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妄想全開男子

作者:abcdes
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電車〜「壁ドン」


「壁ドン」

「壁ドン」とは、男性が女性を壁際に追い詰めて手を壁にドンと突く行為。
元は少女漫画が原産であり、それにキュンキュンする恋い焦がれる女子たちが「やられたい」という思いが強いがために広く世間に伝わったもの。
「壁ドン」とは次元を超えても、17歳非リア童貞ちん黒コミュ障妄想全開男子の俺には程遠い存在の行為。
ましてやその言葉を口にすることすら許されない。

そんな俺ですが‥‥。
やってしまいました‥‥。
満員電車内で可愛い女の子に‥‥。
「壁ドン」を!

率直な感想をいいます。
助けてください。
こんなの乙女ゲーのイケメン男子だけが許された行為なのだと改めて深く思わされた。

「あ、あ、あ、ごめぬなさい」
「こちらこそ‥‥」

噛んじゃったよ!謝罪したら噛んじゃったよ!うっわきっつこりゃきついぜ厳しめだぜ!

あれ?でもこの子意外とまんざらでもないんじゃないか?顔が何処と無く赤いぞ。
もしや「壁ドン」に憧れてた系女子か。なら話は早い。

現状維持だ!

彼女は俺の顔を見るや否やまた顔を伏せて携帯をいじりだした。

今完全に「イケメン君かな?うわっ!きも誰こいつ死ねばいいのに」とか思った顔したよね?見逃さなかったよ俺は。
そういうの敏感で鈍感のふりしてるから、表情では出さないけど内心グッツグツに煮やしてるから。

おっと今度はなんだ携帯なんて取り出して。
ほうほう。ホーム画面から?メモ帳開いて?「キモい」って打って?「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」「キモい」
怖い!そんなに打たないで!

俺のことそんなに嫌い?キモい?気色悪い!?
まあそうですよね。童貞の俺が「壁ドン」なんてしたら引きますよね?俺だって俺にされたら嫌だもん。意味わかんないけど。

タタタタタタタタタタタタッ

この子ずっと打ってる!「キモい」ってずっと打ってる!
すっげ!こりゃ関心ものだわ!手、攣らないのかね。

俺の背中に圧力がだんだんと掛かってくる。
それと同時に体を押され、俺の顔が彼女の顔に接近していく。

あぁごめんなさいごめんなさい!不可抗力なんです!リトが女の子のスカートの中に顔突っ込むってことぐらいの不可抗力なんです!
しかも、押してくるこいつらが悪くて、この状況を作る電車が悪くて、この状況の原因となった雨が悪いんです!俺じゃないです!だからお願いそれ以上「キモい」連打しないで!

彼女は先刻より2倍も3倍もの速さで携帯のメモ帳に連打していく。

くそっ!俺は自分の顔を彼女に近づけないようにすることしかできないのか!

この時俺に神のアナウスが聞こえた。

「次は〜◯◯駅〜」

きた!この駅はたしか降車人数が多いはず!これを機に一気に彼女から離れよう。さすがに肉体的にも精神的にも耐えられん。

「次は〜‥‥バシンッ」
「ちゃうやろ次はこの△△駅だ!何しとんねんタコが!」
「あ、すいません先輩。自分目が悪いもんでついうっかり」
「うっかりで済む問題ちゃうやろ!おい電源つけっぱやないか。お前こういうとこっ‥‥ブチッ」
「‥‥‥えー、次は〜◯◯駅。次は〜◯◯駅」

おいなんだったんだ今の!車掌まず謝れや!何新人導入してんだ先輩!コネだろ、これコネだろ。

だが、そんなことにかまってる暇はない。◯◯駅だと!?乗車率が一番高い駅じゃないか!

このままじゃまずい。これ以上乗車されるとこの子に触れてしまって公然猥褻罪でつかつかまってしまう。

まずいなまずいなまずいな。運悪く逆の扉が開いてしまう。

ピローン
ダダダダダダダダダタッ!

うっむさ苦しい大人たちがたくさん乗車してきた!負荷が‥‥だんだんと‥‥片手じゃ支えきれん!彼女は彼女は大丈夫か!?

タラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラタラ

うわっものすごい速さで打ってるよ流石JK!でもここが限界だな。

タラタッ

指攣ったか‥‥。そりゃそうだ。加藤鷹ばりのフィンガーテクニックを一般人が真似できるはずがない。必ずガタがくる。

しかし、彼女は諦めなかった。攣ってしまった指を痛みなんか気にせずに画面を再びタッチし始めた。

何がそこまで彼女を駆り立てるんだ!俺なんかもう‥‥右腕が‥‥。

いや、ダメだ!ここで俺が諦めてどうする!諦めて何になる!こんなにもすぐ近くで自分の体のことなど気にせずに努力している女の子がいるのに、俺は諦めてどうする!

やるか‥‥。できればやりたくなかったがそうは言ってられないようだな‥‥‥‥。

俺は両の手を彼女の顔を挟んでスレスレで扉に押し付けた。


秘技!「両手壁ドン」

全神経よオラの両腕に力をくれ!

オラオラオラオラぁーーーーーー



ようやく、天国に一番近いようで一歩間違えれば地獄のような環境から抜け出した。
満員電車を降車した途端、さながらマルコ少年が母に会うために三千里も旅をし感動の再開をした時のように、彼女とその友達は抱き合った。
俺はそのレズを感じさせる光景を興味ないように視界から外し、彼女らの横を通り抜けた。

「ゆみ大丈夫だった?キモい男子に壁ドンされてたけど。痴漢だったらすぐ言うのよ?」
「ううん。相手は触ってこなかったさら大丈夫だったけど、キモくてキモくて指攣っちゃったよ」
「どうゆうこと!?そこは鳥肌でしょ」
「まじキモすぎたわ。うちのことずっと見てくんの」
「何それまじやばくない!?うけんだけど」

俺は彼女らの罵詈雑言を背に受け、不快感より達成感を感じながら今日も学校にちょっと沈んだ気持ちで登校する。
俺は「壁ドン」のリスクを体感して一つわかったことがある。

「壁ドンなんて二度とごめんだ」

 
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