ウイングマン イルミネーションプラス編
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クリスマスデート
1.
タイププラスとの戦いを終え、街は落ち着きを取り戻した。
気がつけば、街はクリスマス一色だ。
商店街や駅前はイルミネーションに彩られている。
「もうすぐクリスマスだよね」
健太の部屋のベッドに寝転びながらアオイは言った。
スウェットにミニのプリーツスカートという格好だが、ラフな性格通りの行動でスカートがめくれたりしてちょっとエッチな雰囲気を醸し出していた。
しかし、健太はそんな状況にも目もくれず、机に向かっている。
「関係ないよ。受験生だし、いつライエルが刺客を送ってくるかわからないんだよ」
参考書を見ながら答えた健太の答えにアオイはすまない気持ちになった。
「でも、せっかくのクリスマスなんだよ! 美紅ちゃんの気持ちも考えなさいよ」
自分のせいで健太と美紅は普通の中学生のカップルのようなことができなくなっていると考えていた。
だからこそせっかくのクリスマスにはデートの1つでもしてもらわないと、気が収まらない。
健太は勉強の筆を止めて無言になって考えた。
確かに彼氏持ちの女子はクリスマスをどうするかという話も聞こえてくる。
それに美紅と付き合ってはいるもののデートらしいデートはほとんどしたことがなかった。
振り返ってみれば、健太たちがポドリムスにリメルを倒しに行く前にしたくらいだった。
常に戦いに身を置いていたし、その分一緒にいるからデートをしなきゃという考えも及ばなかった。
「付き合ってるのに彼氏からクリスマスにデートも誘ってもらえないなんて、悲しいよ!」
アオイにそう言われて、考え直した。
「わかった。そうだね、クリスマス前には休みもあるし、明日学校で誘ってみるよ」
その頃、バルドは基地で新しいプラス怪人に指令を出していた。
「タイププラスは失敗した」
プラス怪人は総じて地球人を甘く見がちだ。
だからこそ注意を喚起しようとして過去にウイングマンと戦ったプラス怪人のデータを伝えた。
バルドからこの度、命を受けたイルミネーションプラスもその御多分に漏れなかった。
「あいつらは元々大したことがないからな。オレにまかせとけ!」
イルミネーションプラスは負けたのはコウモリプラスたちが弱かったからだと決めつけていた。
それに、イルミネーションプラス自身腕に覚えもあった。
バルドもそこに期待していた。
「イルミネーションプラス! 期待してるぞ」
その過信が多少不安ではあったが、任せることにした。
「オレが街中の人間をライト人間に変えて奴隷にしてやるぜ!」
そう言うとイルミネーションプラスは地上に降下した。
2.
「光る女ぁ~!」
健太のクラスで友人の福本たちが都市伝説の話をしていた。
ある男が夜遅くに街を歩いているとうっすらと頭部が光っている人型の物体を見つけたという。
形や大きさから考えると人間なのだが、そんなに頭部がLED電球のように光っているのだ。そんな人間がいるとは考えられない。
近寄ってみると姿形は人間だったが、その人の顔が発光してるのだ。
造形は人間のそれだが発光しているせいで完全にLED電球にしか見えない。
体は服によって大部分が遮断されているのだが、首元も光っているところを見るとも体全体が発光しているとみて間違いなさそうだ。
目撃者は驚いて腰を抜かしたが、正気を取り戻した後、好奇心から、その光る女の後を追いかけてみたが、時すでに遅し。その姿を見つけることはできなかった……
福本の話では、そんな目撃談が複数あるそうで、クラスではこの話が持ちきりになっていた。
普段ならそういった話にはすぐに話に首を突っ込んできそうな健太だったが、今日はそれどころではなかった。
頭の中はクリスマスデートのことで頭がいっぱいだった。
美紅をクリスマスにデートに誘う。
そんなに大したことないように感じられることなのに、どうやって誘えばいいのかわからなかった。
簡単なことのはずなのにすごく意味深な気がしてしまうのだ。
早朝のランニングや登校の最中にもいくつも誘うチャンスがあったが、特別が故にそんなところでさらっと言っていいはずもないと健太は考えていた。
日頃いつも一緒にいるせいで、逆にこういったことをいつ切り出していいのか見当がつかない。ただただ頭を悩ますことしかできなかった。
美紅はそんな健太を見て心配になった。
「大丈夫? 気分でも悪いの?」
そう言って体を気遣ってくれるが、まさかデートのことで悩んでいるなんて言えるわけもない。
「大丈夫だから、心配しないで」
健太はそうと応えるのみだった。
そうは言われても納得できるような様子ではなかった。
「どうしたのかしら?」
健太は新たな刺客に狙われても自分でなんとかできると思ったら抱え込んでしまう性格だ。
でも、それを無理やり聞き出そうとしても絶対に話してはくれない。美紅は健太が自分から話してくれるのを待つしかなかった。
「まずいことに巻き込まれていなければいいんだけど……」
美紅は心配になった。昨日まではそんなのことはなかった。
何かを避けられているような気もするが、もしかしてクラスで話題になっていた「光る女」関係があるのかもしれない。
ただ、健太を問いただしても教えてはくれないことはわかっている。美紅はアオイに相談してみることにした。
「光る女性」の話は桃子のクラスでも盛り上がっていた。
「光る女か……もしかしたらライエルが絡んでいるのかもしれないわ」
この前の戦いでもあまり戦力になれなかった。
桃子はそう考えて、自分の価値をアピールできていない気がしていた。
これは挽歌できるチャンスかもしれない。
「光る女の謎、私がつきとめるわよ」
健太は女の子をデートに誘うなんてことを今までの人生、ほとんどやってこなかった。バカ話やヒーローの話をする友達はたくさんいるが、こんな話を相談できる友達はいなかった。アオイも今回ばかりは相談に乗ってはくれなさそうだ。
自分ひとりで考えることに意味がある、ということもわかっていた。それでも答えが簡単に出せるわけではなかった。
「う~ん、どうすればいいのかさっぱりわかんないよ~」
頭をかきむしってもいい考えは出てこなかった。
ヒーローと世界の平和のことばかり考えていた健太の頭の中には、恋愛の駆け引きに使える部分はほとんど残っていなかった。
放課後、美紅は仲額高校に向かった。
校門でアオイが出てくるのを待っていると、ほどなくアオイが姿を現した。
「アオイさん」
「美紅ちゃん、どうしたの?」
健太や桃子が一緒ならまだしも、美紅だけでアオイを待っていることは珍しいことだった。
驚いて少し戸惑ってしまった。
「広野君の様子がちょっと変で……」
アオイはそれを聞いてちょっとニヤける。
「はは~ん、ケン坊、クリスマスのデートの誘い方がわからなくて悩んでるのね……」
でも、そんなことを美紅に話してしまうほどアオイは野暮ではなかった。
「そうなんだぁ~どうしたのかねぇ~」
美紅から視線をずらした。少し思わせぶりな態度だ。
「アオイさん、「光る女」って知ってます?」
そう言えばクラスでも話題になっていた。
どうせ都市伝説だろうとアオイは楽観的に考えていたのだった。
「私は、ライエルと関係があるんじゃないかと思ってるんです。広野君はそれを知ってて自分だけで解決しようとしているんじゃないかと……」
確かにそう言われてみれば「光る女」がライエルと関連ってもおかしくはないかもしれないと思った。
ただ、それを健太と結びつけた美紅の推測に、アオイは思わず吹き出した。
「ハハハハ。それは考えすぎよ~。大丈夫大丈夫。「光る女」の件は私も探ってみるから、美紅ちゃんはケン坊をサポートしてあげて」
そう言ってアオイはウインクをした。
「うん。わかった。私は広野君を信じるわ」
アオイの表情から美紅はアオイが何か知っていると確信した。
納得して美紅は帰っていった。
3.
暗い夜道、桃子は家への帰路を急いだ。
夜も8時近くになったがまだ下校途中だった。
学校で「光る女」の話のリサーチに夢中になってしまった、帰りが遅くなってしまったのだ。
「光る女」の目撃談は1人だけではなかった。実際に見たという人間も何人もいた。
そして目撃談はここ2~3日以内であるということがわかった。
「きっとライエルが送り込んだ新手の刺客ね」
いつもより周りを気にしながら、それでも年頃の女の子だ。帰り道を急いだ。
「きゃあああ」
どこからか悲鳴が聞こえた。
「きっと光る女かもしれない……」
桃子はスカートのポケットからバッジを取り出した。
そしてウイングガールズに変身した。
悲鳴のした方へ急ぐと、女性が1人、崩れ落ちるように跪いていた。
「大丈夫ですか?」
桃子は女性のもとに駆け寄った。外傷はないようだ。
「あ、はい……」
「何があったんですか?」
その女性は驚いて腰を抜かしただけのようだった。
「あ、あっちに……」
彼女は動転して何を言っていいのかわからなかった。
できたのは指で遭遇したものが移動した方向だけだった。
「あっちね!」
桃子はその方向へ急いでみた。
ただ、正直に追いかけても曲がり角の多い街中ではなかなか見つけることはできないかもしれない。
さっきの女性の視界が及ばない場所に移動すると高らかにジャンプした。
空から見渡した方が早いと考えたのだ。
特に、相手が光っているのであれば上空から探せば一目瞭然のはずだった。
そして、桃子の読みは的中した。
空から見ると不自然に動く発光源をいくつも見つけることができた。
その光はある程場所が近く、それらの中心付近の上空に視線をずらしてみると……
「いた!」
一際怪しい点滅して光る物体が上空を移動していた。
「あれが新手の刺客ね!」
桃子は刺客と思しき光体に近づいていくと、相手から接触してきた。
桃子の動きに気づいたようだった。
「お前がウイングマンか?」
「残念。私は桃子。ウイングガールズの一員よ!」
そう言うが早いか蹴りかかった。
「いきなり蹴りとは足グセの悪いお嬢さんだ。私はイルミネーションプラス」
桃子のキックを軽々と避けると、自己紹介をした。
そしてこう言った。
「そんな奴はお仕置きをしなきゃな」
高らかに右手を挙げるとイルミネーションプラスの手がムチのように変化し光り始めた。
ビシッ!
そのムチが桃子を襲う。
「何、それ? 反則でしょ?」
桃子は敵の攻撃に驚いて文句も言うが、体は反応して、俊敏にそれを避けた。
しかし、桃子の言葉に応えることもなく、イルミネーションの攻撃は続いた。
「もう、何なのよ!」
「避けてばかりじゃオレ様を倒せないぜ」
桃子は必死に避けるが、このままじゃ埒があかないのはその通りだった。
「言われるまでもないわ。モモコラリアット!」
桃子はラリアットでお見舞いをした。
「うわっ!」
モモコラリアットが後頭部に命中してイルミネーションプラスは前のめりに倒れそうになった。
「貴様、オレを本気にさせたな!」
怒るといきなり攻撃のスピードがアップした。
「ヤバイわ、コレ」
そのスピードについていけなかった桃子のお尻に見事にイルミネーションプラスの鞭が命中した。
ビシッ!
「痛った~っ!」
お尻から電流が走ったように感じた。
「ハハハ、これで1時間もすれば、貴様も……ライト人間……だ……?」
ムチに打たれたお尻をさする桃子に、イルミネーションプラスは勝ち誇って宣言したはずだったが、声のトーンは段々小さくなっていった。
そして、最後の方は少し弱々しくなっていた。
「お前、何ともないのか?」
これといった変化を見せない桃子に不安そうな声で訪ねた。
「お尻がものすごく痛いわよ!」
桃子はお尻を抑えながら吠えた。
イルミネーションプラスは驚きうろたえていた。
これは完全に想定外のできごとだった。
「おかしい……これは検討する必要があるな……」
本来なら、お尻を中心に光り始めるはずだった。
その光が体を覆って桃子はライト人間に変化するはずなのだ。
今まで何人もライト人間にできていたのに、イルミネーションプラスの攻撃を受けて何も影響を受けないというこの結果は初めてだった。
「仕方ない。勝負はお預けだ!」
そう言うとイルミネーションプラスは速攻で飛び去っていった。
「ま、待ちなさいよ!」
まさか逃げ出すとは想定していなかったので、そう言うことだけしかできなかった。
桃子にはイルミネーションプラスの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
家に帰った桃子は汗をかいたので、とりあえずシャワーを浴びることにした。
さっきイルミネーションプラスの鞭で叩かれたお尻のことも気になっていた、というのもある。
「ムチで叩かれるなんて、そんな趣味ないのに~」
そんな独り言を言いながらも脱衣所で服を脱ぎ始めた。
とりあえず汗を流す。
鼻歌を歌いながらシャワーを浴びて、浴室の鏡に映った自分の姿を見た。
「ん?」
何か違和感を感じた。
当然だが電気をつけて入っていたので気づかなかったが、お尻が少し光っているようなのだ。
一度電気を消してみるとお尻がうっすら発光していた。
「え~っ!? どういうことぉっ!?」
とりあえず着替えもままならぬ状態でバスタオルだけまいて2階の自分の部屋に駆け上がった。
そして、今度は改めて部屋を暗くしてみて確かめてみた――
バスタオルをどけるまでもなかった。
まるでホタルのようにお尻が光っているのだ。
慌てて下着を着けて服を着てみた。
自分の持っている服で一番厚手だと思われるボトム類のジーンズを履いてみてもお尻が発光しているのがわかってしまう。
「こんな格好で外なんか出歩けないよぉ~」
桃子は困ってしまった。
お尻を光らせながら学校になんかもちろん行けない。
それだけじゃない。冷静に考えてみると光っている部分が拡大してきているような気がした。
それに光が強くなっているような気がする。
「それって、つまりは私もこのままではライト人間になってしまうってこと?」
それはヤバイ。
でも、先ほどのイルミネーションプラスの態度を思い出してみた。
本来ならあのムチの一発でライト人間されるはずだったのだ。それが不発に終わった。
イルミネーションプラスは確かに「おかしい」と言ったのだ。
でも、こうやって桃子のお尻は光っているわけだから、不発ではなかったということになる。
ということは変身することで抑止力になっているのではないかと桃子は考えた。
とりあえず、一度変身してみることにした。
「えいっ!」
バッジを着けて変身してみるとお尻の光は見事に遮断されている。
桃子の推測は当たったようだった。
「これなら大丈夫みたいね。しばらくはこの格好でいるのが安全かもしれないわ」
桃子はしばらくはコスチュームで過ごすことにした。
しかし、1つ問題があった。
「この格好じゃ学校には行けないなあ……」
翌朝、桃子は学校を休むことにした。
「さすがにこの格好で学校には行けないよね……」
その代わりというわけではないが、午後からアオイに会いにいくことにした。
高校の授業が終わる頃にアオイの通う仲額高校の校門で待ち伏せすることにした。
4.
健太はやはり今朝もぎこちなかった。
しかもかなり寝不足の様子だ。
明日は休日だ。健太はデートはこの日しかないと決めていた。だから誘うとすれば、今日しかないのだ。
「美、美紅ちゃん、きょ、今日もいい天気だね……」
「そ、そうね……」
美紅は健太の態度にぎこちなさを感じつつも、あえて何も言わなかった。
朝のランニングのときも登校のときもほとんど会話がなかった。
健太から出てくるのはなぜか天気の話しばかりだった。
でも、アオイの言葉を信じて、見守ることに決めたのだ。
給食の時間、健太は覚悟を決めた。
さすがにもう時間がない。デートにすら誘えないなんてヒーローとしてもカッコ悪すぎる。
「美、美紅ちゃん、屋上まで来てくれないかな?」
「えっ!?」
ガチガチに緊張していることがわかる。
こんなにかしこまられられるとなんだか怖くなってくる。
思わず尻込みをしてしまうが、断る理由などない。
「うん……」
健太に連れられて美紅は屋上へ向かった。
昼休みの屋上は誰もいなかった。この季節の屋上は寒いだけでのんびり過ごすのには向かないのだ。
「あの、美紅ちゃん?」
「は、はい……」
健太の緊張が声からも伝わってきて、美紅も緊張してしまう。
何を言われるのか見当もつかない。悪い話ではないことだけを祈るだけだった。
「あ、明日、デ、デートしませんか?」
健太の声は思いっきり裏返ってしまった。
そのせいではないが、予想外の答えに美紅はあっけにとられた。
「……」
その反応に健太は失敗した顔をした。
せっかくクリスマスにデートを誘おうかというのにもっと気の利いた言葉はなかったのか。いろいろ考えたが思いつかなかったのだ。時間切れで、ど直球になってしまった誘い文句になってしまったのだが、もっとスマートに言えなかったものか。
言われた美紅もどう対応していいのかわからない顔をしているじゃないか。
「ごめん、突然こんなこと言って。でも、クリスマスも近いし、普通の恋人はデートとか……するって言うし……」
健太は完全に動転している。
中1の頃からずっと見ているけど、美紅もこんな健太を見た記憶はなかった。
「広野君……無理してない?」
「無理なんてしてないしてない」
静かに応える美紅に完全にしどろもどろだ。
でも、健太の姿は真剣そのものだ。冗談をするタイプでもないし、冗談でやっているようにも思えなかった。
「うれしい……」
美紅の瞳から頬に一筋の涙がつたった。
「え、いや、今まで戦いとかで彼氏らしいことできてないからさ……」
健太は恥ずかしくなって頭をかいた。
美紅はアオイが健太を信じろと言っていたのを思い出した。
アオイは健太が何に悩んでいたのか知っていたのだ。
自分のことを思って、どうやって切り出せばいいのか不得意分野なのに必至に考えてくれていたのだ。
美紅は健太の手を握った。
「明日は楽しいクリスマスにしよっ!」
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