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こけし

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第四章

「こっそりとです」
「まさか」
「はい、間引きといいまして」
 そのことをだ、准教授はあえて言った。これも学問でありこけしについて語る時にどうしても語らなければならないことであるが故に。問うた二人に語ったのだ。
「その子供をこっそりと」
「そうですか」
「昔は赤子もすぐに死ぬことはお話しましたね」
「はい」
 先程の話の通りだ。
「確かに」
「そういうことですので」
「つまり人が多いと、ですね」
「貧しい家では生きていけなくなります」
 食べる口が多くなればそれだけだ、一人が食べる量が減ってしまうからだ。
「ですから。家族が生きる為に」
「子供を、だったんですか」
「どれだけの子供がそうして死んだのかはわかりませんが」
「東北では多かったのですね」
「そうです、そうした色々な理由で死んだ子供達の供養に」
「こけしが出来たんですか」
「そうなのです」
 准教授はこう千代に答えた。
「そうだったのです」
「こけしは供養のものだったんですね」
「だから子供の顔をしているのです」
 どのこけしも、というのだ。
「こけしには魂が入っているという見方も出来ます」
「幼くして死んでいった子供達の」
「おそらく間宮さんは物心つく前にどなたから聞いたのでしょう」
 こけしのこの由来をだ。
「そして、です」
「その時に怖いと思って」
「今も怖いのです」
「そうなんですね」
「そう思います、そしてこのことは」
 まさにという口調での言葉だった。
「当然だと思います」
「そうですね、私もはじめて聞きましたけれど」
 こけしのその由来をとだ、梨紗も言うのだった。
「怖い、そして悲しいお話ですね」
「それだけにです」
「私も怖がったんですね」
 千代本人も言うのだった。
「そうなんですね」
「そうです、これが理由だったのです」
 こけしの由来自体がだ、千代がこけしを怖がる理由だったというのだ。
「まさに」
「わかりました」
 ここまで聞いてだ、千代は准教授に答えた。
「それで私はこけしを怖いんですね」
「こけしのことを聞いていたが故に」
「知っていたからですか」
「しかし意識下では忘れていて」
「無意識では覚えていたんですね」
「人には意識と無意識があります」
 今度はその心の中の話だった。
「意識では忘れていてもです」
「無意識では覚えていて」
「恐ることもあるのです」
「私みたいに」
「左様です」
「そうだったんですか」
 千代はここまで聞いて顔を見上げてだ、言葉を出した。
「私実は知ってたんですね」
「怖いということは知っているということでもあります」
「知っているからこそ怖いと思うんですね」
「そうです、だからなのです」
「そうですか、知っていて」
「そうなのです」
「ううん、こけしは子供を供養するもので」
 また言う千代だった。 
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