フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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ゼロの使い魔編
第二章 天空の大陸 アルビオン
アルビオン皇太子
前書き
やべえ、もう六月中旬じゃねえか・・・!!
そんなこんなで四話です
もう夜も遅くなっていたため、船の中で睡眠をとることになった。もうすぐ戦場である。何があるか分からないため、架とワルドは交代で見張りをとることにした。
ワルドが見張りのために借りた部屋を出ていった後、寝ていたはずのルイズが架に声をかけた。
「どうしたルイズ?今のうちに寝ておけ。」
ルイズの頭を撫でながら架は優しく言う。しかし、ルイズは寝るどころかむくりとベッドから起き上がった。
「カケル、その、今のうちに聞いておきたくて・・・。」
「ん?何をだ?」
「その、ね。カケルが私にアルビオンに行くなっていうのは私に危険な目に遭ってほしくないってことなんでしょ。」
「そう言ったつもりだが?」
「それは・・・あなたも戦場の怖さを知っているから?」
ルイズの疑問に架は「いや・・・」と、どことなく辛そうに答える。
「戦場には行ったことはないけど・・・人は、たくさん殺したよ。」
「え・・・」
ルイズは絶句した。今、目の前の男は何て言ったのだろう。
呆然としてから、ルイズはふと数日前に見た夢のことを思い出した。まさか、あれのことを言っているのだろうか。
「それって、この世界にくる時の話?」
今度も架は首を横に振った。
「それよりも、ずっと前からだ。」
言葉を聞いた瞬間、ルイズは架に詰め寄っていた。架の顔は見るのも痛々しいくらい苦痛に歪んでいた。
「カケル、教えて!貴方の過去に何があったの!?」
「・・・・・。」
「カケル!」
「・・・すまない、ルイズ。」
「ッ!?」
やっと出てきたのは拒否のものだった。
架とて、ルイズのことは信頼している。話せと言われれば自分のことは勿論、あちらの世界のあれこれだって話しても良い。
だが、『あれ』は・・・『あれ』だけは話したくなかったのだ。こんな清らかな心を持つ彼女にあんなものは教えたくない。
「それは、教えることは出来ない。」
「・・・・・。」
「だけど、信じて欲しい。今の俺はお前を守るためにいる。絶対に裏切ったり離れたりはしない!それに、話す時がきたら必ず話す!・・・だから、それまで待っていてくれないか。」
頭を下げながら懇願してくる架に、ルイズは「・・・分かった。」と答えるほかなかった。
アルビオンが見えてきたぞーーー!!
明け方になって船員の声で二人は目を覚ました。
「・・・おはよう、ルイズ。」
「・・・おはよう、カケル。」
交わす挨拶は夜のことを思いながらも努めて平常でいようとするような声音だった。
「おはよう、二人とも。」
そこへ見張りのため起きていたワルドが入ってきた。挨拶を返す二人の様子にワルドは小首を傾げるが特に気にしたようもないようだ。
「ルイズ、甲板に来てごらん。アルビオンが見えてきたよ。」
ワルドに誘われ甲板に出た面々。まだ、日が出たばかりで、吹き付ける風が肌寒く感じる。
架が身を乗り出して下を除き見るが、白い雲が覆っていて何も見えなかった。
「・・・見えないぞ?」
「どこ見てるのよ。前よ、前。」
言われて前方を見やって、架は息を呑む。
目の前に広がるのは空に浮かぶ大陸であった。
「これは・・・」
「どう、凄いでしょ。」
「あ、ああ。」
「ここアルビオンは大陸の下半分が雲で覆われているからね、別名『白の国』とも呼ばれているんだよ。」
ルイズやワルドの言葉も架にはほとんど耳に入っていなかった。船が飛んだことにも相当驚かされたが、こっちはスケールの度合いが違う。
だが、呑気に眺めている場合ではなくなった。
「船長、前方より別の船がこちらに接近しています!」
船員の言葉に船長を始め、全員が言われた方角へ向いた。こちらよりも一回り大きな船が確かにこっちに近づいてきている。
「アルビオンの貴族か?お前たちのために荷物を運んでやっているんだと教えてやれ。」
船長は冷静に指示を出す。しかし、
「せ、船長!あの船、旗を掲げておりません!」
「何!?すると空賊か!?」
この辺りは内乱によって規制が乱れており、空賊たちはそれに乗じて動きが活発になっているのである。
慌てて逃げる態勢をとるが、向こうから大砲の威嚇射撃が飛んできて、船を停止させよという信号が送られてきた。元々積み荷の運搬用でもある船はロクに武器を積んでいないため、武力差を考えやむなくそれに従うのであった。
「ここは素直にしておいた方が賢明だ。」
「分かっています。」
賊の侵入を許してしまった船の甲板には、船長を始めとした船員全てが集められていた。当然架たちもその中に含まれている。そんな中、ワルドと架はヒソヒソと話し合っていた。
この場にいる船員たちは言わば人質である。架たちが動けば、必ず誰かに危害が及ぶ。さらにワルドは風石の代用として魔法を使いすぎたため既に打ち止め、架はあくまでルイズの身の安全が最優先である。従って、今この場どうこうするのはデメリット以外何もないのだ。ここは奴らを刺激しないように大人しくしているのが・・・
「んん?あんだぁ、こんなトコロに貴族なんかいやがるぜ。」
「汚らしい!近づかないでよ!」(バシッ!)
「ッッ、テメエ!」
・・・もう一度言う。ここは奴らを刺激しないように大人しくしているのが一番である。
架とワルドは冷や汗が止まらなくなるのだが、状況は更に緊張が増す。ルイズの声を聞きつけたのか、賊の頭領らしき人がやってきた。胸の肌蹴たシャツにボサボサの髪と髭、更には右目には眼帯と如何にも賊っぽい恰好をしている。
「随分と威勢のいい嬢ちゃんだな。さしずめ反乱軍の一味ってところか。」
それを聞いたルイズは架たちが止めるのも聞かずに堂々と言い放った。
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!トリステインからアルビオン皇太子ウェールズ様への使者として来たの!反乱軍なんかじゃないわ!」
「・・・トリ、ステインだと?」
暫くポカーンとしていた頭領はやがてガハハハハハと豪快な笑い声を上げた。
「オメエら!こいつらを俺たちの船に連れて行け!オモシロい話が聞けそうだ!!」
「さて、お前さんらトリステインの者だって言ったな。今更あんな国になんの用だ?」
空賊の船に連れてこられたルイズたちはそのまま船長室に入れられた。部屋にいるのは頭領一人。こちらは三人もいるのに随分と余裕だなとも思えるが、ドアの向こうから大勢の殺気がヒシヒシと伝わってくる。
「そんなこと、アンタたちに言う必要ないわ。」
「ククク、違いねえ。けどよ、何かは知らんが余程重要な内容なんだろ。そいつを反乱軍に売っちまえばたんまりと謝礼が貰えるぜ。」
指に嵌めてある高そうな指輪を撫でながら頭領はニヤニヤしながら言う。しかしその言葉をルイズは「ふざけないで!」と一蹴した。
「アンタたちと一緒にしないで。私はトリステイン王女アンリエッタ様に仕える貴族よ。そのアンリエッタ様から頂いた命を売るなんて、死んでも御免だわ!!」
敵陣の真っ只中で、ここで殺されてもおかしくないはずなのにこの堂々とした立ち振る舞い。架は思わず苦笑してしまっていた。こんな小さな体で、よくもまあこんな大それたことを言う。
そして気のせいだろうか。ドアの向こうの殺気も少しだけ弱まったような・・・?
「・・・なるほど、それなりの覚悟はあるようだな。」
突然、頭領は真剣な顔をして立ち上がった。そしてルイズに近づき、自身の指輪を向け、「その指輪を前に出すがいい。」と言ってきた。
その口調の変化に戸惑いながらルイズは『水のルビー』を近づけた。
すると、
「キャッ!?」
「!!」
「これは・・・!」
ルイズだけでなく、架やワルドも目を剥く。指輪に付いた二つの宝石は互いに共鳴しあって虹の光を放った。
「これは『風のルビー』。アルビオン王家に伝わる指輪だ。『水』と『風』は『虹』を作る。王家に架かる虹をな。」
「あ、あなたは一体・・・?」
当惑するルイズを他所に、頭領は突然髪をはいだ。よく見るとそれはカツラであった。さらに付け髭を外し、眼帯も取る。そこに現れたのは凛々しい顔立ちをした金髪の青年だった。
「数々の無礼を詫びよう、大使殿。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。」
「諸君、硫黄だ!」
賊の頭領の正体がウェールズ皇太子だったことにまだ驚きを隠せない面々は、船でニューカッスルの城まで案内された。と言っても、反乱軍に見つからないよう大陸の下からコソコソとだが。
城に着いてからは残された王宮派の人間がウェールズの帰りを待っていた。最初は部外者であるルイズたちを見て驚いていたが、ウェールズが事情を話すと皆喜んで歓迎してくれた。
「しかしまさか、一国の王子が盗賊に身をやつしているとは・・・。」
「ははは、敵の補給を途絶えさせるのは戦の基本さ。賊に成り済ました方が何かと都合がいい。」
自室に案内されている途中に呟いたワルドの言葉にもウェールズは笑って返した。常に明るさが絶えない男だ。こういう者が組織のトップに向いているのだろう。
やがて、一つの部屋に辿り付いた。至って普通の部屋だ。とても王子のものとは思えない。だが、ウェールズは意に介した様子もなく、「それで、密書の方は?」と催促してきた。
ルイズが差し出した手紙をウェールズは懐かしそうに読んでいた。
「そうか、アンリエッタは結婚するのか。・・・分かった、大切な手紙だが他ならぬアンリエッタが望んでいるんだ、喜んで手紙を渡そう。」
そう言ってウェールズは、引出しから箱を取り出し、鍵を開け中から一通の手紙を取り出した。
「これが件の手紙だ。確かに返却したぞ。」
「ありがとうございます。・・・その、皇太子さま。」
「何だね?」
差し出された手紙をルイズは丁寧に受け取った。それをしまいながら、ルイズはここに来てから気になっていたことを尋ねた。
「先ほど、皆が言っていたことなのですが・・・。」
「・・・ああ。」
ウェールズが皆に硫黄を届けた時だった。ウェールズの帰りと積み荷の中身を聞いた王宮派の貴族たちは歓喜に打ちひしがれたようにこう叫んだ。
“これで、名誉ある敗北を成し遂げることができる!!”と。
「あれは、一体・・・。」
「ふっ、聞いての通りだよ。わが軍の勢力は既に三百。対する反乱軍は五万。どう足掻いたって我々に勝ち目などない。」
「それは、皇太子さまも・・・。」
「勿論。私は真っ先に死ぬつもりさ。私はアルビオンの王子としてこの国を守る。例え代償が私自身の命であってもね。」
「けれど!それでは姫様は!」
「!」
ルイズは気付いていた。アンリエッタやウェールズの行動や表情から、間違いなく二人は恋仲であると。故に、ウェールズの死がどうしても納得できなかった。
「姫様は、きっと皇太子さまに亡命を勧めていたはず!どうか、どうか姫様のためにも、トリステインに亡命なさって下さい!」
「ルイズ。」
架はルイズの肩に手を置いて声をかけた。ウェールズはその様子を見ながら尚も微笑んでいる。
「この手紙に、亡命などという言葉は一つも書かれていない。」
「そんな・・・!」
「ミス・ヴァリエール。大使が密書の内容を知ろうとするのは、謁見行為が過ぎるぞ。」
「けれど・・・!!」
ルイズはなお食い下がろうとするが、ここでウェールズが話を打ち切った。
「明日には反乱軍が総力をあげてこの城に攻めてくる。朝には戦えない女子供や老人を逃がす船が出るから君たちはそれに乗って帰りなさい。」
それと、とウェールズは優しく微笑みながら言う。
「今宵は最後の宴だ。是非君たちも参加してくれないか?」
「あんなことを言っていましたが、本当は書いてあったのではないですか?」
「・・・ははは、気づかれていたか。」
夜、城の大広間で細やかながら喧騒が絶えない宴が催されていた。
そんな中、架はウェールズに声をかけられた。月明かりの綺麗なテラスに二人は並んで立つ。酒を勧められたが、あちらの世界では未成年である架は丁重にお断りした。
架の言う、書いてあったという内容とはアンリエッタの亡命の催促のことである。
「私が姫殿下とお話したのは僅かですが、あの人は大事な人をみすみす見捨てるような方ではありません。」
「・・・彼女は優しかったからね。それに考えていることがとても分かりやすい。」
「認めるのですか?姫殿下とのご関係を。」
「ああ、確かに私とアンリエッタは恋仲だ。」
架の問いをウェールズはあっさり答えた。
曰く、ウェールズとアンリエッタは従兄妹の関係であるそうだ。そして幼少の頃、始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓っていたのだ。
「でも彼女はもう一国の王女だ。簡単に私情を交えてはいけない。」
「あなたが亡命なされば、争いがこれからも続く。そうなれば一番傷つくのは民である、違いますか?」
「驚いたよ、正解だ。君は王族か何かかい?」
「いいえ、ですがかつて王だった人が知り合いにいたもので。」
「ふ~む、君は随分と訳ありのようだ。まあ、人間が使い魔という時点で十分訳ありだが。」
(古い文献に何かそれらしいことが書いてあったような気がするが・・・)
思案にくれようとしたが止めた。詮索は野暮だ。今の彼らは客人なのだから。
「そういえば君の主人はどこへ行ったのだろうか?」
「先ほど出て行きましたよ。大方、空気に耐えられなくなったのでしょう。」
広場にいる貴族たちは皆、明日の死を覚悟している。所々で「アルビオン万歳!」という喝采が起こっている。おそらくルイズは皆が当たり前のように死を受け入れていることや、それでも尚笑っていられることに耐えられなくなったのだろう。
「彼女も随分と優しいのだな。あれでは大使は務まるまい。」
「否定できません。それが彼女の良さでもありますが。」
「全くだ。それこそ否定できない。」
架とウェールズは互いに苦笑しあった。彼女はこんな戦場にいるべきでないのはウェールズも同意見であった。彼女の心はそれほど清らかなのだ。
「使い魔殿、そういえば名を聞いていなかったね。」
「架です。影沢架。」
「そうか、では架殿。君に三つほど頼みがある。」
「何でしょう?」
「一つ、これからもあの優しき主を守ってほしい。二つ、願わくばアンリエッタのことも頼みたい。」
一つ目は架が自身に誓っていることだから当たり前。二つ目はそのルイズがアンリエッタに従うというのなら自然とその形になるためこれも問題ない。
だが、三つ目は完全に予想外であった。
「最後に三つ目・・・私の友となってくれ。」
「・・・は?」
目上の人相手とはいえ、少々間抜けた声で返してしまった。
「私の友となってほしい、と言ったのだ。王族という縛りのせいか、いやこのことに不満や後悔はないのだがそういう関係の者が中々作れなくてね。それに、明日には我が一族は絶えてしまう。そのことを憂いてくれる人は一人でも多くいて欲しい。無理だろうか?」
「・・・。」
暫く黙ったままであったが、やがて架は一礼した。元より皇太子最期の頼みだ。断るという選択肢はない。
「・・・私などで、宜しければ。」
「ありがとう、朋友よ。」
月明かりの照らす中、ウェールズは架の肩を抱いた。友と別れの挨拶を交わすように、二人の目尻には涙が浮かんでいた。
「ご武運を。」
「アンリエッタに伝えてくれ。ウェールズは敵に背を向けることなく、勇よく死んでいったと。」
やがてお互いに体を離すとウェールズはゆっくりと広間に戻っていく。しかし、ふと思い出したように振り向いた。
「一つ言い忘れてしまった。『レコンキスタ』には気を付けろ。」
「レコンキスタ?」
「この内乱を手引きしている組織だ。反乱軍は奴らに踊らされているといっていい、それじゃ。」
そういうと、ウェールズは今度こそ広間に戻っていった。架はとりあえずルイズを探すために動き出した。
どうして・・・どうしてあの人たちは死を選べるの?どうしてあんなに笑っていられるの?
分かんない分かんない分かんない!!!
「ルイズ、どうした?」
「・・・カケル?」
架がルイズを見つけたのは薄暗い廊下であった。ルイズはそこで座り込んでしまっていた。
「分かんないよ。何であの人たちはあんなに簡単に死を選べるの?どうして、姫様もきっと待ってくれているのに皇太子さまはそうしないの?」
訴えるかのようにまくし立てるルイズ。架はそれを黙って聞いていたが、何か思い出すようにポツリと言葉を発した。
「・・・『魔法が使えるものを呼ぶんじゃない。』」
「え・・・?」
それは土くれのフーケのゴーレムと対峙した時。決して敵わぬと分かっている相手にルイズは確かにこう言ったのであった。
「『敵に背中に見せないものを貴族と呼ぶ。』お前が教えてくれたことだぞ。彼らは生きることよりも最期まで貴族であることを選んだんだよ。」
言い聞かせるように優しく言う架。しかし、今のルイズにはそれを正しく受け取れる心境ではなかった。
「・・・何が分かるってのよ。」
「え?」
「貴族でもないアンタに、何が分かるっていうのよ!!」
だから思わず言ってしまった。キッと睨み付けるルイズと驚いた様子の架。暫くの沈黙の後、ルイズは突然駆け出してその場を去っていった。
一人残された架は呆然とし、とりあえず相棒に話しかけた。
「・・・デル。」
「何だ?」
「俺、何かマズイこと言ったかな。」
「いや、お前さんは間違っちゃいねえだろうさ。けどよ、オメエも自分のこと、嬢ちゃんに全然話してねえだろ。ならさっきの言葉に関しては言われてもしょうがねえんじゃねえか?」
「そうか・・・そうだな。」
デルフリンガーの的確ともいえる言葉に頷いた架は、困ったように頭を掻いた。
「・・・まいったなぁ。」
翌日
ルイズはベッドに蹲った状態で目を覚ました。昨日の夜、客室にあてられた部屋に駆け込んで、ベッドに倒れこむようにしてそのまま寝てしまったらしい。体中ギクシャクするし、頭もボンヤリとしている。最悪の寝起きだ。
それでも隣にあの人がいないことに気付くと昨夜のことを思い出してまたベッドに顔を埋めた。
何で、何であんなことを言ってしまったのだろう。その後悔だけがルイズの頭を彷徨っていた。
コンコンッ
「ルイズ、いるかい?」
「・・・ワルド様?」
部屋を訪ねたのはワルドであった。ワルドは最初、ルイズの様子に驚いたようだが、少し散歩をしようとルイズを連れ出した。
「ふうむ、彼とね・・・」
「はい・・・。」
足取りと共にその声は暗い。ワルドはルイズの前に来ると励ますように両肩に手を置いた。
「彼もちゃんとルイズのことを想っているんだ。それを忘れてはいけないよ。ちゃんと謝ればきっと許してくれるさ。」
「は、はい。」
若干ルイズが元気を取り戻すと、ワルドは「それで本題なんだけれど・・・」と続けた。
「ルイズ、私はウェールズ皇太子に結婚の媒酌をお願いしたいと思っている。」
「え・・・?」
「皇太子もきっと喜んで引き受けて下さるだろう。」
「そ、それって、ここで結婚式を挙げようってこと!?」
余りの話の急さにルイズは混乱してしまっている。第一、ラ・ロシェールの宿屋で一度断ったはず・・・。
と考えている内にワルドが背後に回り込み、まるで捕まえるかのようにルイズを抱きしめた。
「ちょ、ちょっとワルド様!?無理です!そんな急に・・・!」
「ダメだ。」
断固とした言葉。その口調は今まで聞いたことがないような重く、そして何故か不快だった。
「僕には君が必要なんだよ。そう、君の力がね!」
「貴方は一体・・・!」
「君は僕の妻となり、レコンキスタに迎えられるんだ!」
「レコン、キスタ・・・?」
「本当は僕一人の力で君を手に入れたかったのだけれど・・・。もう時間がないみたいだ。」
ルイズは気付かなかった。ワルドの背後に、もう一人男がいることに。
「逃がしはせんよ、『虚無の担い手』。」
「え・・・」
男が指輪を掲げると、ルイズの意識が一気に遠のいていった。
「手間をかけます、クロムウェル殿。」
「気にすることはない。それで、この娘のサーヴァントは・・・。」
「ご安心下さい。『彼』を向かわせました。」
遠のく意識の中、そんな会話が聞こえる。ダメ・・・せめてこのことを・・・!!
「カ・・・ケ・・・ル。」
そこでルイズは意識を手放した。
「ルイズ?」
架ははっとしたように彼女の名を呼んだ。彼は城の外にいた。昨日のこともありルイズの傍にいるのも躊躇われ、こうしてブラブラと歩き回ってたわけなのだが。
(何かあったか・・・?)
マスターとサーヴァントは魔力によって繋がっている。そのため、片方に異変が起きたときは直感で分かるのだ。そして今回、ルイズに危険が迫っているとしたら・・・。
(くそっ、油断した!よりによってこのタイミングでか・・・!!)
架は己浅はかさを呪った。この旅でずっと警戒心を抱いていたのだったが、今まで何の素振りもなかったこと、そして先の一件のことで完全に意識が逸れてしまっていたのだ。
ルイズと離れないと約束したばっかりなのに!ウェールズと彼女を守ると約束したばっかりなのに!
(大体の位置は分かるが・・・とにかく急ご「相棒っ、上だ!!」・・・!!?)
デルフリンガーの声と同時に殺気を感じその場から退避した。
ズシンッ!!
次の瞬間、架のいた場所に何かが飛び込んできた。モウモウと立ち込める土煙で姿は確認できない。だが、
「ったく、こんなガキが騎士なんてやってんのか。ホント随分変わってんなあ。」
声と共に辺り一帯を支配するような重圧。架はこの感覚に覚えがあった。それはあちらの世界で見たあの戦いで。
と、ようやく土煙が晴れてきた。そこにいたのは短い黒髪、鋭い瞳孔の紫色の瞳をもつ黒装束の青年。
そして、その手に持つ得物を見て、架は冷や汗を流しながら絞り出すように声を出した。
「ランサーの・・・サーヴァント。」
後書き
読み返してみるとウェールズとルイズの会話の時、架とワルド完全に空気でしたね・・・ちゃんといましたよ(汗)!
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