小鳥のぬいぐるみ
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第六章
「そんな人は」
「そうしたことは見極めてか」
「あげてるの」
作ったぬいぐるみをというのだ。
「そうしてるから」
「そこは厳しくしているんだな」
「だって折角作ったのよ」
それも丹精込めてだ。
「それならね」
「確かな人にかだな」
「そう、大切にしてもらいたいの」
こう言うのだった。
「是非ね」
「そうか、ただな」
「ただ?」
「いい趣味だったな、セーラにとって」
ヘルマンはそのいかつい顔をにこりとさせてこうも言ったのだった。
「アドバイスして本当によかったよ」
「ぬいぐるみ作りね」
「そう、只の時間潰しじゃなくなって」
「楽しめてるから」
「本当によかったよ」
まさにこのことがというのだ。
「じゃあこれからも」
「ええ、楽しんでいくわ」
微笑んでだ、そのうえでだった。
セーラはぬいぐるみを作っていった、そして最初に作った小鳥のぬいぐるみはいつも傍に置いていた。本当の子供の様に。
しかしそれをだ、セーラは結婚してから娘の十二歳の誕生日にあげてだ、笑顔でこう言ったのだった。
「あげるわ、貴女に」
「いいの?お母さんが一番大切にしていたぬいぐるみなのに」
「貴女なら大事にしてくれるから」
そのことがわかったからだというのだ。
「あげるわ」
「お誕生日のプレゼントで」
「そうよ、どうぞ」
こう言って娘に笑顔でそのぬいぐるみを差し出す、だが娘はそのカナリアのぬいぐるみを受け取ってから母にあらためて問うた。
「お母さんはこれからどうするの?」
「ぬいぐるみのことね」
「一番大切にしていたぬいぐるみなのに」
「いいの、お母さんはまたぬいぐるみを作るから」
「このカナリアのぬいぐるみ?」
「そう、それをまた作るから」
だからだというのだ。
「だからそのぬいぐるみは貴女にあげるわ」
「そうしてくれるの」
「そう、だから心配しないでね」
自分のことはというのだ。
「それじゃあね」
「うん、それじゃあ」
「その娘のことお願いね」
こう言ってだった。セーラはそのぬいぐるみを娘に手渡した。そうしてそれからもぬいぐるみを作り続けていった。
小鳥のぬいぐるみ 完
2014・11・21
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