とあるの世界で何をするのか
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十話 木山先生を見送って
ファミレスでの話し合いを終えて外に出る。結局、レベルアッパーそのものを持っていなかったので、推測の域を出ないままの話し合いは簡単に終わり、その後は木山先生による佐天さんや初春さんに対しての能力開発授業となってしまっていた。
「それでは木山先生、今日はありがとうございました」
全員がファミレスから出たところで御坂さんが頭を下げる。それにつられるように他の皆も頭を下げた。
「こちらこそ教鞭をふるっていた頃を思い出して楽しかったよ」
木山先生は振り返ってそれに答えてくれた。上着を掴んで肩から後ろに回している姿はなかなか男前である。
「教師をなさっておいででしたの」
「ああ、昔……ね」
白井さんの言葉にも木山先生は答えてくれた。言葉の感じや少し陰った表情などからも、恐らく倒れた子供達のことを思い出しているのだろうということが伺える。
「現時点での情報は、後でメールしておきますね」
「何か分かったらこちらからも連絡を入れさせてもらうよ」
木山先生の表情の変化には気付かなかったのか、初春さんが今後について話を振ると木山先生の表情もすぐに戻っていた。
「はい、よろしくお願いいたしますの」
白井さんが丁寧に頭を下げると、木山先生は上着を持っていない方の手を上げて歩き出した。やっぱり男前である。そう言えば木山先生は車を止めた場所をちゃんと覚えているのだろうか、以前のことがあるのでとても心配だが病院の駐車場に止めているのなら大丈夫だろう……と思いたい。
「何というか、ちょっと変わった感じの不思議な方でしたわね」
「白井さんよりですか?」
「むっ」
白井さんの感想に、初春さんが棘のある言葉を吐いて白井さんから睨まれる。流石初春さんというか、天然なのか度胸があるのか黒いだけなのかが全然判断できない。まぁ、それはともかくとして、俺は初春さんに少しだけ助け船を出す。
「どうだろうねぇ、さすがに木山先生は『愛と漢方の絶倫媚薬』の『パソコン部品』を購入したりしてないと思うけど……」
「うぐっ……あ、あの時は貴方のせいで寮監から……」
俺の言葉に白井さんが胸を押さえて俺を睨む。意外な事に結構なダメージが入ったようだ。というか、そのダメージの原因は寮監のような気がしなくも無い。今の俺の言葉ですらかなりのダメージが入るほどって、あの寮監さんは白井さんに一体何をしたのだろうか。
「あー、確かに不思議な感じはともかくとして、変態って言う意味で変わってるのは白井さんの方が断然上ですよねー」
そこへ相変わらず黒い初春さんからの追い打ちが掛かった。
「ちょっ、初春!?」
こうして白井さんは撃沈したのである。
「でも、あの人が本当に脱ぎ女だったんですか?」
こっちの話が終わったと察したのか、佐天さんが俺に聞いてくる。佐天さんの前では結局脱がなかったのでまだ信じられないのだろう。
「うん」
「それは超間違いないと思いますよ」
俺がうなずくと、絹旗さんも答えていた。病院では白井さんと一緒に木山先生を注意していたので、脱ぎ女の威力は絹旗さんも充分理解しているのだ。ちなみに俺と御坂さんは、上条さんが逃げ出したあの日にしっかりと理解させられている。
「言われてみれば佐天さんの怪談……というか都市伝説の話と一緒で、何の前触れも無くいきなり脱いでましたわね」
俺と絹旗さんが答えたあとで、いつの間にか復活している白井さんが呟く。
「脱いでるところじゃないと写メ撮っても意味ないからなぁ……」
「まー、脱いでるところ撮ったら撮ったで法的に問題がありそうだけどね」
両手を頭の後ろに組んで呟く佐天さんに俺が答える。女同士なら別にかまわないのかもしれないが……いや、木山先生なら男でも「別にかまわない」とか言いそうで怖いが、基本的に外で脱ぐことに問題があるのだ。法的な部分での詳しいことは分からないが、それを撮ったら佐天さんにも問題があるはずなのである。
「だって、普通の時なんて撮ってもただの研究者さんの写真にしかならないじゃないですか!」
「じゃー炎天下の中、木山先生と一緒に歩けば良いよ。割と早い内に脱いでくれるはずだから」
ちょっと強い調子で言ってくる佐天さんへ更に答える。まぁ、法的な部分はともかくとして、いつも初春さんのスカートを捲っている佐天さんには余り驚異では無いのかもしれないので、『脱ぎ女』が見られる状況を教えておいたのだ。
「そしたら多分、佐天さんは写メ撮るどころか速攻で逃げだすわね」
「何でですか?」
俺とは少し違う方向で佐天さんの行動を予測したらしい御坂さんに佐天さんが聞き返す。ちなみに俺の予測では、佐天さんはしばらく周りの様子に気付かないまま写メを撮りまくって、周りの様子に気付いてから逃げ出すという感じである。
「翌日のスポーツ新聞辺りに『変態女子中学生、同性の研究者に路上で露出強要・強制わいせつ!』なんて見出しで載りたいなら逃げなくても良いけどね」
「げっ!」
佐天さんが逃げ出していなかった場合の、新聞の見出し予想に佐天さんは顔を引きつらせていた。なお、『翌日の新聞』ではなく、『翌日のスポーツ新聞』というところがミソである。
「脱ぐことさえなければ普通にいい人なのよね」
「いきなり脱ぐのがなければ本当に有能な研究者なんだろうけどねー」
御坂さんが木山先生に対する評価を言ったので、俺もそれに続けて言う。御坂さんは木山先生がレベルアッパー制作者だということを知らないので、『いい人』という評価をしているわけだが、俺は『有能な研究者』という程度でとどめておいた。実際、レベルアッパーを制作できるほどなのだから、学園都市でもそこそこの有能な研究者と言って良いのだろう。
「それは、私のことかな?」
『ぎゃーっ!!』
噂をすれば影、ご本人のまさかの再登場に俺と御坂さんが驚きの声を上げる。いや、悲鳴と言った方が近いかもしれない。
「な、な、なんで居るんですかっ!?」
驚きすぎたのだろうかテンションがおかしいまま御坂さんが木山先生に尋ねる。もしかして、さっき危惧したように車を止めた場所が分からなくなったのだろうか。
「いや、能力開発に関する論文が載った雑誌を車の中に見つけたので持ってきてみたのだが……。特に君は、レベルアッパーがあれば使ってみたいと思っているくらいには能力を伸ばしたいのだろう?」
どうやら車はちゃんと見つけていたようで、上着と一緒に持っていた一冊の雑誌を一度皆に見えるように取り出してから、木山先生はその雑誌を佐天さんに差し出した。というか、一度車に戻ったのなら上着は置いてくれば良かったのに……。
「えっ……ま、まあ……」
木山先生から雑誌を渡されて呆気に取られたまま佐天さんが答える。木山先生の持ってきた雑誌は学園都市内なら普通に誰でも買える部類の物で、学者や研究者なら勿論、長点上機や霧ヶ丘、それに常盤台といった学校の先生や、勉強熱心な生徒などなら読んでいてもおかしくはないといった程度の物である。
「ならこれを読んでみると良い。能力を伸ばすための足がかりになるかもしれない」
「あ、ありがとうございます……」
木山先生に勧められて佐天さんがお礼を言って雑誌をパラパラとめくっている。それを見て思ったのだが、どうやら木山先生はこの雑誌を近くの店で買ってきたようだ。佐天さんが雑誌をめくった時にそれまで誰かがめくった跡が付いていなかったこと、そしてさっきも思ったがもし車に戻ったのだとしたら上着は置いてくれば良かったわけだし、それ以前に車でここに来れば良かったのだから、恐らく車の中で見つけたというのは佐天さんに気を遣わせないためのものだったのだろう。
「それでは今度こそ失礼するよ」
「あ、はい。お疲れ様でした」
先ほどと同じようにまた片手を上げて颯爽と去って行く木山先生を見送る。
「はぁ~……びっくりした……」
木山先生の姿が見えなくなって俺は胸をなで下ろす。
「何で気配に気付かなかったのよ?」
ほっと一息ついた俺に御坂さんが聞いてくる。まぁ、当然と言えば当然か。
「完全に気を抜いてたわ。普通なら10mぐらいは分かるし集中したら50mぐらいまでは分かるんだけど、さっきは5mにも満たないくらいの範囲でしか分からなかったのよ」
色々とあってかなり特殊ではあるものの、一応俺だって人間なのだから気を抜くこともある。
「凄いんだか抜けてるんだか分からないわね……」
御坂さんが呆れたように呟く。
「凄いのに超抜けてるんですよ」
絹旗さんは何か『超』を付ける位置に悪意を感じる。
「確かに気配が分かるっていうのは凄いんですよねぇ、肝心な時に抜けてますけど」
更に初春さんまで……。ってか、何気に絹旗さんより酷い。
「だから抜いてたって言ってるでしょ! なんか抜けてる抜けてるって、髪の薄いお笑い芸人がおいしいって言いそうな状況みたいな感じっぽくなってるけど、ウチは『元フユキ』でも『ホワイトケチャップの薄杉』でもないんだからね!」
皆から散々抜けてると言われたので、俺もやけくそになってちょっとツンデレ風味で言い返す。ちなみに『ホワイトケチャップの薄杉』は本当は『濃杉』なのだが、髪が薄いことをネタにしているのでいつの間にか『薄杉』と言われるようになり、今ではテレビで紹介される時でも『薄杉』と呼ばれるようになっている。それに対して『濃杉だよっ!!』と返すのが定番なのだ。
「はいはい、それでは私達は支部に戻りませんと……」
「そうですねぇ、木山先生に渡す資料もまとめておかないといけませんし」
俺のことは完全にスルーで白井さんが話を振ると、初春さんも俺のことを完全スルーのままでそれに答える。
「黒子、何か手伝うことはある?」
「いいえ、お姉様。特には御座いませんわ」
白井さんは御坂さんから声を掛けられて答えたが、御坂さんと一緒に居られないからなのか少し気落ちしたようだ。
「そう。じゃ、頑張ってね」
「はいですの! お姉様」
御坂さんからのエールに、白井さんは一気に元気を取り戻していた。
「黒子達は行っちゃったけど、私達はどうする?」
白井さんと初春さんの姿が見えなくなってから、御坂さんは振り返りつつ皆に尋ねる。
「ゲーセンでも行きますか」
「そうねえ、滝壺さん達も来る?」
「うん、行く」
「ゲーセンなんて超久しぶりです」
佐天さんが提案したので俺は滝壺さんと絹旗さんに聞いてみたが、二人ともゲーセンで良かったようだ。
ゲームセンターに到着すると、皆でプリクラを撮ったりクレーンゲームでぬいぐるみを取ったりした。プリクラに関しては当初アイテムの二人が渋っていたのだが、逆に不審に思われるかもしれないと俺が伝え、最近のプリクラは撮影後に加工が出来るようになっているので、ある程度顔に落書きを加えれば身元特定も困難になると教えてからは普通に撮るようになっている。取り敢えず御坂さんのほうは、最初の挨拶の時の印象から二人が人見知りらしいと思ってくれたみたいでそれほど気にしていなかったようなのだが、佐天さんはそれを知らなかったわけだし、ファミレスで出会った時以降もそれっぽい演技をしてこなかったので、普通に友達感覚……にしては少し強引だったかもしれないが、二人をプリクラに誘い続けていたのである。
その後も御坂さんがパンチングマシーンで高得点を出し、それに対抗した絹旗さんがパンチングマシーンを壊してしまったり、ぷにょぷにょしたものが落ちてくる対戦型パズルゲームで俺と滝壺さんが一進一退の攻防を繰り広げたり、全員で鼓を叩くリズムゲームをやったりして楽しんだ。
「ねえ、滝壺さん、絹旗さん。ケータイ持ってる?」
完全下校時間に近づいてきたのでそろそろ帰ろうかと言う話になったところで、アイテムの二人に御坂さんが声を掛ける。
「うん、持ってる」
「そのくらい超持ってます」
「じゃー、番号とアドレス交換しましょう」
二人が同時に答えると御坂さんの提案で佐天さんも含めて四人が番号とアドレスの交換を始めた。俺は当然昨日の内に交換してあるので必要ない。アイテムの二人も俺と同じで暗部用と通常用に二台のケータイを持っていたらしいのだが、アイテム以外でケータイを使わなければならないような事態にならなかったために、今までは通常用ケータイを使うことが無かったらしい。そこで昨日、俺のケータイとアドレス交換をする時に通常用同士で登録し、今日も通常用のケータイを持ってくるように言っておいたわけだ。
「それじゃー、またね」
こうして今日はお開きとなったのである。
後書き
お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
プロットの組み直しで余り影響の出ない部分を書いていたらこんな感じになりました。
トリックアートをどうしようかと思ってたら、そこまで行かなかった……。
佐天さん達にレベルアッパーを使わせるかどうかも再考中なので、次回は少し……もしかしたらかなり遅れるかもしれません。
ページ上へ戻る