仮面の戦士
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第一章
仮面の戦士
ヴィッテルギス侯爵領において一人の騎士がいた、その騎士のことは侯爵領だけでなく帝国全体に広まっていた。
「常に仮面を被っていてか」
「うむ、そして異様なまでに強いらしい」
「剣も槍も弓矢も誰にも負けぬ」
「馬も誰よりも速く走ることが出来る」
「まさに一騎当千の者らしい」
「信じられぬまでの強さらしい」
そこまで強いというのだ。
「そしてどの競技に出ても勝つ」
「負けたことはない」
「そしてその武名を知らしめているが」
「誰もその素顔を知らぬし名も知らぬ」
「何者か一切わからぬ」
「何処の誰かな」
「また騎士も語ることはしない」
そうしたこともというのだ。
「一切な」
「何でも自分に勝てばその仮面を脱ぎ真実を教えるとか」
「何処の誰なのか」
「しかし勝った者はいない」
「誰一人としてな」
それこそというのだ。
「果たして人かどうか」
「それもわからぬ」
「異形の者やも知れぬ」
「若しやな」
そうしたことさえ語られていた、その中でだった。
ある騎士が名乗り出た、それは帝国でその名を馳せている騎士であるジェリオ=デル=カサゴールであった。
「この私がです」
「あの騎士にか」
「はい、次の競技で」
自身の父に言うのだった。
「勝ってみせます」
「次の競技と言えばな」
「はい、剣技です」
「王が主催されるな」
王が自身の領地で主催するものだ、それが次の競技なのだ。
「それにか」
「はい、私は出ます」
「そしてあの仮面の騎士もだな」
「必ず出る筈です」
とかく様々な競技に出て常に優勝しているのだ、剣に弓に馬にとだ。その腕があまりにも凄く誰も勝てていないのである。
だが、だ。ジュリオはその端整で逞しい栗色の瞳の顔で強く言った。見れば長身で腕が長く引き締まった身体つきだ。瞳と同じ色の髪は丁寧に左右で分けている。
「そしてその時にです」
「御前がその剣でだな」
「勝ってみせます」
「御前は昔から武では剣だったな」
「はい」
「それでは負け知らずだった」
「剣には絶対の自信があります」
それ故にというのだ。
「あの騎士といえど」
「勝つか」
「必ず」
こう父に言うのだった。
「そうしてみせます」
「では勝って来るのだ」
これが父の我が子への返答だった。
「誇り高くな」
「騎士として勝ってみせます」
ジュリオはその父に不敵な笑みで答えた。
「そうしてみせます」
「ではな」
「はい、それでは」
こうしたことを話してだ、そのうえで。
ジュリオは王が主催する剣の競技、トーナメント形式のそれに参加する為に自家の領地から王の領地に入った、その時にだ。
常に自分につき従っている家の若い下僕、レオにだ。こんなことを言われた。小柄で黒髪と黒い目の顎の長い青年である。
「さて、仮面の騎士ですが」
「あの者だな」
宿の中でだ、ジュリオは自身で旅のマントを脱ぎつつ応えた。
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