とある3人のデート・ア・ライブ
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第七章 歌姫
第4話 異端者(イレギュラー)
前書き
今回から士織が出てくるので表示が士道→士織に変わります。あ、でも中身は士道なので心の声とかは士道で行きますのでよろしくです
ではでは〜
次の日の放課後、一般の生徒たちは各校で天央祭の準備に入り、実行委員は会場であるスクエアに赴いてエリアの確認をせねばならなかった。
もちろん、実行委員は必然的に誘宵美九に会うことになる。
トイレで『五河士道』から『五河士織』へと変身した彼 (?)はスタスタと亜衣麻衣美衣のところへと向かっていた。
士織「女子ってのはよくこんなスカスカしたの腰に巻いただけで外歩けるな……少し大股に歩いただけでパンツ見えちまうだろこれ」
ちなみに今、士道……もとい士織はスカートの下にショートパンツを装着していた。
その呟きを聞いたのか、耳につけているインカムから琴里が言った。
琴里『いい機会だし、少しは女の子の苦労を知っておくといいわ。今後のためにもね』
士道「へいへい」
士道はそっけない返事をすると、真っ直ぐに昇降口へと向かった。
そこには既に亜衣麻衣美衣の三人が揃っており、楽しそうに談笑していた。
バレるか、バレないか。
その瀬戸際に立たされた士道はごくりと唾液を飲み干すと、勇気を振り絞って話しかけた。
士織「あ、あのっ!」
亜衣「ん?」
麻衣「え?」
美衣「マジ引くわー」
美衣の返事は意味深だと信じたい。
こちらに振り向いた三人は士道のことをまじまじと見てきた。
もしバレたら『五河士道は女装癖』とか言われたりして、もう学校にも行けないかもしれない。
でも。
亜衣「あれ?どうしたの?」
どうやら士道とは気づかれていないらしい。とりあえずホッと息を吐く。
士織「その、山吹さんと、葉桜さん、藤袴さんですよね、天央祭実行委員の」
麻衣「そうだけど、どうして私たちの名前を?」
士織「えっと、五河士道から伝言なんですけど、今日の実行委員はお休みさせて欲しいと……」
亜衣「なんだとゴルァ!」
麻衣「あいつ逃げやがったぞ!」
美衣「火を持て!マジで引くぐらいクズの魔女が出たぞ!」
明日は火あぶり確定だ。
士織「あの……それで俺ーーじゃなくて私が代わりに行くように言われまして。もし問題ありませんでしたら一緒に連れて行ってもらえませんか?」
その言葉を聞いて、彼女達三人の反応は、
亜衣「手伝ってくれるなら全然オッケーだよ」
麻衣「その代わり、しっかり働いてもらうけどね」
美衣「マジ引くわー」
とりあえず了承してくれた。
亜衣「あとは上条君か……」
ん?と士道はふと思った。
自分は美九に会うために女装して、好感度を上げようとしているのだ。
でも上条は何もやらされていない。女装も何も。
それが気になって仕方がないので、士道はインカムに小声で話しかけた。
士織「おい琴里、上条にはどういう対処してるんだよ?」
琴里『何もしてないわよ!っていうか何でそれを言わないの!?当麻君が一緒に行くって知ったの今なんだけど!』
と、インカムから聞こえた琴里の声は少し苛立ちがあって、焦っているようだった。
士織「(大丈夫……だよな?)」
心配になった、その時。
カシャ。
自分の背後から、誰もが一度は聞いたことがある、そしてこの状態ではとてつもなく嫌な音が士道の鼓膜を震わせた。
恐る恐る振り返るとそこには。
カメラを持った鳶一折紙がそこにいた。
士織「あ、あの……」
折紙「動かないで」
写真撮影を許可した覚えはないのだが……
士織「えっと……」
折紙「目線をこちらに」
あなたはアイドルを撮るカメラマンですか。
折紙「一枚脱いで」
士織「こ、困ります」
そんなやりとり(?)をしていたのもつかの間だった。
「すいませーん」
昇降口で上条を待っている四人の元に一人の女の子がやってきた。
もちろんその女の子は来弾高校の制服を着ていた。
『(……あれ?)』
士道が。
亜衣が。
麻衣が。
美衣が。
折紙が。
琴里が。
その彼女の姿……いや、容姿を見て思った。
緩いウエーブがかかった薄い桃色の髪が特徴で、見た目ではほんわかしてそうな少女。
その女の子はこちらに来ると、一拍開けて、そして言った。
「えっと、当麻……じゃなくて、上条君が用事でこれなくなったので、代理で来ることになったーー」
「ーー園神凜袮です」
ニコリと、微笑みながら彼女は自分の名を名乗った。
なぜだろうか。
この少女と会うのは初めてではない気がする。
そこにいた五人全員、そしてモニター越しに見ている琴里が、そう思った。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
琴里『どうやら一人になれたようね』
士織「そうだな」
美九に会うためにお手洗いに行くと言って抜け出してきたのはいいものの、自分は今ニ号館の隅の陰で身を隠しているところだった。
琴里『美九は一号館にいるわ』
士織「了解」
言って、誰にも見つからない素早く一号館へと移動した。
すると、一号館の奥の方に紺色のセーター服に身を包んだ少女たちの集団がおり、その中心に美九が立っていたのである。
何とか近づけないものか……と、考えていると美九がその集団を抜け出して一人でどこかへ歩き出した。
士織「トイレなのか?」
琴里『とにかくチャンスよ。後を追ってちょうだい』
士織「了解」
数分ほど後を追うと、一号館に設置されているトイレを素通りし、セントラルステージに向かっていった。
そしてそのまま観客席を抜けると、関係者以外立ち入り禁止と書かれたロープをくぐって、ステージ裏の方へと入ってしまう。
士織「あ……」
琴里『追うのよ、士道』
士織「り、了解」
若干の罪悪感を覚えながらも、意を決してロープに手をかけた。
その時。
「そこで何をしてるの?」
誰もいない観客席から、女の子の声が聞こえた。
従業員の人かと思い、怒られる覚悟で勢いよく振り向くと。
凜袮「確か……″五河士織″さん……だよね?」
先ほどの少女がそこにいた。
士織「あなたは……″園神″さん……?」
士道が彼女の名を呼ぶと、一瞬悲しそうな顔をされたが、すぐに先ほどの微笑を取り戻すと、士道に向けて言った。
凜袮「そこから先は立ち入り禁止だよ?何かあるの?」
士織「いや、えっと……」
琴里『……予想外だわ。異端者とは本当に厄介ね』
琴里も対精霊に関しては何が起ころうともその場で最適な指示をパッと出せるのだが、こんな展開は予想を上回る展開なようだ。
琴里もどうしたらいいか分からないらしい。
凜袮「五河さんって好奇心旺盛だね。確かにこういうとこの裏舞台とか私も気になるし、あんなレッテル貼られてたら入りたくなるのは分かるけど」
ふふ、と微笑む凜袮に対して士道はポカンとしていた。
士織「……へ?」
琴里『……ラッキーね。そのまま押し通してちょうだい』
琴里もそう言ってるので、苦笑いしながら凜袮に言う。
士織「そ、そうなんですよ。俺……じゃなくて、私ってこういうとこ入りたくなる人なんで……」
凜袮「そうだね。まさか……」
微笑みを崩さないまま、士道は冷や汗を流しながら、でも凜袮は言ってみせた。
凜袮「まさか女装して声まで変えて、ちょっと前に入って行った精霊さんを追おうとしているわけないよね?」
それは、
琴里と士道の顔を驚愕と恐怖に変えるのはとてつもなく容易かった。
琴里だけではない。クルーにいた全員がそう思っているだろう。
言葉すら出なかった。
口の中が異様な速さで乾いていくのが分かる。
全てを見透かしているように。全てを知っているかのように。
笑顔で保つのも辛い。いっそのこと膝から崩れ落ちたいぐらい、彼女は強く、怖かった。
凜袮「私は色々知ってるよ。特に、士道のことはね」
士織「俺の……こと……?」
もう女言葉や敬語で話すことも忘れて、『五河士織』という仮面ではなく『五河士道』という本当の自分として、彼女と話していた。
凜袮「ちょっと話しすぎたかな。後で当麻に怒られちゃうや」
士織「か、上条のこと知ってるのか!?」
凜袮「知ってるも何も、私の相棒だよ。切っても切っても切り離せない……それぐらい大事な、私の相棒……」
士織「あ、相棒……?」
凜袮「当麻は私のことは一切話してないから知らないのも無理ないよ。……思い出されちゃ困るからね」
最後にボソッと言われた言葉は、さすがに聞き取るとは士道の耳では難しかった。
士織「え、最後何て……?」
凜袮「何でもないよ。さ、早く追いかけよ。精霊さんに用があるんでしょ?」
士織「あ、そうだった。帰ってたらどうすればいいんだ……?」
凜袮「口調!」
士織「……帰ってたらどうしようかしら」
凜袮「よくできました」
にっこりと、優しい笑顔でそう言われた。
おそらく自分達のことを知っていたのは上条から聞いたのだろう。
だけど。
本当にそうなのだろうか。
そんなちょっとした引っかかりと、どこか会ったことがあるような違和感が頭の中を駆け巡りながら立ち入り禁止区域へと入って行った。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
琴里「……これは、後で当麻君を問い詰める必要がありそうね」
凜袮と士道が立ち入り禁止区域に入って行くのを見届けながら、誰にも聞こえないような声で言った。
琴里「(それにしても……)」
初めて彼女を見てから、ずっと覚えていた違和感が彼女″にも″あった。
琴里「(私は……あの人とあったことがある……でも、どこで?)」
記憶を引きずり出そうとしても出てこない。幼少期の頃の記憶なのだろうか。
でも……
琴里「(いや……もっと、最近……少なくても五年以内……いや、もっと……)」
琴里は記憶力のいい方だ。だからこそなぜ思い出せないのかが不思議でたまらない。
琴里「(園神凜袮……)」
そして。
琴里「凜袮、お姉ちゃん………?」
と、知らず知らずの内に口から発せられていた。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
ちなみに、上条はというと。
上条「ここか?」
夕弦「否定。もう少し右です」
耶倶矢「そう?なんか丁度良くない?」
夕弦「意見。夕弦は左右対象にしたい派なので」
耶倶矢「あんた、意外と細かいのね」
上条とは隣のクラス、二年三組にて文化祭の手伝いをしていたのだ。
話を聞くと、二年三組はクラスの大半で劇をやるらしいのだ。
そして半分を裏方に回そうという算段なのだ。
王子様が姫を助けに行くというオリジナルの脚本で劇をするらしいのだが、その姫役候補の一人に耶倶矢と夕弦が上がったのだ。
二人とも容姿がいいのだが……双子ということもあり、似すぎている面もあってか、二人は劇自体を降板し、裏方に回ると言ったのだ。
元々劇に出たいという人がクラスの七割近くを占めていたので、立候補する人が少なければそれはそれでいいのだが、クラス委員は少し受け入れがたかったらしい。
それでも二人は裏方になり、そのお手伝いをしている。
その日は実行委員がスクエアに赴かなければならなく、いつもより人数不足の上、なぜか今日は用事で帰る人が多かったのだ。
そこで上条当麻を自分のクラスの実行委員に見つからないように(半強制的に)手伝わせたのだ。
上条「こんなもんか?」
耶倶矢「お、いい感じじゃん」
夕弦「拍手。お見事です」
今作っているのはお城。もちろんペラペラの紙で、舞台裏で脚立に登って城の上にいるかような演出をするのだが、上の方は耶倶矢と夕弦では少し身長が足らなかったので、こき使っていたのだ。
その城は、王様が観衆を見下げて演説するときの、(あくまで平面上の話だが)円形状にし、その上の方に突起作って、アニメに出てくるような城を作り出していた。
なかなかの出来栄えである。
夕弦「質問。少しいいですか?」
上条「ん、何だ?」
夕弦「いつもの″アクセサリー″はどうしたのですか?」
つまり、いつも連れている凜袮をどうしたのか?という質問だった。
上条は脚立の真下にいる夕弦に向かってにっこり微笑むと、「あぁ」と言って答えた。
上条「今日はお出かけだよ。ちょっと工夫してな」
夕弦「……?」
上条「詳しいことはまた話すさ」
それと同時に、
上条が夕弦の方に振り向いたせいで重心が揺らいだ脚立が真横に倒れ始めた。
上条「……え?」
そのまま、
ガシャン!という大きな音を立てて気づけば脚立は地面と平行になっており、上条は仰向けに倒れていた。
八舞姉妹はこの光景を見て、言いたいことを言っていた。
耶倶矢「これだから不幸体質な我が愚弟は困るのだ……我の心の濁りはいつになれば晴らしてくれようぞ?」
夕弦「要約。いつも通りの不幸スキルを発動させましたが大丈夫ですか?」
上条は、一言。
上条「……不幸だ」
こちらは、特に変わりなく平常運転だった。
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