グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第17話:フェアに騙す
(ラインハット城・コリンズ王太子私室)
ポピーSIDE
『先ず……闘技大会を催そうと考えついたのは、リュカさんが手合わせを希望してくる者共に嫌気がさしたから。何せ一番最初に原案を提示したのはマリーですから……これは紛う事ない事実です』
つまりは、リュリュの変態さを躱すのが目的で発案された訳じゃないのね。
『でもリュカさんが原案を聞いて即座に思考を巡らせたのも事実ですね。その時点でリュリュさんの事を陥れる算段を付けたと俺は思ってます』
ウルフがそう思ってるって事は、この段階では誰にも展開を語ってなかったのね。
『さて……次にお二人が気になってるのは、何処までシナリオ通りなのかって事ですよね?』
「そうね。私の予測では、リュリュを酔わせて襲おうとしてた馬鹿共も、裏ではお父さんが手を引いてると思ってるわ」
『残念……半分は正解ですが、もう半分は間違いです。何せ闘技大会の原案がマリーの口から出る以前から、リュリュさんは男共に狙われておりましたから……毎夜酒場で鼻の下を伸ばした連中に、酒を大量に飲まされてましたから。酒場のマスターがリュカさんに、リュリュさんの安全を不安視する報告が来たのは、連中の人数が大分膨らんだ後ですからね』
なるほど……流石にお父さんも、自分の娘に男共がギラついた視線で群がる事を手引きしたりはしないわね。
リュリュが酒の味を憶え、しかも酒豪である事を披露したのは偶然か……
本当に男共の良い玩具になりかけてたのね……
『リュカさんは、リュリュさんに友達が出来るのなら……そこから恋が発展するのならと思い、最初は手を出さない事にしてたんです。勿論、馬鹿が暴走し大事になるのを防ぐ手立ては打ってました……酒場のマスターもその一人ですし、何人かのメイドにも声をかけて、夜は酒場でバイトする様に頼んだのもその為です。メイドとしての給料に、間者としての報酬……更にはバイトで得た金と、彼女等にしてみれば大いに有難い副業だった事でしょう』
「結果としてはそうでしょうけど、彼女等は金なんて目的じゃなかった事でしょう……私だってお父さんに特命を授かったら、喜んでそれに従事するもの」
自慢気にファザコン性をさらけ出しウルフに言い切る。
『アイツの娘は皆変態だな』と苦笑いで返すウルフに怒りは感じない。
『話を戻しましょう……話が拗れない様に常に情報を仕入れてたリュカさんですが、闘技大会とリュリュさんの恋事への進展の無さが相まって、ピピン軍務大臣の部下で俺の友人のレクルト君を利用して、彼女を罠にかける作戦を発動させたのです』
「それが“ピピン大臣、酒場でリュリュの危機発見”ね。あたかもピピンが偶然見つけた様に報じられてるけど、その実は誘導されてたって事ね?」
真面目なピピンだから、リュリュが大勢の男共に狙われてると知れば、血相を変えて止めに入る事は明白だ。
酒を出す酒場の店主も味方なのだし、酔い潰れたリュリュを連れ去られる事も防いでる。
隙は無いって事ね……
「リュリュを罠に嵌める為に利用された男共にはいい迷惑よねぇ……降格処分が下されてるんでしょ?」
『迷惑? 迷惑なのはこっちだよ! リュカさんの言い方じゃ無いが、もっと真面なナンパをすれば問題なかったのに、酒に酔わせて犯そうなんて……処分は当然だ! 殺されないだけでも有難く思えっての!』
「でも、この事実が知れ渡ったら……降格処分された連中は勿論、減俸処分に巻き込まれた上司等も黙っちゃいねいわよね! あらあら……就きにグランバニアも国家存亡に危機に陥るのかしら(笑)」
ちょっとウルフをからかってみたくなり、“何か見返り無いとバラすぞ”的ニュアンスで脅してみた。勿論そんな事する気はサラサラ無い!
だが……
『ポピー……お前でも許さんぞ!』
立体的に映し出すウルフの向こう側から、紫のターバンを巻いた超イケメンが姿を現し、ドスの効いた声で語りかけてきた。
『リュ、リュカさん!??!!』
『ウルフ、貴様……存外口が軽かったなぁ』
や、やばい……お父さんマジで怒ってる。
瞳孔開いちゃってて、ものっそい怖い!
『ち、違うんッス! ポピー義姉さんに逆らうと酷い事されるから……そ、それで……』
「わ、私の所為にするな馬鹿ウルフ! お前一度は拒否っただろ! なのに勝手に話し出したんじゃないか!!」
見苦しい事は自覚してるが、お父さんの怒りに晒されるくらいなら、見苦しくウルフに全てを押し付ける。
『ポピー、コリンズ……』
「は、はい!!?」「はい、お父様!」
座った目のまま端末に顔を近づけ、私達に怒りの瞳をアップで見せると……
『お前等の親父にも絶対に言うなよ。アイツは口が軽いから、アッという間に話が広がる。この事実は俺とウルフしか知らなかった。今ではお前等まで知っちまったけどな……』
要するに、この4人以外の者がこの事実を知っていたら、真っ先に私達が疑われると言う事だ。
『以上だ……通信終わる! ウルフ……お前にはちょっと話がある』
言うだけ言って一方的に通信を終了された。
しかし通信が切れる直前に、お父さんの手がウルフの頭を鷲掴みにしていた。
「ごめんウルフ……安らかに成仏して」
「わ、悪い事したなぁ……殺されないと良いけど」
私も夫も冗談を言ってる訳ではない。
お父さんの怒りという恐怖に身体を震わせながら、本気でウルフの命を心配している。
「行方不明になっても、きっと死亡と同義よね。お父さんのバギクロスで粉々にされ海に捨てられたら、死体確認は絶対に出来ないもん……完全犯罪よ」
自分で言ってて怖くなる……もう考えるのはよそう。
「俺……ポピーと結婚して初めて後悔したよ、今」
「何だと!?」
どういう意味だコノヤロー!?
「止めてくれよリュカさんの怒りに俺を巻き込むのは……“健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、 貧しいときも、共に過ごす”とは誓ったが、これは例外だろ」
「き、気を付けるわよ。私だって焦ったんだからね!」
そう。本当に焦ったのよ!
本当に、本当に焦ったのよ!!
ポピーSIDE END
(グランバニア城)
ウルフSIDE
「いたたたたっ……もう離してよリュカさん。通信切れてるから……ポピー義姉さん見てないから!」
怒ったフリをしたリュカさんに頭を掴まれ、本気で締め上げられてた俺は、ガチで離す様訴える。
ポピー義姉さん達を脅す為の作戦だったから。
「うん。これで手駒が増えたな」
「でしょうね……本気でビビってましたから“ヘンリー陛下と部下のデルコさんを巧く誘導して、闘技大会に参加させろ。そしてリュリュさんの優勝だけは阻止しろ!”って命令しても、何も聞かずに協力してくれるはずですよ」
「優勝されて妙な願いをされても困るんだよね……だからリュリュの優勝だけ阻止してくれれば良いんだ。その為にはデルコなんて打って付けだよね。“リュカさんの為に”って言い聞かせておけば、面倒な願い事無しで勝ちきってくれるかもじゃん!」
「そうですね……ティミーさんを出場させる事が出来れば、事は簡単に進んだんですけどね」
「それは拙いだろ。誰もがティミーの実力を知ってるんだし、あからさまに優勝させる気が無いって知れ渡ったら、経済効果が見込めないじゃん」
それは解ってる……
参加費も徴収する予定なのだから、参加者が激減されては大会運営に支障をきたす。
馬鹿共が淡い希望に誘われて、存分に散財してくれれば良いのだから。
その為には常識を逸した実力者の出場は遠慮して貰わねばならないのだ。
この世界ではリュカさんとティミーさん……そしてヒゲメガネかな?
ヒゲメガネはアレでも神だから、弱そうに見えて本当は人間などより強いのだろう。
多分だけどね……
「この大会は今後も続けて行き、グランバニアの観光の一つにしていきたいんだ」
その通りだ……
騙すにしてもフェアな状況だと思わせなければ誰も罠にはかからない。
一縷の望みという奴がこの世の中には必要不可欠なのだ。
それはリュリュさんにだけ当て嵌まる事では無い。
物事全てフェアに騙されるのが一番良いのだ。
でも……もしかしたら俺も騙されてるのかもしれない。
リュカさんにフェアに騙され、それに満足してるのかもしれない。
果たして俺はこのままで大丈夫なのだろうか?
頭を乱暴に撫でるリュカさんを見上げながら、俺は現状に満足して行く……
ウルフSIDE END
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