歪みすぎた聖杯戦争
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2話 運命は狂いだす
前書き
この作品のキャラはオリキャラ以外にも、7部ジョジョのパラレルワールドの登場人物のように、本来の登場人物とは違う名前、喋り方になっていると思いますが、その辺はご了承ください。
イギリス時計塔。魔術協会の総本山であり、魔術を学び『根源』を目指す者たちにとっての最高学府である。聖堂教会と勢力を二分する一大組織だ。
「バカにしやがって! バカにしやがって! バカにしやがって‼︎あれが講師のやることか⁉︎
あいつ、僕の論文を読んで嫉妬したんだ! 僕の才能を恐れたんだだからみんなの前であんな真似を……」
ウェイバー・ベルベットの才能は、誰にも理解されたためしがなかった。
魔術師として、さして名のある家門の出自でもなく、優秀な師に恵まれたわけでもない少年が、なかば独学で修行を重ね、ついには全世界の魔術師を束ねる魔術協会の総本部、通称『時計塔』の名で知られるロンドンの最高学府に招聘されるまでに到ったという偉業を、ウェイバーは何人たりとも及ばぬ栄光であると信じて疑わなかったし、そんな自分の才能を人一倍に誇っていた。
我こそは時計塔開闢以来の風雲児として誰もが刮目するべき生徒であると、少なくともウェイバー個人はそう確信していた。確かにベルベット家の魔術師としての血統は、まだ三代しか続いていない。
先代から世継ぎへと受け継がれ、蓄積されていく魔術刻印の密度も、世代を重ねることで少しずつ開拓されていく魔術回路の数も、ウェイバーは由緒正しい魔術師の家門の末裔たちには些か劣るかもしれない。時計塔の奨学生には、六代以上も血統を重ねた名門の連中が珍しくもなく在籍している。
魔術の秘奥とは一代で成せるものではなく、親は生涯を通じた鍛錬の成果を子へと引き継がせることで完成を目指す。代を重ねた魔導の家門ほど力を持つのはそのせいだ。
また、すべての術者が生まれながらにして持ち合わせる量が決定づけられてしまう魔術回路の数についても、歴史ある名家の連中は優生学的な手段に訴えてまで子孫の回路を増やすよう腐心してきたのだから、当然またここでも新興の家系とは格差がつく。
つまり、魔術の世界とは出自によって優劣が概ね決定されてしまう……というのが通説である。
だが、ウェイバーの認識は違った。歴史の差などというものは経験の密度によっていくらでも覆せるものである。
たとえ際立った数の魔術回路を持ち合わせていなくても、術に対するより深い理解と、より手際の良い魔力の運用ができるなら、生来の素養の差などいかようにも埋め合わせがきく──と、ウェイバーは固く信じて疑わなかったし、自らがその好例たらんとして、ひときわ積極的に自分の才能を誇示するように努めてきた。だが、現実はどこまでも過酷だった。血統の古さばかりを鼻にかける優等生たちと、そんな名門への阿諛追従にばかり明け暮れる取り巻きども。
そんな連中こそが時計塔の主流であり、ひいては魔術協会の性格を完全に決定づけていた。講師たちとて例外ではない。
名門出身の弟子ばかりに期待を託し、ウェイバーのような''血の浅い''研究者には秘の伝承どころか魔導書の閲覧すら渋る有様だ。なぜ術者としての期待度が血筋だけで決まるのか。
なぜ理論の信憑性が、年の功だけで決まるのか。誰もウェイバーの問題提起に耳を傾けなかった。
講師たちはウェイバーの論究を煙に巻くような形で言いくるめ、それでウェイバーを論破したものとして後は一切取り合わなかった。あまりにも理不尽だった。
その苛立ちはますますウェイバーを行動へと駆り立てた。
魔術協会の旧態依然とした体制を糾弾すべく、ウェイバーがしたためた一本の論文。
その名も『新世紀に問う 魔導の道』は、構想三年、執筆一年に亘る成果であった。持論を突き詰めつつ噛み砕き、理路整然と、一分の隙もなく展開した会心の論文。
審問会の目に触れれば、必ずや魔術協会の現状に一石を投じるはずだった。
それを──事もあろうに、ただ一度流し読みしただけで破り捨てた降霊科の講師。
名をケイネス・エルメロイ・アーチボルトといった。九代を重ねる魔導の名家アーチボルトの嫡男であり、周囲からは『ロード・エルメロイ』などと呼ばれもてはやされている。
学部長の娘との婚約をとりつけて、若くして講師の椅子まで手に入れたエリート中のエリート。
ウェイバーがもっとも軽蔑してやまない権威を体現する、鼻持ちならない男であった。
『君のこういう妄想癖は、魔導の探求には不向きだぞ。ウェイバーくん』──高飛車に、声音には憐憫の情さえ含めながら、冷ややかに見下してきたケイネス講師の眼差しを、ウェイバーは決して忘れない。
ウェイバーの十九年の生涯においても、あれに勝る屈辱は他にない。
仮にも講師職を務めるほどの才を持つのであれば、ウェイバーの論文の意味を理解できないはずがない。いや、理解できたからこそあの男は妬いたのだろう。
ウェイバーの秘めたる才能を畏怖し、嫉妬し、それが自らの立場を危うくしかねない脅威だと思ったからこそ、あんな蛮行に及んだのだ。
よりにもよって────智の大成たる学術論文を破り捨てるなど、それが学究の徒のやることだろうか。許せなかった。
世界に向けて問われるべき自分の才覚が、ただ一人の権威者の独断によって阻まれるなどという理不尽。だがそんなウェイバーの怒りに対し、共感を寄せる者は、誰一人としていなかった。
それほどまでに魔術協会は──ウェイバー・ベルベットの観点からすれば──根深いところまで腐りきっていた。そんな屈辱を受けたウェイバーは廊下を歩きながら、廊下で愚痴を垂れていたわけだが。
「うわぁっ」
愚痴を言っていたせいか、周りが見えておらず荷物の運び途中の人ぶつかったのだ
「あぁ すまないね 大丈夫かい?」
「あっ いえ大丈夫です」
「君はここの学生だよね? 講義はどうした」
「あっ …その…」
言えない まさか 講義を馬鹿にされたので、出て行きました。
なんてとても恥ずかしくて言えない
何か言い訳をしなくては
「ア…アーチボルト先生に用事を頼まれちゃって 急いでて…」
「そうか、丁度よかった これを、アーチボルト先生に届けてくれるか?あと此れはついでなんだがこれも図書館に届けてくれるか?」
運び人の人はそう言いながら、ウェイバーに封筒と小さい箱をを渡してきた
「これ..ですか?」
「うんそれじゃ、頼むね」
そう言いながら、荷物運びの人は行ってしまった。
残された、ウェイバーはまず箱を見たが
(送り元は…駄目だ...読めない)
送り元が分からないので、次にウェイバーはその封筒を勝手に開け
中身に入っている書類を見ようとした。ケイネスの書類ときいて本来ならば人のものを勝手にみてはいけないのだが、ウェイバーはある予感に駆り立てられたため、おもむろにその書類を読もうとした瞬間に、ある文字に目が止まった。それにはこう書かれていた
「……聖杯戦争…」
○○○○○○
聖杯戦争のことを教えてもらったがプッチには未だに信じられなかった
それはそうだ、死んだと思い目を覚ましたらよくわからない空間に居て
そしたら、セカイという名前の青年が表れ、そしていきなり私に向かって言った事だ 聖杯戦争に参加して欲しい 。
いきなりそんな頼みごとをされて''はい!やります‼︎''なんて快く受けるどっかのお人好しキャラでは無いプッチには迷惑このうえないことであり、もちろん当初は
''そんなものは、私は知らん! それに私に頼まなくとも、セカイ、君が行けばいい話じゃないか。''
と頭ごなしに否定していたが
『いや〜非常〜〜〜に申し訳ないんだが、聖杯戦争と言うものは、元々霊体の僕では参加できないんだよ〜 それに、今の僕は酷く弱ってて、今はここに居て回復しないといけない危ない状態だからさぁ プッチに頼むしかないんだ」
そう全く誠意のない弁解だが、嘘ではないだろう。現にこうやってわざわざ私を助けているのだから、だからと言って受ける気はなく、私にやるべきことがあるということで現世に戻して欲しいと言ったのだが
『魂のままで現世に行こうとすると、直ぐに消えて無くなるよ〜』
それは困る。 折角、助かったのだ どうにしかて現世に戻り、天国を完成させなければいけない。こんなとこで何時迄も時間を浪費するわけにはいかないのだ。何か方法はないか? と考えているとセカイが
『だからぁ〜 聖杯戦争に参加し勝てば、君の望みは叶うんだよ』
バカバカしい…今までの話が本当だとしてもなんで私が、なぜそんなことをしなきければいけない……
『フッ くだらんとりあえず私は、元の世界に帰らせてもらう!』
『……知ってるよ…今の君は力を失っている。そんなんでは君の目的は達成できないじゃないのかね?』
『私の目的を知っているのか⁈』
『いや、そこまで詳しくは、知らないが プッチが力を失っているのはさっきの慌てている姿を見てね、そんなに焦ってるってことは君の目的に関係してると思ったからね。』
『…………』
『さぁ どうするプッチ? 今の君は何とか助かったが、そのままでは、現世に帰ったとしても 目的を達成することもできない… だが、我々に協力すれば、現世に帰るための肉体も手に入り、目的を達成するための力も取り戻せる さぁどうする?協力するかしないかは君の自由だ』
このセカイの言っていることは正論だ このままでは埒があかない
今、現世に戻れたとしてもメイド・イン・ヘブン が無ければ意味がない
だとすれば、打開策としてセカイの言っている 聖杯戦争 というものに参加して勝つしかない…ここで維持を張っても仕方ない
『分かったセカイ…君の言っていた聖杯戦争に参加しよう』
『さすがプッチ、君なら、引き受けてくれると思ったよ』
『だが セカイ 君にそれだけの力があるんならこんな方法を取らなくてもいいんじゃないのか?』
『 今までなら、軽くやれることだったんだけど、先程も言ったように今の僕はこう見えても、ものすごく弱っていてね。だからこそ、聖杯戦争に目を付けたわけさぁ」
そう言ったのだ、まぁ詳しく言えば聖杯の力で、セカイの力を回復すればあとはなんでも出来るらしいので、勝ったら まず聖杯の力でプッチ自身を受肉して、残った魔力をセカイに渡して復活させてあげればいいとのことだそうだ。
そうやってさっきまでの会話をこうやって思い返すと、一つ疑問が出てきた
「もし、私が聖杯戦争に勝ってそのまま聖杯をそのまま持って逃げたらどうするつもりだ?」
すると、セカイは困った表情もせず、にこやかに言った
「それは無理だ まず聖杯をどう扱えばいいか、魔術師でもない君がわかるはずもないからその点は大丈夫だよ」
「確かにそうだな、わかった ……待てよその前に私も霊体だし、それに令呪というものも持ってないだんだぞ?」
その質問に''すっかり忘れたな〜''と小言を言いながら
「ごめん ごめん! 忘れてたわ〜」
そして、プッチに近づきプッチの右手を持ちながら、セカイが聞き取れない何かを発した、その瞬間
「っ⁉︎」
右手に鋭い痛みが来る、なんだこれはと思い右手を見たらその瞬間にプッチの右手の甲には赤い紋章が浮かび上がった。
「こっこれが…」
「そっそれが令呪 っと言ってもそれは、擬似的な令呪だからね 本物には劣ると思うけど、それでも令呪の命令権は充分だと思うから」
そう言った彼だが、今のでかなりの力を使ったのだろう 腰を下ろしてしまったようだ
「ハ……ハァハァ…大分、疲れたよあとはプッチを冬木市に送るだけだが、召喚による儀式と召喚の呪文は忘れてないよな、それとプッチには渡さなきゃいけないものがある」
そう言った彼は手を前に出した すると光の線が、一種のゴムのようにプッチの身体にくっつく
「あぁ 勿論、忘れてはない」
特に変わった感じはしない何だ?
「さっきもプッチは言ってたが、ハァ…霊体のままだからね僕の……力をあげたんだよそれで半週間は持つよ、 ……それともう一つは今のままじゃ君は無力だかね 僕の力の一部と君にとっての懐か…しいものをあげるよ」
そのまま彼のおでこから、光の玉が出て行きそのままプッチの頭に入り込んだ
そしてセカイが手からプッチに差し出してきた それはプチにとって馴染み深いもの
矢だった
「その矢は君が知ってるとおり、君たち........の言うスタンドを引き出す矢だ
だがあいにくと.....それは一回刺したら消えると思う.....から気を付けて、
誰かに.......間違っても刺さないように、あと最後に此れを」
セカイはプチに向かって投げてきたが、瞬時にプッチはそれを掴む
見るとそれは、青い球だった
「聖杯をとったら、それを割ってくれ……直ぐにそちらに…駆けつける
君が冬木市にいる間は、僕はここにいる…..から、弱った力を少し.....でも
休めて回復し...ないと」
そう言いながらセカイは指を鳴らしたすると、プッチの前方には空間の穴
が出てきた この空間の向こうに冬木市がある。
そう考えてるとセカイが横目で見るなり話しかけてきた
「言い忘れて...たけど、プッチ 君は正式には8人目のマスターと言うことになるから呉々も、目立つ行動……を慎めよ」
プッチはその言葉は聞こえてはいたが、あえて反応せずにそののまま冬木市へと繋がる空間の中へ進み消えていった。
○○○○○○
「確か、ここにあるはずなんだけど」
ウェイバーは時計塔の図書館に今いる、そして、彼はある本を探していた
「あったこいつだ」
(ケイネスの奴が、近く極東の地で場所で行われる魔術の競い合いに参加するって噂、本当だったんだな)
神秘学の語るところによれば、この世界の外側には次元論の頂点に在る''力''があるという。
あらゆる出来事の発端とされる座標。それが、すべての魔術師の悲願たる『根源の渦』……万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを創造できるという神の座である。
そんな''世界の外''へと至る試みを、およそ二百年前、実行に移したものたちがいた。
アインツベルン、マキリ、遠坂。始まりの御三家と呼ばれる彼らが企てたのは、幾多の伝承において語られる『聖杯』の再現である。あらゆる願望を実現させるという聖杯の召喚を期して、三家の魔術師は互いの秘術を提供しあい、ついに''万能の釜''たる聖杯を現出させる。
……だが、その聖杯が叶えるのはただ一人の人間の祈りのみ、という事実が明らかになるや否や、協力関係は血で血を洗う闘争へと形を変えた。これが『聖杯戦争』の始まりである。
以来、六十年に一度の周期で、聖杯はかつて召喚された極東の地で『冬木』に再来する。
そして聖杯は、それを手にする権限を持つ者として
七人のマスターを選別し、サーヴァントと呼ばれる英霊召喚を可能とさせる
バーサーカ、キャスター、ランサー、ライダー、アサシン、アーチャ、セイバー
七つのクラスに振り分けられたサーヴァントが現界。
七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。
他の六組が排除された結果、最後に残った者のみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。
以上が聖杯戦争までの流れである。
「聖杯戦争っていうのは肩書きも権威も要らない、正真正銘の実力勝負ってことか
この僕にもってこいの舞台じゃないか」
その''聖杯戦争''なる競技の詳細を、ウェイバーは夜っぴて調べ上げ、その驚くべき内容に心を奪われてた。膨大な魔力を秘めた願望器『聖杯』を賭して、英霊を現界させ使い魔として駆使することで競われる命懸けの勝ち抜き戦。肩書きも権威も何ら意味のない、正真正銘の実力勝負。それはたしかに野蛮であったが、単純かつ誤解の余地のない優劣の決定だった。不遇の天才がここに一番の面目躍如を遂げるためには、まさに理想の花舞台に思えた。興奮醒めやらぬウェイバーであったが、一つ問題があった。
「なお、英霊召喚には触媒となる聖遺物が必要か…」
最悪、触媒無しでも、英霊召喚は出来るがそれだと何が出るか分からない
マスターの性質と似通ったものが召喚されると言うが、それは避けたいところ
ウェイバーと似通った性質を持つサーヴァントが召喚されても勝てなければ意味がない。そんなところで悩んでいるウェイバーに、幸運の女神が微笑む。先程荷物運びの人に頼まれていた箱が目に入ったのだ。
「……この箱、どこに持ってけばいいんだっけ?」
あっそうだ ここの場所じゃないか、と納得していたウェイバーが一つ疑問に感じた
「図書館に届け物って! まさか⁉︎」
ウェイバーはその箱の中を開けると、大事そうに包まれているケースを手に取る
(間違いない! これは、聖遺物だ まさかこんな偶然があるなんて)
何の聖遺物か分からないがないよりはマシだと、ウェイバーは考えその日のうちにウェイバーはイギリスを後にし、一路、極東の島国へと飛んだ。
もはや腐敗しきった時計塔に未練はなかった。首相卒業生のメダルの輝きも、冬木の聖杯がもたらすであろう栄光に比べればゴミのようなものである。
ウェイバー・ベルベットが戦いに勝利したとき、魔術協会の有象無象は彼の足許にひれ伏すことになるだろう。
そして、彼が使う箱の中身の聖遺物は、指輪だったそして、指輪の部分にはこう描かれていた''青''と………
○○○○○○
ここは冬木市
周囲を山と海に囲まれた自然豊かな地方都市。
中央の未遠川を境界線に東側が近代的に発展した「新都」、西側が古くからの町並みを残す「深山町」となっている。
「冬木」という地名は冬が長いことから来ているとされるが、実際には温暖な気候でそう厳しい寒さに襲われることは無い。適当に掘ったら温泉の一つや二つ湧き出るのではないかといわれている。
そして、冬木市にある理由でやって来た青年がいる 蒋都 孝
茶色の髪で顔は少し幼い感じはするが鋭い感じの顔のため子供っぽいと思う人はいないだろう。
そんな事さておき、彼がこの地に来た理由は別に、観光しにきたわけじゃない
「さて、行くとしますか…」
そう自分に言い聞かせながら、彼は目的の場所に向かった、親友''間桐雁夜''に会いに
一年前、雁夜は冬木市に戻ると言ったまま会っていない
雁夜自身もいつ戻るか分からないと言っていたから、そこまで心配する必要はないと思っていたが、半年が経ち一向に帰ってこなかったので、心配になり 冬木市や雁夜、間桐家について、独自のパイプを使って調べった結果。
驚くべきことが分かった 間桐雁夜の間桐家は代々から続く、魔術師ということが分かった。魔術と言うのが実在したと分かっても、蒋都はそこまで驚きはしなかった。それは、蒋都自身も普通の人とは違う、力を持っていたからだ。
(だからあの時、俺の力を見せても、雁夜はそこまで驚かなかったわけだ)
と、今更ながら納得した蒋都だが、その蒋都が一番目についた情報があった。
(聖杯戦争 まさか…⁈ いや、でも …)
こんな事に雁夜が参加しているために冬木市に戻ってきたとしたらその理由は何だ
雁夜は優しい奴だ、もし、聖杯戦争に参加してるなら 何か理由が有る筈だ
どうしても、聖杯を手に入れなければいけない理由が有る筈
そうして、蒋都はそれを確かめるべく雁夜の実家、間桐家に向かうのだった。
○○○○○○
正統なる魔術師である遠坂時臣は、現代人のように俗世の最新技術などは用いない。
彼が頼みとする遠隔通信の手段は、宝石魔術を代々継承してきた遠坂家ならではの秘術である。
冬木市は深山町の高台に聳える遠坂邸。その地下に設けられた時臣の工房には、俗にブラックバーン振り子と呼ばれる実験道具に似た装置が用意されている。
ただの物理科学の器具と違うのは、振り子の錘になっているのが遠坂伝来の魔力を帯びた宝石である点と、それを吊るす紐を伝ってインクが宝石を濡らす仕掛けになっていることである。
この振り子の宝石と対になる石が。遠坂の間諜には預けられている。
その石をペン軸の先端にはめて文字を書くと、それに共振して振り子の宝石が揺れはじめ、滴り落ちるインクが下のロール紙に寸分違わぬ文字を描き出す、という仕組みなのだ。
いま魔石の振り子は、ちょうど地球の反対側のロンドンにある対の石に共振しはじめ、一見無秩序に見える奇怪な反復運動で、すらすらと正確に報告書の筆致を再現し始めた。
それに気付いた時臣は、まだインクの生乾きの用紙を取り上げて、逐一、その記述に目を通していった。
「何度みても如何わしい仕掛けですね」
その様を傍らで見守っていた言峰綺礼が忌憚のない感想を漏らす。
「フフ、君にはファクシミリの方が便利にでも見えるのかね?これなら電気も使わないし故障もない。
情報漏洩の心配も皆無だ。なにも新しい技術に頼らなくても、われわれ魔術師はそれに劣らず便利な道具を、とうの昔に手に入れている」
それでも綺礼から見れば、誰にでも扱えるFAXの方が利便性ははるかに高いと思えたが、そういう手段を''誰もが''使うという必然性は、きっと理解のにあるのだろう。
貴人と平民とでは、手にする技術も知識も異なっていて当たり前……
今の時代にもそういう古風な認識を貫いている時臣は、まさに筋金入りの''魔術師''だった。
「''時計塔''からの最新の報告だ。''神童''ことロード・エルメロイが新たな聖遺物が手に入れたらしい。
これで彼の参加も確定のようだな。ふむ、これは歯応えのある敵になりそうだ。
これで既に判明しているマスターは、我々も含めて五人か……」
「この期に及んでまだ二人も空席があるというのは、不気味ですね」
「なに、相応しい令呪の担い手がいない、というだけのことだろう。時が来れば聖杯は質を問わず七人を用意する そう言う員数合わせについては、まぁ概ね小物達だからな。警戒には及ぶまい」
時臣らしい楽観である。三年の期間を師事してよく解ったが、綺礼の師たるこの人物は、こと準備においては用意周到でありながら、いざ実行に移す段になると足元を見なくなるという癖がある。
そういう些末な部分に気を配るのは、むしろ自分の役目なのだろう、と、すでに綺礼も納得済みだった。
「まぁ用心について言うのなら───綺礼 、この屋敷に入るところは誰にも見られていないだろね?表向きには、我々は既に敵対関係なのだからね」
遠坂時臣の筋書き通り、事実は歪曲して公表されていた。
すでに三年前から聖杯に選ばれていた綺礼だが、彼は時臣の命により右手の刻印を慎重に隠し通し、今月になってからようやく令呪を宿したことを公にした。
その時点で、ともに聖杯を狙う者同士として師の時臣と決裂したことになっている。
「ご心配無く 可視不可視を問わず、この屋敷を偵察している使魔や魔導家の存在はありません。
...アサシン」
綺礼の傍らにもう一人の影があらわれる。
それまで霊体として綺礼に同伴していた存在が、実体化して時臣の前に姿を現したのである。
「…………綺礼? 此れがアサシンかね?」
「はい確かにアサシンです」
時臣が驚くのも無理はない聖杯に呼ばれるアサシンのクラスで召喚されるサーヴァントは"アサシン"の語源にもなった中東の暗殺教団の頭首ハサン・サッバーハしかないのだ、なので綺礼自身もハサンが呼び出されると思っていたが、呼び出されたのが姿が如何にも日本のアサシン、言うなれば忍者。
そんな、格好をしたサーヴァントだった。暗殺者にはとても見えない金髪の髪に、相手に優しさを感じさせる碧眼の好青年、つまり全然アサシンに見えないサーヴァントが呼び出されてしまったのだ。
「マスターの身辺には、追跡の気配はありません」
時臣が不思議そうに足元から顔まで、観察すると時臣はアサシンに対して口を開いた
「…アサシン 君の真名は?」
「真名ですか? 名は波風ミナトと言います」
「君はハサン・サッバーハじゃないのかね?」
するとミナトは困ったのか手を頭の後ろにやって
「ハサンじゃ無いんですよ マスターにも同じことを言われて、ハサンの方が良かったでした?」
ミナトは一人苦笑いしながらそう言った。時臣はアサシンこと暗殺者にそぐわない姿や口調に唖然とし、綺礼は溜息こぼすのであった。
時臣は直ぐにアサシンのステータスを読み取ったが全然悪くない逆にいい方だ此れなら、全然問題はないだろう、だがと時臣はふともう一つ疑問になったことを言った
「アサシン 君が聖杯に託す望みはなんだい?」
「いえ、目が覚めたらいきなり聖杯戦争のことが頭に入ってきて、そしたらマスターの前に立ってましたそれに、聖杯に叶えて欲しいっていう願いは別にありません」
''聖杯に託す望みはない'' こんな事例聞いたことはないがもないが、彼の目を見る限りでは嘘ではない
それにそれほど、大きい問題ではない
「聖杯に招かれし英霊が現界すれば、どの座が埋まったかは間違いなく父に伝わります」
聖杯戦争の監督役を務めるにあたり、現在、専任司祭という形で冬木教会に派遣されている璃正神父の手元には『霊器盤』と呼ばれる魔導器が預けられている。
これには聖杯が招いた英霊の属性を表示する機能がある。
マスターの身元は個々の申告によって確かめるしか他にないが、現界したサーヴァントの数とそのクラスについては、召喚がいずこの地で行われようと、必ず『霊器盤』によって監督役の把握するところとなるのだ。
「父によれば、現界しているサーヴァントはいまだ私のアサシン一体のみ。他の魔術師が行動を起こすのはまだ、先の事と思われます」
「うむ。だがそれも時間の問題だ。いずれこの屋敷の周囲には他のマスターの放った使い魔どもが右往左往するようになるだろう。ここと間桐邸、それにアインツベルンの別宅は、すでにマスターの根城として確定しているからな」
御三家に対する外来の魔術師のたちのアドバンテージは、その正体が秘匿されている点にある。
それゆえ聖杯戦争の前段階では、どの家門でも密偵を使った諜報戦に明け暮れることになる。
綺礼は時臣の情報網を信用していないわけではなかったが、残る二人の謎のマスターが、その上を行く手段で正体を隠蔽している可能性も警戒していた。そういう策略家の敵に対処するとなれば、綺礼が得たアサシンのサーヴァントの力を使おうとしたが、少々のイレギュラーなアサシンであるがそれでも十分に使えることには変わりない。
「この場はもういい。アサシン、引き続き外の警戒を。念には念を入れてな」
「御意」
綺礼の下知を受けて、アサシンはふたたび非実体化してその場から姿を消した。
「時に、綺礼少しばかり問題が起きてしまってね。」
そう、発言する遠坂時臣は苦い顔をしていた。綺礼には、その顔を見るなりまた何か楽観によるミスをしたのだなと、三年間による師事をしてきた綺礼にとって大体予想がつく表情だ。
「手配していた聖遺物…英雄王を招く触媒の所在が発見されてないのだ。」
遠坂時臣は前々から考えた戦略があったのだ。
まず綺礼のアサシンが奔走し、他のマスター全員の作戦や行動方針、サーヴァントの弱点などについて徹底的に調査する、そして各々の敵に対する必勝法を検証した後で、時臣のサーヴァントが各個撃破で潰して行く。
そのために時臣は、徹底して攻撃力に特化したサーヴァントを召喚する方針でいるつもりだったが、まさか土壇場にきてその呼ぶはずだった英雄王ギルガメッシュを呼ぶために必要な触媒が見つからなかった。
常に『余裕をもって優雅たれ』という遠坂の家訓を実践している時臣も、流石に溜息をつくほかなかった。
「導師が仰っていた計画もこれでは水の泡になりましたが、今後はどのような戦略でいきましょうか?」
綺礼が時臣の重大なミスに対してなんの文句もたれず、直ぐに今後の方針を述べる。
時臣は言峰綺礼の迅速な判断力に素直に感心した。
「フム、それについても見直さなければいけないな。こうなってくると君の召喚したアサシンも諜報だけではなく、私が召喚するサーヴァントと合同で戦闘してもらおうと思う。あのアサシンは充分戦闘に使える。」
土壇場でイレギュラーを起こしたのは時臣だけではなく綺礼も同様である。
綺礼の召喚したアサシンは正規のアサシンかどうか怪しい英霊であったのだ。
しかしそのことは今はどうでもいい。確かにハサンでなかったのは残念だが、あのアサシンにはハサンにはない力があると綺礼から聞いている。まだ誤差の範囲で納められるイレギュラーだ。けれど英雄王を召喚できない、というのは今までの作戦の白紙を意味するのだ。
触媒が見つかることを信じて限界まで待ってきたが、そろそろ英霊召喚をしなければ聖杯は時臣から別の者にマスターの資格を移すかもしれない。それだけは避けねばならなかった。
「仕方ない…このまま考えても状況は一変しないのだ。ならば私は聖遺物無しでの召喚に挑もうではないか」
聖遺物無しで英霊を召喚した場合、召喚者の性質や性格などが触媒となり召喚者に近しい英霊が召喚される。
勿論どんなサーヴァントが召喚されるかは召喚するまで一切不明。最悪、最弱のカードを引き当てる可能性もある。まさにこれこそギャンブルという言葉が相応しいのである。
「それでは?」
綺礼が確認をとる。その言葉に、時臣はさっきまでの苦い表情は消え、いつもの優雅さを完全に取戻し言い切った。
「この程度のイレギュラーに恐れていたら魔術師として..遠坂家の当主としての恥となる。」
時臣はそうと決まればと、遠坂邸の地下にある魔術工房へと向かう。言峰綺礼もそれに続いた。
しかし、時臣も聖遺物なしの召喚に挑むわけだが、何もないまま召喚するわけではない、それはせめてもの気休めに持っていこうと時臣は持っているのは、遠坂家の家宝であるペンダントであった。
このペンダントは歴代の遠坂家当主たちが魔術を込めてきた至高の一品であり、時臣自身も暇さえあればこれに魔力を溜めている。
そのちょっとした行動が彼だけではなく彼の娘の"運命"をも変えるとは、誰が想像できようか、そんな事になるとは梅雨知らず時臣は地下へ降りて行った。
○○○○○○
プッチは冬木市の山の中にいた、その中でもうセカイに教えてもらった
サーヴァント召喚の儀式の準備をしていた。
(よし、これでいいだろう)
あとは、呪文を言うだけだなとプッチは自分に言い聞かせていた
彼が召喚するのは''アンリマユ(この世全ての悪)''
プッチは最初、そんな強力なサーヴァントは呼び出せないし、言うことも聞かないんじゃないのか?
セカイに言ったが、セカイが説明した通りなら安全なので、やるしかない
セカイから聞いたがこの聖杯戦争の聖杯は何故か汚染されていて、今の人間達では使おうにも制御出来ないらしい その汚染されている聖杯を上手く利用するのだ
セカイが渡してくれた大聖杯と少しの間繋ぐ道具で、大聖杯とリンクして
今大聖杯はアンリマユで染まっているのでそこから引っ張り出して召喚するという方法、実際今、アンリマユは純粋なこの世全ての悪なので何かの入れ物がない限り
自我を持てない、純粋な悪なので襲われる心配も無く、それでも、強力なサーヴァントには違いないので安心して呼び出すことができる。
○○○○○○
十一年前、雁夜は魔術の家系で育ったこの家の魔術を受け継がなければならなかったが雁夜はそれを拒絶し逃げるように家を出たのだ。家を出た雁夜はルポライターといって、主に社会的事件や事象を,現地や関係者間に取材して記事にまとめあげる職業で生計をたてて暮らしていた、其処で蒋都孝に知り合った。軽い態度や馴れ馴れしい性格に初めは関わりがたかったが、話てるうちにしっかり盛り上がり今ではすっかりいい仲になったのだ。蒋都には、ある用事で冬木市に少しばかり戻るつもりだった筈で久方ぶりに一年前にこの冬木の地を訪れたのだ。
無論、おぞましき因習と妖怪に支配された実家に帰るつもりなど端から無く、雁夜の目的は別にあった。
禅城葵。今は遠坂の姓を名乗る彼女に会う為だ。雁夜は幼い頃から彼女の事を愛していた。生憎、彼女の方は雁夜をあくまでも友人としてしか見ず、雁夜の恋に気付くことがなかった。遠坂家の当主に嫁ぐ彼女に本当にそれでいいのか、と問い掛けた時の彼女の恥しそうな、されど幸せそうな微笑みを見て、雁夜は彼女への恋心を封印した。彼女が自ら選んだのだからきっと、これが正しいのだと、自分の思いを覆い隠して。それからはまた、彼女の友人として彼女と接するようになった。彼女の二人の娘にお土産を買って来る事も恒例となり、その日も雁夜はお土産を買って来ていた。大小のガラスビーズで編まれた精巧な二つのブローチ。
「桜はね、もう、いないの」
硬く虚ろな眼差しのまま、凛は棒読みの台詞のようにそう答えると、それ以上雁夜に何か訊かれるのを拒むかのように、さっきまで遊んでいた子供たちの輪の中へと戻っていった。
「……」
不可解な凛の言葉に雁夜は声を無くした。ブローチを受け取るべきもう片方の少女は既に葵の娘ではなくなっていた。
二人揃って、雁夜に子犬の様にじゃれ付いて来る事も無くなった。遠坂葵の娘、遠坂桜は間桐の家に引き取られた。それが何を意味するのか、雁夜には直ぐに理解出来た。
間桐の家は土地が合わず、衰退していた。少しずつ確実に代を重ねる毎に魔術回路は薄れていき、兄の息子に至っては、残りかす程度が残っているに過ぎなかった。桜を引き取った間桐の家の真の当主、間桐臓硯の目的は優秀な魔術回路を持つ子供を孕む母胎を得る事だった。
雁夜が間桐の家に足を踏み入れ、臓硯に問い詰めた時、臓硯に見せられた桜の姿は既に雁夜の知る桜ではなかった。暗く濁った瞳で虚空を見つめ、刻印虫と呼ばれる蟲に全身を嬲られた桜は既に心を深く閉ざしていた。雁夜は桜を救う為に一年後に迫る聖杯戦争に参戦する事を決意した。その為には聖杯戦争で戦い抜くための力が必要だった。その力を得る為に、雁夜は桜に施された肉体改造を自らも受ける決意を下した。
全身を苛む痛み、全身を蠢く蟲への生理的嫌悪感、それらは徐々に雁夜の精神を削り続けた。だが、雁夜は耐え抜いた。一年間の苦行の末、雁夜は魔術回路の数だけで言うなら、、今の雁夜はそれなりの術者として通用するだけのものを手に入れていた。そして、遂にはサーヴァントを召喚できる力まで手にしたのだ。しかし、その代償はあまりにも大きく、髪は白くなり、肌には至る所に瘢痕が浮き上がり、それ以外の場所は血色を失って幽鬼ののように土気色になり、片方の眼孔は視力を失いかけていた、近代の医学の見地からすれば、すでに生体として機能しているのがおかしい状態である。にもかかわらず雁夜が立って歩いていられるのは、皮肉にも、命と引き換えに手に入れた魔術師としての魔力の恩恵だった。
「令呪が宿ったか」
しわがれた声で妖怪が嘲笑を含んだ笑みを浮べ言う。雁夜にとっては妖怪の嘲笑などどうでもよかった。雁夜の脳裏に浮かぶのは桜を救う一念のみだった。蟲倉に降りる前、桜と会った時、桜はもはや遠坂の姓であった頃の面影は微塵も残っていなかった。度重なる陵辱により瞳は暗く濁り、度重なる肉体改造により髪は間桐の色である青に染まり、彼女は子供らしさというものを完全に失ってしまっていた。
君を救ってみせる。そう言いたかったが否、雁夜には言える筈が無かった。もはや、桜には僅かな希望の光でさえ、苦痛にしか成り得ない。桜を救えるとすれば、それは雁夜が聖杯を手にし、間桐の鎖から桜を解き放つ事が出来た時以外にあり得ない。
「召喚の呪文は覚えてきたであろうな?」
「あぁ」
念を押すように訊いてくる間桐臓硯に、雁夜は闇の中で頷いた。
腐臭と饐えた水気の臭いが立ち込める、深海のような緑の暗闇。深山町の丘の頂に聳える間桐邸が、地下深くに隠匿している
「いいじゃろう、だがその途中にもう二節、別の詠唱をは差し挟んでもらう」
「どういうことだ?」
胡乱げに問う雁夜に、臓硯は持ち前の陰惨な笑みを投げかけた。
「なに、単純なことじゃよ 雁夜、お主の魔術師としての格は、他のマスター共に比べれば、いささか以上に劣るのでな、サーヴァントのステータスにも影響しよう
ならば、サーヴァントのクラスによる補正でパラメータそのものを底上げしてやらなければなるまいて…雁夜よ、今回呼び出すサーヴァントには狂化の属性を負荷してもらうかの」
それがもたらす破滅的な意味を、まるで歓迎するかのように、臓硯は喜色満面で宣言した。
「分かった」
こいつの意図は分かっている俺が死ぬのを楽しみに待っているんだろうが
桜ちゃんを助けるまで死ぬことは出来ない
すると臓硯は聖遺物と思われるものを此方にチラチラ見せつけてきた
「雁夜よ、これは何だと思う」
見せつけてきたのはとても聖遺物とは思えない
「………サングラス?」
「そうじゃ、お前宛に郵便物が届いたので何かと思って中を覗いてみたら
サングラスが入っておった。このサングラスは何かの聖遺物らしいのじゃが
何の聖遺物か儂にも分からぬのでな、召喚してからのお楽しみという奴じゃ
呵呵呵呵呵呵呵呵呵ッ!」
「チッ」
臓硯は俺に聖杯を渡す気は無くただ俺が苦しむのを見ていたいだけらしい
だがそうはいかない、どんな英霊が来ようとも必ず聖杯を手に入れて
桜ちゃんを救ってみせる
そんな、雁夜の決意をものともしない臓硯であったが、しかし召喚につかう聖遺物がどんなサーヴァントが呼び出されるか、臓硯は知らずに呼び出そうとしていた。しかし、その行いが、臓硯でさえ予想しなかった結末を迎える。
○○○○○○
その日、異なる場所で、異なる対象に向けて呼びかける呪文の詠唱が、まったく時を同じくして沸き起こったのは、偶然と呼ぶには出来すぎた一致であった。
いずれの術者も、その期するところの悲願は同じ。ただひとつの奇跡を巡り、それを獲得するべく血で血を洗う者たち。
彼らが時空の彼方の英雄たちへと向ける嘆願の声が、いま、一斉に地上から放たれる。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「「「「みたせ みたせ みたせ みたせみたせ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」」」」
「「「「───告げる」」」」
今こそ、魔術師としての自分が問われる時。しくじれば命すらも失う。それをひしひしと実感しながらも、ウェイバーは決して怖じなかった。力を求める情熱。
目標へと向けてひた走る不断の意思。ことそういう特質において言うならば、
ウェイバー・ベルベットはまぎれもなく優秀な魔術師であった。
「「「「────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」」」」
全身を巡る魔力の感触。およそ魔術師である限り逃れようのない、体内の魔術回路が蠕動する悪寒と苦痛。それに歯を食いしばって耐えながら、ウェイバーはさらなる詠唱を紡ぐ。
「「「「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。」」」」
切嗣の視界が暗くなる。背中に刻み込まれた衛宮家伝来の魔術刻印が、切嗣の術を掩護するべく、それ単体で独自の詠唱を紡ぎ出す。切嗣の心臓が、彼個人の意思を離れた次元で駆動され、早鐘を打ち始める。大気より取り込んだマナに蹂躙される彼の肉体は、今、人であるための機能を忘れ、一つの神秘を成し得る為だけの部品、幽体と物質を繋げる為の回路に成り果てている。その軋轢に苛まれて悲鳴を上げる痛覚を、切嗣は無視して呪文に集中する。傍らで固唾を飲んで見守るアイリスフィールの存在も、もはや彼の意中には、ない。
召喚の呪文に混入される禁断の異物、招き寄せた英霊から理性を奪い狂気のクラスへと貶める二節を、雁夜はそこに差し挟む。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者──。」
雁夜は尋常な魔術師と違い、魔術回路そのものを別の生物として体内に寄生させている身である。それを刺激し活性化させる負担は、他の術者の痛みすら比にすらならぬほどの激痛だった。唱えるうちに四肢が痙攣し、端々の毛細血管が破れて血が滲み出る。無事に残った右目からも、赤く染まった血涙が流れ出て頬を伝い落ちる。それでも、雁夜は精神の集中を緩めない。
背負ったものを想うなら──ここで退けるわけがない。
「「「「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」」」」
そして、サーヴァントは地上に降臨する。
衛宮切嗣の前には白銀の甲冑を纏った騎士王が、
遠坂時臣の前には赤い外套の騎士が、
ウェイバーの前には、赤い雲の模様が入った黒い外套を身に纏っている格好で、
青い目に長い金髪の風貌の青年が、
間桐雁夜の前には全身黒のコートような格好で金髪のオールバッグの赤い目をした
男性が、
四人の前に全く異なる四体のサーヴァントが召喚された。
「「問おう」」 「質問だ」「問うぜ」
「貴方が」
セイバーはその翠の目で衛宮切嗣を見る。
「君が」
アーチャーはその鷹の目で遠坂時臣を見る。
「旦那が」
ライダーはその青い目でウェイバーを観察する。
「君が」
バーサーカーはその赤い目で雁夜を睨む。
「私のマスターか」
「私のマスターでいいのかね」
「私のマスターかね」
「オイラのマスターか、うん」
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