転生とらぶる
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番外編035話 if 真・恋姫無双編 05話
前書き
賈クの「ク」に関しては、機種依存文字なのでカタカナの「ク」とさせて貰います。
諸侯の前で盗賊呼ばわりされた曹操。
本来であれば怒り狂って当然なのだろう。事実、曹操の近くにいる猫耳頭巾を被った少女は、自らの主を盗賊呼ばわりしたアクセルを睨み付けている。
その様子は、一見したところでは武官ではなく文官であるにも関わらず、殺気すら込められているのを考えれば明らかだろう。
周囲にいる者達からも、疑惑……とまではいかないが、この2人の間に一体何があったんだ? と言わんばかりの視線を向けられ、曹操は一瞬だけ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたものの、すぐに口を開く。
「あの時は私の部下が失礼したわね。謝罪させて貰うわ。けど、私は決して黄巾党のような行動をしようとは思っていなかったの」
「……自分の部下すらも禄に押さえられず、暴走させる程度の力しか持ってないのは分かった。それに……」
そこまで告げ、更に何かを口にしそうになったアクセルだったが、それを止めたのは共にこの天幕までやってきた冥琳だった。
「アクセル、いい加減にしろ。私達は袁術の代理としてやってきているんだ。この場で問題を起こすのは不味い。袁術に付け入られる隙を与える事になる」
「えー……これから面白くなるところなのに」
冥琳の言葉に雪蓮が不服そうに告げるが、親友からの鋭い視線を向けられればそれ以上は何を言うでもなく誤魔化すかのように笑い、天幕の中にいる諸侯へと向かって口を開く。
「ま、とにかく2人の間の話はそれくらいにして、黄巾党に関しての話を進めましょ」
「……そうね。確かにこの件はあくまでも私と彼の間の出来事よ。軍議の場で話すような内容じゃないわね」
雪蓮の言葉に調子を合わせるようにして曹操が告げると、本人達がそう判断しているのだから……と天幕の中にいた者達も黄巾党にどう対処するかの話に戻っていく。
そんな中、相変わらず猫耳頭巾の少女はアクセルに向けて殺気の籠もった視線を送っており、そちらにアクセルが視線を向けると、目が合った瞬間、汚らわしいものでも見たとばかりに不愉快そうに眉を顰めて視線を逸らす。
(曹操陣営……というか魏、本当に大丈夫か? 人材不足どころか、部下が曹操の足を引っ張っているようにしか見えないぞ)
曹操の醜聞に近いものがアクセルの口から出た事により、周囲の曹操へと向ける視線はどこか意味ありげなものとなっている。
それも当然だろう。曹操は宦官の孫でありながらも有能な人物として有名であり、実際に陳留を立派に治めるという実績も残しているだ。
その性格から苦々しく思っている者も多い中での、盗賊呼ばわり。それも本人がそれを否定するどころか謝罪をするというのを見せられては、色々と思うところのある者も多い。
「さて、黄巾党の数は20万人以上。これをどうするか、だが」
「賊如き、正面から堂々と挑めばよい。すぐにでも逃げていくだろうよ」
「馬鹿を言うな、馬鹿を。確かにそれでも負けるとは思えないが、こちらにも大きな被害が出るのは間違いないぞ」
「それは確かに。では、どうやって攻める? こうして陣を張ったのはいいが、無駄に時間を掛ければ糧食の類が足りなくなる」
「それはそちらの都合だろう。そもそも糧食が足りないというのは、軍を率いる者としてどうなのだ? もしや、懐に入れたのではあるまいな」
「儂を侮辱するか!」
「侮辱されるような行動を取っているのだから、当然であろう? 全く、どこぞの盗賊と呼ばれた者と同じような事をしおって」
諸侯の会話を聞いていた曹操が、会話の中で自分を当てこするようにして出てきた内容に眉をピクリと動かす。
だが、それでもここで口を出さずに沈黙を保ったままなのは、やはり現在の自分の状況をよく理解しているからこそだろう。
……もっとも、例によって例の如く猫耳頭巾を被った少女は、曹操に当てこするような事を口にした相手を睨み付けていたが。
「いい加減にしなさい!」
そんな中、天幕の中に鋭い声が響き渡る。
その声の主へと皆の視線が集まるが、そこにいたのは小柄で眼鏡を掛けた少女。
その小柄な身体には似合わない鋭い視線で、軍議に参加している者達を睨み据えている。
「さっきから聞いていれば愚にも付かないような事をグチグチと……今、話す必要があるのは、どうやったら黄巾党を倒せるかでしょう?」
そう告げ、胸を張る少女。
その迫力に、つい先程まではお互いに腹の内を探るかのような会話をしていた諸侯はどこか気まずげに視線を逸らす。
そんな様子の諸侯を一瞥した少女は、小さく溜息を吐いてその視線を雪蓮達の方に向けて口を開く。
「一応挨拶しておこうかしら。僕は賈ク。何進大将軍からの要請で官軍の指揮を執っているわ」
官軍の指揮、と聞いて雪蓮が拱手をしながら頭を下げ、口を開く。
「挨拶が遅れまして申し訳ありません。私は荊州太守の袁術殿より派遣されました、孫策と申します。こちらは私の部下でもある周瑜と、客将のアクセル・アルマー」
そんな礼を取る雪蓮に合わせるように、冥琳とアクセルも同じように拱手をする。
だが天幕の中にいた者達は、アクセルの名前が紹介された時に微妙な表情を浮かべていた。
それも無理はないだろう。この中華の地では異質の響きを持った名前なのだから。
また、先程曹操を相手に盗賊呼ばわりや見た事もない服装であるのも手伝い、天幕の中にいた者達の視線を一身に浴びている。
しかし、アクセルはそんな視線など全く興味がないとばかりに飄々とした態度を示しており、寧ろ自分に視線を向けている相手を観察するような余裕すらも持っていた。
てっきり劉備陣営もいるのかと思っていたのだが、この場にはいないらしいと知り安堵の息を吐く。
ここで更に関羽辺りに揉めごとを起こされては堪らないという思いからだ。
「アクセル・アルマー? この辺では全く聞き覚えがない響きの名前ね。それに、着ている服も僕達とは随分と違うようだけど」
「はい。この者は異国からの旅人であり、それを私が客将として受け入れました。……その、曹操殿とは以前に何かあったようですが」
「……そう。名前から考えても五胡の者ではないようだし、一先ずはよしとしましょう。さて、それぞれの紹介はこれでいいわね。黄巾党に対する策だけど……」
そう告げ、黄巾党に対する方策を話し合っていくが、向こうの実質的な戦力や士気の高さ、あるいは物資の残量といったものが殆ど不明である為、一当てしてみるということに話が決まった。
ただし、その一当てをどの軍が行うのかということでまた話が揉め始めた為、結局は賈クの一声により全ての軍から一部隊を派遣するという事に話は決まる。
軍議が終わり、それぞれが自らの軍へと戻っていく中、雪蓮達3人も呉の陣営に戻ろうとしたのだが、そこに背後から声を掛けられる。
「アクセル・アルマー。ちょっといいかしら?」
その声の持ち主は、曹操。珍しく1人であり、軍議の中でもアクセルに対して殺気を込めた視線を向けていた猫耳頭巾の少女の姿はない。
「雪蓮?」
一応という事で視線で尋ねると、雪蓮は面白そうな笑みを口元に浮かべながら小さく頷く。
何か騒動が起きるのではないか。そんな思いが透けて見えてはいたが、それでもアクセルは特に何を言うでもなく曹操の方へと歩いて行く。
「何か用か? 一応これからの事で色々と忙しいんだがな」
「ええ。改めてこの前の事を謝っておこうと思って。……ごめんなさい、あの時は春蘭が迷惑を掛けたわね」
ペコリ、と頭を下げる曹操。
もしもこの様子を曹操の部下達が見ていたとしたら、まず間違いなく驚愕していただろう。それ程に曹操が自らの非を認め、謝罪をするという事は珍しかったのだから。
「……許してあげたら? 別にアクセルだって、そこまで根に持っている訳じゃないんでしょ?」
側で聞いていた雪蓮からの言葉に、チラリとアクセルは視線を向ける。
面白そうな……というよりは、獲物を見つけた肉食獣の如き笑みを浮かべた雪蓮は、曹操の方を見ながら言葉を紡ぐ。
「曹操っていったら、やり手の勅史って事で有名じゃない。ここで貸しを作っておく方がきっと後々得よ?」
「……得、か」
確かにアクセルの頼りない知識によれば、曹操というのは非常に有能であり、将来的には魏という国の王にもなる人物だ。そんな相手に貸しを作っておくのは、呉という国を再建しようと考えている雪蓮にとっては大きな利益となるのは間違いないだろう。
そこまで考え、自分が呉……というよりも、雪蓮や冥琳、祭、穏といった者達に対して力を貸す事を本気で考えている事に気が付く。
(ま、どのみちレモン達が迎えにくるまでは俺としてもやる事がないしな。それまでの間身を寄せるんなら、相応の助力をした方がいいか)
内心でそう考え、一つ頷き曹操の方へと視線を向ける。
「分かった、取りあえず雪蓮の言う通り貸しとしておく。それでいいか?」
「……ええ。正直、貴方達のような相手に借りを作るのはちょっと思うところはあるけど、今回は私が全面的に悪いしね。そうしておいて頂戴」
「アクセルの貸しは高く付くわよ?」
「……別に貴方に対しての借りじゃないんだけどね。ま、いいわ。アクセル・アルマーとか言ったかしら。どうやら貴方達の一員として迎えいられているみたいだし。じゃ、部隊の抽出をしなきゃいけないから、この辺で失礼するわね」
そう告げ、去って行こうとする曹操の背に、アクセルは声を掛ける。
「一応言っておくが、さっきの軍議でお前の側にいた猫耳頭巾の女にも気をつけておいた方がいいぞ。お前を侮辱したのが気にくわなかったのか、俺に殺気混じりの視線を向けてきていたからな。あの時の女と似たような事になる前に対処しておいた方がいい」
「……ええ、ありがと。ご忠告は受け取っておくわ」
そう告げ、一瞬だけアクセルの方に視線を向けて曹操は去って行く。
その胸の内には、大魚を逃したのかもしれない。そんな思いを抱きながら。
「さて、そういう訳で私達からも一部隊を黄巾党との戦いに送らなきゃいけないんだけど……どうする?」
場所は変わって、呉の主な面子が集まっている天幕。その中で雪蓮が自らの親友でもある冥琳の方に視線を向けて尋ねる。
そんな親友からの視線を受けた冥琳は、小さく考えながら口を開く。
「まず雪蓮。貴方は駄目よ」
「えー……ぶーぶー!」
「駄目なものは駄目だ。確かに雪蓮の実力は知ってるけど、私達の旗頭である貴方を、いわば捨て駒に近い部隊に派遣する訳にはいかないわ。同じ理由で、蓮華様とその護衛である思春も却下。穏と私は軍師だから、この場合は却下。そうなると残るのは……」
その場にいる者達の視線が、祭とアクセル、明命の3人へと向けられる。
「……悩みどころだな。3人共実力としては申し分ない。だが、祭殿は我が軍の重鎮という立場でもあるし、アクセルはまだその実力を公にはして欲しくない。明命は基本裏働きをしてもらう人材なのだから、ここで顔を売るのは面白くない」
冥琳のその言葉に、祭やアクセルだけではなく全員が納得の表情を浮かべてしまう。
まず裏働きを主とする明命は、これからの活動を考えれば問答無用で却下だ
そしてアクセルを完全に信頼した訳ではない蓮華や思春にしても、初顔合わせの時のやり取りでアクセルが桁外れの武の力を持っているというのは認めざるを得ない。
特に思春は孫呉の中でも屈指の武力を持つと自他共に認める武将の1人であり、それだけに初対面で呆気なく投げられ、腹部を踏みつけられて動きを止められてしまったというのは衝撃的な出来事だった。
それこそ、悔しさの余りその時の出来事を何度も夢に見てしまう程の。
「思春? どうしたの? 顔が赤いけど……もしかして身体の調子が悪いのかしら?」
顔が赤くなっている思春に、蓮華が声を掛ける。
それに慌てて首を振る思春。
「い、いえ。何でもありません。ただ、その……派遣される部隊に私が選ばれなかったのが残念だな、と」
「そう?」
そんなやり取りを、訳知り顔の笑みを浮かべて眺める雪蓮。
「ま、そういう訳で候補としては結局祭殿とアクセルの2人しか残っていない訳なんだが……」
「うーん、でもアクセルは基本的に部下を用いない、1人だけの部隊でしょ? なら今回の戦いには向かないんじゃないの?」
雪蓮の言葉に皆が頷く中、その言葉を聞いた冥琳が何かを思いついたかのように祭とアクセルへと視線を向ける。
「ふむ、これならばよいか。……雪蓮、部隊の派遣に関しては祭殿に任せようと思う。ただし、一応念の為にアクセルを祭殿の副官として付ける。これでどうだ?」
「ふーん、まぁ、確かにアクセルなら個人の武力としてはこれ以上ないだけの力を持っているし、護衛なら目立たない、か。私はそれでいいと思うけど、2人はどう思うの?」
「うむ、儂は構わんよ」
「俺も構わない」
こうして2人共が承諾し、一当てする部隊は祭とアクセルの2人が出る事になったのだった。
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