嵐神の炎
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1部分:第一章
第一章
嵐神の炎
「炎よ」
片目の男がいた。右目がなく唾の広い帽子でその右目のところを隠している。黒い服にマントを羽織りだ。白く長い髭と髪を生やした鼻の高い老人だった。その右手には槍がある。
彼はだ。目の前に燃え盛る炎に対して語っていた。
「聞こえているな」
「私を呼んだのは誰か」
炎のところから声がしてきた。
「誰なのか」
「私だ」
男はこう炎に答えた。
「私だ」
「ヴォータンですか」
炎は彼の姿を認めて言ってきた。
「貴方がですか」
「そうだ。私は今知恵を欲している」
「知恵を」
「そなたは知恵を持っているな」
炎を見ながら彼に問う。自分の前一面に燃え盛るその紅蓮の炎をだ。生き物の様に燃え盛るそれはだ。壁にも見えるまでに高く燃えてもいる。
その炎を見ながらだ。彼は言うのだった。顔を赤く照らされながら。
「この世を照らす光を」
「照らすかどうかはわかりませんが」
「うむ」
「今貴方は炎を手にしてはおられない」
炎はこうヴォータンに告げてきた。
「それは確かですね」
「そなたを誰も手にしてはいない」
これがヴォータンの炎への返答だった。
「そうだな」
「確かに。その通りです」
「しかしだ」
ヴォータンは槍で炎を指し示した。そのうえでの言葉だった。
「私は今からそなたの知恵を借りる」
「私の知恵を」
「全てを照らし熱し焼く。その知恵をだ」
「そしてこの世を治められるのですか」
「この世は神々が治めるものだ」
「光の精達がですね」
「そうだ。そして炎よ」
また炎に語りかけた。
「そなたもまた神になるのだ」
「ふむ。私が」
「神になるのだ」
再度炎に告げた。
「そうしてそのうえでだ」
「そのうえで」
「知恵を貸すのだ。私にだ」
「今この世は誰も治める者がいません」
炎からも言ってきたのであった。
「そう、誰もです」
「そして秩序がない」
「人間達も生まれたばかり。それでは」
「治めるのは神々だ」
あくまで自分達だというのだ。そしてだ。
彼は槍をさらに前に突き出した。右手だけで持ったままだ。
そのうえでその穂先を炎に触れさせると。炎は変わった。
赤い燃え盛るような服を着た赤い髪の男になった。やや吊り上がった赤い目をしていて顔は細い。やはり鼻が高く何処か皮肉な笑みを浮かべている。
そうした姿になってだ。そのうえでヴォータンに言ってきたのだった。
「さて、それではです」
「それではか」
「私は貴方に知恵を貸せばいいのですね」
「そうしてくれるな」
「はい。ただ」
ここでだ。男はこうも言った。
「私にはまだ名前がありません」
「名前がか」
「炎、強いて言えばそれが名前ですが」
「そうだな。それならばだ」
「はい、それでは私の名前は」
「ローゲか」
ヴォータンはここでこの名前を出したのだった。
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