ファイアーエムブレム ~神々の系譜~
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第二章 終わらせし者と月の女神
第十話
弟が旅をするといってから、1ヶ月近く経った。
私よりも才能豊かでお兄様からも一目置かれている弟。昔はよく可愛がった。あどけない顔でお姉ちゃんと言ってくる弟をどうしても愛しく思った。でも年々、可愛かった弟もいろんな物に染まって大人びていった。私にも失礼な事を言うようになったし。
そんな弟が旅に出るなんて、しかも神の啓示とか言って。あの子は、別に敬虔な教徒でもなかったはずそんな子が神からの啓示。許容できる訳ないじゃない。
それにお父様も亡くなったばかりで兄様も王になったばかりで国もゴタゴタしてるのに、自分勝手で本当に何を考えてるのか。
でもあの子は、無理を通すのには理由があるはずなのよ。少なくとも私よりは、頭が良いはずでそんな私が今旅に出るのはだめとわかっているのにあの子がわかってない筈がない。
だから、理由はわからないけど認めざるを得なかった。私はいない弟の分まで頑張るわ。それで帰ってきたら思いっきり可愛がってやるのよ。それに頑張れば、私もお兄様にも可愛がって貰えるかもしれないしね。
政治とは此処まで苦労するものだったのかと改めて思うこの頃。メウス大臣のお陰で王位に就くことも滞りなく進ませる事が出来た。しかし、やはり王に成り立てでありマッキリーもハイラインも怪しい動きを見せている。
イムカ王が私達兄弟に大いなる慈悲をかけてくれているために、マッキリーもハイラインも攻め倦ねているという所か。
マッキリーにも、ハイラインにも戦で負けることはないと思うが結果的にノディオンの民には苦労をかけてしまうことになる。
それは是が非でも阻止したい。戦とは最後の手段であり、その選択肢をとらされた時点で負けのようなものだ。
メウス大臣曰わく、このような時に弟の力が必要だと言った。謀略を私は好むことはないが、その重要性も必要性も理解している。
しかし、そんな時に弟は旅に出た。なんともわからん話だ。弟は敬虔だったかと問えば間違いなく違うと言われ。
急に王族が耐えられなくなったのかと問えば、それもまた違うと言われた。
あの方は、幼き頃から知識を好んでいた。だから今回の旅に出るというのは、弟君にとって必要な事を成しにいったのでしょう。
もし本当に神の啓示だったのだとしてもこの時期ではなくてはいけなかったということはないはずです。それこそ、神からの啓示を受け取ったのはヴェルダンへの友好として使者として赴いた時に受けたと聞きました。それならもっと前に旅にでてもよかったはずなのです。
ヴェルダンから帰ってきてから直ぐにでも。
どうやらメウス大臣の方が私より弟の事をわかっていそうだ。私は家族を愛し信頼している。
そこには弟も当然含まれる。武勇に優れ、知略にも長けた弟とはなんとも得難き家族だ。
それに今は亡き父もおっしゃっていた。
『人を愛し、アグスティに忠誠を。妹は良き姫となり民に慕われるだろう。弟はお前にない才を持つ、こき使ってやれ。あいつは王には成れぬが王の右手としては最高の人材だ。見捨てることはなきよう。我らは家族だ、家族を愛せよ。さすれば良き王にお前は成ろう』
取り合えずはこの政治的な難局を如何にして乗り越えるか、当分はそれに重きを傾ける。弟が居なくても、私は王としてやるべきことが多くある。当然苦労も増える。
弟が帰ってきたらこの苦労を分け与えてやろう。領地はこの都から北西のハイラインとの国境近くをやろうか。
「ぶぁくしょっん!!!」
「身体でも壊したか?」
自分の身に降りかかる悪寒。誰か俺の噂でもしているのであろうか。もしかしたら、暗殺とかそういった類のものを仕掛けようとしているのか?
一応、この後の歴史を知っている者として警戒はしておかなければならない。
「いえ、そういう訳では。すいません」
「ならいい、マディノまでもう少しだ」
「そうですね。ブラギまで後はオーガヒルを超えるだけだ」
オーガヒルは海賊の巣窟だ。その首領は義を心情とする男らしいが、その部下はその又部下はとなってくれば話も変わってくるはず。
よってオーガヒルは、細心の注意を払う必要があるだろう。
でも、一つ不思議に思う。ブラギの塔って言うのはエッダ教でも聖地のようなものだ。その近くに海賊が巣くうのは由々しき事だと思う。理想はオーガヒルに新たな城を作り海賊を縛り上げるような事をしなければならないとは思うが現実問題不可能な話だ。
オーガヒルには、一国の兵力に匹敵するほどの海賊がいる。それに何も悪さを働くだけではなく、漁を生業にしたり運搬業に力を入れていたりと決して海賊という一つの側面だけを見ることが出来ない状況にあるのだ。
だからアグストリア諸公連合も放っておくしかない。海賊は厳かでずる賢くアグスティへの莫大な利益の内のいくらかを献上している。しかもそれは馬鹿にならない金額だ。
よって、オーガヒルは海賊の国と言っても過言ではないのだ。少なくとも今の首領が生きている限りそうなることだろう。
「金があるのなら、船で行くのも一つの手だと思うのだかな」
「なんか楽して冒険するようで少し嫌なんですよね」
「ふん、それはまた子供の考えだと思うが」
「この旅は僕がまだ子供であっていい最後の思い出です」
「普通、子供は大人に成りたがるものだと思うがな」
「これから血で血を洗うような争いが始まると思うと大人に成りたくはないですよ」
「それもそうか……」
きっとソールは、貴族の権力争いの事だと思っているのだろう。実際余り間違った比喩とも言えないけども、これから起こる争乱や戦争の事を思ってそう言った。
彼はまだ知らないのだ。これから暗黒教団による恐怖政治が行われようとしている事を。願うべくは神がその戦いで使える力を私に授けてくれること。
旅の目的は、もうすぐ果たされようとしていた。
その一方で、セレーネという暗黒教団から狙われた少女はシルベールを目指して歩いていた。呪いによる死の淵から解放された彼女の道に困難は続く。
「よりにもよって、なぜ山賊があんな所に出るのでしょうか」
「しかも正気を失ってる化け物みたいな奴ら」
「どうやら、セレーネさんを狙っている奴らというのは手段を選ばないようですね」
セレーネの護衛の者達は、先程倒した山賊達の事を話している。彼女は父を殺されて、自身も命を狙われているというのがよく分からなかった。
つい少し前までは、魔法が得意なだけの少女だったのだ。それが優秀な戦士達にとっても厄介だと思わせる人達に命を狙われている。
最初は父が狙われた理由が彼女を狙う理由なのだと思っていた彼らだったがそれだけじゃないとフレデリクは言った。
多分それは間違ってはないのだろう。敵は恐らく闇を生業にするものだ。彼らは表に出ることなく人を殺そうとしてきた。それでも彼女を殺すためにその輪郭を少しずつ見せ始めている。
現にさっき倒した山賊の一人から黒いローブを深く被った奴に魔法をかけられたと聞いた。正気を失っていた彼らを見るに偽りで語ったのではないというのはわかった。
それでも前に進むしかなかった。ブラギの塔にたどり着くことが出来れば全てわかる。そんな漠然とした何かがセレーネだけではなく、その仲間達にも広がっていた。
「ところでシルベールからどうやってブラギまでいきますか?」
セレーネはフレデリクに声をかけた。
「道は二つあります。一つはシルベールから出ている船に乗ること。もう一つは、このまま陸を海岸線を通ってブラギまで行くルートです」
「うーん、どちらがいいのでしょうか?」
「安全面を考慮すれば、間違いなく陸のルートですね。でも船に乗ればあっというまですが船ならば覚悟した方がいいです」
「それは危険だと?」
「ええ、陸とは違って船は周りに逃げ場もありませんし、船が燃やされたりしたら一発でしょう。私なら、多少時間がかかることになっても陸の方から行きます」
「わかりました。では陸の方から行きましょう」
こうして彼女の一行は、陸のルートで目指すことになった。しかし、旅とは先が見えないのもまた一興。
彼女達の困難はまだ続く。
後書き
最近、勘違い系の小説に嵌まっているのでこれにも実験的に入れてこうかなって考えてます。といっても微々たるものなんですけどね。
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