| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Cross Road ~運命の交点~ (五月)
  1

「千早さん、お昼なんだけど一緒にどう?」
昼休みになっていつもの面々と屋上で食べようかと思っていると、友香さんがFクラスにやってきた。
CとFは新校舎の端と旧校舎の真ん中あたりと、同じ階にあるだけでかなりの距離があるのだけれど。何か僕に特別話でもあるのだろうか。
「皆さん、申し訳ありません。食堂に行って参りますね」
「行ってらっしゃい、また次の時間にね!」
「おう、行ってこい」
吉井と代表に少しだけ頭を下げて、お弁当(史謹製)を持って友香さんに並ぶ。
「千早さんはお弁当なんだ、ごめんね付き合わせることになって。」
「いえいえ、では参りましょうか」
 飲み物を自販機で購入して、僕は先に席を座った。
一方の友香さんはというとカウンターに駆けていき直ぐに日替わり定食を貰ってきた。一つ前の休みの時から定食を予約をしていたらしい
二人で向かい合わせに座り、手を合わせてからそれぞれのお昼を食べる。
ざわざわと騒がしい食堂ではあるけれども、個人個人が確保することのできるスペースは断然広い。これもまた政府優遇の試験校ならでは、と言ったところだろうか。

「それで友香さん、どのようなご用件でしょうか」
食事も済んだところで僕はそう切り出した。
「改まるほどのことでもないのよ、五月の中旬にうちの学祭…清涼祭が開かれるのは千早さんも聞いているよね」
うつむき加減の友香さんに言われ、清涼祭について自分が知っていることを思い出してみる。
「えぇと…何でも各クラス殆ど自由に出し物をすることが出来る、かなり自由どの高いものだと聞いております。最もうちのクラスはあまり乗り気では無いようなのですが……」
そこで学祭とかただメンドクサいだけじゃないかと言っていた代表殿をつい思い出す。
「そう、Fクラスは乗り気じゃないんだ…」
そこで目線を僕の後ろに向けた友香さん、その先を辿ると何故かCクラスの女子陣が集まっていらっしゃる。
何だろう、もうイヤな予感しかしないのですが。
「じゃあうちのクラスの手伝いをお願いしても良いのかしら?」
「……拒否権は在りますか?」
「私も渡して上げたいのだけれど……ね」
いつの間にか友香さんの後ろに待機している二人組のCクラスの女子生徒が真っ正面から期待に満ちた眼差しを送ってくる。
「この子たちを説得できるなら良いわよ」
成る程
「……本腰を入れないので宜しいのでしたら、お受けしましょう」
降参します
「そこは大丈夫よ、代表権限で黙らせるから。」
その言葉にギクリと肩を震わせる女の子たち、一体友香さんは何を…
「それならばいっそのこと、代表権限で私に拒否権を……」
「うるうるといった感じの、私たちを見捨てないでくださいって感じで遠くからじっと見つめてくるだけの無言の訴えに、四六時中囲まれても構わないと言うのだったら、私は構わ…」
「お引き受けしますから、どうか見捨てないでください」
なんて恐ろしい脅しなのだろう
「あはは…やっぱり、さすがの千早さんでも抵抗できないわよね…」
そうやってひきつった笑いを浮かべる友香さんに、もしかしたら本当にそういう目に遭わされていたのではないだろうかと、いよいよ思ってしてしまう。
友香さんは何かを(恐らく今の出来事に関連するのであろう)素早く手元のメモ用紙に書き付けると、後ろに控えていたCの女の子にメモ用紙を渡した。
メモに書かれた内容を確認すると、何かを訴えるように友香さんを見つめる二人は友香さんにきりっと睨まれるとすぐさま脱兎の勢いで仲間の元まで退散していった。
遠くから僕にぺこりと頭を下げる少女たちを、平和なものだと半ば他人事のように見送る。
視線を目の前の友香さんに戻すと、こめかみの辺りを指で押していた。
「今のはまだ本題じゃないんだけど…ごめんね、うちのクラスの面々がどうしても千早さんに見て貰いたいってうるさくて……」
「いえ、友香さんの裁量を信じていますから、ね?」
少し意地悪に返すとますます友香さんは顔を歪める。
「そうやって、私の胃をこれ以上痛めるようなことはお願いだから勘弁してよ…ただでさえ胃薬の常時持ち歩きを考え始めているんだからね……」
そこまで思い悩むほどの、クラスの惨状でしたね……
僕がクラスに入るだけであんな感じになるのだから纏めるだけでも至難の業というか何というか。

「こほん。それで、友香さんのお話というのはどのようなことなのでしょうか?」
「え、あぁ…そうね。それで清涼祭では試験召還大会をするのは聞いてないかしら」
「あぁ、そういえばうちのクラスからは瑞希さんと美波さんがでると仰っていましたね。トーナメント形式のタッグ戦だとか。」
絶対に優勝して見せますからと意気込んでいた姫路さんを思い出す。
「そう、そのタッグ戦なんだけど……私たち一般枠で組まない?」
若干上目遣いで真っ直ぐに聞いてくる友香さん、若干表情が堅い
(わたくし)で宜しければ喜んで、お受けいたしましょう。お願い致しますね、友香さん。」
自然と浮かんできた笑いに乗せて、そうやって彼女に伝えるとヘナヘナと机に崩れる。
「はあぁ……よかった…」
「そこまでの事でしょうか?」
「千早さんは、相手が実は既にタッグを違う人と組んでたりとかして、振られたらどうしようとか思わないの?」
「…確かに拒絶されるのは怖いですけれど……やはり(わたくし)は冷めた人間なのかもしれませんね。思い詰めるような事なんて無いのかも。」
「……そう」
心底残念そうな友香さんに、何故か僕は少しだけ哀れみを覚える。
自分の哀れみという感情に、やっぱり人を見下ろすような態度を感じて自分がますますイヤになる。

「じゃあ、そんな冷えた千早さんでも楽しめるよう、うちのクラスでこき使って上げるから。覚悟してよね?」
「友香さん…」
わざとらしく有無を言わせぬ感じの友香さんに申し訳なさを覚え、そして救われるようにも感じる。
「そうですね、とは言いますがこき使うというのは冗談ではないかと思うのですが」
「えぇ、貴女の名の元でクラスの面々を統括するのは私。姫君はごゆっくりとなさいまし」
そういって微笑みを浮かべる友香さん。
何だろう黒すぎる笑いを浮かべていらっしゃるのですけれど、この人。
「あの、(わたくし)に何をさせるおつもりですか?」
「それは勿論、笑顔をクラス一杯に振りまいてくれたらいいのよ。それで男子連中は黙るからね」
うん、もうCクラスって手遅れに成っている気がするのだけれど
「はあぁ…」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧