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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第二章
  十五話 激戦、熱戦、大激突!

 
前書き
一度消えてしまった十五話。 

 
小さかった頃、何度か、なのはさんやフェイトさんに、魔法の練習を手伝って貰った事があった。
あの頃から、高速の起動戦を展開するフェイトさんは俺の憧れの魔導師で、バリアジャケットなんかも、いつもかっこいいかっこいいってはしゃいでた記憶がある。
それと比べると、なのはさんは、俺の憧れるフェイトさんや母さんみたいなイメージとは少し違って居たから、子供心ながら、興味が薄かったのを覚えてる。

あ、そうそう。8才だったか7才だったかな?フェイトさんとなのはさんがバリアジャケットを新調した時、フェイトさんにかっこいいって言ったらなのはさん、「クラナ君、私は?」って凄い期待した顔で聞いてきたっけ。
その頃の俺が、「つまんない」って言ったら凄く落ち込んでたんだよね。
あの時は、悪いことしちゃったよなぁ……

でも、今ならわかる。なのはさんは、間違いなく一流の魔導師で、フェイトさんとは違うスタイルでも、俺には真似できなくても、俺の目標の一人だ。
だから、そんななのはさんと試合とは言え対等な条件で真剣勝負が出来る事は、俺にとっては……

「(居た……!)」
[相棒、来ます!]
正直なところ、素直に嬉しい。

────

「青組CG、高町なのはより、各員に報告」
クラナが、目視できるまで迫って来ていた。ウイングロードを掛けあがって来る彼との距離は、既に40Mを切っている。残り20も進めば此方の射程距離だ。
なのはの周囲にホロウィンドウが現れ、其処に全員への通信回線が開く。

「間もなく、赤組FA、クラナと接敵(エンゲージ)。射法支援が止まります。ディアナとキャロの支援射撃に要注意!」
「「「「「了解!!」」」」」
そう言った時には、既にクラナが射程に入りかけていた。

Team blue CG 高町なのは LIFE 2500(-0
Team red FA 高町クラナ LIFE 2950(-50)

接敵(エンゲージ)!!

「アクセル・シューター。弾幕集中!」
槍のような形状と化したレイジング・ハートをクラナの方に向けると、周囲のスフィアを一旦消して、アクセルシューターを形成。真っ直ぐに此方に向けて迫った来るクラナに向けて──

『そう言えば……』
こんな風に、真っ直ぐに自分に視線を向けて来るクラナと向き合うのは、本当にいつ以来だろう。
そんな事を考えながら、桃色の弾丸を発射する。

射出(シュート)!」
「っ!」
放たれたのは四つの弾丸。純粋な魔力で形成された誘導弾で有り、なのはが最も得意とする射撃魔法だ。
対してクラナは……

「アル!二つ分で良い!」
[Attraction]
開いて居た三つのギアの内、二つ分の魔力になるようアルが術式を調整し、加速魔法を発動させる。加速し、思考速度が跳ね上がったクラナは向かって来る弾丸の軌道を正確に見極めると……

「フッ!」
その全てを命中ギリギリで回避。軌道を修正する暇を与えずにそのまま突き進む。
しかし四発全てを躱すと、今度はなのはの十八番。砲撃が待ち構えている。

[相棒!高速直射砲!来ます!]
「っ!防御!」
[Photon Smasher]
発射(ファイア)!」
弾幕を抜けて即座に迫るチャージの殆どない高速砲に、クラナは右手を突き出してそのまま突進する。

「アル!」
[Absorb]
アルが言葉を発した直後、クラナに直撃コースだった砲撃がクラナの掌に当たり……それがクラナの手の平に振れたそばから掻き消えていく。

────

「あっ!アレ!!」
「ん?あぁ。そういやさっきリオもやられたんだっけ。アレ」
クラナとなのはの戦闘をモニターで見ていて声を上げたリオに、セインが言った。リオはコクコクと頷いて少し食いつき気味に言う。

「あれ、何だったんですか!?」
「ふふっ。あれは多分、クラナ君流の射砲撃対策よ。分類的には、吸収放射ね」
「吸収放射……?」
首を捻ったリオに、答えたメガーヌが微笑んで頷いた。

「クラナ君はね、無色の魔力って言う、彼固有の魔力を持ってるの。これについて、ノーヴェちゃん達から何か聞いてる?」
そう言ったメガーヌに、リオとコロナは少し思い出すように頭を捻る。

「えーっと、確か、凄く体への負担が少ない魔力で……」
「クラナ先輩は、その魔力で、特殊な身体強化魔法を可能にしてるんですよね?」
「うん、大正解♪」
楽しげに頷いたメガーヌに、リオとコロナはその場でハイタッチ。楽しそうで何よりである。

「でも、それ以外にも、無色の魔力には幾つかの特性が有る事は聞いたかしら?」
「えっと……」
「そんなに普通の魔力と違うんですか?」
「えぇ。かなりね。先ず無色の魔力の特徴として上がるのは……魔力結合能力の低さかしら」
少し考えてから言ったメガーヌの発言に、セインが首を捻った。

「まりょくけつごー?」
明らかに分かって居ない体で話している彼女にメガーヌは苦笑する。

「其処からなのね……それじゃあ……コロナ先生?ご説明してもらえる?」
「へ!?は、はいっ!」
「おー、頼むぞコロナ先生!!」
突然指名された成果驚いたように立ち上がったコロナを、セインがはやし立てる。と言うかお前は年上、と言うか大人だろうと突っ込みたくなる。聖王協会シスターの学力がヤバいぞ大丈夫か。速くこの駄目シスターを連れて行ってくれシスターシャッハ。

「え、えっと、魔力結合と言うのは。簡単に言うと魔力を魔法として発動させる絶対条件とも言える魔導物理現象です。魔力は、それ単体ではただ魔力としてしか存在できません。なので、魔力を魔力結合させて物理現象に干渉出来るようにすることで、魔導師は魔法を使います。逆に言うと、魔力は魔力結合させない限り一切の物理現象に干渉出来ません。ちなみに、この性質を利用して外部干渉で魔力結合を強制的に解く事で魔法を使用出来ない領域を作りだすのが、AAA級の防御魔法。AMFです」
「はい!お見事よ。セイン、分かったかしら?」
「ん~、よくわかんないけど、とりあえず魔力結合をしないと魔法を発動出来ないってのは分かった。後なんでガジェットがあんな警戒されてたのかも」
「あ、あははは……」
「ま、まあ、それだけわかれば今は充分ね。それじゃあ、此処からが、大切な所。無色の魔力の話に戻りましょう」
「って、さっき確か魔力結合能力が低いって……」
「つまり……」
メガーヌの言葉に、顔を見合わせたリオとコロナの隣で、セインが「あっ」と声を上げ、手をポンッと叩いて言った。

「つまり、クラナは魔法使えない!?」
「「えっ!?」」
「あ、いや、でも今使ってるし……うーん?」
セインの言葉に一瞬驚いたように反応した少女二人だったが、発言した本人が頭を捻ってうんうん言い始めた事で「がくっ」と肩を落とす。
そんな三人に柔らかく微笑みつつ、メガーヌは再び解説を始めた。

「セインの考えは、全部間違って居る訳じゃないわ。……ううん寧ろ半分位は合ってるわね」
「お!マジですか!?」
言うが早いがなはははと笑うセインにニコニコと笑いつつ、メガーヌは続ける。

「とは言え、より正確にはやっぱり違うの。正確には、無色の魔力による魔力結合は、空気中では一秒しか保たないのよ」
「い、一秒ですか!?」
驚いたように言ったコロナに微笑みながらメガーヌは返した

「えぇ。だからクラナ君は射撃魔法や砲撃魔法、通常の身体強化魔法、後は、空中に足場を作るタイプの移動系魔法も使えない。魔法陣をしばらく維持しなければいけないタイプの魔法もね。魔力を空気中に放出した途端、それらがすぐに魔力結合を解いてしまうのよ」
「え、で、でも!!」
と、其処に焦ったようにリオが言葉を差し込んだ。

「さっき先輩は紅蓮拳を……」
「そうね。その仕掛けが、今彼がしている、吸収放射なのよ」
微笑んでリオに頷きながら、メガーヌは続ける。

「吸収放射の魔法については知ってる?」
「文字通り……相手の放った射砲撃を魔力丸ごと一旦吸収して……そのままの威力で返す、反射防御(リフレクト)の一種、ですよね?」
「そうね。コロナちゃんは本当に博識ね~」
よしよし。と頭を撫でてやるメガーヌの手の下で、コロナは「えへへ……」と目を細める。なんとも眼福だ。特にコロナが。

「さて、さっきも言った通り、クラナ君の射砲撃に対するメインの防御手段は、この吸収放射なの。通常の物理防御魔法も展開できない訳じゃないそうなんだけど、魔力を放出しつづけていなくちゃいけないから、消費魔力がとんでもないそうよ?じゃあ、リオちゃん、今のコロナちゃんの説明してくれた事の中で、少しおかしいと思う所、無かったかしら?」
「え?えっと……」
少し考えこむようにしてリオは一瞬俯く。しかしすぐにその顔は上がった。

「クラナ先輩の紅蓮拳、全然そのままじゃなかったと思うんですけど……」
「そう、クラナ君の吸収放射は、他の人のそれとはちょっとちがうのね。それが……」
そう言うと、メガーヌは画面に視線を戻す。
其処に、砲撃をぶつけ合うなのはとクラナの姿が有った。ただし……

────

さて、それでは少し時間を戻しつつ、メガーヌさんの解説を引き継ぐとしよう。

[Absorb]
吸収の名を持つこの魔法は文字通り、吸収放射の第一段階として行う魔法だ。手の平から展開された目に見えない魔法陣に、なのはの放った魔法が一挙に吸収される。と同時に、アルの声。

[Energy copy……complete……standby]
「うんっ……」
砲撃を終えてそのまま突撃しようと正面を見る。が、既に其処になのはの姿は無い。
吸収放射の仕組みは既になのはにも知られている。警戒して移動したのだろう。

[相棒!三時方向、来ます!]
「っ!」
アルの言葉に即座に反応し、魔力チャージと同時に左手を開いて前に。右手を引いて構える。

「「ディバイン……!」」
クラナの左の掌と、なのはの持つレイジング・ハートの切っ先に、“全く同じ色”を下桃色の魔力級が収束する。
次の瞬間……

[Divine Buster]
[Discharge]
「「バスター!!!」」
それらが同時に発射され、空中で激突した。

「…………!」
「っつぉ……!」
激突する桃色の閃光が、空中で拮抗する。互いに引かぬままそれらは中心部で魔力の不安定な圧縮過多を起こし……
爆発した。

なのは DAMAGE 110 LIFE 2390
クラナ DAMAGE 120 LIFE 2830

[相棒!]
『分かってる!』
即座にクラナは脚の裏で魔力爆発を起こさせ、推進力を発生させてウイングロード上をなのはに近い方のレーンに跳び移る。一瞬でも、この程度の魔法で有れば特に問題なく移動用として使う事が出来るのは、クラナが長い事魔法の瞬間展開と発動を練習してきたからなのだが、まぁそれについては良い。

さて、解説を引き継ぐと言った以上、此処で先程の吸収放射について説明しておこう。少しお時間をいただきたい。

先ず、クラナの吸収放射だが、もしこれを本職の吸収放射の使い手がみたならば、「あれは吸収放射では無い」と断言しただろう。
何故なら吸収放射は本来自身が吸収した魔法と同一の魔法を相手にそのまま返す者であり、吸収した以上の威力を持つ魔法は打ち出す事が出来ない筈だからだ。

しかし、クラナは本来チャージ無しの高速砲であるフォトンスマッシャーを吸収しておきながら、なのはのチャージ砲撃であるディバインバスターを相殺して見せた。寧ろそれどころか、クラナ自身もディバインバスターを使用したのだ。

これは寧ろ普通に見ればクラナ自身が個人でディバインバスターを使用出来るのだと考える方がよほど自然だと思う魔導師も居るだろう程に、一般的な吸収放射と言う魔法からはかけ離れた魔法である。
しかし、そもそもクラナが自身の力で砲撃をするなど不可能だし、先程のディバインバスターはクラナもなのはと同じ魔力光で発射していたのだ。その点で見れば、あれは吸収放射であると考えた方が自然だった。

さて、それではそろそろ結論を述べておこう。あの砲撃が吸収放射であるか否か。答えはYES。あの魔法は、確かに吸収放射である。
ただし、其処にクラナ流のアレンジを咥えては有る。そのための要素は勿論、無色の魔力だ。

無色の魔力が持つ三つ目の特性。それは、魔力性質のコピーである。
詰まる所、クラナは他人の生成した魔力に触れると、その魔力の性質と自分の魔力の性質をほぼ同一のものにする事が出来るのだ。
例えば先程のようになのはの砲撃を吸収によって体内に取り入れると、体内でなのはの魔力と自分の魔力を接触させ、そのまま無色の魔力になのはの魔力の性質を複製させる事が出来る。

ちなみに、触れた魔力が既に性質変換された魔力で有れば、その変換ごとコピーする事が可能だ。これは恐らく先程炎熱変換をコピーした例を見ればわかるだろう。

そしてこの能力の最も高い利点が、その魔力を使って自分自身の技術で魔法を打ち出す事が出来ると言う点である。
詰まる所、例えば先程のようにフォトンスマッシャーをディバインバスターに変換して放つ事や、あるいはクラナが出来さえすれば、アクセルシューターや、その他の射撃魔法を行う事も出来る。
逆に、通常の吸収放射と同じように相手がはなってきたのと同じ魔法を、自身の魔力を使って魔力量だけは相手の物より多くして返す。等と言う事も可能だ。尚、先程リオが喰らった紅蓮拳は、これに当たる。

詰まる所、他人が居れば、クラナは射砲撃も出来る訳だ。

さて、それでは戦闘に視点を戻そう。

空中移動から一気になのはに接近したクラナは、そのまま大きめの動作の拳を叩きつける。が……それをなのはは当然のようにレイジング・ハートの柄の部分で受ける。

『アルッ!』
[Acceleration]
先程使用した二つ分の魔力から、三つ分へと制御が切り替わり、クラナの思考と行動のスピードが更に加速する。

「───ッ!!」
「っ……!」
自身の間合いに入った所で攻め切らんとばかりに打撃の乱打が始まる。なのはは持ち前の反射神経と対応力、豊富な戦闘経験からくる直感で次々にそれらの拳を受け止め捌いて見せるが、並みの上級格闘戦技使い相手で有ればともかく、クラナを相手にそれをする事は常識的に見ればいくらなのはといえども少々荷が勝っていると言えた。
何しろ通常の移動では無く高速近接格闘戦をさせたならば四つ目の時点でフェイトにすら匹敵するかそれ以上の能力を持つ少年である。元来中遠距離専門のなのはでは、近接で長時間捌ききる事は難しい。が……

『だから何でこの人それでも防げるの!?』
『まぁ、《エース・オブ・エース》ですから……』
「っと!!」
それでもなお、なのははクラナの拳を後退しつつ十発近く防いで見せていた。

「(凄く正確で堅実な拳……土台がしっかり固まってる上に、ちゃんと磨いて在るのが分かる……)」
拳を受けながらも、なのはは彼女特有の教導官としての眼は、クラナの事を冷静に分析していた。
昨日の夜、フェイトに言われた。

『明日、もしクラナと戦う時が有ったらね、きっとなのは、びっくりすると思う』
「(うん……本当……)」
ずっと前には……いや、本当は、まだ四年しかたっていないが、もう遠くなってしまった日々の中では、なのはもフェイトも、今よりずっとクラナの事を知って居た気がする。
勉強を隣で教えて、魔法を一緒に使って、格闘術の練習をしていた少年を、笑顔で応援していた。

けれど、少年との距離はあの時から遥かに遠くなってしまって、今はもう、クラナの力は愚か、何を思っているのかすらわからない。

だから、いつの間にか自分が知る少年から、遥かかけ離れた力を持った目の前の少年を見た時、驚くと同時に、なのはの中には疑問が生まれた

「(どうして……)」
ほんの少しの……けれどきっと大切な、疑問が。


────

何度も何度も、クラナの拳は防がれる。高速格闘による押し切りを信条としているクラナにしてみると、射砲撃中心の魔導師に此処まで防がれるのは軽くへこむレベルの話なのだが、まぁそれは良い。
とは言え、全て防がれるのではお話にならない。打ち込みが九発目に達した時点で流石にクラナの拳もなのはの防御を抜け、レイジングハートを弾く。そのままなのはの顔面直撃コースで右の拳が……

「っ!!?」
[相棒!?]
届く寸前で、クラナはなのはから全力で拳を引き、その場から飛びのいた。
拳をなのはにぶつけようとした瞬間、なのはの眼が少しだけ見えたのだが……

「あれ!?ばれちゃった!?」
「(あっぶなぁぁぁっ!?)」
その瞳が、明らかに何かを狙っている顔をしていたのだ。具体的に言うと、クラナの拳の動きを注意深く観察し、まるで何かタイミングを合わせるかのように。だ。それを見て、加速していた思考速度の中で反射的に思い出した事が有った。
ずっと前に、スバルが何処かで言っていた言葉。

『えーん!なのはさんのあれ反則だよぉ、攻撃に夢中になったら躱せないよ~!聞いてる?ティ~ア~』
『あぁ、もう煩い!』
と、これだけだと全く参考にならないのだが、“あれ”が何であるか分かっていると話は別だ。
アレと言うのは、スバルに曰く、「なのはさんの近接封じ必勝パターン」で、その名も拘束盾《バインディング・シールド》。任意のタイミングで発動し、展開すると言う点に置いてのみでは通常のシールド系魔法と同一だが、違う点が二つある。
一つは、命中した攻撃を「噛む」と言う特性が有る事。これによって、一瞬攻撃の動きを停止させる事が出来る。これが第一段階。
二つ目は更にシールドからなのはお得意の「激堅」のチェーンバインドが飛び出し、相手の武器ないし拳を完全に拘束してしまう事だ。

これが近接格闘技者にとってどれほど脅威であるかは、言うまでもあるまい。しかも仮に掴まってしまえば、あとは桃色の光が自身を飲み込むのみである。

そして案の定、跳び退ったクラナの視線の先には、クラナの放とうとしていた拳のコース上に、小さなシールドを展開しているなのはの姿が有った。
顔は若干驚き顔だが、こっちは冷や汗全開である。

「にゃはは、残念。でもっ!」
「っ!(くそっ!)」
そう言って、なのはは悪戯っぽく笑った。表情こそ可愛らしい限りだが、向けられた相手にとっては悪魔の微笑み以外の何物でもない。
拘束盾を躱しても、戦闘は其処では終わらないのだ。と言うか寧ろなのはとしては此方が本命だ。躱した先に行き成り地面から大量チェーンバインドが現れ、クラナを拘束しようとする。ちなみに其処は、先程までなのはが立っていた場所だ。恐らく事前に設置しておいたのだろう。

「(誘導されてる……!なにが「ばれちゃった」だよ!元々織り込み済みじゃないか!)」
内心で我が母ながら人が悪いと悪態をつきながら、クラナはそれらを左に飛んで全力で回避しようとする。加速魔法によって機動力の上がっていたクラナは後手で在りながら何とかバインドの中心からは逃れる事に成功するが……

「くっ……!」
右手が逃れきれずに掴まり、クラナの動きが止まった。
その間に既になのはは次の動作に入っている。マガジンからカートリッジを二発ロード。使用魔力量を瞬間的に一気に引き上げ、再び桃色の光が杖の先に収束する。

『あぁもうっ!アル、カウントして!返すよ!』
[Roger!]
「エクセリオン──ッ!!」
アルとクラナが短い会話を交わし、クラナが構えた瞬間、それは発射される。

「──バスター!!」
[2、1、今です!!]
「アンチェイン・ナックル!!!」
放たれた桃色の光は勿論クラナへの直撃コースだ、対して、クラナは左拳を軽く前に出して大きく踏み込むような構えから……右の拳を、一気に突き出した。
クラナの右拳は、なのはのバインドを一瞬で砕け散らせながら直進、エクセリオンバスターにぶち当たると……その砲撃を“丸ごと粉砕した”。

「……!!」
「(っし!)」
収まり切らなかった威力の余波が砲撃を突きぬけてなのはにぶち当たり、なのはの顔が今度こそ本気の驚愕に染まるのをみて、クラナは内心でガッツポーズをかました

なのは DAMAGE 700 LIFE 1690

アンチェイン・ナックル
脚先から作りだした回転の力を、下半身から腰を使って上半身に伝える事で、巨大な威力を作りだして放つ、言ってしまえば“唯のパンチ”だ。
ただし、唯拳と侮るなかれ。その拳に乗っている力は凄まじい。

以前、“水切り”の際に説明した事を覚えているだろうか?
あそこで説明したのは、水の抵抗に対する拳の力のロスの少ない打ち出し方を主としていたが、敢えて今は、最後の「インパクト時に撃ち出す筋力“等”から生まれる威力が、前方に進むベクトルを自然と増幅し、総合的な威力を上げてくれる」と言う文章を思い出して欲しい。

水切りの際、最後に水を大きく切るのは、言うまでもなくこの時に説明した所謂「総合的な威力」だ。
水の中で伝える方法の説明をしたのが、拳の力と言うベクトルの推進力ならば、此方はその力そのものの大きさ。そしてそれを作りだすのが、打ち出す筋力“等”な訳だが……先にお詫びしよう。実はこの時、作者はこの“等”に集約された非常に重要な説明を省いた。
それが、今回のアンチェイン・ナックルの仕組み。回転による力だ。

脚先から生まれた回転の力は、初めは小さな力では有るが、下半身から上半身へと、徐々に体全体をつかって伝えていく過程でかなり大きな力となる。
それによって生まれた威力を、水中でやった踏み込み方も織り込んだ上で拳を押しだすことでロスなく拳に乗せるのが、この技の神髄だ。具体的な威力は説明しずらいが……何しろ、“水中”でやって、河を割ったのである。
水の抵抗の無い地上でそれを放った時の威力など、言うまでもあるまい。

さて、喰らったなのははと言うと、その威力に素直に驚いていた。

『凄い……!』
『えぇ。大したものです』
拳の威力でバインドを砕いたどころか、そのままそのエネルギーを砲撃をぶち抜いて此方に貫通させてきた。
アンチェイン・ナックルの存在と理論自体はなのはも知ってはいたが、まさかここまでの威力が有るとは思っていなかった。そして同時に……

『どうやら、貴女の息子さんは、想像以上の成長を遂げているようです』
『うん……』
長年の愛機が発した、普段より何処か嬉しそうに聞こえる言葉に、なのははコクリと頷く。
そして同時に、胸の中に、再び沸き起こる、疑問……

「(どうして……)」
実際、大したものだ。あれほどの威力と貫通力のある拳は、スバルでもそうそう撃ってくる事は無い。恐らくは、集中的に取り組んだ課題の一つだったのではないだろうか?
いや、きっと、アンチェイン・ナックルだけでは無い。

闘うための術を得るために、クラナはずっと努力してきたのだろう。ずっと、自分を鍛えていたのだろう。ずっと、自分を甘やかさずに居たのだろう。
この四年間の中で、クラナが変わった事は、戦い合えば戦い合うほどに伝わってきた。努力と経験が、彼の技を、魔法を、力を支えているのが分かる。
けれど分からない。どうして、こんなにも……

「(君は、どうして、そんなに……)」
どうして、こんなにも彼は強くなったのだろう?
それを、なのはは知らない。

少年としての憧れ?
純粋な欲望?
競技者になりたくて?
何かの目標のため?
何かをつかむため?
それとも……

「(……っ駄目。そんな事ない……)」
自分の中に生まれた暗い想像(イメージ)を打ち伏せて、もう一度、真剣な表情で自分に向けて拳を振るうクラナの顔を見る。

「(信じるって……決めたもんね?)」
返事はない。それで良い。
ただ、今はようやく訪れた、彼と向き合う機会に感謝しよう。そう考えなおして、なのはは再び、愛機を構えた。

────

それとも……ミンナヘノ、フクシュウノタメ?

────

「はっ!」
「っ!!」
[Absorb]
しかし実時間に直せば驚いたのも一瞬。即座に次弾をぶち込んで来るなのはの選択は先程と同じく高速砲(フォトンスマッシャー)だ。それを、再び展開させた見えない魔法陣で受け止めつつ。即座に上を向く。

「(でかっ!?)」
其処に、空中に飛び上がったなのはの姿が有った。既に自身の周囲に恐らく先程の高速砲と同時に展開したのだろう魔力球を展開しており、準備万端と言った所だ。
しかし真に恐るべきは其処ではない。彼女に対して現在収束している魔力が……クラナの言う通り。眼には見えないが、先程のエクセリオン・バスター以上に大きかった。

「(普通に受けても無理だ……!)アル!カートリッジロード!!」
[Load cartridge]
即座に、クラナの手鋼に付いた突起から、三つほどカートリッジが排出される。中身は個人特有の性質をもたない純魔力。これで何とか追いつかせるしかない!
既になのはは収束に入っておりクラナも慌てて魔力の収束に入る。

『どうでも良いけど速すぎだろ!』
『専門ですからねぇ……来ます!』
アルの声と共になのはを真っ直ぐに見る。其処に、何処か楽しそうな微笑みを浮かべるなのはの姿が有った。

「行くよ……!クラナ!!」
それは、もしかしたら彼女にとっては無意識に出ていた言葉だったのかもしれない。ようやく正面から向き合っている彼女に息子に対して……それはおかしな形だとは思う。歪であろうとも思う。しかし、それでも……彼女にとってその時間が、今まで目の前の少年と過ごしてきた日々と比べて、楽し過ぎたから、思わず口に出してしまった一言だったのかもしれない。

何気なく出たその言葉が、何かを起こす事など、本来ならば在りはしなかったであろう。それはごくごく普通の、スポーツとしての今の状況を楽しむための気合いとして表れた一言として処理され、彼女はそれを口にした事すら、数秒後には忘れていたかもしれない。

しかしこの場にいて、たった一つ彼女にとってイレギュラーが有った。それは……

「っ……上等です!!」
「……!?」

──それは、今の時間を楽しんでいるのが、彼女だけでは無かった事だ──


それは、笑顔だった。

ほんの、一瞬では有ったけれど、
確かめる暇もないほどの、刹那では有ったけれど、

もう、ずっと昔になってしまった時間の中で、なのはが毎日のように見ていた……ある少年の笑顔だった。


「ストライク・スターズ!!」
「デストラクト・バスター!!」
互いに放った砲撃が激突して辺り一面が桃色の魔力光に包まれた。









──それとも……誰かを……──








「これって、ラストバトルだっけ?」
「まだ中盤の筈だけど……二人とも、熱いわね~」
セインの呆れたような一言に、メガーヌが微笑みながら言った。

「「…………」」
そんな二人の真ん中で、チビッ子二人はポカーンと口を半開きにしてモニターにくぎ付けになっていた。

────

同じころ、別の場所では、ライノが少し遠くで起こった多量の魔力光を見て、ニヤリと笑っていた。

「おぉ、派手にやってんなぁ……さて、ルーお嬢もそろそろ動くかね?そうなるとまぁ……そろそろお前も退場しとくかい?」
「くっ……」
そう軽い調子で言ったライノの視線の先には、バリアジャケットをボロボロにして膝を付く、アインハルトの姿が有った。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか?

今回はなのはとクラナの戦闘でしたが、事実上のなのは回ですねw
彼女の心情や印象、決意などを、からめつつ戦闘を掻いて行くのは結構楽しかったですが、バランスが難しく精進の必要性を感じましたw

特にこの物語のなのはの心情は大人サイドの重要な意味合いを持つ部分なので、少し注意していたりしますw

では予告です。


アル「アルです!いやぁ、今回は実に気持ちが良かったですよ!」

RH「良い戦いでした。アルもクラナさんも、とても成長してらっしゃいましたね」

アル「ありがとうございます!なのはさん達には流石にまだまだ追いつけませんが、精進します!」

RH「さて……あぁ、私も久々にクラナさんの笑顔を拝見しました」

アル「あはは……すみません。でも、良かったです、相棒が笑ってくれて」

RH「これをきっかけに出来ると良いですね。クラナさんにとっても、マスターにとっても」

アル「はい!では、次回、《アルマゲドン!》です!!……え!?最終戦争!?」

RH「是非ご覧ください」 
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