髪を切ってみると
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第一章
髪を切ってみると
真宮珠緒は長い間髪の毛を伸ばしてきていた、それで髪の毛の長さは相当なものになっていた。
「あんた今はどれ位の長さ?」
「うん、この前測ってみたら」
小柄で眼鏡をかけている、その背は一四七位で友人の阿藤七海に話した。七海は黒のショートヘアで背は一六五程だ。はっきりとした感じの目に形のいい紅の唇に桜色の頬を持っている。胸がはちきれんばかりで脚も奇麗だ。
その七海に対して珠緒は少女的な身体で童顔だ、制服もだぶついている感じでスカートも長い。七海とは正反対だ。
その彼女がだ、こう答えた。
「一メートルあったわ」
「あっきれた」
一メートルと聞いてだ、七海はすぐにこう返した。
「そんなにあるの」
「呆れたの?」
「一メートルって何なのよ」
七海は珠緒のその髪の毛、膝まで普通に達しているかなりのロングヘアを見つつ言った。
「幾ら何でもでしょ」
「長過ぎるっていうのね」
「そうよ、そこまで伸ばしてどうするのよ」
「いや、源氏物語とかね」
「平安文学?」
「髪は黒くて長いとよかったのよね」
「まあね、あの頃はね」
その話を受けてだ、七海はこう返した。
「髪の毛相当に伸ばしてね」
「十二単になびかせてたじゃない」
「そうしたいのね」
「そうなの、理想はね」
「理想っていうけれど」
「今は平安時代じゃないっていうのね」
「二十一世紀よ」
王朝文学華やかりしき頃ではなく、というのだ。
「もうそこまで伸ばしても」
「何もないっていうのね」
「邪魔になるでしょ」
かなり単刀直入にだ、七海は珠緒に言った。
「やっぱり」
「うん、洗って乾かすのにも時間がかかって」
「それによね」
「着替えの時にもおトイレの時にも」
「邪魔になってるわ」
「そこまで長いとね」
膝に優まで届く長さになるとだ。
「そうなってるわ」
「ほら、やっぱり」
「けれどね」
「それでもっていうのね」
「そうなのよ」
珠緒はあくまで言うのだった。
「髪の毛をね」
「まだ伸ばすの」
「そのつもりだけれど」
「あのね、女の子は男の子よりずっとましだけれど」
「ましって?」
「禿げるわよ」
七海は珠緒に強い言葉で言った。
「あまり髪の毛伸ばしてると」
「どうしてなの?」
「どうしてって。伸ばしてるとそれだけで毛根に負担がかかるから」
「それだけで?」
「そう、それだけでよ」
こう珠緒に話すのだった。
「だって。毛根が引っ張られるじゃない」
「髪を伸ばした重さで」
「そう、だからね」
「それだけでなの」
「毛根に負担かけるわよ」
「じゃあ平安美人の人達は」
「それだけでね」
髪を長く伸ばしているまさにそのことだけでというのだ。
「結構毛根傷んでいたわよ」
「そうだったの」
「それにね」
七海は珠緒にさらに話した。
「伸ばしてると洗うのも大変で」
「まあそれはね」
珠緒も自覚していた、そのことは。
「毎日お風呂で苦労して洗ってるわ」
「珠緒髪奇麗だしね」
七海は珠緒のその髪をここで見た、確かに長くてさらさらとしている。膝まで優にあるその奇麗さはまさに黒絹である。
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