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軍楽

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6部分:第六章


第六章

「これからもだ」
「これからもですか」
「日本の戦争は続く」
「日本の戦争は?」
「戦争には終わりがない」
 前に進みつつの言葉である。
「戦争にはな」
「終わりはないですか」
「そうだ」
 ここでも有無を言わせぬ言葉であった。
「終わりはない。日本という国がある限り続くものだ」
「日本がある限り」
「だからだ」
 また強い言葉を出してきた。
「俺はこの曲を捧げるのだ。英霊達に」
「靖国の英霊達に」
「過去に果たしてくれた業績と」
 まずはその為に捧げるというのだった。
「そして日本を護ってくれている今」
「今も」
 この言葉に反応したのは中尉であった。実際に戦っている彼にしてみれば今の言葉はそのまま身に染み入る言葉であった。軍人として。
「さらにだ。これからもだ」
「未来ですか」
「これからの。戦いの為にも」
 こう服部と中尉に対して述べる森宮だった。
「俺は。この曲を捧げる」
「過去と現在、そして未来の為に」
「日本の戦いは今よりも辛いものになるかも知れない」
 この言葉はこの時の戦いだけを見てのものではなかった。やはりこれからの、永遠に続く日本という国家の戦いを見ての言葉であった。
「しかしだ。それでもだ」
「戦っていく為にも」
「その未来も護り戦ってくれる英霊達の為に」
 ここでも英霊という言葉が出されたのだった。
「俺はこの曲を作ったのだ」
「先生・・・・・・」
「靖国神社」
 彼は今度は靖国神社を見ていた。その神々しいまでに美しいその社を。
「これからはこの靖国を貶める輩が出るかも知れない」
「まさか」
 中尉は顔を顰めさせてそれは否定した。
「そればかりは」
「いや、わからない」
 それでも森宮は言った。
「これからはな」
「靖国を貶める者がいるなど」
「世の中はわからんのだ」
 ここでも森宮の言葉は強い。しかも宗教めいたものすらあった。
「それはな」
「わからないと」
「絶対はない」
 こうまで言い切る。
「絶対はな。だからだ」
「靖国を貶めるなどと」
「世の中はわからん」
 またこのことを言うのである。
「何があろうともだ」
「わからないと」
「だからだ。だからこそ俺は」
 歩みは続く。そのまま前に。
「英霊達の為に曲を捧げよう」
「英霊達が決して倒れない為にですね」
「彼等がある限り日本もある」
 この言葉には信仰があった。
「だからこそ。その為にも」
「わかりました」
 服部も中尉も同時に述べた。
「では先生」
「どうか。その歌を」
「これからの日本の為に」
「是非共」
「礼を言う」
 倣岸なところのある森宮にしては珍しい言葉であった。彼が礼を述べることはそれだけ少ないのである。
「そしてその心も受けた」
「私達の心もですか」
「ああ。それも全て捧げる」
 目も心もそのまま靖国に向けられたままであった。
「だからだ。今こそな」
「では。御願いします」
「英霊の為に」
 まずは英霊達のことが言葉に出された。
「そして」
「日本の為に」
「何があっても。俺は作る」
 怪我を負ってはいてもそれでも。心は折れてはいなかった。
「日本の為にな」
「是非共」
 二人の言葉を受けて今靖国の英霊達に己の曲を捧げに向かうのだった。戦いは今絶望的になろうとしていて日本の敗北が確実になっていたその時の話だ。
 この時からもうかなりの時が経った。もう森宮はこの世におらず彼と同じ時代に生きた者達も殆どが世を去ってしまっている。
 靖国神社についても今様々なことを言う者達がいる。そうした者達の真意についてもまた色々と言われている。だが森宮が彼等に捧げた歌は今も残っている。その心、日本という国家そのものにさえ捧げたその歌は残り続けている。このことだけは否定できない事実であり今ここに書き残しておくこととする。彼の心と共に。


軍楽   完


                 2009・1・25
 
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