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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
第二章 天空の大陸 アルビオン
  トリステインの王女

 
前書き
四月に入ってから激烈に忙しくなりました。何とか暇見つけて書けるよう頑張ります!

やっとこさ第二章、スタートです! 

 

 私は気が付くと、見知らぬ場所にいた。
 見たこともない建物があちこちに並んでいて、これまた見慣れない服装の人たちがたくさん歩いていた。

「どこなの・・・ここ・・・。」



 しばらく歩いてみたけど何も分からない。私の服装や髪の色なんかは周りからすれば明らかに浮いているのに、皆気にも留めない。まるで私が見えていないようで・・・。

「カケル?」

 ふと思い出した。自分の使い魔であり、最近はいつも一緒にいてくれるあの人。私がいるなら、きっとアイツもここに来ているはずだ。探そうと再び歩き出そうとしたその時、

「セイバー!!」

(え・・・?)
 
 男の子が一人、こちらに向かって走ってくる。見た目からして年齢はカケルと同じくらいで赤銅色の髪をしている。それよりも今あの人は何て言った?

「セイバー、見つかったか?」
「いいえ、見当たりません。」

 男の子が駆け寄ったのは一人の女性。金髪碧眼で凛々しい顔をしているが、今は少しだけ焦りを見せながら男の子に答えている。どうやら、セイバーっていうのは彼女のことらしい。

(セイバーって確か、カケルと同じクラスの名前・・・)

 あの人たちなら何か知っているかも、と思い二人に向かって「あの・・・」と声をかけた。しかし反応はない。やはり自分の姿は見えていないらしい。

「一体・・・何が起こっているの・・・?」

 と考え込む私だったが、目の前の男の子からさらに驚きの言葉が聞こえた。

「くそっ!架のヤツ、何処に行っちまったんだ!」
「ええっ!?」

 つい大声を上げてしまったのだけれど、誰にも聞こえていないのだから問題ない。
 それよりも分かったことはここにカケルがいるということと、この人たちはカケルのことを知っているということ。
 まさか、と一つの考えに至る。見知らぬ風景、見知らぬ出で立ちの人たち、そしてカケルを知っている人がいる、これらのことを踏まえると・・・。

「ここは、カケルのいた世界?」

 だとすれば納得がいく。そして今起きていることはカケルが行方不明になっていること。
 と、そこへ新たに一人が合流してきた。黒髪で赤がよく似合う女性だ。

「士郎!セイバー!」
「遠坂、架は?」
「分からない。けどさっき聞いたんだけど、穂群原学園の制服を着た男子が、物凄い勢いで走っていくのを見たって。」

「こっち!」と言って、トオサカと呼ばれた女性は走り出し、シロウとセイバーって人は後に続いた。私も当然後を追う。



 道すがら、通行人に話を聞きながら私たちは一つの高い建物にやってこれた。聞いた人の中の一人がこの建物に少年が入っていくのを見た、と言っていた。
 建物っていうにはボロボロで廃屋に近いわね、これは。
 ゆっくりと歩を進めながら、シロウって人はセイバーって人に聞いた。

「セイバー、分かるか?」
「・・・ええ、微かですが人の気配を感じます。誰かいるのは間違いないでしょう。」
「まあ、人違いの可能性も高いわけだしね。念のためってことで調べて・・・・・」

 トオサカが話していた時だった。


 ――――――――――――!!!!


「っ!?」
「何!?今の!?」

 唐突に聞こえたのは悲鳴のような雄叫びだった。
 それを聞いた瞬間、シロウが廃屋に向かって走り出した。セイバーは何も言わずそれに続く。トオサカは「あ、ちょっと!?」と言いながらやや遅れて走り出した。
 私はというと、シロウとほとんど同じタイミングで駆け出していた。だってあの声はきっと・・・。

「俺はこっちを探す!セイバーは向こうを!」
「はい!」

 私は二手に分かれた内のセイバーの方に付いて行った。向かったのは地下へと続く階段。


 ―――――うああああああ!!

 ―――――来るな! 来るなああああ!!


 今度は純粋な悲鳴。さっきのとは違う人みたいだけど、こっちで正解だったのかも。
 階段を駆け下りて、廊下を進み一番奥に扉があった。そして、セイバーがそれを開け放つと、



 そこには地獄が待っていた。

 いくつも床に転がっている人たち。

 床や壁に飛び散っている血。

 そして、そんな中一人だけ立ちつくしている血まみれの男。


 あまりに悲惨な光景に何も言えない私たちに、やがて男はゆっくりとこちらを振り返った。
 その顔を見た瞬間、私は悲鳴を上げようとして・・・





「・・・・・っ!!」

 ガバッと起き上がると、そこはいつもの私の部屋だった。着ているネグリジェは汗でグッショリと濡れてしまっている。

「夢・・・だったの?」

 いや違う、と言い切れた。最後に見たあの顔、忘れもしない彼と初めて出会った時と全く同じだ。

「要するに、あれって私がカケルを呼び出す直前の出来事ってわけ・・・?」

 ふと横を見てみると、当の本人が藁を敷いた床でスヤスヤと眠っている。とても穏やかな顔、あの時の形相が嘘みたい。
 ここ最近ずっと一緒にいて、彼のことが少しずつ分かってきた、そう思っていたのだが。

「よく考えてみると、知らないことだらけなのよね・・・」

 彼の生い立ちはざっくりとだが聞くことはできた。しかし、彼はなぜ自分のことを『出来損ないの魔術師』と呼ぶのだろうか。そもそも魔術師とは何なのか。以前言っていた『施設』とは何なのか。夢に出てきたあの人たち、特に架と同じセイバーと呼ばれた人は誰なのか。そして、なぜあんなことに・・・。
 考えてみるとキリがない。目の前で眠っている男は得体の知らない要因が多すぎた。



 だから、私は想う・・・



「私はもっと、貴方のことが知りたい。」









 フーケの一件から数日が経った。学院も宝物庫の修理も終わり通常通りの生活に戻っている。
 今日も生徒たちは普通に起きて、普通に朝食をとり、普通に授業を受けていた。そんな中・・・

「・・・・・」

 ルイズはどこか呆けた顔をしていた。いや、別にただボーっとしているわけではなく考え事である。無論、例の夢のことについてである。

(・・・やっぱり聞いてみた方がいいのかしら?ほら、主人として使い魔のことは知っておかないけないわけだし。)

「――――ズ、―――イズ。」

(でも、そう簡単に話してくれるかな。カケルにもそれなり事情がありそうだし・・・そうだわ!相談に乗ってあげる感じでさり気なく聞き出せれば・・・)

「おい、ルイズ。どうした!?」
「ふえっ!?」

 耳元で声をかけられてようやくルイズは我に返った。隣には自分の肩に手を置いた架が、やや心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。と、見れば教室中の生徒や教壇に立つ教師も視線が自分に集中していた。

「ミス・ヴァリエール、私はさっきから君を当てているんだがね・・・」

 教師―――ギトーはルイズをジロリと睨み付けた。どうやらこの空気は、指名されたのにも関わらずルイズが無反応だったために起きたものらしい。
 「も、申し訳ありません!」とルイズは立ち上がり頭を下げて謝罪するが、ギトーはフンと鼻で笑い軽蔑の視線を向けてきた。

「まったく、たかだか盗賊一人を捕らえたぐらいでいい気になりおって。王宮から賛辞をもらったぐらいで英雄気取りかね、んん?」

 聞くのもウンザリするほどの嫌味ったらしい口調と言葉。ルイズは肩を震わし屈辱に耐え、普段彼女を小馬鹿にする生徒たちもギトーに不快な表情をしている。
 フーケを捕らえる際の学院長室の様子を知る者ならば「お前その盗賊一人にビビってたじゃねえか!」と言えるのだが、今回それに当てはまる生徒はキュルケとタバサのみ。しかし、二人は口を挟もうとはしなかった。
 これを聞いて黙っているはずのない人物を知っているからである。

「偉ぶるのはせめて魔法の一つや二つ出来てからにしたまえ。君は所詮「そこまでにしていただきたい、ミスター・ギトー」

 決して大きくないが、ギトーの声を消すほど張りの良い声がだった。ギトーが声の主の方に目を向けると、そこにはルイズの隣に座っている使い魔がいた。

「確かに今回、ルイズの方に落ち度があったのは事実です。しかしそれと魔法のことについては関係ないはず。彼女も反省しているみたいですし、もうその辺で勘弁していただけないだろうか。」

 架の毅然とした態度に気に食わなかったのか、ギトーはやれやれとわざとらしく首を振った。

「ヴァリエール家では使い魔の教育もなっとらんな。使い魔風情が貴族に口出しす・・・」


 ドンッ!!


 ギトーの言葉を今度は大きな音が遮った。何事かとギトーや生徒が目を向けると、架が机に拳を打ち付けた音だった。明らかに痛そうなものだが、当の架は意に介さずゆらりと立ち上がった。

「使い魔風情?使い魔の役目とは主人を守るものだと聞いておりますが。」
「だ、だから何だね?」

 気迫に押されながらも言い返すギトーだったが、そこで架が目を細め怒気を発し、さらに口調を強める。

「主の侮辱をこれ以上聞き逃せないって言ってんのが分からねえのか、ああ?」

「き、貴様!」とギトーが怒りか、それとも架の気迫に押されたのか杖を引き抜いた。数人の女子生徒がきゃあと悲鳴を上げた。ルイズも自分が原因とあって二人の間に割って入ろうとしたが、

「授業中失礼いたしますよ、ギトー殿?」

 意外な人物から声がかかった。この場にふさわしくない少々間の抜けた声。皆が教室のドアに注目すると、そこに立っていたのはコルベールの助手、ヴァロナだった。

「お前か。空気が読めんのか、今はそれどころでは・・・」
「おや、オールド・オスマンからの御達しで来たのですが、授業よりも大事なことがある、と?」

 ニコリと笑いながら問いかけるヴァロナ。学院長の名前が出てくるとなると無下にも出来ず、「いや、まあ、そういうわけでは・・・」と杖を隠しながら言葉を濁すギトー。架も黙って怒気を霧散させ、席に着いた。張りつめていた空気がなくなり、他の生徒もはあ~と安堵の息をもらす。
 「それで、要件とは何だね?」とギトーに言われ、ヴァロナは「え~とですね・・・」と言いながら持っていた用紙を見ながら生徒たちに聞こえるように告げた。

「え~学院長からの通達です。本日の授業は全て中止と致します。」

 その言葉に教室は歓声を上げる者と何故に?と首をかしげる者の二つに分かれた。「話はまだ終わっていませんよ。」とヴァロナが言うと、再び皆耳を傾ける。

「実は、我がトリステインの王女であられるアンリエッタ姫殿下が急遽、本日この学院に訪問されることとなりました。姫殿下を歓迎すべく、各々は直ちに身だしなみを整え正門にて整列すること。以上です。」








「どうした、嬉しそうな顔をして。そんなに授業がなくなるのが良かったのか?」

 「そんなんじゃないわよ。」と突っ込みながらもルイズはどこかご機嫌の様子だった。あまり他人に聞かれたくなかったのか、部屋に入るとようやく「実はね・・・」と切り出した。

「私が幼少の頃、姫様のお遊び相手を務めさせて頂いていたの。」
「遊び相手?要するに幼馴染ってことか。」
「まあそういうことね。もう何年も会っていないけど、覚えて頂いているのかしら。」

 ニコニコ顔で言うルイズに架もつい頬を緩ませる。と突然ルイズは「あ、そういえば。」と何かを思い出したかのように架の方を向いた。

「あ、ありがとね。」
「ん?」
「さっきのことよ。その、私を庇ってくれて。」
「ああ、あれか。気にするな、俺もあいつが気に食わなかったし。」
「でもあそこまで怒るなんて。貴方も他の人たちから避けられちゃうわよ。」
「何だ、心配してくれるのか?」

 ニヤリとしながら言う架にルイズは「ち、違うわよ!」と顔を赤くしながら反論する。その反応に架は「冗談だ。」と笑いながらルイズを落ち着かせるために頭を撫でる。それでルイズの鼓動は増々落ち着かなくなるのだが、残念ながら架は気付いちゃいない。

「あれぐらい脅しをかけた方がもう何も言ってこないだろ。それに、」

 架はまるで妹を想う兄の様に言うのであった。

「周りが俺をどう言おうが、俺には全くもってどうでもいいことだからな。」








「トリステイン王国、王女アンリエッタ姫殿下のおな~~り~~!!」

 正門より現れたのは豪華な馬車が二台。そして王室直属の近衛騎士や魔法衛士が数名、その馬車を守るように固めている。馬車のうち一台は豪華に装飾され幻獣であるユニコーンが引いている。乗っている人物が如何に高貴な方であるかを物語っていた。
 馬車が止まり扉が開くと、まずは老人―――枢機卿であるマザリーニが現れた。彼は馬車の横に立つと、続いて降りてくる人に手を差し出した。
 マザリーニの手を取って現れた人物に生徒から歓声が沸く。ニコリと薔薇のような美しい微笑みを周囲に振りまくこの人こそ、アンリエッタ王女であった。

「あれがトリステインの王女?私の方が美人じゃない。ねえダーリン。」
「キュルケ!何さり気なくカケルの腕に抱き着いているのよ!」
「仕方がないでしょ、狭いんだもの。」

 こんな場所でも言い争いをしているルイズとキュルケ。いつもなら止めに入るのは架の役目なのだが、今の架は周囲に手を振るアンリエッタをジッと見ていた。

―――似ている?いや、アイツはあんな風に笑わないし・・・。でもどことなく・・・やはり同じ―――

 とそこまで考えていると、

「ちょっと、どこ見てるのよダーリン!」
「な~に姫様にウットリしてるのよアンタは!」

 こちらの様子に気づいた二人が左右から同時に肘鉄をかまされ、危うく意識が飛びそうになった。

 べ、別にウットリはしていない・・・、という架の想いは痛みで声に出すことは出来なかった。








「だから見とれてたわけじゃないって言ってるだろ。」
「嘘つき!ジッと見ていたじゃない!」
「『見てた』と『見とれてた』は違うだろうが。」

 アンリエッタ姫が学院を訪問した夜。ルイズと架はもういい時間なのにも関わらず言い争いをしていた。と言っても、ルイズ一人が癇癪起こし、架は冷静に受け流しているだけだが。

「じゃあ、何であんなに見ていたわけ?」
「何で・・・と言われてもな。」

 聞かれた架は、どこか懐かしそうな顔をして呟いた。

「知り合いに、似ているような気がしてな。」
「え・・・架の知り合い?」
「ああ。強くて、どこまでも真っ直ぐな、そういう女だった。」

 架の脳裏に描かれるのは、親友と共に戦う一人の王の姿。果たしてそれが姫殿下と似ているのか、架の言う『彼女』が誰かを知らないルイズには分からない。ただルイズにはそれよりも気になっていた。架がその人の話をする顔が少し嬉しそうだったのが。
 だから無意識に口に出してしまった。

「もしかして・・・その人のこと、好きなの?」
「・・・え?」

 ポカンとする架であったが、言ったルイズの方が驚いていた。自分は何故そんなことを彼に聞くのだろう。ただ、架が他の女性のことを嬉しそうに語るのは何か嫌だった。
 暫く考えていた架はやがて首を横に振った。

「いや、それは分からない。ただ・・・」
「ただ?」
「そうだな。・・・・・憧れてはいたよ。」

 その言葉にルイズは黙って俯いた。まただ。何だろう、胸がモヤモヤする。どうして?別に架が誰のことを話そうと私には関係ないのに・・・。

「・・・どうした、ルイズ。さっきの授業といい今といい、何か悩み事でもあるのか?」

 こちらの様子を見て気になったのだろう。架が心配そうな声で尋ねてくる。先ほど授業中では悩み相談がてらに聞き出そうとしたのだが、これでは逆である。しかしいい機会である。この際はっきりと聞いてしまおう。

「あ、あのね、架。実は・・・」


 コンコンッ


 突然、ドアがノックされた。唐突だったため二人は同時にビクッとしたが、架がすぐに持ち直し「俺が出る。」と言ってドアの方に向かった。
 「こんな時間に誰かしら。」と呟くルイズ。しかも最悪ともいえるタイミングだったためその顔はややご立腹である。
 架がドアを少し開けた瞬間、その人は滑り込むように部屋に入ってきた。漆黒の頭巾をかぶっており、顔がよく見えない。

「だ、誰!?」

 誰とも知らぬ来客に思わずルイズ。が、来客はそれを意に介さず同じく黒いマントから杖を取り出すとそれを振るった。

「ディテクトマジック・・・。」

 魔力を探知するための魔法である。部屋全体を見て何も反応がないことを確認すると

「突然申し訳ありません。どこで誰が聞いているか分かりませんから。」

 その声にルイズと架ははっとする。その透き通るような声は数時間前に聞いたばかりだ。

「久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ!」

 フードを脱いで顔が露わになったその人物は、トリステイン王国の姫君アンリエッタその人だった。

「ひ、姫様!?」

 相手の正体に気付いたルイズは慌てて膝をつく。それをアンリエッタは悲しそうな表情で咎めた。

「ああルイズ、そんなにかしこまらないで!私たちは幼馴染でしょう!」
「もったいないお言葉でございます、姫様。」

 その後、二人はしばらく幼い頃の思い出話で盛り上がっていた。その時のアンリエッタは一国の姫君ではなく、何でもない年頃の一人の少女だった。少なくとも眺めている架にはそう思った。
 そうしていると、ふとアンリエッタと目が合った。

「そういえば、こちらの方はどなたなのですか?」
「ええと・・・私の使い魔でございます、姫様。」
「使い、魔?」

 一瞬、架のことをどう言ったものか逡巡するルイズであったが、忠誠を誓う姫様に嘘を教えるわけにもいかず正直に話す。キョトンとした顔で目をぱちくりさせているアンリエッタに架は一礼して名乗った。

「ルイズ・フランソワーズの使い魔をしております、影沢架と申します。」
「・・・ああ、貴方が。」
「?姫様、カケルをご存じなのですか?」
「ええ。あの土くれのフーケを追い詰めたという・・・。」

 そういえば、と架は思い出していた。オールド・オスマンは破壊の杖を取り戻した件を王宮に報告する際、ルイズの使い魔の働きが大きいということも伝えていたのだった。

「王宮の貴族は『使い魔がトライアングルクラスのメイジを倒せるわけがない』と信じられない貴族も少なくないのです。私も最初は耳を疑ってしまいました。」

 でも、とアンリエッタはルイズに向き直って言った。

「貴女の名前を聞いた時、信じることにしたんです。私の大切なお友達のルイズなら、そんな嘘をつくはずがない、きっとそんな素晴らしい使い魔を呼び出すことも出来るはずだ、って。」
「姫様・・・。」

 アンリエッタの言葉にルイズは感激したように瞳をウルウルさせていた。架が「良かったな。」と視線を送ると、照れたような笑みを浮かべた。



 が、平和な話もここまでだった。アンリエッタがわざわざ護衛の目を盗んでまでルイズの元へやってきたのは、ある重要な用件があったためだ。
 「席を外しますか?」と架が気を利かせて申し出たが、「主人と使い魔は一心同体、ルイズに話すなら貴方にも聞く権利があります。」と同室を許可された。

「実は私・・・ゲルマニアに嫁ぐことになったのです。」
「何ですって!?よりによってあの野蛮な成り上がりの国に!」

 ゲルマニアと言えばキュルケの祖国であるはずだが・・・。仮にも級友の国にあんまりな言い方であるが、日頃の二人のやり取りを見ればまあそれも致し方ないのだろうか。

「仕方がありません。小国である我がトリステインを守るためにも、ゲルマニアとは強い同盟関係が必要なのです。」
「そのために姫様が・・・。御国の為とはいえそれはあんまりです。」
「私は気にはしていません。ただ・・・その前にどうしてもやらなければならないことがあるのです。」
「何ですか!?もし私がお力になれることでしたら何なりとお申し付け下さい!」

 「ありがとう、ルイズ。」と曇らせていた顔を少しだけ微笑ませ彼女は続けた。

「実は、今回の政略結婚はアルビオンに対抗するためのものなのです。」

 アルビオンとは別名『白の国』と呼ばれており、現在は貴族たちの反乱により国は大きく乱れている。さらに王宮派は既に風前の灯火状態にあるのだ。

「もはや反乱軍の勝利に終わることは時間の問題です。そしてアルビオンが墜ちれば、次に狙われるのはここトリステインです。当然、アルビオンはこの同盟を良しとはしません。如何に小国のトリステインでも、ゲルマニアという大国と組まれてはそう迂闊に攻め込むことは出来ませんから。」
「それで・・・まさか!?」
「ええ。そのアルビオンに、この婚姻を破談にできるかもしれない要因が残されているのです。」
「それは一体・・・。」
「手紙です。私がアルビオン皇太子である、ウェールズ様に宛てた一通の手紙。内容までは言えませんが。」

 そうは言ってもある程度は予測できる。恐らく恋文の類であろう。ルイズも架もそれを察し敢えて口にしなかった。

「でも王宮側はもう後がないと聞きます。こんな危険な任務、他の誰にも頼めず・・・」
「姫様!どうか、どうか私に命じて下さい。その大役、きっとこのルイズ・フランソワーズが成し遂げてみせます!」
「ルイズ、ああ、ありがとう!」

 涙を滲ませながら礼を言うアンリエッタ。だが、ここで今まで黙っていた男が口を開いた。

「ルイズ、悪いが俺は反対だ。」
「「えっ!?」」

 架のきっぱりとした言葉に、ルイズだけでなくアンリエッタも驚いていた。

「どうしてよ、架!何で反対なのよ!」
「当たり前だろ。そんな危険な場所に行くのを使い魔として見過ごせるわけがない。」
「でもこれは国全体の問題なのよ!」

 「だからこそ、だ。」と架はアンリエッタの方に目を向けた。

「姫殿下には無礼を承知で申し上げる。別にトリステインがどうなろうと知ったことではない、とまでは言いません。しかし、これが国家レベルでの話であるならばなおのこと、このような一介の学生に任務を与えるのは間違っている。」
「で、でも、私にはもう・・・」

 言葉を詰まらせるアンリエッタ。彼女自身も分かっているのだろう。大切な友人を死ぬかもしれない戦場に送り出すということに。
 しかしルイズは納得がいかなかった。これは姫様が直々にお願いしてきたことなのだ。貴族として、それに応えるのは道理ではないか。
 「アンタねぇ・・・」と架に突っかかろうとした時だった。
 突然架がルイズの口を塞ぐように、バっと手を翳した。何よ、と言おうとしたが、架はルイズには目を向けず、ドアの方を真剣な眼差しで見つめている。
 それにルイズ、次いでアンリエッタも架の行動の意味を察した。ドアの向こうに誰かいる。こちらの話を盗み聞きしようとしているのだ。
 「だ―――!」誰、とルイズが声を上げようとしたその時、ドアの向こう側から別の声がかかった。

『貴方たち、そこで何をしているのです!?』
『『『!!』』』


 バタバタッ


『うわわっ!』
『ちょ、きゃあ!』
『・・・』

 ドサリという音と共に部屋になだれ込んできたのは・・・

「ギーシュ!?キュルケにタバサまで!?何やってるのよ、アンタたち!」
「い、いやあ、まあ」
「ギーシュがルイズの部屋の前にいるものだから、ね。」
「・・・。」

 ルイズたちの非難の声と視線に気まずそうに答える三人。(一人は無言だが。)

「失礼、ギーシュが女子寮に入り込んだという情報があったもので・・・っと。」

 ただ一人、ヴァロナはよもや姫殿下がいるとは思わなかったのか、状況が理解できず目を丸くするのであった。








 人数はかなり増え、七人での話し合いとなった。尤も、ギーシュら三人は事の顛末をほとんど聞いていたため、説明を改めてする必要があったのはヴァロナ一人であった。
 ちなみに、三人がルイズの部屋の前にいた経緯は、

 ギーシュが庭を歩いていると王女と思しき人物が女子寮に入っていくのが見えた。
     ↓
 追ってみると、その人がルイズの部屋入っていった。
     ↓
 聞き耳を立てていると、それをキュルケが発見。
     ↓
 一緒になっているとさらにそれをタバサが発見した。

 というわけらしい。ついでになぜ最初に王女だと分かったかについては、「麗しき姫殿下の放つオーラをこの僕が見間違えるはずがない!」とのこと。変態かお前は。

「お話は全て伺いました、姫殿下。」

 優雅にアンリエッタの前で跪くギーシュ。伺うというか盗み聞いたんだろうが、というコメントはルイズ、架、ヴァロナの心の中。

「このギーシュ・ド・グラモンもお力になりましょう。」
「グラモン?あなた、あのグラモン元帥の・・・」
「息子でございます。」
「私も参りますわ。」
「あなたは一体・・・?」
「申し遅れました。私、ゲルマニアのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。事はトリステインだけでなくゲルマニアにも及ぶでしょう。微力ながら、私もお力をお貸し致しますわ。」

 タバサも「心配。」とだけ告げ、どうやら三人ともアルビオンに行く気満々である。まあ残りの一人は話を聞いてからは興味なさげであるが。

「架、私は何が何でも行くからね。」

 ルイズの断固とした物言いに架はため息をつくしかなかった。
 結局、ルイズ、架、ギーシュ、キュルケ、タバサの五人は明朝にアルビオンに向けて出発することになるのであった。



 後、ギーシュは女子寮へ無断で入り込んだ罰として、ヴァロナから出発までに反省文を書かされたのは至極どうでもいい話である。
 
 

 
後書き
ヴァロナがサーヴァントらしくないというのが友人のコメントであり私の細やかな悩みです。
まあ彼の面倒事に関わりたくない性格から、多少は仕方ないと考えているのは私の逃げでしょうか。すいません頑張ります。

あと、架がセイバーとアンリエッタが似てると感じたのは声だからじゃね?というのはスルーでお願いします。(笑) 
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