ミョッルニル
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3部分:第三章
第三章
旅がはじまり巨人の国に入って程なくして。トールは己の従者がその手に持っているものが気になりふと彼に対して問うたのだった。
「シャールヴィよ」
「はい?」
「御前は何故そんなものを持っているのだ?」
見れば彼はその手に杖を持っていた。如何にも強靭な樫の木の杖である。
「これですか」
「そうだ。またどうしてだ?」
「ロキ様に言われまして」
ここで彼は共にいるロキの顔をちらりと見てから主に対して答えたのだった。
「ロキに!?」
「はい、そうなんです」
「おい、ロキ」
トールはここまで話を聞いてそのロキに顔を向けた。
「これも用心というのか」
「そうだと言ったら?」
涼しい顔でトールに返すロキだった。
「用心に過ぎるとでも言うのか?」
「全くだ。確かに俺はミョッルニルも力帯も持っていない」
まずはこれについて言う。
「だがそれは御前が持っているだろう?いざという時はだ」
「何度も言うが相手を侮るな」
ロキの言葉が少しけわしいものになる。
「巨人をな。杖でもあれば武器になる」
「武器にか」
「そうだ。わしが奴等にした約束は御前がミョッルニルと力帯を持っていてはいけない」
ここを強調する。あえて。
「しかし杖を持つなと言ったか?」
「いや」
ロキのその問いに対しては首を横に振るトールだった。その通りである。
「それは言っていないな。一言もな」
「そうだ。まあ持っていないより持っている方がいい」
ロキはそこを強調する。またしても強調だった。
「連中は絶対に仕掛けて来るからな。すぐにもな」
「すぐにか」
「もうすぐ川だ」
ロキは言う。
「もうそこで何かあるかも知れん。気をつけろ」
「じゃあトール様」
ここでシャールヴィがすっとトールの前に出て来た。そうして彼に対して杖を差し出すのだった。
「これをどうぞ」
「御前も同じ考えか」
「はい」
主の言葉に対して静かに頷いてみせる。
「僕もロキ様と同じ考えです」
「そうか。御前まで言うのならな」
トールもこれで納得するのだった。自分でも気付いていることだが何処かロキに対する警戒があるのは彼のことをよく知っているからだった。そもそも今回の旅もはじまりも彼が元凶だからだ。
「わかった。それではな」
「御願いします。それじゃあ」
「さて」
ロキが二人に声をかけてきた。
「行くぞ。その河だ」
「見たところどうという河ではないな」
幅もそれ程ではないし流れも水量も多くはない。どうということのない河にしか見えないものだった。トールはそれを見てここでは罠はないと思ったのだった。
「確かここを上にさかのぼっていったな」
「そうだ。この河だ」
またロキがトールに対して答えたのだった。
「さかのぼればゲイルレズの館まで一直線だ。行くぞ」
「わかった。それではな」
「うむ」
こうして三人は河のほとりをさかのぼりつつ先に進むことになった。河は至って穏やかなものであった。しかしここで急にそれが変わるのだった。
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