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ロード・オブ・白御前

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もう一つの運命編
  第7話 光、再び、実りて


「兄さんのエナジーロックシード……あんたが持ってたのか」

 光実は冷えきった頭を自覚しながら戦極ドライバーを装着し、ブドウの錠前を開錠した。

「変身」
《 ハイーッ  ブドウアームズ  龍・砲・ハッハッハッ 》

 緑のライドウェアとブドウを模した甲冑が光実を鎧った。

 龍玄に変身するなり、彼はブドウ龍砲をシャロームに向けて連射した。
 シャロームは階段の踊り場から、龍玄のいる段まで跳んで着地し、創世弓を龍玄に対して構えた。

(この人のスタイルは近接型。昨日今日に弓を持ったなら、そんなもの、使いこなせなくて自滅するだけだ。冷静に対処すれば、僕でも勝てる)

 じり。じり。

 龍玄が動けば、一定の距離を保ったままシャロームも動く。二人の動きが円を描く。

『はぁぁ!』

 シャロームが先に動いた。創世弓で龍玄に斬りかかってくる。
 龍玄は慌てず、創世弓を振り被ったことでがら空きになったシャロームの胴体に向け、ブドウ龍砲のトリガーを引いた。

 怯んでシャロームの弓閃は当たるまいと踏んだ――が、シャロームは弾丸を受けても態勢を崩さず、龍玄を創世弓で斬った。

『ぐ……っ』

 懐に入られたままはまずい。

 龍玄は一歩引いて再びブドウ龍砲をシャロームへ連射した。

 シャロームはいくらかの弾丸を受け、いくらかの弾丸を躱しながら下がり、創世弓のストリングを引いた。
 金緑のソニックアローが飛んでくる。
 防御が間に合わず、龍玄の胸にソニックアローが突き立った。

 龍玄は胸に刺さった矢を意地だけで抜き捨てた。
 その間にも、今度はシャロームがソニックアローを連射した。

 龍玄は転がって避け、ブドウ龍砲から弾丸を撃ち出した。

(どっちも遠距離の武器で、相手のほうが性能が上なら。近接戦に持ち込んでやる)

 立ち上がり、キウイの錠前を開錠して、ブドウの錠前と交換し、キウイアームズに換装した。

『ハァァ!!』

 自ら踏み込み、2輪のキウイ撃輪を揮う。
 シャロームのほうは創世弓でキウイ撃輪を捌きながらも、ソニックアローを撃つ機を逃さない。

 撃輪と弓が鍔迫り合いに持ち込まれた。

『悪いな。他の誰に負けても、俺は、お前にだけは負けてやれない』
『冗談! 僕のほうこそ、あんたになんか負けるもんか。あんなに碧沙が想ったのに置き去りにした男になんて、負けて堪るか!』

 シャロームを突き飛ばして距離を取り、キウイ撃輪を2輪とも投擲した。
 ――片方を創世弓で捌けたとしても、もう片方の撃輪はシャロームに当たるはずだ。
 そう、思ったのに。

 シャロームは片方のキウイ撃輪を確かに創世弓で弾いた。だが、もう片方の撃輪は、何と、腕で叩き払ったのだ。

 ライドウェアが裂けてもおかしくない切れ味の武器を見舞われて、シャロームは何のダメージも受けていないかのように健在だ。

 ぶわ、と鳥肌が立った。

(こうなったら、紘汰さんにやったみたいに、隠れて狙撃するしかない)

 すぐさまキウイの錠前を外し、ブドウの錠前をセットしてブドウアームズに換装した。

 目晦ましのためにシャロームの足下にブドウ龍砲を連射し、龍玄は走って物陰に隠れた。

『――覚えてるか? お前が初めてうちのチームに来た時のこと』

 説得――交渉か。

『学校とは反対方向の俺たちのステージを毎日観に来てくれたよな。だから舞が声をかけて、お前はチームに入るのを最初ためらったけど、結局は受け入れてくれて。舞以外のチームメイトとも上手くやれて。でも一つ引っかかってたことがある』

 シャロームが歩いてくる。
 ――龍玄が隠れた場所をシャロームが通り越し、背中を見せた瞬間に、撃つ。

『お前が俺たちを見る目が、時々俺たちを通り越してるような気がしてた。それが何でか、貴虎さんに会って、ようやく分かったよ』

 シャロームの語り口はあくまで穏やかだ。

『お前はいつも貴虎さんを探してたんだな。俺を通して。紘汰がチームに入ってからは、紘汰を通して』
『違う!! 知ったふうな口利くな!!』

 自分で組み上げた段取りより早く、龍玄は飛び出し、シャロームの背ににブドウ龍砲を連射した。

『知ったふうも何も』

 対するシャロームはいとも容易くバク転で避け、創世弓を構え直し、龍玄に向ける。

『知ってるよ。お前のことなら。俺はリーダーだから。お前が本当はたくさんの人を心配してる優しい奴だってのも、チーム一、頭がキレるのも。あと、紘汰と舞を大好きなのも。ずっと見てきたからな』

 ずっと見ていた。
 その言葉は呉島光実がずっと欲しがって足掻いてきたものだった。
 トリガーにかけた指から力が抜けてしまったほどに。

 この人はずっと見ていてくれた。呉島光実のホントウを。

(この人がいなくなったら、一体誰が分かってくれるんだろう。貴虎兄さんも紘汰さんも分からなかった、『本当の僕』を。この人を消してしまったら、『僕』はどこにもいなくなるんじゃ)






 シャロームは紫の銃撃を避けながらも、冷静に光実の心の移ろいを読んでいた。

(よし、効いてる)

 光実を陥落させるために美辞麗句を連ねているのではなく、リーダーとして、兄貴分の一人として、思ったままを心から言っているのだが。

(次がトドメの一撃。……すんません、貴虎さん。本当はあんたが言うべき言葉を、ちょっとだけ借りる)

 シャロームは創世弓を放り捨て、両手を広げた。


『お前は今日まで本っ当によく頑張った。えらかったな、光実』


『――――あ』

 シャロームはゆっくりと、両手を広げたまま龍玄に歩み寄った。

『っ、来るな!』

 龍玄がブドウ龍砲を撃った。シャロームは、避けなかった。

 崩れかけた姿勢を意地だけで支え、痛みに震えそうになる声を根性だけで堪えた。

(づ…っでぇなあチクショウ。さすがにこのロックシードでも痛み全消しは無理か。でも、まだ)

 ――防御力の強化。それがジンバーメロンの特性。
 単純に強化といえど、その効果は大変に有用だ。

 本来なら食らえば倒れる攻撃に倒れない。
 本来なら手の届かない場所まで進んでも崩れない。

 そういう意味では、どのジンバーアームズよりも使い勝手がいい。

『光実は強い子だな。うん。えらいぞ』
『来るなって言ってるだろ!!』

 龍玄は再びブドウ龍砲を連射した。撃たなければ、否定しなければ己が崩れる。そんな想いを声から感じる。
 感じるから、分かるから、シャロームは止まらなかった。

 そして至近距離に入るや、シャロームは龍玄を強く抱き締めた。

『今日までよく頑張ったな。もう、いいんだよ。お前はもう充分よくやったんだから』

 がしゃん、と。
 龍玄の手をすり抜けて、ブドウ龍砲が落ちた。

『……裕、也、さん』

 シャロームは片手を静かに龍玄のロックシードに伸ばし、それを外した。そして、自分自身のロックシードもバックルから外し、三つともを地面に落とした。

 二人の変身が解ける。
 ここにいるのは、ただの角居裕也と、ただの呉島光実だ。

「あなた、が、僕の兄さんだったら、よかった、のに」

 光実はきつくきつく裕也にしがみつき、泣いた。号泣だった。 
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