フリージング 新訳
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第16話 ありがとう
前書き
留年が掛かった試験が近いのに、最新話投稿です。今回は少し蛇足なお話ですが、お付き合いください。それでは、どうぞ。
後日談というか、今回のオチ。
あの後、先生方に引きずられながら、俺とサテライザー先輩は懲罰房へと入れられた。
なんで?と思わなかった訳ではない。
だが、先日会長にも説明された通り、この学園の学年は軍の階級と同じ。
つまり、上官に逆らったら厳重な罰が下されるというわけだ。
だが、だからと言って………
「何だ?何をジロジロ見ている。」
「い、いえ…なんでも……」
殺りあった当人二人を同室ってのはどうかと思いますよ‼︎
さすがに喧嘩を売ったイングリット先輩にも非はあるということで彼女も俺と同じ懲罰房に入れられている。
ちなみに俺は床に正座して、イングリット先輩は寝具に座っている。
これではまるで俺が先輩から説教を受けているかのようだ。
「おい、アオイ・カズト。」
「は、はい!なんでせうか……」
思わず声が裏返った。この緊張感はマジでやばいよ。対峙した時はサテライザー先輩がいたし、結構テンションも上がってたから平気だったけど、今はマンツーマンだ。
「貴様、どうしてマリンの事を知っていた?」
「……マリンさん…て言うんですか……あの人は。」
彼女の表情を見ただけで、マリンが誰を指すのかわかってしまう。
戦いの最中に、頭に流れ込んできた映像が思い出される。
「知っていた……とは違いますかね…」
「何だと?」
「正確に言うと、戦ってるうちに頭に浮かんできて……みたいな……」
イングリット先輩は、訝しげに俺を見る。いや、睨むが正しいだろう。
絶対に信じてない……
「まぁ、そんな物なのだろうな……」
…事はなかった。意外にもすんなりと信じてもらえた。少し予想外だ。
「どうして、そんな簡単に?」
「お前の目は、嘘をついているようには見えなかった……それだけだ。」
ついと、イングリット先輩は目をそらした。目を逸らされるのは慣れているが、彼女のは何処か照れている様子だった。
いや、気のせいだろう。
「お前は、マリンが何を考えたか知っているような口ぶりだったが……」
イングリット先輩が顔を逸らしながら質問してくる。やはり、まだ俺を許してはないようだ。
それも当たり前だ。自分の信念そのものを全て否定したようなものなのだから。
だが、俺はそれを取り消すわけにはいかない。俺にも、俺の…いや……“姉さん”の信念がある。
「……姉さんがそう言ってたんです。最後の、最期に。」
「お前の…姉か…」
少し考え、彼女は何かを確信したかのように言い放つ。
「それは、アオイ・カズハのことか?」
的確すぎて一瞬目を見開く。だがここで隠しても仕方がないことだ。
「ええ。姉とは言っても、義理ですが。」
少し自嘲気味に苦笑いを浮かべる。
そういえば、姉さんの事を自分から話すのは初めてかもしれない。
「姉さんが、言ってたんです。自分の背中には、守るべき大切な人たちがいるって。
「それって、きっとそういう事なんだと思います。
「上手く説明はできないけど、マリンさんも自分の持つその守りたいっていう信念に従って動いたんだって。」
こんな状況で良い言葉をひねり出せるほど、俺は頭が宜しくない。ただ、俺の出せる精一杯の言葉で、彼女に俺の信念を伝えるしかないのだ。
「だから、貴方がマリンさんの幻影に縛られる必要なんて、どこにもないんですよ。」
びくりと、イングリット先輩が反応し立ち上がった。その顔は怒り、と言うよりも困惑といった感情が現れていた。
「秩序を守るのは、マリンさんみたいな人を作らないため。7位にこだわるのはマリンさんの最後の順位だから。ですよね?」
「……お前に、何が……!」
「わかりませんよ。だから、これは俺の勝手な言い分です。」
これ以上、この人に傷ついて欲しくないから、俺は告げる。
「これは、人伝いに聞いたことなんで、本当かどうかは判断できかねますけど。
マリンさんは、戦いたくない人には逃げろって言ったそうです。」
彼女の顔が、今度は驚愕に染まる。どうやら、本当に知らなかったようだ。
「そんな……なら、私は、私は何のために……‼︎」
そうなるのも仕方ないだろう。自分の今までのしてきたことを全てが無駄だと知ってしまったのだから。
俺は彼女の信念を叩き壊した。普通なら、ここで放り出すのかもしれない。
だが俺は違う。
そんな、無責任なことだけは絶対にしない。この人に道を示すなんて、偉そうなことは出来ない。ただ、この人が砕けないように、方向を、それだけを作りたい。それだけだ。
「自分のためでしょう。そんなのは。」
程の良い台詞などではしない。ただただ、簡単で、拙すぎる台詞だ。
「あなたがマリーさんの意思を継ぎたかったのも、その為に強くなったのも、結局は自分のためなんですよ。」
でも伝えなければならない。壊すだけ壊して、はいさよなら、などと言うことは絶対にしてはいけないのだ。
「だから、あなたの力は自分の物です。あなたが強くありたいと願ったから、ここにいるんです。」
支える言葉は、端的でもいい。それでも、声に出す。
「全部無駄、なんて思わないでください。」
イングリットSIDE
その言葉に、イングリットは目を見開いた。親友であるマリーの真意を知り、失意の底に落ちていた自分を救った彼の言葉に。口下手で、拙い言葉でも、今の彼女には強く強く響き、染み渡る。
「出ろ。期間は終わりだ。次はないぞ。」
その短い言葉とともに、扉が開かれる。
「それじゃ、お先に失礼しますね。イングリット先輩。」
カズトは立ち上がり、扉へと向かう。
そんな彼を、イングリットは止めずにはいられなかった。
「ま、待て‼︎」
何を言えばいいのかもわからない。ただ、言わなければならない事は分かっている。
「その………あ…ありが、とう……」
必死に絞り出した感謝の言葉。
カズトは一瞬、呆気に取られたが、ニッコリと、優しい笑みを浮かべた。
「こちらこそ。」
ドクン‼︎‼︎
イングリットの鼓動があり得ないほど高鳴る。
ああ、これはダメだ。言葉一つで、表情一つで、深みにハマってしまう。
本当に、惚れてしまいそうだ。
SIDE OUT
カズトは懲罰房から解放され、自室へと向かっていた。
その時だ。
「…っあ…」
視界がぶれる。バランスが取れなくなり、咄嗟に壁に寄りかかった。
頭の中に、何か声が聞こえるが、うまく聞き取ることが出来ない。
その目眩も声も、すぐに止み、特に体に問題はないようなので、部屋のベッドに飛び込み、そのまま目を瞑った。
そして、意識を手放す直前に、また声が聞こえた。今度は、ハッキリと。
ーーーパンドラを、殲滅しろ……
後書き
はい。イングリット攻略完了でございます。上手く描けたかどうかは少し自信がありませんが、どうぞ、ご了承下さい。
今回少しオリジナル設定を入れさせていただきました。最後の数行については、近々、解明されていきますので、ご了承下さい。
次回はあの人の登場です!みなさん大好きな田舎娘の登場です!もちろんハーレムメンバーです!
次回 She is Rana Linchen 0
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