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気迫

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第四章

 ロレーヌは静かにそこにいた、悔しがる開催国側のイレブンとサポーター達を見ながら。
 試合はこれで決まった、遂に時間が終わり。
 ロレーヌ達は勝った、そしてロレーヌはインタヴューの場でこう言った。
「最初から一点もやるつもりはなかった」
「一点もですか」
「そうだ、一点もだ」
 まさにというのだ。
「やるつもりはなかった」
「そうだったのですか」
「一点でも取られたらな」
 こうも言うロレーヌだった。
「俺は俺を許せなかった」
「それはどういう意味でしょうか」
「俺はサッカー選手だ」
 これがロレーヌの返事だった。
「サッカー選手としてだ」
「ご自身を許せなかったのですか」
「そうだった」
 若しこの試合で一点も取られたら、だ。
「だからだ」
「一点も取らせたくなかったのですね」
「そしてそれが出来た」
 ロレーヌは静かに言った。
「本当によかったと思っている」
「そして勝てたことについては」
「当然の結果だ」
 勝利についてはこう言うのだった。
「俺達はサッカー選手だ」
「ここでもサッカー選手なのですね」
「サッカー選手ならこの試合に勝って当然だ」
「サッカー選手ならですか」
「この試合ではサッカー選手が勝った」
 彼等の国ではなく、というのだ。
「そして俺はサッカーを最後までして勝った、本当によかった」
「気迫溢れるプレイでしたし」
「神が俺をそうさせてくれた」
「神がですか」
「俺をだ、そしてサッカーが勝った」
 またサッカー、がと言うのだった。彼等ではなく。
「そのことは嬉しい」
「左様ですか」
「神に感謝している」
 これがロレーヌのインタヴューでの最後の言葉だった、この言葉を残して。
 彼はグラウンドを後にした、そしてインタヴューの記事にはこう書かれた。
『気迫のプレイについて語る、サッカーの勝利だと』
 ロレーヌはその記事を読んでだ、イレブンにこう言った。
「俺達はサッカーをしている」
「だからですね」
「あの試合に勝ったことは」
「当然のことだ」
 こうイレブンに言うのだった、記事が掲載されている新聞を手にしたうえで。
 そしてだ、彼はその新聞を手元に置いてからイレブンにこうしたことも言った。
「では今からな」
「はい、練習ですね」
「今日も」
「残るは決勝だ」
 そしてその試合に勝ってだった。
「優勝は俺達のものだ」
「今回は絶対優勝しましょう」
「最後の試合に勝って」
「サッカーをするぞ」
 イレブンにもこう言ってだった、ロレーヌはグラウンドに向かった。その背中は雄々しくサッカー選手の気概があった。


気迫   完


                           2014・10・22 
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