき出しカムチャッカファイヤーなミノタウロス(仮)がうねりを挙げて立ち上がった。

「…さて、逃げるか」

俺は踵を返して走り出す。
調度先程の少年の横を通りすぎ、出口が分からないままに勘を頼りに加速する。

「ま、待ってくださいぃぃ!」

何故か少年まで付いてきているが…あの形相は怖いだろうな。
チラッと見れば憤怒の表情で走ってくるミノタウロス(仮)。

「い、行き止まり!?」

「おっと…」

何故か俺を追い越して先頭を走っていた少年。
行き着いた先の行き止まり地点に驚愕を示しながら焦りの表情を浮かべていた。

「ど、どうすれば…!」

「まぁ、戦うしかないだろうな」

「そんな!?ミノタウロスは推奨Lv2でLv1の僕なんかじゃ歯が立たないんですよ!?」

その1と2の間にどれだけ差があるんだ?

「そのLvってのは知らんが…逃げて駄目なら勝って通れば問題ない」

特典も試したいしな…。

「それは――ひぃっ!?」

ミノタウロスは拳を振り上げ、俺に向かって降り下ろす。
自分に向けられた訳でもないのだが、白い髪の少年は自分の事のように縮こまってしまう。

「ふっ!」

先ずは装備の具現化。
創造するのは盾。強く、硬く、神秘的な盾。

”ガィンッ!”

「――え?」

辺りに響いた金属音に、白い髪の少年は顔を上げる。
そこには神々しい盾を持ち、ミノタウロスの拳を受け止めている少年が立っていた。

良かった……これで駄目だったらお釈迦に帰り咲いてたぜ。
兎も角、このアイギスの盾で受け止められる位は理解できた。
後は武器だが――――

”ザシュッ!ビシャアッ!”

武器を具現化させようとした時、俺の目の前にいたミノタウロスが斜めに真っ二つ。
そこから吹き出る鮮血が、俺と少年にかかった。

「え………あ……?」

「う………おぇぇえ…!」

少年は「何が?」と放心し、俺は初めての光景に嘔吐した。

「…大丈夫だった?」

気持ち悪さを我慢しながら声のした方を見上げる。
そこには金髪の、見た目そのままに騎士ですと言うような女性が立っていて、こちらを無表情ながらに見つめていた。

「ひひゃぁぁぁぁぃい!」

突如、奇声が洞窟全体に響き渡った。
声の主は隣にいた少年。叫んだと思ったらそのまま立ち上がり、先程よりも早く走り去ってしまった。

「うぇ…何なんだ一体…」

俺はヨロヨロと立ち上がり、再び女性に目を向ける。
若干落ち込んだようなその顔は、まぁわからんでもない。

「おいアイズ!仕留めたか?!」

その後ろから男性の声が聞こえる。

「ん…仕留めた」

駆け寄ってきた男性は……犬耳?
あれ?俺ってば目が可笑しくなったのか?

「あん?何だこのガキ…さっきのガキといい…トマト野郎かよ」

………は?今なんったこいつ?
トマト野郎?…確かに前進血みどろで真っ赤になっているがそんな言われかたされる筋合いは持ってねぇぞ?

「あ?何だその目はよぉ…?」

犬耳の男は俺に積めよって来る。
俺も立ち上がり、メンチを切りあうようにして犬耳を睨む。

「何か言ったらどうなんだ?あぁ!?」

「あんたは何処のチンピラだよ?あ?
目覚めれば何処かも知らない洞窟で、ミノタウロスに追いかけ回されるわ反撃しようとしたら鮮血浴びるわ…こちとら災難ばっかでどうしようもねぇんだよ」

一触即発。そんな空気が入り交じるなか、一人の声がその場を納める。

「悪いけど、その少年は僕の連れなんだ。
手を出さないで貰えるかな?」

爽やかに。そして響くような声。
そちらを向けば青い髪に長身の男性が立っていた。

「いつの間に…誰だテメェ」

「僕?僕はソウヤ・アオイ。
そこの少年を迎えに来た…”最強”の一騎士だよ」

ソウヤ・アオイ……聞こえを知れば日本人の様な名前だ。
もしかしなくても俺と同類の人物なのだろうか?

「最強だ?生憎だったな。
俺が最強と認めるのはここにいる【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインただ一人だ!」

「まぁ、試しても良いけど…僕も急を要してる。
その【剣姫】とやらが僕とやりたいのであれば…さっさと終わらせて上げるけど?」

瞬間、身体が重くなるような感覚に襲われた。

「っ!」「っっ!」「…!」

もしかしなくても…殺気だ…!
ここまでとてつもない殺気を出すなんて!

「この程度で動けなくなるなんて…まだまだ世界を知らないね?
まあいいや。えーっと…卯足 慧くんだね?僕と来て貰えるかい?」

「………嫌だと言ったら?」

「いやいや…別に君に危害を加えるためにここへ来たんじゃないから」

「………俺にメリットが無い」

「あるよ?現状の確認が出来るし、知りたいことにも答えられる。
君が望むなら修行とかスキルの練習にだって付き合える。どうかな?」

「……………分かった」

確かに現状確認はしたい。
何処に連れていくかは知らないが…何かあれば全力で抵抗してやる。

「じゃ、手を握って?」

そう言われて、俺は差し出された手を軽く握る。
そして次の瞬間――

「お、帰ったか。ご苦労だったなソウヤ」

目の前に金髪の長い髪をした男性が立っていた。

「只今戻りました、ゼウス様」

ソウヤ…さんがゼウスと呼んだ男性に会釈をして歩いて行く。
よく見れば俺が今いる場所も先程までの洞窟と全く違う。

「ホントにどうなってんだよ…」

俺は片手を額に持っていき、ため息を付く他無かった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧