DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~
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オープニング
Story1:出会いは意外かつ突然に
前書き
お久しぶりです、最近料理が趣味になり始めてしまっている優柔不断男です。
できました一話目―――の前半。これだけ書いてまだ前半です。(笑)
取りあえずこの一話でChapter1入るまでのところまで書ければいいかな、と思っています。
そして残念ながら、まだデジモンはでません。デジモン小説なのに。
―――この世界に来てから、早八年の月日が経った。
ん? 早すぎないかって? いやいや、八年っつったってただ小学校行って、中学校行って、高校生になったってだけだ。なんも変なことが起きなかったおかげで、言う事がねぇんだよ。
ま、勉強なんてしなくてもいいし、楽っちゃ楽だったけどな。
とにかく、俺が“この体”に入って八年が経った。先程も言ったが、この間は特筆すべき大きな出来事は起きなかった。
が、逆に言えば……八年経った今、“大きな出来事”が起こった、ということなのだ。
これから語られるのは、俺が“この体”と共に数奇な運命を辿る冒険譚の―――最初の、長い長い一日である。
インターネットに繋がれたパソコンで、あるサイトに飛ぶ。
そこは〝enjoy chat〟という、一般の人が部屋を作り、そこで会話を楽しむというサイトだ。まぁ簡単に言えば、普通のチャットルームだ。
『エンジョイ チャット! ようこそ、エンジョイ チャットへ! チャットルームを、選択してください』
一般人によって作られた、無数にあるチャットルーム。その中の一つ、南京錠のようなマークの付いた『BB』と書かれたチャットルームを選択する。
南京錠の付いたチャットルームは、パスワードでロックされているものだ。前々から使っているパスワードを入力して、チャットルームに入る。
そこにはチャットルームの管理人である『ブルーボックス』の他に、飴の包み紙のような顔のピンクのアバターの『アッキーノ』、おじいさんのようなアバターの『ふぁんた爺』。
他にもアヒルの『あるじゃNON』、ラーメンのアバターの『U@はらぺこ』、スーツを着たリンゴ頭の『ラブ☆クラッシャー』、尖った鼻の紫色のスライムアバター『闇夜の堕天使』。
この輪に俺―――『AI◎BA』を加えた八人が、このチャットルームの利用者だ。
『…っていう事があったんだぁ』
『へ~!!』
『何、何ー??』
今日も他愛のない話が飛び交い、ネット上の噂話や今話題の命題の話。
そんな、いつも通りの会話が続く中、一つの話題が終わった節目に、ピンク色のアバターのアッキーノが〝ある話題〟を話し始めた。
『みんな!「デジモン」しってる!?』
そう、『デジモン』だ。
ここ最近になって、このワードが―――と言っても噂の域を出ないようだが、それがネット上で出回っているのだ。
俺も最近になってこれを知り、大いに驚いた。八年前は探しても探しても出てこなかったワードが、ここに来て浮かび上がってきたのだから、無理もない。
『何だよ、いきなり』
『知ってる、「デジモン・プログラム」だろ?「ハッカー」が使ってる、ヤバいプログラムだ』
アッキーノの突然な発言に、ブルーボックスが反応した。そこへ更に博識なふぁんた爺が『知っている』と答えた。俺はふぁんた爺の発言の一部に、違和感を覚えた。
『デジモン・プログラム』、ネット上―――もとい“EDEN”にいる『ハッカー』が使うハッキング・プログラム。それが“この世界”でのデジモンの扱いらしい。
あぁそうそう、『ハッカー』について話してなかったな。
『ハッカー』の意味としては“前の世界”と同じく、コンピューターシステムに侵入しプログラムやデータを破壊する者達のことだ。
この世界では“EDEN”という大きな電脳空間がある所為か、“EDEN”ができてから『ハッカー』が表だって出てくる事が多いのだ。
そして最近、この『ハッカー』達が『デジモン・プログラム』を活用したハッキングを行っているらいい。しかしその実態は、一般にはあまり知られていないのだ。
『ヤバいっていうが、どれぐらいヤバいんだ?』
一般的に知られていない実状を知る為、そして何より今感じた違和感の正体を知る為、何か知っているようなふぁんた爺に、『ハッカー』の使う『デジモン・プログラム』について聞いてみた。
『そうだな…セキュリティを突破してデータを盗んだり、パスが必要なフォーラムに問答無用で侵入したり……
そういう悪~いことに使うプログラムなんだ。連中の起こす事件は、ほとんどそれを使ってるらしい』
『デジモンやば!w』
『友達がアカウント狩られたって言ってた(;>_<;)』
『うそ~』
『それいつの話?』
ふぁんた爺の説明にアッキーノが反応、更にあるじゃNONが友人の事を話した。
『アカウント狩り』というのは、ハッキングによってEDENで使用されている個人個人のアカウントを乗っ取る、というものだ。“前の世界”でもあったが、EDENやインターネットが発展しているこの世界では、こういう事は往々にして起こってしまうのだ。
『野放しのデジモンがうろついてるエリアもあるってさ』
『え うごくのデジモン!?w』
『何か、本当にモンスターみたいなアバターのプログラムらしい』
『デジモン → 「デジタルモンスター」?』
『ソレダ!!wwww』
『ねぇいつの話?』
しかし何故だろう、この会話の中にある“何か”に、何故か違和感を感じてならない。何が気になるんだろうか…?
というように、デジモンを肴に話題が盛り上がる中―――
【『ナビットくん』がログインしました】
ぴこん、という効果音が鳴り響く。これは誰かがチャットルームに入ってきた時の効果音だ。
しかしこれは可笑しい。何故ならこのチャットルームには、利用者全員がいるのだから。今更新しく誰かが入ってくることはない筈なのだ。
俺がそう考えている、その時。
ガリッ…と。画面に映るチャットルームの床に、突如として何かが飛び出した。
何事か、と凝視すると、床から出てきたのは鋸(ノコギリ)のようなものだった。
そしてそれが少しずつ、円を描くように動き、一周しきるとパカッと蓋が開くように床が開いた。
次の瞬間、出来上がった穴から何か―――『ナビットくん』が飛び出してきた。
『ナビットくん』とは、EDENの公式マスコットのことだ。
ラグビーボールのような形の頭に、下先になるほど細くなっている体。いかにも電子系のマスコットキャラクターと言った感じのものだ。
『やあやあ! みなさんこんにちわ!』
そんな公式マスコットが、何故チャットルームに入ってきたのか。みんなが疑問に思っている中、アッキーノの言った『ハッカー』という単語に反応して話し始めた。
『そうだよ、ぼくナビットくんだよ! ハッカーだよ! きみたちにすてきなプレゼントがあるんだ! あしたEDENにログインしてね! ぜったいだよ! ログインしてくれなきゃ、ハッキングしちゃうよ!』
ナビットくんはそう言うと、俺達に有無を言わせずに「じゃね★」というと出てきた穴から落ちていき、そのままログアウトしてしまった。
本物のハッカーか否か、いや誰かの悪戯だ。突然のことにほとんどの者がそう思ったようだ。先程のナビットくんの言葉を真に受けていないようだ。
しかしここで、一人だけぶっ飛んだことを言ってのけた。
『オモシロそうじゃん!? いってみよ!!』
アッキーノだ。ギャルのような発言を多々している彼女は、先程のナビットくんの発言を面白がってか、はたまたハッキングされるのを恐れてなのか、そう発言してきた。まぁ今までの会話を考えるに、十中八九前者だが。
だがアッキーノのこの発言には、誰も反応を示さず、チャットルームには一瞬の沈黙が流れた。
『あれ!? ひょっとしてみんなビビっちゃってる!?w』
『アッキーノ、本気で言ってるのか?』
『そうだぞ、相手が本当にハッカーだったらどうする気だ?』
沈黙を貫いたのは、やはりアッキーノ。皆を煽るような発言に対して、俺は彼女の真意を確認するような発言をする。同時に、兄貴分なところのあるブルーボックスも、彼女を心配してか、彼女を止めるような発言をした。
しかし彼女は「EDENのプロモ」、「ホンモノのハッカーのほうがおもしろそう」など言って、引く気はないようだ。
『…止めてもムダみたいだな。仕方ない、俺も付き合うよ』
何を言っても無駄と悟ったブルーボックスは、彼女について行く事を決めたようだ。
当の本人はというと「え、おれとつきあえ!? ちょ いきなりコクられた!?w」などとのたまい、ブルーボックスは呆れていた。
『ほかにだれかいっしょにいくひと!?』
呆れるブルーボックスに笑ったアッキーノは、他の面子に来るか否かの確認を取る。
しかし「君子危うきに近寄らず」「PASS」と全員がものの見事に断り、俺とアッキーノ、そしてブルーボックスを残してチャットルームを出て行ってしまった。
『ね、ねぇ! AI◎BAはどうするの!?』
既に参加の意を示しているブルーボックスを除けば、残るは俺一人。当然、来るかどうかの話を振ってくるのはわかっていた。
『デジモン・プログラム』の話題が出て、『ナビットくん』が何か“プレゼント”を用意してくれている。―――これは“何かが動き出す”と見ていいだろう。
ならば、俺の返答は決まっている。
『行こう 俺も付き合う』
その後も、このチャットルームでアッキーノとブルーボックスとのたわいもない会話は、深夜から空が明るくなるまで続き、最後にナビットくんの誘いの通りにEDENで会う約束をしてから、全員がチャットルームを退室してお開きとなった。
そして今日も昨日と変わらぬ“日常”を過ごし、三人で交わした約束の時刻(とき)が迫る。それに合わせ、近くの『EDENスポット』からEDENへとログインする。
自分の体が吸い込まれるような感覚、いつになっても慣れない感覚だ。
EDENへのログイン、それは肉体から精神をデータとして取り出しアバターにする。そしてそのアバターを用いて、バーチャルリアリティとしてWeb上の情報を視覚・触覚などの感覚的に体感できるようにしているのだ。それが“EDEN”という電脳空間だ。
アバターの外見は現実世界と同じようにすることが義務づけられているが、あくまでそこにいるアバターはデータ。例えば現実世界で歩けない体だったとしても、このEDENでは普通に歩くことができる、だけでなく飛び回ることもできる。
更に言えば世界中に繋がるネットワークと同じく、たとえ海を挟んだ向こうの国にいる友人にでも、アバターを介してだが会うこともできるのだ。
―――とまぁ、取りあえず今はEDENについての説明は後にして……
EDENへのログインを済ませた俺は、三人で待ち合わせ場所とした“EDENエントランス”に降り立った。
ここはEDENにある無数にあるエリアの一つで、一般に待ち合わせなどでよく使われる場所だ。人が多く利用するから混んでることもあるが、個人的には結構気に入っているエリアの一つだ。
「しかしまぁ、約束の時間よりも早く来ちまったな…」
ログアウトゾーンから数歩踏み出し、エントランスを見渡す。時間には早いが、もしかしたら二人のうちのどちらかが来ている可能性もある。
そう思った俺は、それらしい姿を探したのだが…そういった感じの人物は見当たらなかった。まぁ必ずしも、チャットとEDENのアバターと似ているとは言えないが。
エントランスの上の方まで歩いて確認してみたが、結果は変わらず。しかし時間もまだある。どうしたものか。
取りあえず別のエリアに行って時間を稼ぐか。どうせやることもねぇしな。
そう考えてログアウトゾーンから一回エントランスを離れ、別のエリア―――“EDENコミュニティエリア”へと移動した。ここはエントランスとは違って、静かで落ち着きのある場所だ。ここもここで、結構利用している。
そう考えていると、頭につけているゴーグル型のデジヴァイスに、突如通信が入った。急な事で驚いたが、取りあえず落ち着いてデジヴァイスに触り操作する。
……あぁ、“デジヴァイス”っていう物の話はまだだったな。
『デジヴァイス』と言われれば、俺の中では選ばれた子供達が持つ聖なるデヴァイスのことを思い浮かべるのだが、この世界では違う。
この世界で『デジヴァイス』は、『EDEN』へのログインに欠かせないものなのだ。EDENへのログインは、街中に設置された『EDENスポット』に『デジヴァイス』を接続することで可能となる。
このデジヴァイス、開発当初はEDENへのログイン機能のみで発売され種類もそんなに多くなかったのだが、今はトーク機能やアプリゲームで遊ぶこともでき、最近だと会話アプリ『デジライン』というものもある。
そしてそのデジヴァイスにも、色々な形状が存在する。
昔は一種二種ぐらいしかなかったが、今や携帯型や俺の付けているゴーグル型、他にもメガネ型や腕時計型のデジヴァイスが存在している。エントランスでも、真新しい携帯型のデジヴァイスを触っている女の子がいた。最近買ってもらったのだろう。
……ん? 俺のデジヴァイスはどうしてゴーグル型なのか、だって?
そんなの、“彼ら”に憧れたからに決まってるだろ? “英雄にはゴーグルが必要”ってね。
あぁそうそう、通信が来てたんだったな。話を戻そう。
『やぁ、ぼくだよ! ナビットくんだよ!』
通信の相手は、俺達にプレゼントがあるといってチャットルームに侵入してきた『ナビットくん』だった。
『…ちょっとちょっと~、おそいよきみ~、ちこくだよ~』
「は? 遅刻? ちょっと待てや、時間にはまだ…」
『いそいで「クーロン」の「ガラクタ公園」まできてよ! おともだちのふたりは、さきにきてまってるよ!
みんなそろわなきゃ、プレゼントをあげないよ!』
ナビットくんは昨夜と同じのように、こちらに有無を言わさずに「じゃね☆」と言って通信を切ってしまった。
何も言わさずに自分の言いたい事だけ言って切りやがって、これじゃあ通信の意味がねぇじゃねぇか。会話になっちゃねぇ。
しかしそんな怒りを覚える反面、別のところではナビットくんが言った言葉―――『クーロン』というワードに、少しばかり動揺していた。
『クーロン』とは、EDENの中でもハッカーがうろつく危険な場所とされるエリアのことだ。あまりにハッカーが多く徘徊しているおかげで、一般の人達は普通近づかない場所になっている。
そんな場所にはできるだけ、近づかないのが得策なのだが……他の二人は先に行っているようだ。なのに俺が行かない訳にはいかないな。
と言っても、俺も『クーロン』に行くことのなかった一般人。今は『クーロン』に行く方法がない。どうしたものか……
そう言えば、と先程のエントランスの事を思い出す。エントランスにいた人達の中に、深くフードを被った青年がいた。その青年の服に“ZAXON”という文字があったのを思い出した。
“ZAXON”、それはハッカーが集まったチームの一つ、らしい。まぁ軽く調べた程度だから、あまり詳しく知っている訳ではないが……
おそらく、その青年が『クーロン』への行き方を何かしら知っている筈だ。そいつから聞いてみるとしよう。
「………『クーロンのガラクタ公園』へ行きたい、お前自身が望みそう決めたんだな?」
取りあえずエントランスまで戻り、早速クーロンについて話してみると、なんだか厨二な感じの言い回しをして『ガラクタ公園』の『URL』をくれた。
因みに、EDENはインターネットと同じような感じなのでURLさえあれば行きたいところに行けるのだ。こう言った点に関しては、結構便利だと思うな。
ログアウトゾーンに立ち、URLを頼りにEDENを飛び回る。EDENの仮想空間の表面にある一般のエリアを抜け、更に奥の―――表よりも少しばかり暗い場所へ通り抜けた。
URLが示す場所に行きつくと、そこには水色のワンピース(?)にピンクのコートを着た赤い髪の女性がいた。年は俺と同じ、な感じがする。
「むぅううううううーー…もうっ! 遅い遅い、おっそ~~~い!」
彼女は両腕を組み、明らかに怒ってますよっていうオーラを発していた。浮遊状態から地に足をつけ、彼女の下へ歩み寄っていく。
そこは『ガラクタ公園』の名の通り、ブランコや滑り台などがあり、他にも若干崩れたパンダの像やロボットなどが存在していた。まさに『ガラクタ公園』、この名前を付けた人はいいネーミングセンスをしていると思う。
このタイミングでここにいる、ということは……もしかして、
「もしかして、『アッキーノ』か?」
俺がそう聞くと、その女性から怒っているオーラをしまい込み、笑顔になって組んでいた腕を解いた。
「あっ、どもども、『アッキーノ』でっす☆ EDENだと、はじめましてだね~! てゆーか、あたし『白峰ノキア』! ヨ・ロ・シ・クっ!」
「お、おう。よろしく」
なんだか、機嫌がよくなったようだ。よかった、よか―――
「―――じゃ、なーーーーーい!!」
「ほわッ!?」
「遅いよーーーっ! 何してたのよーーーっ!?」
と思っていたら、なんか急に大声が飛び交い、俺の耳に響く。結構近くで叫ばれたから、耳がキーンとなったぞ、どうしてくれるんだ。
しかしどうやら怒りが消えた訳ではなかったようだ。なんだろうこのテンション、あまりついて行けそうにない。
「こんなアブナイ場所で…ひ、ひとりっきりで待たされる身にもなってよね…っ!?」
「お、おう…悪い」
……いや、ちょっと待て?
確か俺達で約束したのは、『EDENエントランスで落ち合おう』というもの。しかも時間的にはまだまだ時間があった段階だ。
それを勝手に場所を変えて、しかもそこを来たこともない『クーロン』だとか……これ俺が悪いのか?俺が謝らなきゃいけないのか?
そこまで考えたら、ふとあることを思いだした。
「そういえば、『ブルーボックス』はまだ来てないのか?」
「『ブルーボックス』~? ふんッ、来てますよ!? 来てますが何か! ちょ、信じられますぅ~!? あいつさ…
“俺、ちょいユーレイ探してくるわ”とかとか言って、ひとりでどっか行っちゃったんだよ!?」
お、おぅ……なんか地雷踏んだ? なんか更に機嫌悪くなったか?
「あいつ、そーゆーとこあんだよね!! ジコチュー的な!? イケメンだからって、チョーシのっちゃってるみたいな!?
大体、なに? 「白い少年のユーレイ」? ウワサになってるだか何だか知りませんけど~?見つけてどーすんすか~? てゆーか電脳空間でユーレイなんて、ヒカガク的だしぃ? イミわかんないしぃ? こわくとも何とも―――」
「―――…うらめしや」
「どぅわひゅんぎゅわぁーーーーーっ!?!」
その瞬間、突然白峰の後ろから別の青年が、小さく低い声を発しながら現れた。それに対して『ブルーボックス』に対する文句を言っていた白峰が、どうにも言葉に表しにくい言葉を発しつつ驚き、その青年から飛び退いた。
白峰の後ろから現れた青年は、白いフード付きの上着に青いツナギ?のような服を着た人物だった。
「ちょ…ビビりすぎだっての」
そう言った青年は、被っていたフードをとり、見難かった素顔を露わにした。
「な、なんだ、『アラタ』じゃん…ただのアラタじゃん…ゆ、ユーレイかと思った…」
「…ったく、チキンのクセに、イキがってこんなトコまでノコノコ来てんじゃねーよ」
「はぅあ!? そ、その“こんなトコ”に置き去りにしたのはどこのアラタよ!? あんたの血は何味だァーーーっ!?」
「あー、うっせうっせ」
そう言う青年は「……つーか…」と言って、白峰より前に出て俺に話しかけてきた。
「…はじめてだよな、こっちで会うの。『真田アラタ』だ…ま、テキトーによろしく」
「あぁ、俺は『相羽タクミ』だ。よろしく」
青年―――真田の言葉に対して、俺も自己紹介をして手を差し出した。それを見た真田は、口角を少しだけ上げて手を握ってきた。
「はぁ~、二人共自己紹介ぐらいちゃんとしなさいっての! もうわかっちゃってると思うけど、これが『ブルーボックス』の中の人だよ!
…何か、イメージ違くない? あっちだと、イイカンジに面倒見よくって、たよれるアニキっぽいじゃん?」
そうだろうか? 確かにそんなイメージはあれど、それは直接会ってない関係の場合は人の中身を勝手に決めるのはあまりよくないしな。
「あたしもこっちではじめて会ったとき、まじビビった!
ブアイソだし、ジコチューだし、目つきワルイし。ほら、イケメンのムダ使いってゆーか?」
「……アホは放置で頼むわ」
「はは…わかった」
「おい、納得するな~!」
っていう、漫才染みたやり取りを三人でする。なんだか楽しくなってきたな。
「んで、おたくを待っている間に、この辺りを探ってみたんだ。俺らを呼びつけた『ナビットくん』がいないかと思ってさ」
「え!? ユーレイ探してたんじゃないの!?」
「ま…そのついでに、な」
ほう、真田は白峰と違ってかなり頭がキレる方らしいな。
そう思ったが真田は、結局は『ナビットくん』もユーレイも見つからなかったと述べた。しかしその表情は悔しい、というよりも不思議なものを見たような表情だった。
「『ナビットくん』やユーレイどころか、人っ子一人いなかった…いくらクーロンが危険エリアでも、ハッカーのひとりやふたりは―――」
真田がそこまで言った瞬間、三人のデジヴァイスに同時に通信が入った。慌てて出てみると、そこに映ったのは、件の『ナビットくん』だった。
『やあやあ、お待たせ! ナビットくんだよ! 集まってくれたよい子のきみたちに、プレゼントだよ! これは、世界を変える“奇跡(チカラ)”だよ!』
そう言うと『ナビットくん』はまたも通信を切ってしまった。ほんと、こちらに返答させるつもりは毛頭ないようだ。
そして『ナビットくん』が通信を切ったのと同時に、俺達の身体(アバター)にノイズが走った。
「え? え? なに…コレ?」
「『ハッキング』だ! 俺たち全員、ハッキングされている!」
「ハッキング!? タイミングからして『ナビットくん』の仕業か!?」
急にハッキングされていると聞き、慌てる俺と白峰。しかしその間にも何かが進んでいるようで、そう間もない内にピロリンとデジヴァイスから音が鳴った。
【新規プログラム―『デジモン・キャプチャー』がインストールされました】
「ちっ、俺の“障壁(ウォール)”をカンタンに突破しやがった。やり手だな…ナビットって奴」
「で…『でじもん』……『きゃぷちゃー』……!?」
インストールされた物を見て、白峰はその名前を復唱した。対し真田は知ってるような口ぶりで口を開いた。
「最近ハッカーたちの間に出回っているハッキング・ツールだ」
「ね、ね~…でじもん…って、あの『デジモン』…!?」
「まぁ、大方そうだろうな」
「おたくが興味津津だった、それだろうな」
俺の言葉に続くように、真田が言った後モニターを展開して何か操作し始めた。
「ふ~ん…特定のデータ、『デジタルモンスター』をスキャンして“キャプチャーする(捕まえる)”…と。やっぱ『デジモン』って『デジタルモンスター』の略らしいぜ」
どうやら真田が見てくれているのは、今ハッキングされて無理矢理インストールされたプログラム『デジモン・キャプチャー』についての詳細のようだ。
しかし『デジモン』をスキャンして捕まえる…というのは、どうにも釈然としないな。なんだろう、頭のどこかで引っ掛かりがある感じだ……
「え? え、え、え…!? でじもんって、ハッカーが使うヤバいプログラムなんだよね…? じゃあじゃあ、じゃあじゃあじゃあ……あた、あたしたち、ハッカーになっちゃったわけ!?」
「そう言えなくもないかもな」
おいおい、真田わかってて言ってるだろ。こいつ、白峰で遊んでいやがる。
前記した通り、『ハッカー』とはプログラムやデータを破壊する者達のこと。直接的にハッキングに関わる訳ではない『デジモン・キャプチャー』を手に入れたところで、それを使わなければハッカーもデジモンも関係ない筈なのだが……
「ま、いいじゃんべつに。ハッカーなんざ、今時めずらしくもねーし」
「や、ヤダヤダヤダ…! ハッカーなんて、ヤバいよ…絶対ヤダよ…! い、いらない! こんなプログラム、捨てなきゃ…!」
呑気なのか者に構えているだけなのか、真田がそんな事を言うと、白峰は先程の真田と同じくモニターを展開。先程インストールされた『デジモン・キャプチャー』をアンインストールしようと操作し始める。
しかし―――
「―――アンインストールできない…!?」
何度も何度も同じ操作をしても、『デジモン・キャプチャー』は消えることなく、モニターに残り続けていた。真田の話によれば、プロテクトがかかっていて無理に消そうとすると何が起こるかわからない、だそうだ。
それを聞いた白峰は、更に慌ててしまい、既に涙目になっていた。流石にやり過ぎだぞ真田。
その時、なんとなく誰かの“視線”を感じた。
慌てて振り向くと、走り去っていく人影と足音が響いていた。
「い、今の何…!?」
怯える白峰。それに対し俺は冷静に思考する。
可能性としては二つ。先程『デジモン・キャプチャー』を無理矢理インストールした張本人である『ナビットくん』か。そして先程真田が言っていた、EDENに出没する『白い少年のユーレイ』か。
『白い少年のユーレイ』は、目撃がクーロンに多いらしいが、それがこの近くに現れるという確率は低い筈だ。
どちらかと言えば、おそらく『ナビットくん』。ハッキングであんなに手早くインストールするにも、流石に遠距離では難しい筈だ。おそらくこの近くからハッキングをしかけただろう。
「おいッ……逃がすかよッ!」
「ちょ、アラタ!? なんで追いかけるの!?」
真田も同じ考えなのか、走り去った人影を追う様に走って行ってしまう。白峰はその行動に驚き、しかし真田の背中が見えなくなるまで何もせずに立ち尽くしていた。
そして真田の姿が見えなくなると、彼女は後ずさりしながら俺に「もう帰るからねっ!?」と言って、ログアウトゾーンのある方へと振り返った。
しかしそこには、先程までなかった筈の、鍵穴の付いた壁のようなものがあり、道を塞いでいた。白峰はハッカーの誰かの仕業かと考えているらしい。
どうやら帰らずに、先へ進めという意図みたいだな。後ろにいけないのなら、前に行くしかないのだが……
「ヤダ……あたし、行かない……行かないからぁ……」
先に進もうと進言するも、白峰は嫌だと言ってその場にうずくまってしまった。
どうしたものか…誰かを追いかけていった真田の事も気になるが、こんなに怯える白峰一人置いて行くのも気が引ける……
「ほんとに、先に行くつもりはないんだな…?」
「だからそうだって言ってるでしょ!?」
ダメだこりゃ、俺じゃどうにもできないな……仕方ない。
「白峰、お前は動かず、何もせずにここにいろ」
「え…?」
「俺が一人で行って真田を連れて戻ってくる。そしたら三人で打開策を見つけよう。なに、“三人寄れば文殊の知恵”って言うだろ? 何とかなる」
「で、でも…!」
「―――それから」
俺の指示に反論してこようとする白峰を抑え、更に言葉を被せる。
「お前は意図せずに『デジモン・キャプチャー』を手にしてしまった。真田はそいつを持ってたらハッカー、とかいうニュアンスで言っていたが、俺は違うと思う」
「ど、どういう事…?」
「だって『デジモン・キャプチャー』ってのは、デジモンを捕まえる為のものだ。お前がそのつもりがない限り、ハッキングに役立つ訳でもない。
ようは使うか使わないか、判断するのはお前なんだよ。だからよく考えろ、それがどういったものなのか、自分がどうすればいいのか、な」
そう言う俺の言葉を、白峰はなんだかボーッとしながら聞いていた。…聞いているのか?
「ま、俺がいいたいのは……まだハッカーになった訳じゃねぇから、少し落ち着け」
俺はそう言うと、白峰の頭に手を乗せて、ポンポンと軽く叩いた。
すると白峰は何を思ってか、見る見るうちに顔を赤く染め上げていった。うわすっげ、人ってこんなに速く赤くなれるものなのか?
「そんじゃ、俺は真田を探してくるから、ここで待ってろ」
「あッ、ちょっと…!」
白峰に対してそう言い残すと、俺は真田が向かった方向へと足を向け、何か言おうとしている白峰を置き去りにして走り始めた。
流石に女性を長く待たせるのはいかんだろう、そう思いながら急ぐのだった。
後書き
元ネタ解説
この小説の原作では、分かりやすいものから分かりずらいものまで、色々な元ネタが使われています。
なので一話毎に何か元ネタのあるものを解説していこうと思います。
“英雄にはゴーグルが必要”
―――ただし兄貴には適用せず。
「あんたの血は何味だァーーーっ!?」
―――言わずもがな、ジョジョパロ。
ということで、如何だったでしょうか。ちょっと無理矢理なところもあったり、地の文が長かったりしますが、結構かけた方です。一万文字超えてますからね。
次回は後編。おそらくデジモンを出せるでしょう。投稿がいつになるかは…わかりませんが。
アンケートボード
1.次の三匹の内、最初のデジモンはどれがいいですか?
①テリアモン ②ハグルモン ③パルモン
こちらのアンケートを、次回の投稿で締め切ります。
誤字脱字などの報告、アンケートの回答や感想など、ドシドシください。待ってま~す(^^)
ではまた次回まで、お楽しみに~(^^)ノシ
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