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101番目の哿物語

作者:コバトン
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番外編1。とある休日の過ごし方

つい最近までただの高校生だった……少なくとも自分ではそう思っている俺こと、遠山金次は、ある日突然、死亡してしまった。死んだはずの俺が目を覚ますと、そこは全く見覚えがない学校の教室で、これまた見覚えのない少女に声をかけられた。
戸惑いながら俺は自分の体を見てみると、なんと、俺の姿は見知らぬ男になっていた。
疑問に思った俺だが、疑問に思った瞬間、俺の頭の中で様々な記憶が呼び起こされた。
俺、遠山金次は、何故だか、全く知らない人物に憑依してしまったらしい。
そう、一文字疾風の体に……。

どうやら俺は転生とか、憑依とかをしてしまったようだ。

戸惑いながらも帰宅しようとした俺は背後から声をかけられる。振り返るとそこには白い少女がいて、彼女に話かけられて、謎の携帯電話を渡される。
______渡されたそれは、Dフォンと呼ばれるもので、『本当にあった都市伝説』に繋がるサイト、『8番目のセカイ』に接続できる唯一の端末だった。
帰宅後、俺はそのサイトに接続すると何と、俺はそのサイトに選ばれてしまった。
『百物語』と『不可能を可能にする男』の主人公にな。
2つの物語の主人公に選ばれてしまった俺は様々な都市伝説と遭遇するはめになってしまったんだ。
言ってる意味はよく解らないかも知れないが、実は俺もよく解っていないままだ。
ようは、そういう『都市伝説』が本当に存在していて、俺は2つの物語の主人公に選ばれた男、ってわけだ。
他の都市伝説や関係者からはハンドレッドワンやエネイブル、なんて呼ばれたりする。

どこから話したものか大変迷うのだが、順番に語っていくのが、一番解り易いかもしれないな。
最初のキッカケは憑依直後に、クラスメイトで親友の仁藤キリカっていう少女と、都市伝説トークをした事から全てが始まった。
放課後に、『ヤシロ』と名乗る女の子にDフォンを手渡され、『メリーさん人形』の都市伝説である一之江瑞江(いちのえみずえ)という転入生に襲われて、親友だと思っていた女の子の正体が実は『魔女喰いの魔女』という凶悪な魔女で……。
やっぱり襲われたりとか、そんな怒涛の展開があった。
今は落ち着いてそんな二人とも仲良くやっている。

そんなわけで、俺は『都市伝説のオバケ』達こと『ロア』と今後とも仲良くやっていかないといけなくなったわけだが……。
そんな俺は最近、不思議な夢を見たりしていた。
夢の内容は覚えていないがその夢は決して嫌な夢ではなかった。
ただし、また厄介な出来事に巻き込まれそうな予感はしていて……そんな予感が見事的中してしまった。
そう。また厄介な出来事に遭遇してしまったんだ。
今日は、その話しを語ろうと思う。
今回の話しは一本の電話から始まった。

______それは、新緑が深まった、5月のある休日の事だった。




2010年5月某日。

「兄さん、電話鳴ってますよー」

休日、自宅のリビングのソファーで寛いでいた俺は、従姉妹の須藤理亜(すどうりあ)に声をかけられた。
俺の側に寄ってきた理亜は俺に携帯電話を手渡してきた。

「ん? あ、悪いな」

「いえ。兄さんの部屋を掃除してましたら偶々鳴ったので……出ないんですか?」

理亜に手渡された携帯電話からは着信音がやかましく感じるくらい鳴っている。

「休みの日にかけてくるなんて一体誰……って キリカ、か……」

着信を現す画面には、仁藤キリカと表示されている。

「はい。もしもし」

電話に出るとキリカの声が聞こえた。
会話を続けると、どうやら皆んなでケーキバイキングに行くらしい。
参加者は、七里詩穂先輩、キリカ。
一之江にはまだ連絡していないようだ。

「……ああ。わかった。そんじゃ、一之江に電話してみるよ。うん、じゃあ、また後でな」

電話が終わった俺は、次に一之江にかけようとして躊躇ってしまう。
流石にこの時間まで寝てるって事はないよな?
時計を確認すると今の時刻は午前11時。
昼間というには早いが、かといって朝っぱらというわけでもない。
なんとも微妙な時間だ。

「流石にまだ寝てるなんて事はないよな……」

以前、寝てる彼女に誤って電話をした際に、不機嫌な彼女に殺されかけた事がある。
比喩ではない。彼女には電話をかけるだけで人を殺せる能力があるのだからな。

「躊躇っててもしかたねえ。ええい。繋がりやがれー」

______トゥルルル……ガチャ。

「あ、一之「もしもし私よ。今すぐ殺しにいくわ」って早い! 色々はしょぎすぎだ!」

「殺す!」

「早えーよ⁉︎」

「何ですか? せっかくの休みの日に電話なんかかけてきて。つまらない用事ならモギますよ?」

「もぎ?」

「はい、モギます」

一之江はいつだって、一之江だった。
大変不機嫌な一之江を諭しつつ、ケーキバイキングの事を告げる。

「ふむ。ケーキですか……いいでしょう。ケーキバイキングの女王と呼ばれた私の手腕を見せてあげます!」

「なんだよケーキバイキングの女王って?」

「月隠のケーキドールと呼ばれた私の能力みせてあげます」

「メリーさんですらなくなった⁉︎」

そんな突っ込みをしながら一之江との会話を終えると______。

「あの、兄さん……」

会話が終わるタイミングで理亜が話かけてきた。
わざわざ側で俺が電話を終えるのを待っていたのか……うーん。
何だが悪いな。

「悪いな、何か用があったか?」

「あ、いえ。その……いえ、やっぱりなんでもないです」

「そうか?」

なんでもないようには見えなかったが、まあ、本人がなんでもないって言ってるんだ。
気にしない方がいいだろう。

俺はそう思い、自室がある二階へ上がった。
だからわからなかったんだ。
この時には、もう理亜はある決意をしていた事や……。



「……やっぱりメリーズドールのマスターは兄さんでしたか……」

リビングに残された理亜がそう呟いていた事にも……。







待ち合わせ場所の月隠駅の西口にある時計塔広場に着くと、そこには既に待ち人がいた。

猫を思わせるクリクリとした瞳。
やや洋風っぽい顔立ち。
赤くて長い髪を緑色のリボンで留めている美少女。

俺の親友でクラスメイトでもある仁藤キリカと。

まるで日本人形のように綺麗な黒髪。
透き通るような白い肌をした、いかにも『清楚』な雰囲気を持ったこれまた美少女。

隣町(月隠)在住のミステリアスな転入生、一之江瑞江。

その2人が既に待ち合わせ場所の時計下にいた。

「悪い、遅くなった」

「大丈夫……今来たところだよ!」

「人を呼び出しておいて、遅刻とはいい度胸ですね!
まあ、今回は許しますが、次からは耳にところ天を流しこみますよ」

「怖えーよ!」

「詩穂先輩は遅れて来るって。
だから先にケーキバイキングに行っててって」

「なら行きましょう!
ほらさっさと行きますよ、ハゲ」

「ハゲてねえよ!」

一之江に弄られながら俺は彼女達の後を追ていった。

ケーキバイキングの店に着き、色とりどりの様々な種類のケーキを皿に取って先に戻ると、そこには遅れて来た先輩の姿があった。

「詩穂先輩、来たんですね」

「うん。こんにちわーモンジくーん!」

いつも通り、ニャパー☆、と笑う、詩穂先輩。
今日もオシャレな服を着て、頭にはトレードマークのこれまたオシャレな帽子を被っている。
夜坂学園の生徒会長、七里詩穂(しちりしほ)先輩。
夜坂学園では知らない人はいない学園のアイドルだ。
本来なら俺みたいな奴が近づけるような人ではないのだが、何故か一文字はこの先輩と仲がいい。
一之江の情報だと、一文字の憧れの人で、行きすぎた愛故にストーカー紛いな行動もしていたとか。
………何やってんだよ。一文字疾風。
そして、困った事に、俺。遠山金次もこの先輩に色々やらかしてしまっているのだ。

「あ、はい。こんにちは」

くっ、顔を合わせにくい。
ヒスっていたとはいえ、あんな事を人前でしでかしたからな。
笑顔で挨拶されてもマトモに顔を見れねえよ!
先輩の笑顔が眩し過ぎて思わず顔を背けてしまう。

「モンジくんと話すのは久しぶりだね!
最近、放課後見かけないけど何かあったの?」

心配そうに顔を覗き込んでくる詩穂先輩。

「い、いえ。何もありません。
先輩を抱き上げたアレ以来、何も……あ……」

しまった。
余計な事を言っちまった。
そう思い______。
恐る恐る、先輩の顔を見ると。
先輩は顔を赤く染めて俯いてしまった。

「______⁉︎」

ヤべえ。何しちゃってんだ、俺は。

「あ、あーココのケーキ美味いですよ。
先輩も早く取ってきたらどうです?」

「う、うん。そうだね。ちょっと行ってくるねー」

顔を背けたまま、小走りでケーキの方に向かっていく先輩。
その後ろ姿を見て改めて思う。

______またやっちまった、と。




しばらくして、全員がケーキを皿に取って戻って来ると、女子達は山盛りのケーキを次々平らげていた。
見てるだけで胸焼けがしてくるぜ。
少食な印象がある一之江も次々ケーキをその小さな口にパクパク入れていた。
ケーキは別腹とかいうけど……男と女じゃ、明らかに体の作り違うな。
そんなに甘い物入らねえよ!

「ふぅー食べた、食べたー」

「美味しかったねー!」

「ええ。ケーキバイキングの女王である私を唸らせるとはやりますね!」

「それ、まだ続いてたのかよ!」

ボケる一之江に突っ込みつつ、久しぶりの休日を満喫していると、紅茶を飲んでいた先輩がカップをテーブルに置きながらソレを口にした。


「ところで、大事なお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「何をですか?」

「モンジくんとキリカちゃん、それとみずみずとかって都市伝説に詳しいって本当?」

「ええ。まあ……」

誰だ、先輩にそんな事を言ったのは?
キリカを見るとニマニマ笑っているし、一之江は『何も言ってませんよ?』的な顔をしながらケーキを小さく切ってから口に運んでいた。
どちらも言ってそうな顔だ。

「とっても怖い話を聞いちゃったの!
実は、夜霞市内にある境山のトンネルで怖い噂が流れてるの!」

「噂……?」

ピクッと一之江が反応した。
キリカの方を見ると、キリカの片手にDフォンが握られている。

「うん。出るんだって……」

「出るって……何が?」

「トンネル内を車で通っているとね、トンネルの出口で突然目の前に女の人が飛び出して来るみたいなの。
それでびっくりした人が慌てて車を止めると、そこには誰もいないの。
で、気になった人が車から降りて出口の先を見るとね、そこは崖になっていたんだって。
それで危なかったって思って車をバックさせるとね……耳元で突然、声が聞こえてきたんだって。
誰もいないはずなのに……」

「声?」

「そう……『死ねばよかったのに……』って」

「……」

「……」

無言になる一之江とキリカ。

「多分、ただの噂だと思うんだけど、うちの学校の生徒の親御さんとか、親戚の人とかがその噂と同じ目に遭ったって言う子が増えてるからちょっと調べてきてほしいんだよね」

「……ええっと、それは……」

「駄目? モンジくん?」

うるうるっとした目で見つめてくる詩穂先輩。
先輩にそんな顔をされたら断りにくいな。

「いいんじゃない、モンジ君?」

「ええ。ぱっぱと行って、サクサクと終わらせましょう」

躊躇う俺とは逆にやる気満々な都市伝説(お2人)さん。







「……俺、帰っていいか?」

「ダメだよ(です)!」

2対1。当然、俺の意見は却下されたわけで……。
ケーキバイキングを終えた俺達は先輩と別れてさっそく現場に向かうことになった。
月隠駅前に停車していた、一之江御用達の黒塗りのハイヤーに乗った俺達は、噂の現場に向かった。

「織原さん、とりあえず境山にあるトンネルまでお願いします」

「あいよ、瑞江ちゃんっ」

一之江と運転手さんは知り合いらしく、気さくな若い声が届いた。
助手席のところにある写真を見ると、まだ若い運転手さんみたいだ。
車内を見渡すと内装はかなり豪華だ。

「すごいなぁ……」

「わぁ、ふかふかだっー」

「織原さんのタクシーはそれなりの人しか乗れませんから」

一之江がさらりと告げた。
そんなタクシーの運転手さんと親しい一之江って……世の中って不公平だな。
俺がそんな事を考えているとキリカはふかふかなシートで飛び跳ねていた。
こら、やめんか。
スカートでそんな事するんじゃない。
めっ!
俺がヒスったらどうするんだ!

そんなこんなで現場のトンネルに辿り着くと、一之江とキリカは一度車を降りてトンネルの前で立ち止まった。
彼女らの後ろからトンネル内を見てみると。
トンネル内は薄暗く、灯は点いているが昔のいわゆる白熱灯でオレンジ色のライトがポツリ、ポツリと等間隔でトンネル内に設置されている。
車は通れるが一車線の道で、それが一直線に暗闇の先に続いていて、トンネルの壁はよく見ると煤けた煉瓦で作られている。
かなり年代物のトンネルだ。
そんな不気味なトンネルを前にしているのにも関わらず、一之江とキリカはいつもと変わらない様子でトンネルの暗闇を見つめていた。
トンネルの先を見つめている2人だが、2人とも片手にきちんとDフォンを持っていた。
そして、そのDフォンが赤く、まるで危険を知らせるように光っている。

「うん、やっぱり。思った通り……これ『ご当地ロア』だねっ!」

「ええ。トンネルで、境山という時点で『ご当地ロア』だと思いました」

「なんだよ、その『ご当地ロア』って」

「場所限定で現れるロアです。場所限定になる分、その能力は強いとされています」

「場所限定?」

「はい。トンネルで現れるのに、海で現れたらおかしいでしょう?
こういった山にあるトンネルには、特に古いものほど強いロアが発生しやすくなります」

「私達のDフォンにも反応あるしね。
モンジ君のDフォンには反応あるかな?」

キリカに言われて俺は自分のDフォンを二つズボンのポケットから取り出した。
両手に1台ずつ握ってみたがなんの反応もない。
ただの黒い携帯電話のままだ。

「ふむ。どうやら貴方には危険はなさそうですね……念の為に『コード』を読み取ってみてください」

一之江に言われた通りにカメラをトンネルの入り口に向ける。
しかし、やはり反応はなかった。

「ふむ。どうやら貴方のロアとは因果……縁がないロアのようですね……」

「因果がないって事は……」

「うん。モンジ君が持つ『101番目の百物語(ハンドレットワン)』や『不可能を可能にする男(エネイブル)』とは縁がないロアって事になるね!
だから倒しちゃってもいいって事だよ!」

「殺るのか?」

「はい。今はまだ犠牲者が出てませんが、放っておけば大事故を引き起こしかねませんので」

「まあ、十中八九、純粋な『ロア』だから早めに退治した方がいいと思うよ」

そこまで言って、キリカや一之江は俺を見てきた。
その眼差しは俺に問いかけてるような強いものだった。

______まるで、『ロア』と戦う覚悟を問われているかのような。


「……わかった。
行こう!」

「いいんですね?」

「本当に大丈夫?」

「ああ、キリカや一之江だけに殺らせるわけにはいかないからな。
だから俺も戦るよ!」

そう言って、一歩足を踏み出す。
トンネルに向けて、そこに存在しているであろう『ロア』を倒す為に……。
いつまでも一之江に頼ってはいられないしな。
それに……。

「本当に大丈夫?
経験浅いんだから無理しなくてもいいんだよ?」

キリカは心配そうに言ってきた。

「邪魔だけはしないでくださいね。
それに不可能なら早めに言ってください」

一之江は相変わらず言葉にトゲがあるがこれも彼女なりに心配しているのだろう。


俺は気がついたら憑依していた。
突然の出来事で戸惑ったり、色々危険な目に遭ったり、毒舌少女に刺されたりしてるけど。
だけど……こんないいパートナー達に出会えた俺は今、とても幸せだ。
______だから。

俺は彼女達を守りたい。
俺にロアを救える……変える力があるのなら……
例え、それが誰にも出来ない不可能な事だとしても……
俺はその……

「______不可能を可能にしてみせよう」 
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