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武士と騎士

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7部分:第七章


第七章

「あいつとはな」
「イギリスの騎士とですか」
「その騎士と」
「そうだ」
 名残惜しい言葉はそのままだった。
「だが。仕方ないな」
「戻りましょう、すぐに」
「そして補給を受けて」
「地上部隊の援護に向かうぞ」
 そうするというのだった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今より」
 こうしてだった。米田率いる飛燕の編隊は一旦基地に戻った。戦場に残っているのはクエスター率いるイギリス軍だった。
 空に残っている彼等はだ。口々に言った。
「とりあえず連中は帰ったけれどな」
「それでもな」
「強かったな」
「そうだな」
 クエスターは部下達の話を聞きながら述べた。
「特にあの飛燕」
「はい、やはり武士ですね」
「あの日本軍は」
「紛れもなく武士だ」
 このことも認めるのだった。
「次に会う時もだ」
「正々堂々と正面からですね」
「戦いますか」
「それが私達の戦いだ」
 騎士の戦いだというのだ。
「わかったな」
「はい、それは」
「それでは」
「この戦いは勝つ」
 クエスターは決意をあらたにしていた。
「何があろうともだ」
「はい、それではです」
「今は」
「戻るぞ」
 帰還命令だった。
「次の戦いに備えてだ」
「わかりました」
「それでは」
 こうして彼等も自分達の基地に戻った。これがビルマ上空での日本軍とイギリス軍の戦いだった。
 その戦いが終わって歳月が経った。その時だった。
「昔はここでなあ」
「戦争があったんだ」
「ああ、そうだ」
 褐色の痩せた老人がだ。隣にいる自分によく似た子供に笑顔で言うのだった。
「昔はな」
「確か日本とイギリスだったよね」
「ああ、そうだ」
 その二国だというのだ。
「日本とイギリスが戦ったんだ」
「じゃあ僕が今立っている」
 子供はだ。ここで足元を見て老人に話した。
「ここで?銃を撃ち合ったの?」
「ああ、地面では戦わなかったな」
 老人はそれは否定した。
「ここではな」
「そうなんだ」
「空で戦ったんだ」
 そうしてだった。上を見上げてだ。そのうえで子供に話すのだった。
「空でな」
「空で?」
「ああ、空でだったんだ」
 青い空には白い雲が僅かに漂っている。空色というよりはコバルトブルーの、その見事な空が何処までも広がっていた。その空を見ての話だ。
「空で戦ってたんだ」
「それじゃあ飛行機で」
「そうさ。お互い戦っていたんだ」
 そうだったというのだ。
「それをずっと見ていたなあ」
「ずっと?」
「ひいお爺ちゃんが子供の頃はね」
 その時はという。
 
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