くノ一
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第一章
くノ一
ディンギル=クレバートは父のグレアノフからだ、こう言われた。
「最近我が家はゴンガード家と度々衝突している」
「はい、宮廷内において」
ディンギルは父に険しい顔で応えた、黒い髪と瞳を持つ精悍な顔立ちである。長身で逞しい身体を貴族の見事な服で覆っている。
「何かと」
「厄介なことにな、それでだ」
「ゴンガード家からですね」
「刺客が来ることもだ」
父はその話を本題に進めてきた。
「わからない、だからだ」
「私もですね」
「常に周囲に気を配ることだ」
こう我が子に言うのだった。
「よいな」
「わかりました」
ディンギルは己がそのまま歳を経た顔と身体つきの父に答えた。
「それでは」
「くれぐれもな、しかし」
「しかしとは」
「それだけでは足りない」
自分が用心するだけでは、というのだ。
「まだな」
「では」
「そうだ、警護が必要だ」
それがというのだ。
「それで私はそなたに警護を用意した」
「警護は家の者が既にいるのでは」
「それに加えてだ」
「さらにですか」
「凄腕の者を用意した」
「ではその者は」
「来るのだ」
グレアノフがこう言うとだった、不意に。
ディンギルの傍に一つの影が出て来た、その影は。
小さい、見れば全身奇妙な服と覆面に覆われ外見はわからない。その容姿が一切わからない姿でだった。
影は左膝をつき畏まった姿勢でだ、こう言ったのだった、
「お傍に」
「この者は」
「月光という」
「月光?変わった名前ですね」
「東の果ての島国から来た忍者」
「忍者、ですか」
忍者と聞いてだ、ディンギルは目を瞠って父に言った。
「あの侍と並ぶ伝説の」
「そうだ、東の島国にいるというな」
「伝説の者達ですね、まさか本当にいるとは」
「私も最初に話を聞いた時は驚いた」
その忍者が実在するという話にだ。
「本当にな、しかしだ」
「こうしてですか」
「実際にいてだ」
「私の警護にですか」
「当たってもらう」
「左様ですか」
「実は今我がクレバート家はゴンガード家と対立しているがだ」
それをというのだ。
「何時までも対立している訳にはいかないな」
「確かに」
政治の話だ、ディンギルも宮廷に出入りしている貴族の家の長男、しかも嫡子としてこのことはわかった。
「何時までも続けていては」
「お互いに消耗してだ」
「他の家に付け込まれます」
「だからだ、対立はしていてもだ」
それでもというのだ。
「手打ちの話を進めている」
「和解の」
「そなたは既に妻がいる、だがそなたの妹のだ」
「キャサリンをですか」
「そしてメアリーもだ」
二人をというのだ。
「ゴンガード家の次男、三男にだ」
「それぞれですか」
「嫁がせる、そうして両家は和解してだ」
「それと共に絆を深めるのですね」
「そうだ、だから婚礼の間までだ」
グレアノフは月光を見つつディンギルに話す。
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