食事をしながら
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2部分:第二章
第二章
「共にどうだ」
「そうだな。丁度その時間だ」
「食事の時間だな」
「貴殿との食事なぞ気が進みはしない」
フーシェはその不機嫌な顔で述べた。
「だが」
「だが、だな」
「それも一興か」
フーシェは静かに述べた。
「貴殿と。たまに食べるのもな」
「そう言うのだな」
「いいだろう。それではだ」
「行こう。いい店を知っている」
タレーランはにこりともせずフーシェに告げた。
「そこで美食を楽しもう」
「美食をか」
「美酒もある」
それもだというのだ。
「どうだ?たまには」
「不幸なことに今私には時間がある」6
これがフーシェの返事だった。
「全く。これも何かの縁だな」
「そうだろうな。それではだ」
「今からだな」
「そうだ。では行くとするか」
こうしてだ。二人はタレーランの案内でその店に入った。そこはまるで革命前になったかの如き豪奢な外観と内装のレストランであった。
天井も床も壁も見事であり輝かんばかりだ。装飾もカーテンも椅子やテーブルもだ。さながら貴族の宮殿の如くである。その中でだ。
彼等は店の奥、個室に案内された。そこには一つのテーブル、そして二つの椅子があった。その他の席は存在しなかった。
その部屋に案内されてだ。唯一の席に向かい合って座る。すぐに料理が一度に運ばれてきた。その中にはだ。あの魚もあった。
大きな平目である。それが焼かれて出て来た。それを見てだ。
フーシェはだ。いささかシニカルな顔になって自身の向かい側にいるタレーランに話した。
「好きだな、相変わらず」
「平目だけではないがな」
「あの話は知っている」
フーシェはシニカルなままでまたタレーランに述べた。
「二匹の平目だな」
「その話をするか」
「まず一匹目をわざと落としだ」
「そしてだな」
「そのうえでもう一匹を出す」
そうするというのである。
「落胆した客人達をそれで喜ばせさらに美味に感じさせるのだったな」
「懐かしい話だな」
「確かにな。しかし今日は一匹だけか」
「同じ手を使うのは無粋だ」
こう返すタレーランだった。しかも平然としてだ。
「そうしたことはしない」
「だから今日は一匹だけか」
「その通りだ。ところでだ」
「ところで。何だ」
「この店はどうだろうか」
こうだ、フーシェに対して問うのだった。
「気に入ってもらえただろうか」
「貴族的だな」
フーシェは顔を動かさなかった。その小さな目で周囲を瞬く間に見回してそれからだった。タレーランに対してこう答えてみせたのである。
「革命の敵だ」
「それが感想だな、貴殿の」
「如何にも。この店を経営している者もシェフもだ」
フーシェはタレーランを見据えながらそういった者達の名前を挙げていく。
「よく通っている客も全てだ」
「どうだというのだ?」
「処刑する必要があるな」
処刑、フーシェが出した言葉はこれであった。
「革命の敵だ。全てな」
「では私もというのだな」
「監獄は既に用意してある」
彼が常に言ってきた言葉をだ。その当人に話すのであった。
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