ルドガーinD×D (改)
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四十五話:壊す覚悟、揺れる思い
前書き
結構オリジナルが強いですけど、家のルドガーさんだから、許してください。
その後、ルドガーはいつも通り借金の返済をしたり、ミラのスープを作る手伝いをしたり、世界を壊す試験だと言うガイアスと共にかつてのガイアスの部下であった分史世界のウィンガルを倒して『ロンダウの虚塵』を手に入れたりなど順調に旅を進めていた。そんな中ノヴァから何やら助けてとの電話が来たのでディールにむかう事にしたルドガー。そして一体何の用かとノヴァに聞いてみると予想外の答えが返って来た。
『それが……差し押さえの相手がすっっっごい怖い人なんだよ~! 水が五秒でお湯になる勢いで睨んでくるしっ!』
『まさか…手伝えって言うんじゃないよな?』
ノヴァの必死の表情に若干呆れた表情をしながらルドガーはそう返す。その言葉にはお前の仕事なんだからお前がやれよという気持ちがにじみ出ていたがノヴァはそんなことに気づいているのかいないのかは分からないが正解と言ってさらに頼み込む。そんな話の途中にエルがキョロキョロと見回して始めるのでローエン微笑みながら理由を尋ねる。
『ここ……パパと一緒にきた時ある気する』
『エルさんのお家がこの近くに?』
『わかんない……』
その情報に反応してエリーゼとティポがなんとかエルの家を見つけ出そうとさらに有益な情報がないかを聞く。それに対してエルは自分の家の前には大きな池がありパパが魚を釣ってゴハンにしてくれていたと話す。そんな話に美候が今度、釣りでもしてみるかと若干乗り気に考える。
『エルは、ヒメマスの押し寿司が好き!』
『ごめん、みんな。俺ちょっと釣り道具、買ってくる』
『あなたは借金、背負ってるんでしょ! 全く、あなたもエルのパパに負けず劣らずの親馬鹿になるわね』
エルのヒメマスの押し寿司が好きだと言う言葉に即座に反応してエルに魚を釣って食べさせるべく釣り道具を買いに行こうとするルドガーの襟首をミラが、がっしりと掴んで引き止める。因みに彼女は最近パーティ内で、エルが絡むと度々暴走を引き起こすルドガーのストッパー役に暗黙の了解でなっている。そして止められてガックリと肩を落としているルドガーを見ながら溜息を吐き、少し気になったことをエルに言う。
『ヒメマスがいるって、池じゃなくて湖じゃないの?』
『それ! ミズウミ!』
『今のエレンピオスに、そんな湖があるのかな……?』
エルが湖と言った事にジュードが思い当たる節が無いので首を傾げる。ノヴァによればこの近くにあるウプサラーナ湖は何十年も前に干上がったらしい。そのことにミラはエルの勘違いだとバッサリと切り捨てる。そのことにエルもしょんぼりと肩を落とす。そんな時にノヴァからウプサラーナ湖の地下から黒匣とも違う文明の古代遺跡が見つかったことを知らされる。
その事に興味を持つジュードだったがその遺跡はすでに崩れたことを知らされて肩を落とす。話の最中にいつも通り悪いのか良いのか分からないタイミングでヴェルから道標の有る確率が高い分史世界の探知を知らされる。
結局、その後ノヴァの手伝いとしてジュードとローエン、そして強面担当のアルヴィンが残り、残りのルドガーとエル、エリーゼとティポ、レイア、そしてミラが分史世界の探索に赴くことになった。因みにルドガーは余りの過剰戦力に今から借金を取り立てられる人物に少し同情を抱いていたとか。
『はぁ……付き合ってられないわ』
『ミラさんもルドガーのフォ―――ストッパーをお願いします』
『まて、ジュード。どうしてわざわざ言い直したんだ?』
チラリとルドガーの方を見たジュードがフォローからストッパーと言いかえる。そんなジュードの扱いに思わず詰め寄るルドガーだったが、ミラが再びがっしりと襟首を掴み引きずり戻す。
『大丈夫よ、言うこと聞かないときは殴って止めるから』
『あれ? 俺の扱い最近酷くないか?』
『いつも通りでしょ。さっ、とっとと行くわよ』
結局、その後、ブツブツと言いながらも分史世界に入っていくルドガーだった。分史世界に入り取りあえずウプサラーナ湖の跡に行ってみることにしたルドガー達の目の前に広がるものは水が、かけらもなくなり死以外の何物も感じられなくなった湖底だった場所だ。
『ここ、昔は湖だったんですね……』
『それが黒匣のせいでこうなった』
エリーゼが若干悲しそうに呟いた言葉に反応して今でも黒匣に良い感情を抱いていないミラが若干嫌味っぽく返す。その言葉に反応してレイアがこれ以上酷くならないようにジュードが源霊匣を作っているのだと言う。
『間に合えばいいけど』
『他人事みたいに。ミラが、どんな気持ちで―――』
『知らないわよ。他人事だもの』
ミラはレイアの知るミラと自分が違うにも関わらず、まるで自分のように言われたことに心がささくれ立ちそっぽを向き俯いてしまう。そんなミラに対してエリーゼがジュードは必ず間に合わせると信頼をあらわにし、正史世界のミラが自分を犠牲にして与えてくれた時間だと言う。その言葉にミラは複雑そうな顔を浮かべて俯く。ルドガーは正史世界のミラを知らない為に若干複雑な気分で自分の知るミラを見つめる。
『なんか、光った!』
『ノヴァさんが言っていた遺跡でしょうか?』
『崩れたはずの遺跡が残ってるなら、時歪の因子の確立“高”だよね』
その時、エルが何か光るものを見つけて指をさす。それに対してエリーゼが先程ノヴァから聞いた遺跡ではないのかと言い。レイアがルドガーにあそこに時歪の因子がある確率が高いのではないかと考え、それにルドガーも無言で頷く。
『いってみよう! ―――きゃあっ!』
エルが時歪の因子がある確率が高いと聞くと元気に手を上げたところで雷が鳴り響き悲鳴を上げてうずくまってしまう。そんなエルの子供らしい行動にミラが笑みを浮かべて雷が怖いのかと聞くがエルは必死に強がってそれを否定する。
『素直になりなさいよ』
『ちがう! 怖いのは雷じゃなくて、パパが……パパのこと思い出すから……』
自分を逃がすために父親が盾になったあの日のことを思い出してエルが目に涙を溜める。そして再び鳴った雷に限界になったのか叫びながら再びうずくまる。そんなエルを見てレイアとエリーゼは顔を見合わせて何事かを行う決意をする。
『『『きゃー!』』』
『みんな…?』
再び鳴り響いた雷にエルと同じように悲鳴を上げてうずくまるレイアとエリーゼ。因みにティポも低空飛行をしている。その様子に朱乃は二人が何をしたいのかが分かりクスリと微笑ましそうに笑う。
『雷って、超怖いよねー』
『はやく遺跡に入りましょう』
その言葉にエルも頷き三人で遺跡の中へと駆け出していく。そんな姿にエルが怖い思いをこれ以上しなくてすんだと思いホッとすると同時に自分がやればよかったと若干の後悔もするルドガーだったが、エルが元気になればそれでいいかと結論付けてエルの後を追おうとする。
『ミラ=マクスウェルは、あんな子たちに慕われているのね……』
しかし、そんな様子を見ながら寂しそうに呟くミラがそのまま一人にしてしまうと消えてしまうのではないのかと思うほど危なく見えたのでルドガーは立ち止まりミラに話しかける。
『もうひとりのミラに会ってみたいとか?』
『そう……ね。どこにいるのか知らないけど、会えるものなら』
『俺も、会ってみたいかな』
『……あなたもミラ=マクスウェルに会ったことがないのよね?』
正史世界のミラに会ってみたいと言う、ミラにルドガーも何気なしに会ってみたいと話す。そんなルドガーにミラは少し悲しげにそう尋ねる。ミラのその様子に少し首を傾げながらルドガーは肯定の意を示して頷く。
『そうよね……本物のミラ=マクスウェルがいるなら…私なんていらないわよね』
『そんなわけあるか! 正史世界のミラが現れたって、君がいらなくなるなんてありえない!』
『…っ! ……私の世界を壊したあなたに言われても、説得力ないわね』
自分が必要なくなると言うミラに対してルドガーは本心からの言葉をミラにぶつける。それに対して驚いた表情を浮かべるミラだったが、すぐに皮肉めいた言葉を返す。ルドガーも確かにその通りだと分かっているので辛そうに俯むく。だからこそ、ミラが少し嬉しそうに微笑んだのに気づけなかった。
『ほら、エルが待ってるから早く追うわよ』
『……ああ』
『て…あなた、ネクタイ曲がってる。ちゃんとしなさいよ、身だしなみ』
ルドガーのネクタイが曲がっていることに気づいたミラが少し恥ずかしがりながらまるで新婚の夫婦のように自分の手でルドガーのネクタイを直してあげる。そんな普通なら思わず恥ずかしくなるような行動に対してルドガーといえば―――
『ミラが俺の襟首を引っ張るから曲がるんだろ。それに今から戦闘だからそんなに気にしなくてもいいだろ』
何事もなく文句を言うだけであった。実は度々ユリウスから同じようにネクタイをしめなおされることがあるので特に恥ずかしく感じたりはしないのだ。そんなルドガーの対応にミラの方は少し恥ずかしがりながらやった自分が馬鹿らしくなりルドガーをそのまま突き飛ばす。
『う、うるさいわね! とにかく、ちゃんとしなさい。ほら、ボサッとしてないで行くわよ』
『あ、ああ…?』
顔を赤くしながらそっぽを向くミラに対して自分が何か悪い事をしたのかと首を傾げるルドガーだったが考えるのをやめてエル達の後についてくのだった。しかし、その事を見ていた第三者の眼は違った。
「意外とタラシなのね、ルドガー君」
「しかも、少し鈍感が入っているとか性質が悪いですね」
ルドガーが天然の人タラシだったことに驚くヴァーリと朱乃。そして、この中で最も先程の行動に反応していそうな人物を見る。
「まるで、彼氏の元カノとの思い出を見せつけられている気分にゃ…っ! 何気にルドガーもあの女を気にかけているみたいだし……まさか本当に元カノ!?」
そこにはギリギリと歯ぎしりしながら悔しそうに二人を見つめる黒歌の姿があった。そんな黒歌の様子にこれは触れない方がいいだろうなと満場一致で可決しスルーの方向で記憶を見ていくイッセー達であった。
ルドガー達が遺跡の中に入るとそこは黒匣とも精霊術とも違う文化の建物であった。恐らくはイッセー達の世界の文化とも違い、また何百年も先の技術力を有しているのは間違いないだろう。まさにオーバーテクノロジーの固まりがこの遺跡なのである。その事に驚くルドガー達だったが一先ず、雷が聞こえない場所に来れたとティポがエルに言う。
『エルは弱虫じゃないよ?』
『分かってるよ。エルは泣いたりしないもんな』
『わかってれば、いいけど』
エルはそうは言うもののやはり無理しているように見えたためにレイアとエリーゼが小声でルドガーにエルが無理していると告げる。そんなエリーゼに対しミラが自分は六歳の時にアルクノアを壊滅させたと言うがレイアの言う通りミラは特別である。普通の少女とマクスウェルが同じであるはずがないのだから。そんな話を聞きながらルドガーはエルを無言で見つめどんなことがあっても守り抜こうと決意を新たにする。
『あー、ルルがいない!』
ルルがいないことに気づき叫び声を上げるエル。その声に今更ながらにルドガー達もルルがいないことに気づき、レイアがエルと同じように叫び声を上げる。
『分史世界に入った時、ルル、いましたっけ?』
『どうだったかな……?』
『随分と適当ね』
『いや、ルルって頭いいから、何も言わずにどこに行ってもついて来てくれるのに慣れてたんだよ。そう言えば、これってもしかして凄いことなんじゃ……』
エリーゼの質問にあやふやな記憶しか出て来ずに首を捻るルドガー。そんなルドガーにミラがチクリと棘のある言葉を投げかける。その言葉に頭をかきながら今更ながらに自分の飼い猫の凄さを知るルドガーだった。言われてみればと小猫もルルの凄さに気づきもしかしたら自分と同じ猫又や使い魔の一種なのではと一瞬思ってしまう。その時、エルの後ろから声が聞こえてきてルルが現れたのでエルは嬉しそうにルルを抱き上げる。しかし―――
『うにゃー!? どうしたのー??』
ルルはまるでエルを警戒するようにエルに猫パンチを繰り出して離れようとする。因みにその時のエルの声が余りにも可愛かったので何故録音してなかったのかとルドガーは深く後悔した。そんな時どこからともなく声が聞こえてくる。
『また来たのか、クルスニクの一族よ……』
『だれ!?』
『私はオーディーン。時の箱舟トールの管理システムだ』
オーディーンの箱舟という言葉にルドガー達はカナンの道標の一つだと反応するが、それ以上にオーディーンは自らがカナンの道標だという事を知っていることに驚く。さらには、オーディーンはルドガー達の弱点も理解していると言うのだ。
『これは忠告だ。大人しく立ち去ってくれ―――』
そう言い残して、反応が無くなったオーディーンにエリーゼ達は訳が分からずに不安がるがその中でミラは怖い物など何もないと言う風に一人進み始める。
『会ってみればわかるわ。奥へ進みましょう』
『ミラ、一人で進み過ぎるな。危ないって』
そんなミラに対してルドガーが一人で行くなと声を掛ける。そんな言葉に溜息を吐きながらミラは立ち止まり、振り返って口を開く。
『まったく、あなたも懲りないわね。私のことなんて放っとけばいいのに』
『ミラ……』
『……なんてね。今のはウソ』
そう言って、初めてルドガーに対して柔らかな笑みを見せるミラ。その笑みにルドガーは思わずドキリとして顔を赤らめてしまう。そんなルドガーの反応が予想外だったのかミラもミラで顔を赤くして見つめ合ってしまう。
『と、とにかく行くわよ! ほら、私の背中はあなたが守りなさい』
『あ、ああ、任せろ』
結局、恥ずかしくなって無理やり空気を変えたが二人の間の空気が始めの頃とは比べ物にならない程、柔らかくなったのには間違いないだろう。そしてこの時からルドガーは彼女の事を以前よりも強く意識しだすことになる。贖罪の為ではなく、自分自身が彼女を支えたいとそう願うようになる。ただ、そのことで未来に大きな課題作ってしまったのだが。
「なに、何なのにゃ、あの反応は!? あんな初心な反応、私にも見せてくれたことないのに…っ。はっ! まさか、ツンデレかにゃ!? ツンデレがルドガーの好みなのかにゃ!?」
「……姉様、気持ちは分かりますが一先ず落ち着いてください、うるさいです」
結局、暴走した黒歌は小猫によって説教(肉体言語で)されたことで静かになったが心の奥では密かに帰ったらツンデレ系になってみようと思う黒歌だった。その後、箱舟の内部を、魔物を倒しながら突き進んでいき、エルが言う、なんか光っている場所に到着する。行き止まりかと思われたがそこに巨大な剣と盾を持つ一見すると巨人の様な姿のオーディーンが現れた。そしてオーディーンは、ここは遥か昔、気が遠くなるような昔に滅びた文明があったと語る。
『最後に残った住民たちは、自分達の体を生体データに換え、封印したのだ。遥か未来、データを見つけた何者かが復活させてくれることを信じて』
その事実に息をのむ黒歌達。ミラの言う通り、まさにここトールは時の箱舟というわけだ。そしてオーディーンが言うにはこの箱舟の中には一つの文明と四十二万七千八十六名の生体データが保存されていると言う。その余りの数にエリーゼが驚き、リアスも途方もない数字に声も出せない。
『彼等が未来の人間に託したメッセージを聞いてはくれまいか』
そう言ってオーディーンがデータを出現させる。そしてそこから聞こえてくるメッセージを聞いて祐斗はかつての同士のことを思い出して激しく顔を歪ませる。
――がんばったら、またお外で遊べるようになるんだって!――
――どうか子どもたちに再び未来を与えてやってください――
――あなたたちと会える日を……そして共に暮らせる日を楽しみにしています――
――この事実だけは伝え残したい。未来の人が同じ過ちを繰り返さぬよう――
――俺達が存在した証だ。大切にしてやってくれ――
メッセージからは過去の人達がどれだけ未来を望んでいるかが痛いほどに伝わって来る。そしてここは他の世界では失われてしまった最後の希望でもあるのだ。そしてこの世界を壊すという事はそれら全ての想いを踏みにじるという事だ。自分一人の身勝手の為にそれを壊すということが改めてルドガーに突き付けられる。
『クルスニクの末裔よ。どうか、残された希望を破壊しないでくれ』
懇願するようなオーディーンの言葉にルドガーは目を瞑り考える。
「あうう……私だったら壊せません」
「私も……壊せる自信はないわ」
壊せないと呟くアーシアに対し、リアスがそう同意する。優しい人間なら普通は壊すことを選ぶことは出来ないだろうし、自分の為に他人を犠牲にするなど無理だ。そしてルドガーもまた優しい人間である。以前までの彼であれば壊すことが出来なかったかもしれない。しかし、今は違う。
『俺にも守りたいものがあるんだ……だから―――この世界を壊す!』
苦しげな叫びではあるが彼に迷いはない、何に代えてでも守り抜くと決めた。だからこそ、一と九を天秤にかけて一を選んだのだ。黒歌達はこれが覚悟なのだと改めて思い知らされることになり、今まで自分が抱いてきた覚悟というものが途端に安っぽく見えてしまう。
勿論、覚悟というものはその人その人で違うのだから優劣などつけられるはずがない。しかし、覚悟の強さという点ではルドガーの覚悟は非常に高いレベルにあると言えるだろう。そして同時に黒歌は彼がどれ程の覚悟で自分を守ろうとしてくれていたのかが改めて分かり思わず涙を流す。
しかし、彼女はまだ知らない、ルドガーにはこれ以上の覚悟を試される試練がまだいくつも待ち受けていることを。
『……無駄な犠牲は出したくなかったが、致し方ない』
『自信満々ね』
『なぜ私が、自分をカナンの道標と認識できているのか……それはこことは違う世界から来たお前達が教えてくれたからだ』
『分史世界のエージェントも、他の分史世界を破壊しているの!? 自分達の世界を正史世界と信じて……』
衝撃の事実にミラは俯き言葉を失う。彼女が何を思っているのかは分からないが、とにかくルドガー達が不利になったことには変わりがないであろう。何故なら、オーディーンは分史世界のルドガー達を倒してデータ化したのだから。そして今まさにエルもオーディーンの力によりデータに変えられようとしていた。
『きゃああーーー!!』
『エル!』
『させるか! うおおおっ!!』
エルを傷つけられたルドガー達は激情にかられ、オーディーンに目掛けて一直線に駆けだしていく。しかし、オーディーンはまるで計画通りだと言わんばかりにそれを以前と同じだと言い、剣を構える。
『お前達は激情に駆られ、隙だらけとなる!』
ルドガー達との戦闘はオーディーンの思惑通りに事は進んでいたはずだった。しかし、結果は以前とは違うものとなった。ルドガー達が勝ったのだ。その事にデータが違うとオーディーンは呟き、エルのデータを採取する。そして原因がエルだと分かるとエルに襲いかかって来るが、骸殻に変身したルドガーによってあえなく止めを刺されてしまう。
『違って当たり前だ。前に来たのが俺であっても……そいつは俺じゃない!』
『これが真のクルスニクの……すまない……トールの人々よ』
最後にトールの人々に謝りながらオーディーンは黒い霧となって消えていく。ルドガーはそれを見届けるとすぐに世界が壊れる中、エルの―――何よりも大切なアイボーの元に駆けよっていく。
正史世界に戻ると、エルは無事に目を覚ましてルドガーに抱かれる自分を見てポツリと呟く。
『エル、赤ちゃんじゃないよ……』
しかし、その時、雷が鳴り響きエルはルドガーの胸の中に思わず避難してしまう。そんなエルを見かねたルドガーは雷が聞こえないように、俺が守ってやると伝える様にエルの耳に優しく自分の手を添える。
『ルドガー……?』
『俺も雷が苦手でさ。兄さんがよくこうしてくれたんだ』
『ふーん。優しいんだね。メガネのおじさんも……』
そう言ってエルも同じようにルドガーの耳に手を添えて何やら顔を赤らめて小声でつぶやく。それに対して読唇術なんてものを持っていないルドガーは何と言ったか不思議そうにしていたが、まあ、エルの可愛い顔が見れたからいいかと考えるのをやめてエルを抱きしめる。因みに黒歌達はエルが何と言ったかはわかったが微笑ましい顔をしてあえて口にはしない。エルが内緒にしておきたいのだから内緒なのだ。そんな和やかな雰囲気が流れていたのだが二匹の猫の出現により空気は一変する。
『ちょっ! なにそれ!?』
『えーーー!』
『ルルが二匹!』
なんとそこに居たのは微妙に泣き声が違うものの瓜二つの二匹のルルだったのだ。驚くルドガー達と同様にルル達も自分に驚いたのか近づいて匂いを嗅ぎ合うが突如として片方のルルが薄くなって消えていく。
『き、消える! ひょっとして、この子は―――分史世界のルル!?』
ミラがそう叫んだときには片方のルルは完全に消えていなくなって一匹のルルが寂しげに鳴くだけだった。そしてそんな二匹のルルの結末にヴァーリはある結論に達する。
「正史世界では同じものは存在できない……というところかしら」
そしてそれはミラも同じだったらしく茫然としながらもたどり着いた結論から自らとミラ=マクスウェルも同じように同時に存在できないのではないかと考える。
『ミラ?』
『…っ! ど、どうしたの、ルドガー?』
『いや……顔色が悪そうだったからさ。今日は早く帰って宿で休もう』
『別にいいわよ……このぐらい平気よ』
『ミラに元気がないと俺に元気が出ないんだよ。だからさ……休もう』
真実に気づいているのか気づいていないのかは分からないが本気で心配そうな顔をして自分を気遣ってくれ、自分を必要としてくれるルドガーにミラは嬉しさを感じる。そして、同時にある感情の芽生えも感じるがこのタイミングではただただ、残酷なだけだった。
運命を刻む時計は彼女に告げる。残された時間は―――後僅か。
後書き
~おまけ、目指せ一番!~
エルに自分のスープを一番だと言わせるために、熊の手を調達しにノール灼洞に来たルドガーとミラ、そしてジュードだったが中々目的のクマが現れずに探し回っていた。
『いた、ルドガー?』
『いや、見つからないな』
エルとルドガーが、クマが見つからないと会話している所にミラが若干早歩きで近づいて来るがそのせいで躓いて転びそうになってしまう。
『きゃっ!』
『ミラ! 危ない!』
『ミラは俺が守る!』
そんなミラを見たルドガーが慌てて倒れないように支えに駆けだす。そしてルドガーは見事にミラが倒れるのを防ぐことが出来たのだが、その支え方に少々問題があった。
『あ、ありが……』
助けられたことに少し恥ずかしがりながらお礼を言おうとするミラだったがふと自分の胸に違和感を覚えて視線を下に下げると、そこにはルドガーの手があった。自分の胸を強く押し付けるように揉んだ状態で。
『ど、どこ触ってるのよ!』
『へぶっ!?』
ミラは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらルドガーの顔面を殴り飛ばす。その余りの勢いに押されてなすすべなく倒れるルドガーだったがその顔には若干の幸せが漂っていた。その後、なんとかルドガーの知っている料理のコツを教えることで許して貰えたのだがルドガーは窮地を脱したわけではなかった。
「まだ、私のも揉んでくれたことがないのに…っ! にゃふふふ……浮気にはお仕置きが必要にゃ!」
「ルドガー……一瞬でもお前を羨ましいと思った俺が馬鹿だったぜ。頑張って生き残ってくれ」
若干、光の無くなった眼でそんなことを呟く黒歌が帰ってきたルドガーにどうするのかは分からないがイッセーは取りあえずルドガーの無事を祈るのであった。
~おしまい~
だんだん、ドシリアスになってきて書くのがキツイです。
多分、ギャグはこれが最後だと思います。
次回は……ミラ=マクスウェルです。
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