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ブラック・ブレットー白き少女

作者:虚無龍
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「世界を変えたいと思わないか」

 アリスは外周区のマンホールチルドレンになった『呪われた子供達』に食べ物をあげた帰り道、それは現れた。

「こんばんわ、アリス」

「…………えーっと、誰?」

 アリスは普通にこの仮面の男のことを知らなかった。

「ああ、これは失礼」

 男は被っていたシルクハットを外し、頭を下げると、

「私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、アリス、それとも『白狐
びゃっこ
』と呼んだほうがいいかな?」

「…………裏の人間か」

 『白狐』というのは、アリスが後ろめたい内容の、つまりは裏社会などからの依頼を受ける時に使っている偽名だ。

 それを知っている事から、アリスはこの男の事をカタギの人間ではないと判断した。

「まあ、そういうことになるね」

「…………なんかようか?」

「ほう、警戒すらしないのかい? もしかしたら君を殺しに来た暗殺者なのかもしれないよ?」

 影胤は意外そうに、だがどこか試す様に聞く。

「別に、そうなら話し掛けたりせずに奇襲するでしょ。それに、襲われても絶対に勝てる自信があるしね。油断も手加減もしないが」

 すると影胤は、心底意外そうな顔をしたーーと思うーー後、声を上げて笑った。

「ヒヒ、ヒハハハハハ! いい! 実に面白い!」

 対するアリスはどうでもよさそうな態度のまま、言った。

「で? 用件は何? 私、あんまり暇でもないんだけど」

「ああ、そうだったね。じゃあ、本題に入ることにするよ」

 アリスは少し真面目な態度になった。

「アリスくん、私の仲間にならないか?」

「…………お前って確か、蓮太郎と前に接触した殺人鬼だよな」

「まあ、そういうことになってるね」

「そんな奴の仲間になって私に何の得があるってゆうの?」

 すると影胤は、何処からともなくアタッシュケースを取り出すとアリスの方に投げ渡してきた。

 少し警戒しながら中身を見てみると、百万や二百万じゃきかないほどの大量の札束が入っていた。

「君は外周区に住んでいる『呪われた子供達』に食べ物やおもちゃなどを金を湯水の様に使って、与えてるそうじゃないか。それは私からのほんの気持ちだ」

「…………いくら金をつまれても、時間をかければ私ならこのくらい稼げる。ゆえに、これはほとんど得にはならない」

 アリスがそう言うと、影胤はそれを予想していたかのように語り始めた。

「アリスくん、君はこの理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?」

「何?」

 影胤は気にせず語り続ける。

「君は外周区のマンホールチルドレン…………つまりは『呪われた子供達』が虐げられている所を何度も見たことがあるはずだ」

 アリスは何も言わなかった…………いや、言えなかった。

 何故なら、事実、そんな光景を何度も見て来たからだ。

「彼女達…………いや、君達は既存のホモ・サピエンスを越えた次世代の人間の形だ。今、この東京エリアが大絶滅の危機にさらされているのは知ってるかい?」

「…………七星の遺産か」

 すると影胤は、驚いたような素振りを見せて、

「ほう、七星の遺産を知っているのか」

「…………私だって、完全にフリーって言うわけじゃない。所属とまではいかなくても、協力している組織くらいいる」

「…………それは初耳だ」

 どうやら、本当に知らなかったらしい。

「話を戻そうか。大絶滅を経たあと生き残るのは我々力のあるものだ。私にはいま強力な後援者
バック
もいる。どうだ?」

 アリスは少し考えると口を開いた。

「…………私は『呪われた子供達』が進化した人間の姿だとは思わない。あの子達はただの、至って普通の子ども達だ」

「…………交渉は決裂というのとかい? 残念だよ、君はもう少し聡明な子だと思っていたのだが」

 そう言って踵を返そうとする影胤にアリスは続けて言った。

「だが、この世界を変えたいとは思っている。こんな理不尽な世界をね」

「ということは?」

 影胤がこちらを振り返りながら問う。

「…………私は必ずしも指示に従うとは限らない。そして、敬語で話す気もない。最後に、私が『呪われた子供達』に攻撃するとこはない。攻撃するならお前達がやれ。それでもいいなら受けよう」

 すると影胤は、両手を広げて大袈裟に喜ぶ。

「いいだろう! では、よろしくだ同志よ!」

「ああ、よろしく」

 今ここで、誰も知らない契約がなされた。


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「それで? 私はなにをすればいい?」

 アリスが影胤にそう聞くと、

「今のところは何もしなくていい。何かしら仕事が出来た場合は携帯に連絡しよう」

「なんだ? わざわざ私を勧誘しに来たってのに何も仕事が無いのかよ」

「ああ、君には基本、裏方で行動して貰いたいからね」

 アリスは少し不満そうな感じだったが、すぐにそれもなくなった。


 ブゥゥゥン ブゥゥゥン


 携帯のバイブレーションが動いたからだ。

「もしもし、…………そうか。わたった、なるべく速く行く」

「仕事の依頼かい?」

「まあ、そんなもんだ。今の所は何も無いんだろう? なら、向こうに行ってもいいよな」

「ああ、もちろんかまわないよ」

 影胤が了承したので、アリスはあるきだした。

「ああ、いい忘れていたが、蓮太郎君も誘うつもりだが、いいかね?」

「別にいいけど、意味ないよ、きっと」

 そう言ってアリスは去っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「近々大規模な作戦ねぇ。なにするつもりだろ」

 アリスは先程電話で呼び出された方向に向かって走っていた。

 既に、その早さは並みの自動車程度なら軽く越える速度を出していた。

「しかも、外部の人間に実行を任せるなんて珍しい。それとも、歳で耄碌
しちゃったのかな? …………そうならいいのに」

 アリスはそんな物騒なことを言いながら、電話で指示してきたひとがいる方向ーー『No.13モノリス』へと走っていった。
 
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