ユキアンのネタ倉庫
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インフィニット・ストラトス 否定の救世主
「来主操、好きなことは綺麗な蒼い空を眺める事。ISの知識は付け焼き刃だから迷惑をかける事もあるかもしれないけどよろしくね」
自己紹介を終えて席に座る。IS学園、ある程度空を駆けることが出来る場所。IS自体は好きだけど、ISの周辺環境が嫌いだ。もっと自由になれないのだろうか?それともあの神に空を駆けれる世界を望んだのが間違いだったのかな?もっと詳しく指定すれば良かったのかな?
「それは、ISなのですか?」
「そうだよ。オレの専用機、ファフナー・ザルヴァートルモデル、マークニヒト。世界に祝福を与える者さ」
神がオレの為に用意したIS、それはニヒトをISの大きさにしたISであってISでないもの。ファフナーであってファフナーでないもの。そしてオレは人間であって人間でないもの。フェストゥムであってフェストゥムでないもの。
初めてニヒトを身に纏い、僕は今まで生きていなかったのだと実感させられた。オレはニヒトを纏って、ようやくこの世界に産まれたんだ。
空を見上げる。綺麗な蒼い空。どこまでも広がる大いなる空。そこを駆けれる力をようやく手に入れて、オレがオレであるとはっきりと感じる。だから、それを宣言しよう。
「オレは、此所に居る!!」
宣言と同時に産まれた力を理解する。ニヒトの全身が翡翠色の結晶に覆われて弾ける。装甲がTV放送版から劇場版へと変わり、今まで以上に動きやすくなる。
「一次移行?」
対面に居るオルコットさんが尋ねてくるが、その考えは違う。ニヒトも今、この世界に産まれたんだ。オレと一緒に空を駆ける為に。
「オルコットさんは空が好きかい?」
「はあ?」
「オレは大好きだ。空は綺麗で、大きくて、何より自由に見える。だから、大好きだ」
「一体何なんですの?」
「もっと、自由に、素直に生きた方が楽しいよ。肩肘張らずにさ」
この世界に産まれ落ち、ニヒトを纏う今のオレは、人間であり、フェストゥムであり、ISであり、ファフナーだ。読心能力でオルコットさんの心を覗いて、彼女の事を理解する。彼女は、ただ一生懸命なだけの女の子だ。一生懸命すぎて周りを見る余裕が無くなって、自分を追い込んでいるというのを分かっていない。だから
「今の君を否定する。それがオレからの祝福だ」
試合開始の合図と共に持っていたルガーランスを同化して最大加速で切り込む。
「なっ、はy」
オルコットさんの持つライフルを真っ二つにし、同化して吸収する。そのまま切り上げて首筋に突きつけてから離れる。
「馬鹿にしてますの!!」
怒ったオルコットさんはISから4基のユニットを取り外す。ノルンみたいな物かな?まあ、問題無いね。
背中のウィングユニットのアンカーを飛ばして、串刺しにするのと同時に同化して吸収する。アンカーをウィングユニットに戻してワームスフィアを形成し、装甲という装甲をねじ曲げる。飛行機能すら壊れたのか落ちていくオルコットさんに再びアンカーを打ち込んで宙吊りにする。そして、ゆっくりと同化していく。オルコットさんのISの装甲が結晶に覆われていく。そこまでは焦りながらもまだ抵抗を続けていた。それも次の瞬間には止まる。
露出している肌の一箇所に結晶が生えたことによって。
「えっ、あっ、い、いやああああああああああああ!?!?」
パニックを起こして暴れ回るオルコットさんを見下ろして同化を続ける。
「やめろおおおおおお!!!!」
ピットから飛び出してきた一夏がアンカーのワイヤーを切るのと同時に同化を止めて、肉体とねじ曲がった装甲を返す。地面に叩き付けられそうになるオルコットさんを一夏が抱きとめてオレに剣を向ける。オルコットさんは安心したのか気を失ったようだ。
「操!!お前、何をやってるんだよ!!」
「最初に言ったはずだよ。今の彼女を否定する。それがオレからの祝福だって」
「巫山戯るな!!幾ら怒ってたからって殺す事が祝福だなんて認めねえぞ!!」
「誰も殺すなんて言ってないよ。今の彼女を否定するって言ってるんだ。似ているように感じるんだろうけど、全然意味は違うよ。一夏が思っている祝福とオレの思っている祝福は同じ物さ。そこに辿り着くまでの道のりが違うだけさ」
「何を訳の分からない事を言ってるんだ」
「二、三日で分かるよ。さて、オレと戦うのなら彼女を戻してきてあげなよ。危ないから」
そう言うと渋々ピットへと戻っていく一夏を見送りながら通信に出る。ついでに切られたワイヤーを同化して繋げ直す。
「何か御用ですか、織斑先生」
『……オルコットの機体に何をした?お前の攻撃でオルコットのシールドエネルギーが減ったのは最後のアンカーを打ち込んだ時のみだった。装甲にアレだけのダメージを負わせながらだ』
「説明しても分からないでしょうから完結に結果だけを見て下さい。ねじ曲げただけですよ。本来ならそのまま捻りきる事だって出来ます」
『なら次だ。あの結晶は何だ?結晶に覆われて砕け散ったのに、なぜオルコットは無事なのだ』
「ニヒトだけのワンオフですよ。詳細は秘密です。無事なのは結晶で覆っただけですから。何度も言ってますけど、今の彼女を否定する。それがオレからの祝福です。『オレが悪役になる事で彼女がクラスで孤立する事はなくなった。むしろ心配される側になった事でクラスに溶け込める様になる。それに、死の恐怖を味わった事で性格にも変化が現れるはずですから』
『それではお前がオルコットになるだけだぞ』
「オレは空さえ飛べればそれで良いんですよ。ザルヴァートルの名は伊達じゃないんですよ」
そこで一夏が戻ってきたので通信を切る。先程と違い、装甲が変化している所を見ると一次移行が終了したようだ。
「来なよ、一夏。遊んであげるからさ」
オレの挑発に一夏が剣を振りかぶって斬り掛かってきたのでそれをルガーランスで受け止めて同化して吸収する。それに一夏は驚いて、驚いて?
「なんで驚いてるの?」
「いや、さっきワイヤーを切るときは問題無かったから」
「あれはわざと切らせたんだよ。ほら、他の武器を出して」
「い、いや、それがだな」
「まさか、拡張領域に何も入っていないのかい?」
「あ〜、うん、そうなんだよ。初期設定の雪片弐型しかなかってさ」
「仕方ないね」
遊びにすらならないとは思っても見なかったよ。まあ、オルコットさんに祝福を与えられただけで今回は良しとしよう。
ルガーランスを展開してエネルギーを注ぎ込む。そしてプラズマの射出口を一夏に向ける。
「痛みは一瞬だ。楽にすると良いよ」
ルガーランスから放たれたプラズマにのまれて一夏が墜落していく。
「君がオレを呼んだのかい?」
学園の整備室の一画に未完成で置かれているISに語りかける。この世界に産まれ落ちてから、オレは彼女達、ISのコアの心も読める様になった。そしてそれが彼女達にも伝わりコアネットワークを通じてオレを呼んだのだ。
「そうか。いいよ、オレが祝福してあげる」
「……そこにいるのは誰?」
振り返ると入り口に眼鏡をかけた女の子が立っていた。
「来主操、NO.107に呼ばれてきた。はじめまして、更識簪さん」
「どうして私の名前を!?」
「NO.107が教えてくれたからね。分かりやすく言えば打鉄弐式が教えてくれた。君に身体を作って貰っている彼女がオレを呼んだ。彼女と君を祝福して欲しいと」
「コアに意思が?それに祝福?何を言っているの?」
「言葉で伝えるのは難しい。伝えたい事の全てを伝える事が出来ない。伝わらなかった物の方が重要な時もある」
左手で打鉄弐式のコアが格納されている部分に触れて同化する。
「くっ」
NO.107が感じた痛みが流れてくる。更にニヒトのコアと違って独立していないからかコアネットワークからも様々な情報が流れてくる。
「NO.107の意思を伝える。手を」
右手を更識さんに差し伸べながら、伝える為の情報を選別する。だが、更識さんは手を取ろうとしない。
「不安も恐怖も分かる。オレにはこの方法しか思いつかない。オレを信じてなんて言わない。だけど、彼女を信じて欲しい。彼女は苦しんでいる。そして、君の事を心配もしている。それを伝えたいだけっっ!?」
コアネットワークから意図的な介入が行われ、しかも上位権限で無理矢理情報を抜き取ろうとこちらにアクセスを仕掛けられた。それによって幾つかのコアが痛みを感じ、それが流れ込んでくる。あまりの痛みに膝をつく。
「それ!?」
更識さんがオレの左手が結晶に覆われた事に驚く。
「説明する時間が無い。これが最後のチャンスになってしまった。手を、ぐあああああ!!」
介入が酷くなり左肩まで一気に同化が進む。
「このままでは彼女が消える。消されてしまう。頼む、彼女の意思を伝えさせてくれ!!」
オレの必死の訴えにようやく更識さんが差し伸ばしていた右手を取ってくれる。
「ありがとう」
右手で更識さんの右手を少しだけ同化してNO.107と更識さんの意識を擬似的にクロッシングさせる。オレ自身は二人の対話の邪魔はせず、邪魔をさせない為にコアネットワークの方に意識を集中させる。予想通り介入主は篠ノ之束だった。上位存在の時点でそれしか答えは無かったけどね。今回は手を出せないけど、いずれは祝福を与えるよ。
二人の対話が終わると同時に更識さんとの同化を解除してニヒトを展開する。
「痛みを全て、受け止める!!」
原作の来主操が押し付けられていた様に、真壁一騎が同化現象を肩代わりした様にコアの訴える痛みを全て引き受ける。それが終わり次第、NO.107をコアネットワークから完全に独立させる。
「あ、あの」
「ごめん、ちょっとだけ休ませて」
想像以上に体力を消耗し過ぎた。ニヒトを解除して座り込んで荒い息をつく。5分程待ってもらってから、話を聞く。
「色々、あの子と話して、私がどれほど傷つけたのか理解して、それでも私は傷つける事しか出来ない」
「それもまた、ひとつの祝福だよ」
「それでも傷つけるのは痛い事だよね」
「だけど、痛みを知らないのは害しか無い」
「それでも痛みは少ない方が良い。だから、力を貸して欲しいの」
「オレはISに関しての知識はほとんど無いよ。クラスメイトにも避けられてるからコネも無いし」
「私とイオナを繋いだあの力、人と人も繋げられるはず」
「イオナ?ああ、NO.107だからイオナか。分かりやすくて良い名だね。さて、質問の答えだけどYESだよ。人と人を繋げる事も出来る。だけど、繋がって分かったはずだ。あれは繋がっているもの全てに自分の全てを曝け出す必要がある。オレも出来る限り思考をそらしたけど、それでも見てしまった物が多々ある。だから、誰と繋がろうとしているのかも分かる。だけど、相手がどう思っているのかは分からない。この力は互いに傷つけ合う力でもある。それを理解しているね?」
「うん」
「今まで見えなかった十字架を見える様にする。辛い行為だ。もう逃げる事は出来なくなる」
「それでも、前に一歩進める」
「まっすぐな心だ。それが君の祝福になるのならオレの力を貸そう。出て来たらどうですか、更識楯無さん。そこに居るんでしょう?」
オレが声をかけると銃を構えた更識楯無さんが姿を現す。更識さんだとかぶるから名前の方で呼ぼうかな。
「貴方、一体何者なの」
「来主操、君たちを祝福する者さ。話は聞いていたし見ていたんでしょう?彼女は自分が傷ついても貴方に意思を伝えたがった。貴方にその覚悟はありますか?」
右手で簪さんの左手を握りもう一度同化する。そして左手を楯無さんに差し伸ばす。しかし、簪さんと同じ様に楯無さんは中々手を取ろうとはしない。それどころか今にも発砲しそうになっている。
「これはチャンスなんですよ。また、昔みたいに戻れるかもしれないチャンスです。傷つくかもしれない。だけど、与えられる訳では無く自ら手にする物でもある。それはこれから先を進む為の力となる」
話をしている間にオレと簪さんを覆う結晶がほんの少しずつ増える。
「時間をかけすぎると命に関わる。決断は早めにして」
その言葉に楯無さんが発砲してくるが、ニヒトの翼を部分展開して防ぐ。
「簪ちゃん、早く離れて!!」
「彼女も危険性に関しては理解している。その上で分かり合いたいと言っているんだ。それを受けるのも拒むのも貴方次第だ」
そう話しているうちにも結晶は少しずつ増えている。
「お姉ちゃん」
簪さんも右手を楯無さんに差し伸べる。楯無さんはその手を握り、強引にオレから簪さんを引き離し、ISを展開して武器を構える。槍に見えるけど先端に砲口がいくつも見える事からガトリングと判断する。回避すれば後ろにあるイオナが壊される。ならば受ける。
ニヒトを展開すると同時にガトリングが火を噴き、ニヒトの装甲を撫でる。そう、撫でるだけだ。シールドも展開せずに装甲で直接受けているが、装甲に多少のへこみが見れるだけでダメージになっていない。そのまま身体を広げて後ろにある物を守っていると簪さんが楯無さんを突き飛ばしてこちらに走ってくる。打鉄弐式の破損を涙目になりながら確認していく。
さすがにオレとニヒトでも全ての弾丸を防げた訳では無い。致命傷になると思われる部分に当たると思った分は確実に防いだけど、実際の所どうなのかは分からない。しばらく待っていると痺れを切らしたのか楯無さんが声をかける。
「簪ちゃん」
「……出て行って。今は、顔を見たくない」
「簪ちゃん!?」
「お願いだから出て行って!!酷い事、言っちゃいそうだから」
拒絶されたと思った楯無さんはISを解除して走り去ってしまった。その目に涙があったのをオレはしっかりと見てしまった。完全に話がこじれた事に頭が痛くなる。ISを展開してオレの後ろの打鉄弐式ごと攻撃しなければここまで行かなかったんだけどな。すぐに追いかけたい所だけど、簪さんも泣いてるし、簪さんの気持ちの方が理解出来てしまう。ニヒトを解除して簪さんに尋ねる。
「被害の方はどんな感じですか?」
「重要な部分へのダメージは無いけど、一発だけ右腕の情報伝達バイパスに直撃してる。これの修理には右腕を一度本体から外さないといけない。だから時間がかかる。イオナはなんて言ってる?」
「かなり痛がっている。オレが直しても良いかな?オレなら5秒もあれば直せる」
「……お願いしても良い?」
「ああ、だけど、どうすれば良いのかだけは指示を出してくれ。間違うかもしれないから」
「分かった。この部分なんだけど、本来ならこんな形になってるの。そこに弾丸の破片が当たって傷ついてるの」
簪さんが予備パーツを見せてくれたので、それを同化して破損部分に当てはめる。
「すごい便利だね」
「使いすぎると不味いんだけどね。まあ、これ位なら殆ど問題ないよ」
「ありがとう」
「どういたしまして。それよりもお姉さんはどうする?もう一度機会を作っても良いよ」
「……それは」
「……返事は今じゃなくていいよ。オレは寮の屋上にテントを張っているから、そっちに来て。大抵はそこにいるから」
「分かった。ごめんなさい、迷惑ばかりかけて」
「俺が好きでやったことだから、気にしないで良いよ」
整備室から出て、オレはアリーナに向かう。管制室で制御用のコンピュータと同化して試合用の設定を起動する。ロッカーでシナジェティック・スーツ風のISスーツに着替える。そのままアリーナの入り口から遠い方のピットからフィールドに突入して中央で待機する。
それから30分後、先程見たばかりのISがフィールドに突入すると同時に、その手に持つ大型火器を発砲してくる。それを同化して強化したロングブレードで弾き、同じく同化で強化したガルム44で反撃する。それを全て躱して楯無さんが降りてくる。
「貴方さえ居なければ、簪ちゃんに嫌われなかったのに!!」
「貴方がオレの手を取っていれば話は丸く収まっていたのに」
大型火器を手放して水で出来た蛇腹剣を取り出す。そして触れ合うのは僅かな時間で連続で斬り掛かってくる。なるほど、同化の対策はしてきたってことか。それにこの水、ただの水じゃない。何を企んでいるのかは分からないけど、大した障害にはならないだろう。
銃身を斬られたガルム44を投げ捨ててルガーランスを取り出して変則二刀流で迎え撃つ。機体性能はこちらが上、技量は向こうが上だけど読心能力で上回れる。あとは、思いの強さがどこまで強いかだ。それ次第で、オレは彼女も祝福する。
「ミストルテインの槍を耐えた!?」
全身の装甲がかなり融けたけど、フェンリルと同じ位の火力ならなんとか動ける。それにエネルギーは十分に節約出来た。
「っあああああ!!」
先端が折れたルガーランスを展開して楯無さんを挟んで拘束する。プラズマの射出装置にもダメージが入っているけど、やるしかない。これが最後のチャンス。
「行っけえええええええええええ!!」
ルガーランスを空へと向けて、同化で限界以上に能力を引き上げたプラズマを撃ち出しシールドエネルギーを完全に削りきる。同時にルガーランスも限界に来たのかプラズマの射出装置が融解して爆発を起こす。それによって支えを失った楯無さんが落ちていくのを急いで回収する。ニヒトも限界が近いので待機状態に戻して自己修復を促せる。これが本当の殺し合いならもっと楽だったんだけど、本当に殺すわけにはいかないからね。
「全く、簪さんがそんなに大切ならもっと気にかけてあげれば良いのに」
先程までの殺し合いの中でも思考の片隅では常に簪さんのことを考えていた彼女に呆れながら涙を指で拭う。シールドエネルギーが0になった上に絶対防御まで発動したのか、楯無さんは気を失っている。
「……ざし、……ゃん」
気を失っても妹の事を気にかける彼女は祝福されるに値する。楯無さんを背負い、アリーナから出ようとすると、簪さんが走り込んで来た。
「どうしたの?」
「嫌な予感がしたから。応急修理だけ済ませて、探してたの。そうしたら」
「まあ、見ての通りだよ。オレの話は全く聞いてくれなかった。それだけ妹に嫌われたと思ったのが効いたんだね」
「お姉ちゃん」
楯無さんを近くのベンチに寝かせて左手を握って同化する。
「今のお姉さんは思考の袋小路に立っている。行きたい場所は分かってるのに、それがどっちにあるのか分からない。だから、教えてあげて。ここにいるよって」
空いている右手を簪さんに差し出す。簪さんはすぐに手に取って答えてくれた。
「来主君は居るかしら」
「更識先輩?」
翌日の放課後、HRが終わった後に楯無さんが教室にやってきた。
「どうかしたんですか?」
「ええ、もの凄く重要な事よ。はい、これ」
そう言って腕章を渡される。ものすごい手作り感と手抜き感のするそれには生徒会長と書かれていた。
「昨日、私に勝った事で今日から来主君が生徒会長よ」
「はい?」
楯無さんが広げた扇子にはアンタが一番と達筆で書かれていた。
「いやぁ〜、これで私の肩の荷も降りて楽が出来るわ〜」
「ちょっと待った!!説明を要求します!!なんでオレが生徒会長になるんですか
」
「知らなかったの?ここの生徒会長は生徒間でのいざこざを仲介したり、色々と武力問題を解決する為に学園で一番強い人が生徒会長を務めるのよ」
「知らないよ。入学前のあの分厚い冊子を覚えるので精一杯だったから」
「まあ、決まりだからあとはよろしく。私は簪ちゃんの所に」
「行かせませんよ!!生徒会長を引き受けるのは100歩譲るとしても、引き継ぎ位はちゃんとしてからにして下さい!!」
逃げようとする楯無さんの襟首を掴んで引きずっていく。
「昨日も思ったんだけど先読みが的確過ぎじゃない!?なんで躱そうと思ってる先に既に手があるの!?」
「ニヒトに乗り出してから急に勘がよくなったんですよ。ほら、きびきび歩いて」
「私の扱い雑すぎない」
「勘違いで暴走したんですからちゃんと手綱を取らないと不味いでしょ」
「酷い!!」
楯無さんを引きずりながら窓から空を見上げる。そこには今日も綺麗な蒼い空がある。
「そう言えば、生徒会長ってどっちだっけ?」
「ここまで引きずり回してそれ!?」
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