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幸せは消えて

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6部分:第六章


第六章

 暫くして城壁の方から大きな歓声が起こった。何があったのか、若者達にはすぐにわかった。
「勝ったみたいですね」
「この国が」
「そうみたいだね」
 若者は烏達の言葉に応えた。
「どうやらね」
「何か罵声も聞こえますけれど」
「それもかなり汚い」
「それだけこの国の人達は周りの国を憎んでいるのさ」
 彼は言った。
「そして同じだけ憎まれているんだろうね」
「同じだけですか」
「あれと同じ位」
「ほら、帰ってきたよ」
 話をしているうちにであった。黄色い星の人々が帰って来た。彼等は凱歌をあげていた。そしてそれと共に項垂れ、中には怪我をしている者達を引き連れていた。
「御前達は奴隷だ!」
「死ぬまでこき使ってやるからな!」
 連行する彼等に手鎖を付け足には重りを付けさせている。そうして横や後ろから蹴り小突き罵声を浴びせている。死んだ敵を引き摺って嘲笑っている者もいる。
「俺達に戦争を売ってきた報いだ!」
「覚悟しろ!」
 口々にこう言っている。若者はあえて表情を消してそれを見ているだけだ。
 しかしここで彼は。烏達にだけ聞こえる小声でこう呟いたのだった。
「悲しいね」
「悲しいんですか?」
「それはまたどうして」
「いや。あの人達を見ているとさ」
 その彼等を見ての言葉だった。
「そう思わざるを得なくてね」
「悲しいですかね」
「見ていて嫌な気持ちになりますけれど」
 烏達も若者にだけ聞こえるような小さな声で言った。彼等もまたその表情はあえて消していた。
「ああいうのを見ていたら」
「とても」
「だからだよ」
 若者はその彼等にまた告げたのであった。
「だからね。悲しくなるんだよ」
「だからって」
「それで悲しくなるんですか」
「彼等は長い間迫害されてきたんだよね」
 若者は言うのだった。
「長い間。本当に」
「はい、それは確かです」
「間違いありません」
 このことは烏達もよく知っていることだった。だからこそすぐに答えることができた。
「迫害だけでなく弾圧や虐待や」
「血生臭いことも沢山あったんですよ」
「そうされることが辛くて苦しいって知っているのに」
 若者は捕虜を殴り倒しさらに踏むようにして蹴り続ける兵士を見ていた。
「それなのにあんなことをして。自分達が」
「自分がやられてきたことを今他人にしているんですか」
「同じことを」
「本当に同じなんじゃないかな」
 若者の言葉は続く。
「そんなことじゃね」
「ざま見ろ」
 話し合う彼等はふと横からこんな言葉を耳にした。見ればそこには黄色い星を胸に着けた男がいた。
「俺達は今まで国を持っていなかったから苦しい目に逢ってきたんだ」
「けれどこれからは違うぞ」
「そうだ、これからはな」
 他のサハラの者達も言い出した。彼に続くようにして。
「国があるからな。それに力もある」
「武器もある」
「魔法も」
「もう金と頭だけじゃないんだ」
 かつてアルト族はその商売と頭脳で知られていた。そのことを言っているのはすぐにわかった。
 
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