英雄は誰がために立つ
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Life10 聖書の子らの新たなる道 -禍の団、強襲-
前書き
“若気の至り”それは後に“黒歴史”となる。
恋とは盲目成るモノ。一目惚れであれば直の事。
士郎は、大型のスナイパーライフルを即時射撃できる体勢で構えていた。
その狙い定められている人物は、白い翼に白い鎧を纏いながらテロリストたちを一方的に蹂躙していた。
つまり、奴が裏切るなら彼らは捨て駒だと言う訳だ。
「絶対に狙いは外さない。裏切りを見せたその時には・・・」
そんな剣呑な空気の中でただ、静かに構えていた。
-Interlude-
同時刻、職員会議室。
先の声の主がそこに居た。
カテレア・レヴィアタン。
旧・魔王の一人、レヴィアタンの血を引く末裔であり聖書における三大勢力の間でおきた戦争後、徹底抗戦を唱え続けた旧・魔王派の重鎮の一人。
胸元が大きく開いて、深いスリットも入ったドレスに身を包んでいる女性。
なんでも、世界を一度滅ぼしつくした後に、自分たちがこの世界を一新すると言うのが目的の様だ。
何ともありがちな事に。
そして、力の象徴として禍の団のトップを張っているのが、神すらも恐れる世界最強のドラゴンの二柱の内一柱、無限の龍神ことオーフィスだと言うのだ。
そんな説明後に、セラフォルーが悲痛に叫ぶ。
「カテレアちゃん!どうしてこんな・・・!」
セラフォルーの問いかけに、憎々しげに睨みながら怨念の様な呪詛を吐く。
そして――――。
「『レヴィアタン』の座に君臨したと言うのに、その称号を汚すなど万死に値するわ!何が『魔法少女』か!!」
この後、カテレア・レヴィアタンは今吐いた言葉に対して、深く後悔する事に成る。
「そんな!そもそも私が『魔法少女』に憧れたのはカテレアちゃんの影響だよ!!」
「な!?ななな、何を言ってる!」
『?』
セラフォルーの言葉に何故か慌てるカテレア。
言われた言葉に対して、遠い過去と記憶の彼方に確かに消し去ったはずの“何か”に体が怯えているかのようだ。
するとセラフォルーは自分の懐から、とある小型の映像機器を取り出した。
「さぁ!思い出して、カテレアちゃん☆そして、私と魔法少女をしましょう!!」
ギャスパーの『停止世界の邪眼』の神器を無理矢理に禁手化させたこの空間内であるにも拘らず、その機器は何故か稼働していた。
そして、カテレアの頭の中で何故か警報音が鳴り響いていた。
あの映像機器を何としても止めろと。
「待っ『――――♪――――♪――――♪』・・・・・・・・・!!?」
その映像には何と魔法少女が映っていた。魔法少女の衣装に身を包んだカテレア・レヴィアタンがそこにいた。外見は今よりも若く、人間で言えば16、7歳位に見える。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「セラフォルー、何だい?この映像は?」
思わず聞いてしまうサーゼクス。
「これは昔のカテレアちゃんだよ!私、これを見て魔法少女に憧れたんだ☆」
――――と。可愛く答えるセラフォルー。
その映像が流れている中、カテレアは・・・。
「あ・・・・・・ア、亜、阿、吾、あ―――――い、いやぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!?」
それはそうだろう。過去に消し去り或いは封印したはずの若気の至りが今、セラフォルーの手によって再び自身の目の前で顕現していたのだから。しかも、観衆付と来たものだ。
「止めなさい!止めて、辞めて止めて止めて止めて止めた止め待って止めてぇぇえええええ!!」
憤怒の形相になりながら闘牛の如く、赤い布に突っ込むように機器を停止させにかかるカテレア。
しかし、それを華麗に庇い躱す姿はまるで、さながらマタドールの様なセラフォルー。
そして、余程必死に突っ込んだのか、顔から床にダイブするカテレア。
「止めて、カテレアちゃん!これは私のお宝なんだよ!!」
「そんな物を!お宝にするなっ!!今すぐ寄越しなさい!いや、壊す!!!」
「ククククク・・・」
そこに火に油――――いや、火事に石油を運送しているタンクローリーを放り込む存在が現れた。
「何が可笑しいぃぃ!アザゼル!!」
「クク、他意が有る訳じゃねぇんだけどよ。さっきのセリフもなかなか中二病ぽっかたし、心の根底にはまだ若い時のお前さん自身が、あの言葉を言ったんじゃねぇかなぁ?と、思ってよ!だったら是はアレか?俺達みんなお遊戯会か何かにつき合わされてんのか?いい迷惑だぜ。残りの2人、ゼクスレイ・アスモデウスとシャルバ・ベルゼブブも難儀なこった」
心底馬鹿にしたかのような、不敵な笑みを浮かべるアザゼル。
シャルバと言うアザゼルの言葉に一瞬、反応するサーゼクス。
「貴様ぁぁぁ・・・!――――ウ、ウフフフ、貴様からまずは殺してやるアザゼルゥゥゥウウウ!そしてその後は、今この場で見ていたお前たちも皆殺しにしてやるわぁぁぁぁぁあああ!!」
どこまでも人を馬鹿にしたかのようなアザゼルと、最初の余裕さなど微塵も消え失せつつ、睨み殺せるのではないかと思えるほどの憤怒の形相のカテレア。
今この場で、『終末の怪物』と言われた一体の末裔と、神の子を見張る者の総督の戦いが始まろうとしていた。ひどい位の緊張感のない空気に満ちたこの状況下で。
-Interlude-
アザゼルVSカテレアが始まる直前にゼノヴィアと祐斗は、サーゼクスの頼みにより魔術師の掃討に来ていた。何とも言えない感情を心中に残したまま。
祐斗&ゼノヴィアVS敵魔術師の集団との戦況は、2人が圧倒的有利だった。
祐斗の聖魔剣が敵魔術師の防御障壁ごと切り払い、ゼノヴィアはデュランダルで校庭の地面ごと敵魔術師たちを無茶苦茶に薙ぎ払っていた。
そこに・・・。
「な、なんだ!?地面から・・・」
校庭の地面が所々に突然盛り上がったと思ったら、地底の岩などで形造られた人型の化け物――――ゴーレムが現れた。
更に、魔法陣から巨大なゴーレムも現れた。先に出てきた奴らよりは少ないが、屈強で実に防御力のあるだろうと思えるほどだ。さながら小さい巨人か?
「ゴーレムだと!?」
「魔術師だけでは心許なくなったのかな?」
そうして周りを見渡すと意外な事に、敵魔術師達も驚いていた。
「彼らも知らなかたって、如何いう事だろう?」
「そんな事は、後で数人生け捕りにして訊問すればいいだけだ、木場!今は、それよりも!」
デュランダルを片手に携えながら、人間サイズのゴーレム共に突貫していくゼノヴィア。
そして――――。
「――――ハッァァァ!!」
デュランダルを覆う聖なる波動を纏わせた斬撃で、周囲の小ゴーレムを蹴散らしていった。
「切り伏せるだけだ、木場」
「そうだね、ゼノヴィア」
ズッン、ズッン。
2人が息を合わせている間に、巨大なゴーレムの一体が近づいてきた。
「フン、木偶の坊が!」
「片付けよう!」
そうして今度は2人一緒にゴーレムに対して斬撃を放った・・・・・・が。
ギンッ、ガンッ。
「「何!?」」
ゼノヴィアは右肩、祐斗は左脇腹あたりに斬撃を送り込むも、両方ともほんの少し切り傷が出来ただけで弾かれてしまった。
これをチャンスと思い、敵魔術師達は魔力弾を放ってくるがそれらは簡単に切り捨てられる。
だがやはり、巨大なゴーレム共の進軍は止まらない。
「こんな木偶の坊に負けてなんていられない!私が藤村組や藤村家を・・・・・士郎さん達を守るんだ!」
「そう・・・・・・だね」
(だけどゼノヴィア、あの人はこの周辺の何処かに居るよ)
ゼノヴィアと祐斗対頑丈過ぎるゴーレムとの死闘が今此処に、開始された。
-Interlude-
同時刻、旧校舎。
ギャスパーは一誠の激励により自身を叱咤して根性を見せて、なんとか神器の制御を可能にしてこの場を収めた。だが・・・。
「あら?まだ、時間停止が続いている様だけど?」
そう、まだ完全に制御できた訳では無いようで、暴走で発生した停止世界の状況があまり変化していない様だ。
『す、すいませんんん!?もう一度!あれ?もう一度!あれれ?』
やはり変化が無い。そこで一誠が、直に幻想殺しの言葉を思い出した。
「あの人!幻想殺しさんから借りた、あれは何所だ?ギャスパー」
『え?・・・・・・あ、あーーー!?あれは確かこの段ボールの中に・・・・・・ありました!』
段ボールの中から、幻想殺しから借り受けた物を取り出す。
「それに思いを込めろ!そうすれば、幻想殺しさんに届いてあの人がこれの力で、この状況を元に戻せるはずだ!」
『は、はい!』
一誠に促されるままギャスパーは、思いのたけをそれにぶつけた。
-Interlude-
「!―――来たか、全て遠き理想郷!」
ギャスパーの思いを感じ取った士郎は瞬時に、もしものために貸しておいた己が半身の投影品の真名解放を行った。
それにより、ギャスパーを起点として霧が晴れる様に停止世界が消し飛んでいく。
「上手くやったようだな・・・・・・むっ!」
念話を送った訳では無いが、虚空に一誠達の活躍に賛辞を送っていたら、動きが有った。
校庭の空中でにてカテレア・レヴィアタンと激戦を繰り返していたアゼゼルを、横から白龍皇がエネルギー弾を当てた。つまり、裏切ったようだ。
「やはりか・・・。む」
白龍皇の一撃によりアザゼルが墜落した場所には、一誠達が転移して来ていた。
如何やら戦いが優勢になり余裕を幾らか取り戻したのか、ヴァ―リの傍らでアザゼルに話し込むカテレア。
そうして話し込んでいると、アザゼルが金色の鎧をまとい始めてカテレアとの戦いを再開し始めた。
「裏切りを確認、直ちに滅する」
引き金を引く、装填、引き金を引く、装填、引き金を引く、装填、引き金を引く、装填――――。
幻想殺したる士郎からの白龍皇に対する一方的な蹂躙が、今始まった。
-Interlude-
ヴァ―リが、ギャスパーの両目を一時的に封じた時にそれは起きた。
「がっ!?」
あらぬ方向からの一撃により、鎧が砕ける白龍皇。
「がはっ、何がっあっ!!?」
砕かれた箇所にまた“何か”が当たり、その衝撃とダメージにバイザーの中で吐血するヴァ―リ。
そして、もう一発同じ箇所に。
「ぐぁっっ!!?」
遂には堪らず地面から足を離して、吹き飛んでいく白龍皇。
単なる狙撃で何故こんなにもヴァ―リが一方的にされているかと言うと、銃弾に秘密があった。
まず、結界なり防御障壁を突破するにあたり、魔術術式を無効化する概念の残滓をある伝手で入手加工して尖端と中間手前まで2段構造で出来ている。
そして、中間部が本命。白龍皇対策として、名も無き聖剣の欠片と名も無き龍殺しの矛の欠片をこれまたある伝手で入所加工して組合わせた特製弾丸。
銃弾は障壁やを貫通時に当たり、突きった時には役目を終えたかのように凹んでおり、最後の本命が確実に標的へのダメージを負わせると言う寸法だ。
しかし、それ故に銃弾自体としてのダメージは小さく何発喰らっても出血は少なめだ。
こんな様々に歪んだ事実や、天使、神、悪魔、ドラゴンが珍しくも無く入り混じる平行世界の一つだ。
やり様によっては、手に入れられるものもあると言う事だ。
閑話休題。
目の前で何処かから、一方的に蹂躙されていく白龍皇の姿に、一誠とリアスの2人は困惑を強める。
「何が・・・一体、何が起きてるの!」
「アイツがこうも一方的に・・・」
見えざる敵から攻撃を直も受け続けているヴァ―リ。
「がっ・・・ごっ・・・ぐっ――――」
『ヴァ―リ、お前が受けているそれは銃弾と言う奴だ。それに、射線上の先を見てみろ!奴だ!』
ヴァ―リは喰らい続けながらも、眼を魔術で強化してアルビオンに言われるがまま、射線上を見る。そこで―――。
(幻想殺、がっ!)
またしても崩れ去るヴァ―リ。
だが確かに視界内に捉えた。
結界外のとあるビルの屋上から、大型スナイパーライフルを構えてこちらをスコープ越しから見ている。赤い外套に赤いローブ、骨の仮面で目元から鼻先まで覆っていた怪人を。
ガガ・・ザザ―――。
そんな時、校内の放送機器であるスピーカから雑音がした。そして――――。
『いいざまだな、白龍皇』
スピーカから幻想殺しである士郎が、何時もの様に声音を機械で変えた声でヴァ―リに吐き捨てて来た。
「きさ、ぐっ!?」
またしても躱せずに銃弾を受けるヴァ―リ。
『禍の団と言うテロ組織に、貴様の和平とはかけ離れた主義思想。これだけ揃っていたからな、貴様が裏切るのは理解していた。故に、サーゼクス閣下からの出席の頼みも断り、会談開始からほぼずっと結界外で貴様を狙っていたんだ。アザゼル総督殿には悪かったが、誰かに攻撃を当てないと裏切りの証明にならなかったから見逃したがな』
「そう言う事だったのか」
今の説明を結界維持をしていた内の一人であるサーゼクスは、漸く納得した顔をする。
『サーゼクス閣下並びにミカエル様。結界外から穴を空けといて何ですが、結界維持をお願いします。こいつは私が仕留めますので。それ以前に、処刑して構いませんよね?』
「ああ、構わない。責任は私が持とう」
『有り難う御座います。――――と言う事だ。貴様のような人種、誰が信用する者か!』
そしてまた銃弾がヴァ―リに向かって行く。しかし・・・。
「なっ、めるな!!」
吐血しながら体勢を戻しつつ、銃弾の射線上に何重もの魔術による防御障壁を展開しそれを防ぐ。
「何度も同じ攻撃が俺に通じると思ってるのか!幻想殺し!」
結界外に出るつもりなのか、障壁を展開しながら飛び上がるヴァ―リ。
『そうだろうな』
「!?」
変声機による声がスピーカからでは無く、近く―――いや、真横から聞こえて来たので驚くヴァ―リ。
そこには何と、結界外のビルの屋上に居た筈の幻想殺しが、人ならざる者が造ったとしか思えない程の華麗さと重厚さを誇っている大剣を構えていた。
士郎はヴァ―リに銃弾を放つと同時にその場を瞬時に跳躍しつつ、破魔の紅薔薇を投影して結界に人1人は入れるような穴を空けて、こうして結界内に侵入していたのだ。
因みに、直に破魔の紅薔薇は消してから大剣型の宝具を投影した。
ヴァ―リは疑問が先に頭を過ぎったが、その疑問を瞬時にねじ伏せると共に、体を捻り防御態勢を取ろうとした。
何故ならその大剣から、恐怖を感じたからに他ならない。
この距離では回避は間に合わない。その選択は見事と言えるだろう。しかしながら仕込みは既に済まされていた。
『壊れる幻想』
「がはっ!?」
防御するために折角体を捻り、上半身だけでも幻想殺しと向き合い防御障壁も展開したと言うのに、突飛過ぎる予測不能な右肩辺りからの小さい爆発の衝撃により、体勢が元に戻ってしまった。
一方、幻想殺し――――士郎の方は、計算通り予測通りだった。
先の爆発は、イリナが所持していた擬態の聖剣を投影して真名解放させたものを以前ヴァ―リが突如の訪問をした当日、肌の色に擬態させた欠片を付けて仕込んでいた。
それを先の様に爆発させたと言う寸法だ。爆発の威力の低さは内包されている神秘度の低さが理由として挙げられる。
だがしかし、何時の間に士郎がイリナの持っていた武器を解析して剣の丘に突き刺していたかと言うと、以前の路上でバルパー・ガリレイと共に居たフリードと戦ってから逃げる時に後を追って行った3人の内のイリナが武器を持っていたので、すれ違う時にチャッカリ解析していたのだ。
閑話休題。
士郎の思い描いた通りの展開だった。そして何時かの平行世界にて、彼の者の動きを垣間見ているので剣の真名解放前に経験憑依は済んでいた。
『校舎側まで退いていろ、眷属らっ!!巻き込みかねん!』
『!?』
士郎が、ゴーレムや敵魔術師と戦っているゼノヴィアたちに向かって叫んだ。
ギャスパーの神器、停止世界の邪眼の効果から駒王学園とその周辺は完全解放さたので、職員会議室に残っていたソーナにアーシアに朱乃に小猫の内の眷族3人は、サーゼクスの頼みによりゼノヴィアと祐斗の戦線に加わった所だった。因みに、残ったソーナは微力ながら結界維持の手伝いに回っている。
幻想殺しの言葉に思うところもあったが、直に全員言われたとおり一時引く眷属ら。
そして――――。
『幻想大剣――――』
そして、龍殺しの宝具が解放される。
『――――天魔失墜ッ!!』
幻想大剣・天魔失墜。
ニーベルンゲンの唄に登場する悪龍ファーブニールを討取った龍殺しの騎士、ジークフリートの伝説の剣。
それがヴァ―リに直撃した瞬間、黄昏の光が解放されると同時にその下に居たゴーレム及び敵魔術師たちの半分程をも巻き込む位の広範囲の剣気に包み込まれた。
「ぐっがぁぁぁぁああああああああ!!!」
その威力を一番モロに喰らったヴァ―リは文字通り、天から地に失墜した。
ふぅと、ため息をつく幻想殺しが地に着いたと同時に、黄昏の光が晴れて巻き添えで飲み込まれたゴーレム及び敵魔術師のいた校庭には、巨大なクレーターが出来ていた。
そんな戦況とは他所に、カテレアVSアザゼルとの戦いに先程の威力の余波を受けて、自爆されまいと自分の右腕を敢えて切り捨ててから左腕から出現させた光の槍をカテレアに当てた部分がずれてしまい、事前にレヴェルから受け取っていた護符などの効果にもより消滅を待逃れたカテレア。
しかし、ダメージが大きいのは他ならなかったために、カテレア・レヴィアタンは意識を手放して崩れ去った。
「っ!トドメ指すか・・・」
自分で切り捨てた右腕の痛みを瞬時にねじ伏せると共に、左の掌から光の槍を創り出して振り上げる。しかし、そこで・・・。
「待って、アザゼル!」
倒れたカテレアを庇う様に、アザゼルの前に現れたセラフォルー。
「何の真似だ?レヴィアタン」
「お願い!殺さないであげて!私がカテレアちゃんを説得して見せるから!!」
涙を流しながら必死に訴えるセラフォルー。
「・・・・・・説得つったって、如何する「それには私も協力するよ」ふぅー、お前もかサーゼクス?」
上から声がするので見上げると、結界を維持しながら此方に顔を向けるサーゼクスの姿があった。
「――――とは言っても、それだけでは我ら側の政府も納得しないだろう。それ故、渦の団に関わる尋問を最優先に行いながらならば、何とかなると思う。それで如何だろうか?アザゼル」
サーゼクスの言葉に深い溜息を吐いたアザゼル。
「・・・・たくっ、現魔王は甘い奴ばっかだな・・・だが、筋は一応通ってるからいんじゃねぇのか?・・・但し!」
「解っている。厳重な拘束をした上でだろう?セラフォルーもそれで構わないね?」
「うん・・・・・・ありがとう☆サーゼクスちゃん!」
――――と言う形で纏まった様で、セラフォルーがアザゼルの立会いの下、カテレアを拘束していく。
そこで、先程の攻撃後も戦闘を再開している幻想殺しへ顔を向けるアザゼル。
「――――にしても幻想大剣・天魔失墜だと?野郎はマジで何もんなんだ?」
遠目から見て戦況は極めて優勢だ。先の大ダメージによる負傷により、防戦一方に陥っているヴァ―リの姿を捉えることが出来た。
アザゼルは本物のジークフリートに会った事が有る訳ではないが、その子孫なら知っていた。
そして、幻想大剣・天魔失墜の所持者はその子孫であり、教会内の人間であることも確認している。今は知らないが。
「これが終わったら、奴に説明してもらう必要があるな」
などと呟きながら、歴代最強と言われていた現白龍皇が徐々にボロボロになる姿を、哀愁を漂わせながら静かに見守っていた。
-Interlude-
そんなかの地の様子を、結界外から監視している存在がいる。
その人物は、三大勢力の軍勢たちからも視認されない位置に居た。
服装を見る限り、所在地不明のある屋敷にてレヴェルからキャスターと呼ばれていた魔術師だ。
「―――ふむ、状況は劣勢。魔王の一人は拘束され、白き龍は押されている。そして、僕のゴーレムたちも攻略されつつあるか・・・。それにしてもあの魔術師は規格外だな・・・・・・と言うか、若しかすれば炉心に使えないだろうか?試してみる価値もあるし、此処は一石二鳥と行こうか。出番だバーサーカー。この状況は文字通り君の好みだろう?見事ひっくり返せるならひっくり返すんだね。そこに興味は無いが・・・レヴェルに念話を送っておこう。アサシンの中の一体を借りられないかと」
などと思考しながら、戦場の中心に今宵最大のバーサーカーを落とすのだった。
-Interlude-
「ハァアア!」
「ふん!」
ゼノヴィアと祐斗の得物が、巨大なゴーレムの関節部を切り裂いた。
如何やらこの巨大ゴーレム、動くときに関節部分が僅かに強度が薄まるようで、強い斬撃を連続で叩きこめば切り倒せるようだ。
それに加え、2人が巨大ゴーレムに集注しやすい様、朱乃と小猫が小さいゴーレム及び敵魔術師を屠り、アーシアが回復による後方支援と言う陣形で戦況を有利に持って往っていった。
更には、先の幻想殺しの広範囲攻撃により、敵の数も減った事にもあるだろう。
攻撃のあまりの威力と、その後に出来たクレーターにはトンデモナク驚いた事だが。
そんな優勢の最中に、ゼノヴィアと祐斗の2人の前に魔法陣が浮かび上がると同時に巨大な“何か”が、辺りを埋め尽くす煙と共にマナを溢れ返させながら召喚された。
ズンッッ!!
この衝撃により敵味方問わず、ほぼ全員の視線を独占した。
そしてただ一人だけ、この状況を利用する者が現れた。
『Divide』
白龍皇の宝玉から音声が聞こえると同時に、チャッカリ自分の足元まで流れてきたマナの残滓に触れて、半減吸収した上で回復に使ったヴァ―リだった。
「これで少、がはっ!?」
『意外と姑息だな、白龍皇』
回復した瞬間に、幻想殺しからよりよく気が練り込まれた蹴りを喰らい、堪らずに軽く吹き飛ぶヴァ―リ。二転三転バウンドしてから倒れ込んだ。
それを見送ってから少し視線をゼノヴィアたちに送ると、煙が晴れていき現れる存在に眼を剥いた。
一目見て分かる。あれは・・・。
-Interlude-
ゼノヴィアと祐斗の前の煙が晴れた。
そこには青白い肌に汚れた金髪、全身に拘束具を纏った巨漢だった。
「な、何?」
「人間?」
少し離れた地点に居る朱乃と小猫は、困惑の色が深かった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その巨漢は、無言で周りを見渡すと状況を理解した。但しこの存在の勝手な判断力により。
「何とも痛ましい・・・・・・状況はレジスタンスが劣勢、そして優勢なのはやはり圧政者の走狗達か。何時の世も弱者は一方的に虐げられるものだな」
言葉だけ見れば、何とも悲しそうに呟いている巨漢。
しかし、彼の瞳には喜悦と狂気、体は闘気に満ち溢れていた。
「だがしかし、それもこれまで!――――さあ、圧政者よ。傲慢が潰え、強者の驕りが蹴散らされる刻が来たぞ!」
その存在感を露わにしながら大声を辺りに響かせる巨漢、バーサーカーは嬉々として吠えた。
そんな存在を目の前に、根源的恐怖に襲われた上で性格が災いしたのか、無策のまま突っ込むゼノヴィア。
「ちょ!?ゼノヴィア!」
祐斗からの制止も振り切り、バーサーカーに斬りかかる。
しかし、それをバーサーカーは左腕で受けた。
「な!?斬れないだ、とっっ!?」
自分の腕にそれなりの実力と自信を持っていたゼノヴィアは、この事に驚くが事態がそれを長続きさせてもらえなかった。
受けていないもう片方の腕が、彼女に伸びたのだ。
何とかそれを回避しつつ後方に引いたものの、指先が掠ったのか彼女に予想外のダメージを負わせる。
ごほっ。
ほんの少し掠っただけで彼女の内臓にダメージが行ったのか、少し吐血するゼノヴィア。
「大丈夫?」
「げほごほ・・・ああ、何とかだが」
息を整えながら自身を落ち着かせるゼノヴィア。
「ハハハハハ!圧政者の走狗よ、私はその程度では蹂躙できぬぞ!」
今も直笑ってくる巨漢に、先程とは比べらること自体烏滸がましい程の恐怖を感じたゼノヴィア。
祐斗に支えられながら、ある言葉をバーサーカーに向けて解き放った。
「私を・・・・・・私を押し倒していいのは、士郎さんだけだぁぁぁあああああああああ!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・は!?』
何をトチ狂ったのか、そんな言葉を大声で叫ぶ始末。
これには、理解できなかったのかバーサーカーの進軍が止まり、辺りの視線を今度はゼノヴィアが独占した。
相当な大声であった故、ほぼ全員が聞こえていたが士郎だけは何故か可笑しなことになっていた。
(「私を押し倒したいのなら新郎姿になれ」って、何を言っているんだ?)
敵味方問わずほぼ全員聞こえていた上に、眼ほどでは無いが耳も良かったはずの士郎は運命の悪戯なのか、アホな聞き間違いを1人だけしていた。
だがそんな士郎は置いて行かれ、ゼノヴィアはさらに続ける。
「いや、寧ろ押し倒されたい!「ちょ!?ゼノヴィア、何言って」だがそれは無理だ!士郎さんはあまりに鈍感すぎる!!家では無理だ、イリヤさんの厳しいチェックの目が有る。クソッ!もはや私には主のご加護を受けられないと言うのか!!この畜生風情が!私を押し倒していい道理なぞ、何所にも有りはしない!」
ゼノヴィアのあまりにも可笑しいカミングアウトに、職員会議室に残っている一人の導師ルオリアは頭を捻りながらミカエルに聞く。
「彼女――――ゼノヴィア君と言いましたね?あのように公共の場でも、あんなことを口走る娘だったのですか?」
聞かれたミカエルは頭痛でも起きたのか、片手で頭を押さえながら答える。
「そんなはずは無かったと思うんですが、サーゼクス。人が悪魔に転生した場合、おかしくなるものですか?」
「絶対では無いが有ると思う。しかし、彼女と初めて会った時の印象からして、そんな娘では無いように思えたんだけどね」
職員会議室に残っている各主要人は、ゼノヴィアのカミングアウトにそれぞれの反応をする。
そして、そんな理性が弾け飛んだような言葉を受けたバーサーカーは・・・。
「フハハハハハハハハハハハ!何時の世も圧政者の走狗は、我らに理解しかねる事を言うものだ。それに私を畜生と呼ぶ貴様は正しく、圧政者の狗よ!さあ、嬲ってみろ!!」
大きな腕で自身の胸を強く打ち付けるも、外傷は何らなかった。
先程はゼノヴィアに指の先を掠めただけで大ダメージを与えたにも拘らず、その体はまるで金剛のようだ。
恐らく、齢攻撃では掠り傷一つも付けられはしないのだろう。
そして、バーサーカーの言葉を正面から受け止めたゼノヴィアは・・・。
「まさか貴様!?マゾヒストか!畜生風情が私にサディスティックを求めるなど・・・!寧ろ、士郎さんに嬲られたいのは私の方だ!!押し倒されてから〇〇〇〇〇〇〇〇が〇〇〇〇〇〇〇〇〇のところで嬲られながら――――」
ゼノヴィアの口から出る言葉に、アーシアや小猫は頬を赤らめ朱乃も「あらあら♪」と言いながら頬を赤らめる始末、一番近くに居る祐斗に至っては実に居心地が悪そうだった。
「――――〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇になって強く抑え込まれながら、〇〇〇〇を〇〇〇〇〇〇とかされたいんだ!!だがそれは非現実的過ぎる!ロマンに溢れすぎているんだ!インポッシブルだ!!!クソッ!最早この世には主は御在らせないと言うのか!ッ――――ああ、今は亡き主よ!主は私にどれ程の苦難試練を与えるのでしょうか?アーメン、うぐっ」
悪魔に転生したアーシアとゼノヴィアは祈る度にダメージを受けるので、それを如何にか出来ないかと言う一誠の頼みをミカエルに快諾させはしたが、まだ会談中だったので当然ダメージを受けるゼノヴィア。
「ゼ、ゼノヴィア、僕もこれでも一応男なんだよ?すごく居心地が悪いん「心配するな、木場!」な、何が?」
「私はお前の事や、イッセーの事も仲間だという認識は既に確立してはいるが、異性としての好意は持ってはいない!!だから、心配するな!」
別にゼノヴィアに異性としての好意を持っている訳では無いが、そこまで断言されると何とも居た堪れない気持ちになる祐斗。
「フハハハハ!何時の世も圧政者の走狗は自分たちが追い込まれると、神に縋るモノだな!最早その姿は哀れな人形でしかない、せめてわが剣と拳で眠りなさい」
あの様なカミングアウトを受けても、平然としながら自分の思考回路を絶対のモノだと考えて進撃を再開するあたり、この巨漢も矢張り立派に狂っていた。
ノロノロとしながらも、敵を覆うような体勢でゼノヴィアと祐斗に殴り掛かっていく。
このバーサーカーはそこまで速くないので、防戦及び回避するだけなら対応する事も難しくは無いのだが、攻勢にでなければ新校舎に辿り着かせてしまう。
「木場、援護してくれ!打って出る」
「ちょ!?ゼノヴィア!?あー、もうっ!」
祐斗の返事を聞かぬまま飛び出すゼノヴィア。
デュランダルを片手に、バーサーカーの懐に潜り込むように駆ける。
そうはさせまい――――と言う訳では無いのだろうが、自分に目掛けて向かってくる走狗を蹂躙しようと小剣を持っていない左手で、殴り掛かろうとする。
「くっ、ふっ・・・」
辛くもそれを避けるゼノヴィア。
先程の時点で指先が掠っただけで大ダメージを受けると理解している故、慎重かつ迅速の避け続ける。
「ふん」
片腕だけでは埒が明かないので――――と言う思考よりも、圧政者へより迅速に辿り着き屠ることを使命としている為、使っていなかった小剣 をただ単に振るった。
それを・・・。
「木場!」
「ハイハイッ!」
後ろを向かずに援護を頼むゼノヴィアを、人の返事を聞かずに突っ込む故に少々自棄になっている祐斗が魔剣創造で強固さをイメージして創り出した金剛剣で受け止める。
「ぐぅっっっ!!!」
ズブリ。
泥沼でもないのに足が地面に沈む。
魔剣のイメージとしては正解だが、下から受け止めてしまったために重力加速度も加わった衝撃により、体に震動が響き地面ごと足が沈んでいった。
しかし―――。
「――――今だ、ゼノヴィア!」
「ああ!」
祐斗の思いに応えるべく懐に潜り込むようにする体勢をフェイントに、左脇に潜り込んだすぐ後に、左の首筋にデュランダルで切り込む。
「これで――――如何だ!!」
少しだが切り裂いた痕が出来、鮮血が舞う。
人体で言えば急所の一つだ。しかしそれは人間では無く“英霊”であり、耐久値に至っては計測不能のEX。
だからなのか、躊躇いも戸惑いもせずに笑みを浮かべたまま裏拳の要領で拳をゼノヴィア目掛けて放った。
「クッッ!?」
それは過去、教会の戦士として今まで戦い続けてきた直感の賜物かはたまた偶然か、咄嗟の判断力でデュランダルでバーサーカーの手甲を受け止める。
ズォオオ。
「グゥッッ!!」
衝撃は受け止めきれずに、そのまま地面に叩き付けられた。しかし、落ちた場所が悪かった。
「!?」
横向き状態で倒れていると、後ろから存在を感じるゼノヴィア。
「逃げて下さい、ゼノヴィアさん!」
アーシアの悲痛の叫びが耳を打った。
それに反応して振り向くと、ゴーレムの大きな掌のみが見えたゼノヴィア。1メートル程しか間が空いてなかった。もはや防御も回避も間に合わぬ。
ズッォン!
ゴーレムの掌がゼノヴィアを押し潰そうとする瞬間、赤い“何か”が通り過ぎて行ったのを何人かが確認した。
しかし、傍から見ればゼノヴィアの運命は決定的。
だが、ゼノヴィアがいた地点から少し離れた場所に砂埃が舞っていた。
外からは誰かにお姫様抱っこの状態で、持たれているゼノヴィア。
そして、彼女を支えている“何か”は――――。
後書き
士郎の知り合い5人の内1人を、オリジナルサーヴァントとして考えていたんですが、既にType-moonのある作品で出ているのでびっくりしました。
危うくオリ鯖で出すとこでしたよ!あっぶねぇ!まぁ、ある理由で性格やら外見年齢など変わっているので、ややオリジナル入っていますがねww
では、次回お会いしましょう!
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