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ロード・オブ・白御前

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もう一つの運命編
  第13話 幕開け

 巴たちが戻った時、ユグドラシル・タワーの正面には、救出された人々が溢れ返っていた。
 人々はザックや耀子、凰蓮や城乃内、それに裕也と光実の介抱を受けていた。

「光実兄さん! 裕也さん!」
「「碧沙!」」

 碧沙は階段を駆け下りて行って、裕也と光実に順に抱きついた。

「よかった。体は大丈夫? どこも苦しくない?」
「平気。巴と初瀬さんが助けてくれたから」

 光実は、巴らが階段を降りきった所で、頭を深く下げた。

「妹のこと、本当にありがとうございました」
「友達の――ためですから」

 今なら心から言えた。

(資格も何もなかった。碧沙がわたしを友達と思ってくれていて、わたしも碧沙を友達と思っている。それだけでよかったんだ)

 巴は初瀬を見上げた。碧沙救出には初瀬の働きも大きかったと訴えようとして――初瀬の表情がかなり強張っているのに気づいた。

 初瀬の視線の先には、城乃内。

「あ! 初瀬ちゃ」

 呼ばれるより速く、初瀬は駿足で階段を逆走して隠れた。

「え、ちょ!? 帰ったら話したいって俺言ったよね!?」
「話すとは一言も言ってねえ!」

 城乃内が巴の前を通って初瀬のもとに行こうとしたので、巴は城乃内に足払いをかけて転ばせた。

「いってぇ! ちょ、何すんだよ、関ぐっちゃんっ」
「わたしは基本、碧沙と亮二さんの味方ですから。あと変なあだ名で呼ばないでください」

 巴を愛称で呼んでいいのは碧沙と初瀬だけだ。


「みんな!!」


 階段の上を見上げた。傷だらけの葛葉紘汰と駆紋戒斗が下りてきている所だった。

「紘汰っ」
「姉ちゃん!」

 紘汰が駆け下りてきて、人々の中で一人立ち上がった女性に駆け寄り、両肩を掴んだ。

「よかった。本当によかった……!」
「紘汰さんっ」
「ラット! リカ! よかった……みんな、本当にありがとう」





 紘汰がいくつかの感動の再会を果たしている時、階段を下りきらずに適当な踊り場で手摺に背中を預けた戒斗に対し、逃げてきた初瀬は非常に気まずい思いをしていた。

「お前は行かないのかよ」
「いい。俺の知り合いは特にいないからな」

 こっそり覗くと、城乃内が階段に回ろうとした所を巴に阻止されていた。
 ずっと年下の少女にフォローされるなど情けないことだが、非常に助かった。

「いつまで逃げるつもりだ」

 城乃内との関係のことを指して言っているのだとすぐ分かった。

「あんな別れ方したら逃げたくもなるっつーの。てかそもそもの原因作ったのお前じゃねえかっ」

 チームバロンが空気も読まずにステージ争奪戦を吹っかけて来たから、ドライバーが壊れていた初瀬は城乃内に頼るしかなかった。その結果があり、今日の初瀬と城乃内の関係がある。

「歩み寄ろうとする相手からも、一生逃げ続けるつもりか?」
「分かってらあ。それでも! こう、お前みたいに堂々としてられる奴ばっかじゃねえんだよ。世の中誰でもお前基準で話が通ると思うなよ」

 立ち上がる。もうこのくらいの勢いがなければ城乃内と向き合うなどできない。

 初瀬は戒斗へのむかつきを気力に、ずかずかと階段を下りていった。
 下で待つ城乃内と「話をする」ために。





 裕也は、スーツのジャケットとネクタイを脱いで水や栄養食を配る光実を見やり、それとは別に仲間たちと話している紘汰を見やった。

「ミッチ~」
「はい。何ですか、裕也さん」

 光実は持っていた物資を一旦置いてから裕也の前まで来た。
 その光実の腕をがっちり掴んだ。

「おーい、紘汰っ。ミッチが話があるってさ」
「ちょ、裕也さん!?」

 紘汰が話を切り上げて裕也の前に来る。
 腕の中で光実が暴れているが、逃がしはしない。

「込み入った話になるから向こう行こうぜ」
「あ、ああ」

 紘汰のほうも光実に対しては気まずいらしい。

 裕也が光実と離れている間に何があったか。大体の察しはつく。だからこそ、けじめが必要なのだ。

 階段の反対側の裏に来てから、裕也は光実の腕を離した。

「――できるよな? お前は強い子だ。俺が保証する」

 光実は今にも泣き出しそうなコドモの顔をしたが、小さく「はい」と答えた。
 光実が紘汰の正面に立った。

「紘汰さん――」
「お、おう」

 光実は勢いよくその場に膝を突き、頭を下げた。――土下座した。

「今まで本当にすみませんでした!!」

 当の紘汰は面食らい、目を白黒させている。

(ヤバイ。シリアスな場面なのに紘汰の顔に笑っちまいそう。堪えろ、俺。ミッチと紘汰が関係修復できるかの正念場なんだから)

「僕の独り善がりな行動で、あなたも舞さんも、お姉さんもラットもリカも、たくさんの人を傷つけた。今さらどんなに謝っても許されるなんて思いません。でも、だからって、謝らないでいていいわけじゃないと思うから。だから、本当に――ごめんなさい!」
「――顔、上げろよ、()()()

 光実は恐る恐るといったふうに上体を起こした。
 その光実を紘汰は両腕で抱き締めた。今度は光実が目を白黒させる番だった。

「俺がミッチを許さないわけないじゃねえか。仲間だろ、俺たち」
「でも、僕がしたことは」
「これから先、どれだけ長く歩くか分かってんのか? それに比べりゃ、大したことねえって」
「そんな理由で……僕を、許すんですか?」
「ああ、許す」

 紘汰は光実を離し、彼の目を真正面から覗き込んだ。

「ただし、俺以外はそうじゃない奴もいるかもしれないから、その人たちにはちゃんと今みたいに謝れよ。ペコとか、ラットとリカとか。できるよな?」

 言い方は問いかけだが、いい意味で有無を言わせぬ笑顔の紘汰。光実ならできると信じているゆえの笑顔だ。

「……紘汰さんも裕也さんも、意外なとこで厳しいですよね。知りませんでした。似た者同士だったんですね、二人」
「そうか?」
「俺込み?」

 裕也は紘汰と顔を見合わせた。

 光実はくすくすと、裕也たちが知る限りでは本当に久しぶりに、純粋な笑みを零した。





 風が長い黒髪を吹き上げる。巴は髪を押さえながら、斜陽の街を見やった。

 ――人質は救出できた。碧沙を救い出せた。初瀬は城乃内と、光実は紘汰と向き合おうと一歩を踏み出した。

 だが、まだ終わっていない。胸にはそんな予感があった。

 本当の運命の戦いは、これから始まるのだと。






【ロード・オブ・白御前 –完-】 
 

 
後書き
 これにて完結……のはずだったのですが。
 マルチ投稿していたほうのサイトで続編希望の声が上がり、急きょ続けることを勝手に決めてしまいました。これで終わりと思った皆様、深く謝罪申し上げます。
 その上で、これから書く「踏み外した歴史」編をお読みいただけるのでしたら、万感の思いを込めて筆を執らせていただく次第でございます。 
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