101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行
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第九話
前書き
前回の話、Dフォンが鳴る場面を書き忘れていたので、書き足しました。
◆2010‐05‐12T07:45:00 “Kannaduki House”
ピンポーン。
「こんな朝早くにお客さん?なぎくん、誰かとお約束してたりする?」
「いや、そんな覚えはないけど……。なんだろ?」
なんだかよくわからないことがあった次の日、姉さんの作ってくれた朝食を二人で食べ終え、食器を洗っていた時のことだ。現在時刻、七時四十五分。
俺は特に誰かと一緒に登校するという約束はしておらず、昨日のように偶然出会って、という流れで一緒に登校することがあるくらい。だから、俺のほうには覚えはない。
「ん~、お姉ちゃんも何もないはずなんだけどな~。なぎくん、ちょっと出てくるね?」
「いいよ、姉さん。俺が行くから」
というがまあどちらかが譲るわけもなく、結果二人で出ていくことに。もう制服に着替えてあるし、まあ大丈夫だろう。そんなことを考えながら玄関を開く。
「はい、どちらさまで」
「遅い!」
と、玄関を開けた先にいたのは翠緑学園の制服に身を包んだテンだった。
閑静な住宅街にある我が家を訪ねたのがお嬢様学校である翠緑学園の制服を着た少女。なかなか見れないこの組み合わせは俺に少しばかり感動のようなものを与え、さらに彼女らしい強気な笑みを浮かべているのでそれはもう嬉しい。
昨日の通りうすい茶色の髪をツインテールにして片手を腰にあてた体勢。これがせめて昨日の朝の出来事だったりしたのなら心から喜んだんだけど……
「……えっと、おはようテン。どうしたんだ?」
まあ、少しばかり警戒してしまう。昨日のテンの言葉、そして昨日の放課後からの一連の出来事。それだけのことがあった次の日の朝にこれなのだ。警戒くらいするだろう。
というか、どうやって俺の家を?案内した覚えどころか、徒歩通学であることすら伝えた覚えがないんだけど。
が、俺のそんな思いはテンには届かなかったのか。
「話があるから付いてきなさい」
それはもう、彼女らしい強気な口調でそう伝えられる。これに対して一切の苛立ちを覚えないのは、彼女の持つ雰囲気によるものだろう。
だけど、それでも素直に従えるわけではなく。
「悪いんだけど、まだ皿洗いが」
「ちょっとなぎくん。こっち!」
が、俺の言葉は姉さんによって遮られた。えー。
姉さんはテンに「ちょっと待っててね~」とだけ言い残して、テンの返事も待たずにものすごい速さで俺をリビングまで引っ張っていく。
ってか、え?姉さんなんでこんなに力強いの!?
「ちょ、ね、姉さん」
「なぎくん!なんなのあのすっごく可愛い子は!」
あ、こりゃだめだ。始まった。
こうなった以上は、まあ話さないといけないよなぁ。テンが待ってるから、できる限り完結にしないと。
「えっと、昨日転校してきた翠緑学園からの転入生で、夢宮天樹。名前がちょっと男っぽいからテンって呼んで欲しいって」
「うんうん、それで?」
「えっと、あとは……席が俺の後ろの席になったことと俺の持ってるのと色違いのヘッドフォンを持ってるとかでだいぶ仲良く(?)なって、連絡先も交換したし、今度学校の案内をすることになった」
声には出さずに思考の中で疑問符をつけたのは、まあ昨日のことがあったからだ。俺個人としては仲良くなりたいと思うんだけど、それでも昨日のことをはっきりさせずに、というわけにはいかない。
「…………」
「えっと、姉さん?」
「いいじゃない!」
あーあ、こりゃダメだ。もう毎度のことだけど。
確か、最近ではティアの時が最後だったかな?いや、亜沙先輩について話した時もこうなったんだっけ?
「あの子、最初は髪を染めてるような子かと思ったけど、髪の色と眉毛の色が一緒だからそうじゃないみたいだし、だとすればいい子じゃない!ちょっと強気みたいだけど、それでも話があるからって呼びだすんじゃなくて自分から来て!あんないい子中々いないわよ~。ちょっとツンデレみたいな見た目だし、実際にそうなのかはわからないけど、なぎくんそういうところで判断する子じゃないでしょ?」
あ、うん。俺が連絡先を交換したって言ったからなのか、どうやってここを突き止めたのかは気にしていないらしい。そして言うなら、「あんないい子中々いない」という発言はもう何度目だろうか。ティアに亜沙先輩に、あと幼馴染についても何かあるたびに言われている。確かに全部事実だけど。
とかそんなことを考えている間に、いつの間に行ったのか俺の部屋に置いてあったはずのかばんを持たされ、アイロンがけされたハンカチとポケットティッシュを手渡され、お気に入りのヘッドフォンを首にかけてくれてと、出かける準備は整っていた。手際の良さにはもう驚かないけど、早すぎない?
「はい、じゃあ行ってらっしゃい、なぎくん!女の子を待たせちゃだめよ~」
「いや、俺まだ皿洗いが……」
「そんなのお姉ちゃんがやっとくから!だいじょーぶ!今日大学二限からなの!」
ピースの形にしたてを突き出して見せてから、姉さんは玄関まで俺の背を押していく。もういい加減にあきらめた俺は抵抗なんてしないでそのまま玄関まで進み、玄関から押し出される。
「ちょ、カミナ」
「待たせちゃってごめんね!なぎくん、まだ準備が終わってなかったから~。じゃあなぎくん!行ってらっしゃい!」
「うん、行ってきます姉さん。帰りに何か買ってきたほうが良かったりしたら、メールしてよ」
じゃあ荷物持ち頼むかも~、という姉さんの声を背に、俺は家を出る。
「おーい、テン。大丈夫か?」
「……中々濃いお姉さんね」
「俺の自慢の従姉だよ。んで、どんな御用で?」
「ああ、うん。こっちよ、ついてきて」
そういうとテンは学校とは反対方向に歩きだしたので、まあ答えの想像はついているものの問いかけてみる。
「サボり?」
「ええ、サボるわよ。授業休むと単位が危ない、とかなら待ってもいいわよ?」
「んー、いや、大丈夫だ。そんなギリギリなわけでもないし、かといって皆勤なわけでもない」
「ん、なら大丈夫ね」
そう言うと再び何の迷いもない歩調で歩きだしたテンを追うように少し走って、隣に並ぶ。パッと見はデートに見える状況なのかもしれないけど、おそらくそうではない。おそらく、というかもしそうじゃなかったとしても俺のほうから、昨日のことについて聞くつもりだ。
『夢と違うことをするなよな』と書かれていた手紙に、あの発言。そしてその通りにしたら巻き込まれたよく分からない事件。これらのことから、関わりがないわけはない。
そんなテンの横について無言で歩いて行くと、俺たちの横を黒塗りの車が通り過ぎて行き、少し先で止まった。やたら大きく、後部シートにはスモークが貼られていてと、なんだか今にもおっかない人が出てきそうな感じだ。
「……なあ、回り道していかないか?このあたりの道がわからないなら、目的地さえ言ってくれれば何とかなるだろうし」
「別に大丈夫よ。あれ、うちの車だから」
「……へ?」
「目立つし警戒されるし、他の車にしてほしいって何回も言ってるんだけどね……聞いてくれたためしがないから、もう気にしないことにしたわ」
本当に小さくため息をついたテンはそのまま近づいて行き、運転席から出てきた人が開けてくれたことろに乗り込む。その際に一言「ありがとう、じい」と言っている。もしかして執事か何かだろうか?
「えっと……スイマセン、おじゃまします」
「どうぞ」
とはいえ、俺からすれば初対面なので一度頭を下げてから乗らせてもらう。ガッチガチに緊張しているであろう俺に対してもその柔和な表情を崩さないあたり、やはりプロだ。
その執事さんが運転席に戻って車を発進させるが、それも外の景色を見ていなければ気付かなかったであろう程の静かさ。車の中にもさまざまなものが付いていて、もう本当に別の世界だ。
「はい、紅茶。飲めなかったりするかしら?」
「あ、いや。大丈夫。頂きます」
いつの間にか差し出されていたカップを受け取り、冷めないうちに一口頂く。俺でも普段飲んでいるものとは全くの別物だとわかるほどのもので、再び驚いた。
「面白いくらいコロコロと表情が変わるわね」
「あ、ああ……もう、驚きの連続すぎて。えっと、話は?」
「もうちょっと待って。それと、もう三枝さんに欠席するってことは伝えてあるから、誰かに連絡、とかする必要もないわよ?」
「あ、うん……」
手回しが良すぎる。もし俺がテンが訪ねてきた時点で既に学校にいたりしたら、どうするつもりだったのだろうか?
「あ、でもティアに連絡入れといてもいい?心配するだろうし」
「三枝さんから連絡は言ってるはずだから、それも必要ないわよ。とにかく、誰かに連絡することによる因果への接続は、もう少しの間全力で避けて」
「は、はぁ……」
またよく分からない単語が出てきたけど、なんとなく真剣な様子からマジなんだということだけはわかったので、従うことにする。とりあえず、しばらくの間外への連絡は避ければいいのだろうか?どこまでやればいいのか分からないから、とりあえず携帯の電源は切っておくことにする。
「別にそこまでしなくてもいいのよ?」
「いや、ただ個人的に電話がかかってきたりしたのに出ない、とか言うのが心苦しいだけだ。こっちは、このままでいいのか?」
俺がそう言いながらDフォンを見せると、テンは「それはいいわ」と言った。つまり、これがなんなのかは知っているということ。だとすればやはり、あの良く分からない現象にも関わっているのだろう。その辺りのことも、もう少し待てば話してくれるのだろうか?ってか、欠席するってことは意外と遠出するのか?
「ん、もう大丈夫よね、じい」
「ええ。既に八霧市を出て日影市に入りましたから」
「……つまり、八霧市から出てればいいのか?」
「そうね。基本、ロアの影響範囲は街だから」
聞いたことはあるが、なんなのかは知らないワードが出てきた。ロアとは一体何なのだろう?まあでも、うん。そろそろ俺も、確証が持ててきた。というか、こうして会話をしていてわかったけど、やっぱり昨日、最後に聞いた声は……
「……なあ、テン。昨日俺、自分が殺される夢を何度も見たりしたんだけど、」
「あ、それあたしの仕業」
……えー、そんなにあっさりと?
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