馬人
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4部分:第四章
第四章
「いいものではありませんね」
「ええ、非常に」
「我々の社会の汚点です」
「我々の社会でもそれは同じです」
「そうですね、全くです」
彼等はお互いに話した。
「全く。酷い話です」
「フウイヌムの社会もまたそうしたものに満ちていますか」
「そういうことです。おわかりになりましたね」
「はい」
ガリバーは彼のその言葉に頷いた。
「よく」
「我々は特に高潔な者ではありません」
「人間と同じですか」
「そうです、全く同じです」
こう話す。
「同じですから。特別と思われないことです」
「特別とはですね」
「思われないことです。同じなのですから」
これが彼等の言いたいことだった。
「同じ社会なのですよ」
「そういうことですね。我々が卑しいということも」
「我々が高貴ということもないのです」
「同じなのですね」
また話す彼等だった。そしてだ。
裁判の判決が下された。するとその詐欺の常習犯の被告のフウイヌムはだ。その場で怒鳴り散らし暴れはじめたのである。
ガリバーはその光景も見た。そしてそれも見てこう呟いた。
「人間でもああいうのはいますよ」
「そういうことです」
こんなことを話して見てだ。そのうえでフウイヌムの社会を見て回った。それは何処までもガリバーのいる人間の社会と同じだった。
そうしてものを見てフウイヌムの国を去る。その時だ。
「それではまた」
「機会がありましたら」
「はい、また」
フウイヌム達の見送りを受けて今港から船に乗ろうとする。彼の船にだ。
「御会いしましょう」
「またね」
「また会おうね」
子供のフウイヌム達も来た。彼等は明るく前足を振っている。
「今度会ったらね」
「お茶飲もうね」
「あのお茶だね」
そのだ。紅茶をだというのだ。
「ミルクも入れてね」
「そうしよう」
「よし、そうしようか」
そんな話をしてそうしてだ。ガリバーは船に乗った。そうして彼の国に帰る。
見送りのフウイヌム達はだ。港からその彼に手を振る。
それはだ。やはり社会と同じだ。彼のいる社会とだ。
そして自分の社会に戻るとだ。彼の友人達が出迎えてきた。
「やあやあ、久し振りだな」
「よく戻ってきたな」
「今度は何処に行っていたんだい?」
「ちょっとね」
ガリバーは微笑んで彼等の出迎えに応えた。
「僕たちと同じ人達に会っていたんだ」
「同じ?」
「同じなのかい」
「そう、同じだよ」
こう話すのだった。
「何もかもね。同じだよ」
「じゃあ今度は変わり映えのしない社会か」
「そういう社会なのか」
「いや、これがね」
「これが?」
「どうだったんだい?」
「面白かったよ」
笑って友人達に話した。
「我々の社会と同じでね」
「同じ?」
「同じでかい」
「うん、面白かったよ」
こう言うのだった。
「とてもね」
「同じで面白いって」
「そういうものかな」
「いや、特に高貴な種族とか卑しい種族はないんだね」
だがガリバーはだ。いぶかしむ友人達に対してさらに話すのだった。
「そういうものなんだね」
「言っている意味がわからないが」
「とにかく君は楽しめた」
「それは間違いないと」
「間違いないよ。そういうことだから」
ガリバーはフウイヌム達と自分達を頭の中で重ね合わせていた。それはいい部分も悪い部分も全て含めて見事なまでに重なった。本当に何もかもが同じだった。違うのは外見だけだがそれはもう彼にとっては気にするまでもないことだった。そういうものだった。
馬人 完
2010・8・4
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