遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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プロデュエリスト編
episode1 ーEvolution Insectー
前書き
訳:進化する昆虫
はい、みんな大好きあの人ですね〜。最早テンプレの域に突っ込んでますが第1話目だから仕方ないよね?……よね?
それでは、本編どぞ。
プロデュエリスト達が己の意地とプライドを賭けて戦う舞台、プロリーグ。そしてその闘いの場となる海馬ドームに、今日はより一層の観客が集まり、ひしめき合っている。もちろん目当ては今夜ここで行われるプロ同士の決闘を観るためである。
「レンカさん、そろそろ出番なので準備を……。」
控え室のソファで寝転がり休憩をしていたところ、ぴっちりとスーツを着こなした女性が呼びにくる。一言だけ返事をし、起き上がるとプロデュエリストの証とも言えるブラックデュエルディスクを左腕に装着し、フードを目深に被る。
「……準備ができたでしょうか?」
「えぇ」
「そうですか。では、健闘を祈ります。」
自分のマネージャー兼秘書である彼女のささやかな声援に手をひらひらと振るだけで答えるとそのまま会場へと向かう。
「さあぁ!今から待ちに待ったプロデュエリスト同士の意地とプライドを賭けた熱き闘いが今始まる!
北のゲートから登場するのは、全てが謎に包まれた、『漆黒の竜使い』の異名を持つデュエリストぉ!レンカだ!」
赤いジャケットを羽織ったMCのナレーションを聞き、ドームの中央へと設けられたステージへと進んでいく。一歩一歩と足を進める度に歓声が大きくなるのを少し煩わしく思いつつ、ようやく中央へとたどり着く。
「そして、今回の対戦相手は元全日本チャンプにして、かのデュエルキング武藤遊戯とも一戦を交えたあのデュエルリスト、インセクター羽蛾だぁ!」
MCに呼ばれ自分とは逆、南ゲートから出てきたのは、昆虫を思わせる作りをした金縁メガネをかけ、背中にこれまた昆虫がプリントされたジャケットを羽織って出てきた小柄な男がひょっひょっひょっ、気持ちの悪い笑い方をしながらこちらへと歩いて来る。
そして、自分の前に立つと上から下まで舐めるように見、いやらしい笑みを浮かべる。
「無敗のデュエリストなんて聞いていたから、ドクターコレクターみたいにもっとごつい男を想像していたけど……。なんだ、中高生くらいじゃないか。なんでこんな子供に他の奴らは負けたんだろうね〜?まさか、八百長とか不正をしていたりしてね〜。まぁ、そんなズルをしていても勝つのは全日本大会をも制したこの俺だけどね。ひょっ、ひょっ、ひょっ」
笑いながら、挑発の言葉を吐いてくる。だが、周りの歓声に阻まれマイクには拾われずレンカの耳にだけ届く。もっとも羽蛾の言うことも事実。レンカと呼ばれたデュエリストの身長は全身を覆い隠すローブを含めても160cmあるかないかくらいだ。当の本人はさして気にもせずに聞き流す。
「ちっ、無口とは聞いてたが、会話のキャッチボールすらできないのか君は?だから、最近のガキは……。」
無視された事と挑発が全くの無意味に終わり、少し腹を立てた羽蛾は舌打ちをすると、レンカから離れて行く。
「さて、ようやく二人の話は終わったようだぞ。両者準備はいいか!」
その声に従い、デュエルディスクへと自分のデッキを差し込み、構える。
「さぁ、勝つのは昆虫族のエキスパート、インセクター羽蛾か!それとも、未だ黒星をつけられていない漆黒の竜使い、レンカか!今、決戦の火蓋が切って落とされる。」
MCの熱いアナウンスが会場へと響き渡り、より一層ギャラリーたちの声援もヒートアップし、今この瞬間に会場のテンションが頂点へと達する。
「「決闘」」
インセクター羽蛾:LP4000
レンカ:LP4000
「ひょひょっ、俺の先行ドロー!共鳴虫を守備表示で召喚だ。さらにカードを二枚伏せてターンエンドだよ。さぁ、君のターンだ。まぁ、せいぜい足掻くといいよ。」
コオロギを模したモンスターが羽蛾の場へと召喚され、その半透明の羽を震わせる。
「おおっと、羽蛾選手!リクルーターと伏せカード二枚という慎重な立ち上がりだ!さて、レンカ選手はどう動く!」
「……ドロー。仮面竜を召喚。」
良く言えば、冷静。悪く言えば無口。レンカが召喚したのは羽蛾が召喚した共鳴虫と同じリクルーター。だが、共鳴虫の守備力は1300に対し、仮面竜の攻撃力は1400とギリギリ戦闘破壊が可能のラインだ。
「……バトル、仮面竜で共鳴虫を攻撃する。」
レンカの指示を受け、仮面竜は共鳴虫へと火炎弾を吐き出し攻撃する。
「破壊された共鳴虫の効果発動!デッキから攻撃力1500以下の昆虫族を特殊召喚できる。俺はアルティメット・インセクトLV3を特殊召喚!」
背中に鋭い棘が何本も生えた昆虫が姿が召喚される。だが、その醜悪な容姿に会場から悲鳴やブーイングが漏れる。
「おおっと、羽蛾選手が共鳴虫で召喚したのは、アルティメット・インセクトLV3!LVモンスターはある一定の条件を満たすことで進化することができ、さらにレベルが高くなればなるほど強力な効果を持つ特殊なモンスターだ!さぁ、このモンスター相手にレンカ選手はどう戦う?」
「カードを二枚伏せ、エンド。」
だが、レンカはMCの言葉すら完全に無視し淡々とデュエルをプレイする。
「俺のターンドロー!そして、この瞬間アルティメット・インセクトの進化条件が満たされ、LV3からLV5へとレベルアップする!俺はアルティメット・インセクトLV3を墓地に送り、デッキからアルティメット・インセクトLV5を特殊召喚するぜ!来い、アルティメット・インセクトレベル5!」
アルティメット・インセクトが光に包まれる一回り大きく育った姿へとなる。
「さらにアルティメット・インセクトはアルティメット・インセクトの効果で召喚した時、そのレベル×100ポイント相手のモンスターの攻撃力を下げることができる。よって、仮面竜の攻撃力は500ポイント下がり、900となる!」
アルティメット・インセクトの甲殻の隙間から毒ガスが噴射され、仮面竜が苦しみだす。
アルティメット・インセクトの攻撃力は2300と上級モンスターの割には低めだが、その効果も合わせると殴り倒すには、最低でも2800はなければならない。
「俺はアルティメット・インセクトLV3を召喚し、バトルだ!アルティメット・インセクトLV5で仮面竜を攻撃!ポイズンショットLV5!」
背中に生えた毒棘が一斉に発射され、レンカの仮面竜を刺し貫く。
レンカ:LP2600
「おおっと、先制ダメージを与えたのは羽蛾選手だ!やはり、元日本チャンプは伊達じゃない!」
ダメージが通った事でワッと一気に会場の歓声が湧く。攻撃が通った羽蛾自身もどこか得意げな表情でいる。
「戦闘破壊された仮面竜のエフェクト発動。デッキから二体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚。」
「そんなモンスター出したところで俺の前じゃ壁にもなんないんだよ!リバースカードオープン!ライヤー・ワイヤー!墓地の共鳴虫を除外し、仮面竜を破壊だ!」
極細の糸が仮面竜へと絡みつき、バラバラに寸断する。
仮面竜の効果は戦闘破壊時。よって、後続のモンスターを呼ぶことができなくなってしまう。だが、レンカはやはり何のリアクションせず、ただフードの奥から相手を見据える。
「ひょっひょっ、手も足も出ないかぁ?俺も手加減してあげたいところだけどそれじゃ、観客が満足しないからねぇ全力で行かせてもらうよ!アルティメット・インセクトLV3でダイレクトアタックだ!」
「リバースカードオープン、リビングデッドの呼び声。仮面竜を蘇生させる。」
バラバラにされたはずの仮面竜の肉片が勝手にくっつきだし、ハリボテのような姿になるとアルティメット・インセクトの放った毒棘を受け止める。
レンカ:LP2200
「仮面竜の効果でデッキから伝説の黒石を特殊召喚する。」
「ひょっ?なんだ、なんだ?伝説って言う割には攻守0のただの石ころじゃないか。そんな雑魚モンスター出してどーするのさ。」
羽蛾が石ころと言ったそのモンスターは黒く大きめの石。見ようによって動物の卵にも見えるソレは時折鼓動するかのような黒く煌めく。レンカは石ころ、雑魚と評され、フードに隠され他からは見えないが、呆れた表情をする。
「さあ、ターンエンドだよ?ま、せいぜいそんな雑魚なんて生贄にでもして強いモンスターを出すことだね。」
羽蛾の挑発ともとれる強気な発言に会場の一部からため息が漏れる。
一方の場にはモンスターが二体。しかも一体は上級モンスター。そして、もう一方の場には攻撃力・守備力0の最弱モンスター。どちらが有利かは誰が見ても明白だ。
ステータスを見比べただけなら……だが。
「ドロー。マジックカード、サイクロン発動。伏せカードを破壊する。」
突風が吹き荒れ、羽蛾が伏せていた聖なるバリアーミラーフォースが破壊され、眉間に皺を寄せ、悔しそうな顔をする。
「マジックカード、紅玉の宝札発動。手札の真紅眼の黒炎竜を捨て、二枚ドロー。そして、伝説の黒石の効果発動。自身を墓地に送り、デッキから真紅眼の黒竜を特殊召喚する。出でよ、紅き目を持つ竜よ。怒りの炎で敵を焼き払え。来い、レッドアイズ!」
「で、出たぁぁぁ!レンカ選手のエースモンスター!レッドアイズ・ブラックドラゴォォンだぁ!」
黒石が輝き、その光の中から現れたのは、紅い瞳を持った黒き竜。レンカが漆黒の竜使いと呼ばれる由縁となったモンスター、真紅眼の黒竜だ。
そして、半ば諦めムードになりかけていたドーム内はレンカのエースの登場に熱を取り戻す。そして、レンカの対戦相手であるはずの羽蛾は目を剥いて驚いている。なにせ自分がバカにしたモンスターがあの城之内のエース、レッドアイズに化けたからだ驚くのも頷ける。
「っ!ま、まあ、俺相手にそんくらいやってくれなきゃねぇ。けど、そのモンスターを出したところで俺のアルティメット・インセクトLV5は倒せない。ひゃ〜、ひゃっひゃっ。まぁ、所詮雑魚がどんなカードを使おうと勝てっこないんだよ!」
本日何度目かわからない挑発の言葉を聞き、気分を悪くするところが逆に口角をあげ、笑みを浮かべるレンカ。
「マジックカード、黒炎弾発動。真紅眼の黒竜を対象として発動する。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える。やれ、レッドアイズ!」
「ギャァァァ!?」
インセクター羽蛾:LP1600
真紅眼の黒竜のアギトが開かれ、火炎球を羽蛾に向かって吐き出す。火だるまにされた羽蛾は何かを喚きのたうち回る。ソリッドビジョン、ただの幻影のはずだから熱くはないはずなのだが。
「おおっと、ここで羽蛾選手に大ダメージだ!だが、黒炎弾のデメリットによってこのターン、真紅眼の黒竜は攻撃できなくなったぞ。コレは羽蛾選手、反撃のチャンスだ!」
「はぁはぁ……よくもやってくれたなぁ。だけど、MCの言う通りお前はもう攻撃できない!これで俺の勝ちだヒョッ〜ヒョッヒョッヒョッ」
勝ちを確信してた楽しそうに笑う羽蛾。だが、バトルフェイズが行えなくなっただけで攻撃権は残っている。ただ、真紅眼の黒竜が攻撃できないだけなのだ。よって……
「リバースカードオープン、メタル化反射装甲をレッドアイズに装備。」
「ひょっ?そんなカード発動したところで攻撃はできないっつ〜の。ま、攻撃力は上昇するけど、次の俺のターンにアルティメット・インセクトLV5は最終形態であるLV7になってお前のモンスターの攻撃力は700ポイント下げる効果を持つようになる。そんな事したところで無駄無駄。さっさとサレンダーしちまいな。」
これだから、ガキはと肩を竦めながら話す羽蛾。
「メタル化・魔法反射装甲を装備したレッドアイズを墓地に送り、デッキからレッドアイズ・ブラックメタルドラゴンを特殊召喚する。」
真紅眼の黒竜が紅蓮の炎に包まれ、再び姿を現したのは黒い鋼に身を覆われたレッドアイズ。最上級モンスターの連続召喚に会場がより一層の盛り上がりを見せ、それに応えるかのようにレッドアイズは猛々しい咆哮を上げる。
「出たぁぁ!レンカ選手の切り札の一つ、レッドアイズ・ブラックメタルドラゴンだぁ!さらにこのモンスターは真紅眼の黒竜に姿は似ているが別モンスター。よって攻撃が可能だ!」
「真紅眼の飛竜を通常召喚し、バトル。レッドアイズ・ブラックメタルドラゴンでアルティメット・インセクトLV5を攻撃。ダーク・メタル・フレア!」
「ちっ、相打ち狙いか!迎え討て、アルティメット・インセクト!ポイズンショットLV5!」
「その瞬間、手札から速攻魔法発動、禁じられた聖槍。アルティメット・インセクトを対象に発動し、攻撃力を800ポイント下げる代わりにこのカード以外の魔法・罠の効果を受けなくする。」
「しまっ……ギャァァァ!!??」
インセクター羽蛾:LP800
光を放つ槍がアルティメット、インセクトの甲殻を突き破り、力を失ったアルティメット・インセクトはレッドアイズ・ブラックメタルドラゴンの業火に焼かれ破壊される。
「真紅眼の飛竜でアルティメット・インセクトLV3を攻撃。黒・翼・撃!」
再びレッドアイズの業火を喰らい、苦しそうに息を吐き出す羽蛾に向かって、真紅眼の飛竜が急降下し、アルティメット・インセクト共々蹴散らす。
「ひょ?ギャァァァ!?ひでぶ!」
インセクター羽蛾:LP400
羽蛾は飛竜の急降下からの強靭な翼による殴打をくらい、情けない声を出しつつ二度三度バウンドする。
「はぁ……はぁ……。よくも、やって「超再生能力を発動。カードを二枚伏せエンド。」……聞けよ!!」
大ダメージをくらい相当頭に血が上っているのか、台詞を遮られただけで声を荒げる。
「ちっ、俺のター…「エンドフェイズ時、超再生能力のエフェクトが発動。このターンに手札・場から墓地に送られたドラゴン一体につき一枚ドローする。よって三枚ドロー。」…………。」
プロとしてあるまじきミスをした羽蛾は悔しそうに顔を歪め、レンカを睨みつける。これ以上何もないと確認すると再度デッキに手をかける。そして、ドローカードを見ると表情を一転させ、余裕の笑みを見せつける。
「ヒョッヒョッヒョッ、案外俺もついてるねぇ。天使の施し。発動!デッキから三枚ドローし、二枚捨てる。さらに強欲な壺を発動だ!そして、代打バッターを召喚!さらに魔法カード、殺虫剤発動!代打バッターを破壊だ!」
羽蛾自ら殺虫剤を代打バッターに吹きかけ、破壊するという演出を見せると会場から驚きの声と共にプレイングミスか?と疑問の声が聞こえてくる。
「おおっと、羽蛾選手。自ら召喚したモンスターを自分で破壊してしまったぁ!コレは一体どーゆーことだぁ?」
「ヒョッヒョッヒョッ、これでいいのさ。破壊された代打バッターの効果発動!手札の昆虫族モンスターを特殊召喚する!出番だ!来い、女王様!」
女王様と呼ばれ、召喚されたのは巨大な人面蜂、インセクト女王。アルティメット・インセクトもさることながら、それを上回る醜悪さに会場から悲鳴が聞こえてくる。
「で、出たぞ出たぞ!インセクター羽蛾のエースモンスター、インセクト女王様ダァ!このモンスターは気持ち悪いが、効果は強力!フィールド上の昆虫族モンスター一体につき攻撃力を200ポイントアップさせる効果を持っている!状況次第では、あの海馬 瀬人が操る青眼の白龍の攻撃力を上回るぞ!」
「そゆこと。だけど、まだ俺のターンは終わらない!魔法カード、ワームベイト発動!俺の場にレベル1・地属性・昆虫族のワームトークンを二体特殊召喚する。さらに死者蘇生発動!墓地のアルティメット・インセクトLV7を特殊召喚だ!」
天使の施しの時に捨てられたと思われるアルティメット・インセクト最終形態が場に現れ、歓声と悲鳴が入り混じった声が響く。
「羽蛾選手の見事なマジックコンボによって召喚されたのは、昆虫たちの女王、インセクト女王とアルティメット・インセクトの最終形態であるLV7ダァ!さらにぃ、フィールド上に存在する昆虫族の数は四体、よってインセクト女王の攻撃力は800ポイント上昇し、なんと攻撃力3000だ!!コレは、レンカ選手ピンチか!?」
「おっと、まだ俺の手札は一枚残ってるぜ?墓地のアルティメット・インセクトLV3とLV5を除外し、デビル・ドーザーを特殊召喚だ!さらに、昆虫族モンスターが増えた事により、インセクト女王の攻撃力が200ポイント上昇する。」
羽蛾の場に壁であるワームトークン二体の他に攻撃力2600のアルティメット・インセクトLV7、攻撃力2800のデビル・ドーザー、攻撃力3200のインセクト女王という最上級モンスターが召喚され、誰もがレンカの負けを覚悟し、息を飲む。
「さぁ、バトルだ!ワームトークン一体を生贄にし、インセクト女王でレッドアイズ・ブラックメタルドラゴンに攻撃だ!クイーンズ・ヘル・プレス!!」
レンカ:2000
インセクト女王は上空へと飛び上がり、その巨体でレッドアイズ・ブラックメタルドラゴンをスクラップにすると、その死体を貪り尽くす。その後、大きめの卵を生み落とすと自分の場に戻って行く。
「まだ攻撃は残ってるぜ!デビル・ドーザーで真紅眼の飛竜に攻撃!クロス・ポイズン!」
レンカ:1000
毒が滴る巨大な刃で真紅眼の飛竜を切断する。
「そして、この瞬間デビル・ドーザーの効果発動!相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキの一番上のカードを墓地に送らせる。」
「…………、へぇ。」
デビル・ドーザーの効果により送られたカードを確認するとレンカは思わず口元を緩め、声を漏らす。
「なんかいいカードでも落ちたのかな、ヒョッヒョッヒョッ。だ、け、ど、これで終いだ!アルティメット・インセクトLV7!ダイレクトアタックだ!ポイズンショットLV7!」
「リバースカードオープン、速攻魔法、銀龍の咆哮発動。墓地の真紅眼の黒竜を特殊召喚する。甦れ、レッドアイズ!」
上空から真紅眼の黒竜がレンカの前へと降り立ち、その身を呈して主人を守る。決まったと思っていた羽蛾は悔しそうに歯噛みする。
「おおっと、主人をレッドアイズがその身を盾にして、ピンチを救ったぁ!だが、レンカ選手の場に他のモンスターは居ない!さぁ、次のターン、インセクター羽蛾の率いるインセクト軍団を倒さなければ勝利はない!さぁ、どうする!?」
「どうするもこうするも何もできやしないよ。なんせ、俺の場に死角なんてないからね。このターンは仕留め損ねたけど、次で終わらせるよ。ひゃっ〜ひゃっひゃっひゃっ。あ、そうだ、インセクト女王が相手モンスターを破壊した時俺の場に昆虫族のインセクトモンスタートークンを特殊召喚するぜ。これで場の昆虫族モンスターの数は再び五体となり、インセクト女王の攻撃力は3200だ!ま、せいぜい足掻くんだな!」
まるで勝利を確信したかのように高笑いする羽蛾はエンド宣言をし、正体不明と言われ続ける対戦相手、レンカを見る。恐らくは勝った後のインタビューでどんな事を話そうかなどと考えているのだろう。その視線を不快に思いつつ、羽蛾には無く自分にのみあるもの……手札を確認する。
確かに羽蛾の場には攻撃力の高いモンスターが並んでいるがそのモンスター達を守り、相手の行動を妨害する伏せカードが一枚も存在しない。さらに、羽蛾は強力なモンスターを召喚することにこだわり、手札を全て使いきってしまっている。それに対し、レンカにはモンスターが存在しない代わりに制限枚数ちょうどの6枚の手札がある。
本当に強い人、例えば自分のスポンサーを務める社長とかが見ればこんな状況で勝ちを確信するなど笑わせると鼻で笑い飛ばすだろう。
「そーんなに手札ばっか見て、どーすんのさ。勝てないなら勝てないでさっさとターンを移ってくれないかな〜?それとも〜、サレンダーしても、いいんだよ〜?どうせ、俺の勝ちは確定してるようなもんだしね〜、ヒョ〜ヒョッヒョッヒョッ。」
羽蛾の妨害無しに好き勝手できるこの状況でレンカはどうやっていたぶってやろうかと手札を見つめ、思案していると羽蛾が気持ちの悪い笑い声を響かせながら、挑発をしてくる。そしてこの瞬間、どうフィニッシュを迎えるかが決定した。
羽蛾のモンスターの中でもっとも攻撃力の高く、彼のエースモンスター……インセクト女王を正面からぶっ潰す、と。
誰にも見られないようにフードの奥で薄ら笑いを浮かべるとデッキからカードを引き抜く。そして、今手札へと加わったカードを見て、大きく目を見開く。どうやら、自分のデッキもあのバカをぶっ飛ばしたいらしい。
「マジックカード発動、真紅眼融合!!手札・デッキ・フィールドより、融合素材モンスターを墓地へと送り、レッドアイズモンスターを融合素材とするその融合モンスターを融合召喚する。」
「なっ!?デッキから融合だと!インチキ効果もいい加減にしろよ!」
ここになって融合召喚が行われ、どんなモンスターが現れるのかと観客が期待をし、息を飲む。
「デッキの真紅眼の黒竜とデーモンの召喚を融合!
赤き瞳を持つ竜よ、今悪魔の力と一つとなり、新たなる力を喚び醒まさん!
融合召喚、現れ出でよ悪魔の如き漆黒の竜よ!レベル9、悪魔竜ブラック・デーモン・ドラゴン!!」
身体中から黒き雷を迸らせフィールドに君臨するのは恐ろしい悪魔とも、勇ましいドラゴンともとれる二つの容姿を持ったモンスター。その姿は見ているものすべてに物言わぬ圧力を与え、恐れさせる。実況・解説が仕事であるはずのMCもレンカのフィールドへと召喚されたそのモンスターに気圧されてか、喋る事を忘れている。
「悪魔竜ブラック・デーモン・ドラゴン……。その攻撃力は3200。レッドアイズ融合体のうちの一つ。」
喋る事を忘れたMCの代わりに今までほとんど口を開かなかったレンカが簡単な説明をする。
「バトル……。悪魔竜ブラック・デーモン・ドラゴン、インセクト女王を攻撃しろ」
「ひっ!?だ、だけど、女王様は自身の効果でパワーアップして攻撃力は3200だ。こ、攻撃する相手を間違えたな!」
怯えながらも減らず口を叩く羽蛾。だが、逆にレンカは肩を小さく震わせ笑っていた。
「ひょ?な、何が可笑しいんだ!」
羽蛾笑われた事にを腹を立てるが、いまだに笑い続けるレンカ。そして、今までが嘘だったかのように喋り始めるレンカ。
「何が可笑しいって?何もかもだよ。たかだかモンスターを五体並べただけで勝った?攻撃力が3200のモンスターが居るから勝った?たかだかそんな事くらいで勝ちを確信するなんて滑稽だね。」
そこまで言うとレンカは堪えるのをやめ、遠慮なく声をあげて笑い始める。
「な、な……。だ、だけどお前のモンスターと俺のインセクト女王の攻撃力は互角!そして、お前がいくら壁を並べそうとも俺のインセクトモンスターで粉砕してトドメだ!どこにお前の勝ちがあるって言うんだよ!」
少し前までの気持ちの悪い笑い方を忘れ、切羽詰まったような口調でまくしたてる。
「あはは……。言ったじゃん、そんなものカード一枚でどうとでもできるって、っさ。
墓地のブレイクスルー・スキルのエフェクト発動!墓地のこのカードを除外し、フィールド上の効果モンスター一体の効果を無効にする。」
本来なら場に一度伏せてから使用するはずの罠カードを墓地から発動したことで静まりかえっていた会場は騒々しさを取り戻す。
「な、なんとレンカ選手、墓地からトラップカード、ブレイクスルー・スキルを発動だぁ!だが、そんなカードいつのまにそんなカード送っていんだ!?」
「いつって?それは羽蛾が送ってくれたんだよ。デビル・ドーザーのエフェクトでね。」
「なっ、なん……だと……!」
自分の使用したカードで自分の首を閉める事になる。さらには、散々煽り、罵倒した相手に叩き潰される。その二つだけで羽蛾のプライドを粉々に砕くには充分だ。
「ブレイクスルー・スキルのエフェクトによって、インセクト女王のエフェクトを無効にする。そして、インセクト女王のエフェクトが無効になった事により、攻撃力は元へと戻る。」
効果を失った事により、インセクト女王の攻撃力は元の数値、2200へと戻り、悪魔竜ブラック・デーモン・ドラゴンとの攻撃力の差は1000ポイント。
「さぁ、トドメだ。やれ、ブラック・デーモン・ドラゴン。断罪のヘルフレア!」
「あ、あぁ……。アァァァァァァァ!!??」
地獄の業火に焼かれながら、羽蛾はその残りライフを0にする。
悪魔竜の業火にさらされて、仰向けに地面へと倒れている羽蛾を見下ろし、レンカがさらなる断罪を加える。
「悪魔竜ブラックデーモンドラゴンのエフェクト発動!このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、墓地のレッドアイズ通常モンスターをデッキへと戻し、その攻撃力分のダメージを与える。真紅眼の黒竜をデッキへと戻し、攻撃力2400分のダメージを与える。
「ひょっ……?ま、まさか!?」
「これで終わり……。喰らえ、獄・炎・弾!!」
「ギャァァァァァァッ!?」
羽蛾の断末魔が会場全体へと響き渡り、レンカの無慈悲さを際立たせる。
そして、レンカはデュエルが終了したことを確認するとフードの裾を翻し元来たゲートへと引き返していく。
「しょ、勝者……漆黒の竜使いレンカだぁぁぁ!!」
すでに勝者が姿を消したドーム内にMCのコールが響き渡る。そして、それに少し遅れ観客の惜しみない歓声が響く。
後書き
ー決闘者名鑑ー
No.1《インセクター羽蛾》
全日本選手権の優勝実践がある。
かのキングオブデュエリスト、《武藤 遊戯》と幾度となく闘っており、その度に《武藤遊戯》を追い詰めており、実力は高い。
名前の通り、昆虫族を愛用しており、装備魔法や、攻守の増減で敵を翻弄し、ビートダウンだけではなく、ロック、バーンなど多彩な戦術を駆使する。
エースモンスターは『インセクト女王』。
レンカと決闘した際は、LVモンスターである『アルティメット・インセクト』を使用し、その効果でレンカのエースモンスター『真紅眼の黒竜』を弱体化し、追い詰めた。
羽蛾本人は『アルティメット・インセクト』に因んで、《インセクター羽蛾》からレベルアップし、《アルティメット・インセクター羽蛾》などと言っている。
レンカに敗れた後、インタビュアー達にレンカとの再戦を宣言し、さらなるパワーアップをして戻ってくると語った。
ーーーーー
早速、噛ませとして登場。さっくりと狩られました。羽蛾さん、次回アルカナ?
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