ルドガーinD×D (改)
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三十話:何よりも大切な―――
前書き
最終戦のBGM聞くとテンション上がりますよね。
話を書くのがはかどります。
それでは本文どうぞ。
――はぐれ悪魔――
それは眷属である悪魔が己の欲望の為に主を殺し、逃げ出した場合に付けられる名前である。
塔城小猫―――白音の姉である黒歌もまたそのはぐれ悪魔の一人だった。
はぐれ悪魔はほとんど場合、自分の欲望の為に主を殺して逃げ出したがゆえになるものだが例外は存在する。
その例外の一つが主に問題がある場合だ。黒歌は数少ないその例外にあたるものだ。黒歌の場合は元の主が妹の白音の仙術の才能に目をつけて無理やり白音に危険な仙術を使わせて眷属にしてしまおうとしたのでそれを止めるために仕方なく主を殺したためにはぐれ悪魔となったのだ。
だが、そんな理由が何の力を持たない一悪魔の為に考慮されるわけも、調べられるわけもなく、黒歌は一方的に罪人扱いされ、逃亡するはめになり。妹の白音もその罪を償わされる形で処刑まで後一歩の所まで追い詰められた。もし、あの時、魔王であるサーゼクス・ルシファーが白音を拾ってリアスの眷属にしていなければ姉妹にとって最悪の結末が待っていただろう。
自分が感情に流された行動をとってしまった為に結局妹を傷つけてしまった事を黒歌はずっと後悔していた。だから、これは当然の報いなのだと妹を庇った際に負った傷を見て思う。
黒歌は最上級悪魔と同等の強さを持つほど強い。しかし、物事には必ず相性というものが存在する。
黒歌は接近戦も問題なくこなすが特別生身での防御力が高いというわけではない、それに加えて堕天使が使う光は強くなっていけば軽減されるが悪魔にとっての弱点であることには変わらない。それを真正面から受け止めたのだ。一応仙術を使い簡単な防御はしたがダメージを負ったことには変わりがない。致命傷ではないがしばらくは動けそうにない。最初から守りに出ていればこうなることは、まず、なかったと思うが自分は拒絶されるのが怖くて隠れて見ている事しか出来なかった。
これ以上はダメだと思って体が勝手に動いた結果、中途半端になってしまったのだ。結局は自業自得なのだと、自分が今まで犯してきた過ちが今になって自分に返って来たのだと黒歌は皮肉気に笑う。その笑いを見て何かを感じ取った妹が恐る恐るといった様子で近づいて来る。
「……どうして、姉様は……庇ってくれたのですか?」
訳が分からないと言わんばかりの妹の顔に今更ながら自分がしてきたことが妹をこれほどまでに苦しめていたのだと実感する。もし、自分が第三者ならこんな最低の姉を持ってしまった妹に同情したくなる気分だ。でも、自分はこんな最低な姉だけど他の誰でもない白音の姉なのだと思い、口を開く。
「私が白音の……お姉ちゃんだから」
「……姉様…っ!」
その言葉に白音は思わず、涙が出そうになる。未だに疑惑や不安は拭えないがそれでも自分の家族は―――姉はこの人しかいないのだと実感する。
もっと話がしたいと、声が聞きたいと思い口を開こうとするが現実は残酷だった。
「邪魔が入ったか……まあいい、今度は二人纏めて跡形もなく消し飛ばしてやろう」
冷たい声で死刑宣告を下し、特大の光の槍を創り出すコカビエル。その大きさがコカビエルの本気さをうかがわせた。それを見た黒歌はすぐに白音だけでもと思って逃げるように言う。しかし、白音はずっと犯罪者になったと思っていた黒歌が自分の身を心配してくれていることに動揺と嬉しさを覚えてしまったのだ。
そんな姉を見捨てたくないと思ってその言葉を受け入れない。そのやり取りをコカビエルが待つわけもなく宣言通り二人纏めて殺すために特大の光の槍を凄まじいスピードで投げおろして来る。それを見て黒歌は間に合わないと判断してある行動に出た。
「白音……ごめんなさい」
「……っ!? 姉様!」
「こ、小猫ちゃん!?」
残された力を振り絞り黒歌は白音をイッセーの方に吹き飛ばす。少々痛いかも知れないが死ぬよりは何倍もいいと黒歌は自己完結する。そしてすぐ傍まで来ている光の槍を見ながらゆっくりと瞼を閉じる。
妹を守れたのだから姉としては悪くない死に方だと思うし、特に後悔の念もない。
ただ……一人の女性としては後悔の念が残る。こんなことになるなら恥ずかしがらずに
ちゃんと想いを伝えればよかったと後悔しながら黒歌は頭の中に愛しい男性の顔を思い浮かべる。
「―――ルドガー」
次の瞬間、光の閃光が迸り黒歌の居る場所を中心に巨大な爆発が巻き起こった。
その余りの威力と黒歌がそれをくらったという事実に一同の目が爆発の中心地に釘づけになるが
一人だけ別の場所を見ている人物がいた。それは攻撃を放った張本人コカビエルだ。
コカビエルはただ、ジッとすぐ傍の校舎の上を見ており。その表情は恍惚としたもので今から始まる戦いが楽しみでしょうがないといったふうであった。
そして、校舎の上にいる“二人”を見ながらゆっくりと口を開く。
「よく、あの状態からその女を救ってみせたものだな―――ルドガー・ウィル・クルスニク」
「「「「ルドガー!!」」」」
校舎の上に居た人物は黒歌を優しく抱きかかえ、まるで抜き放たれた刃のような鋭い目つきでコカビエルを睨みつけている。その人物の名前は黒歌が想いを寄せている男性
―――ルドガー・ウィル・クルスニクだ。
よかった……間に合って本当によかった。俺に抱きかかえられる黒歌の温かさにホッとする。後少し遅かったら俺はまた大切な人を失うところだった。まさかいるとは思わなかったとかの言い訳なんてしない。俺には失うか守りきるかの二つしかない。過程に意味は無い。
守る努力をしましたじゃダメなんだ。俺が欲しいのは、守ったという結果だけでその過程がどんなに誇れるものでも、美しいものでも、素晴らしいものでも、守れなきゃ何の意味もないんだ。だから……黒歌を失いそうになった自分が酷く情けない。
「ルドガー……」
「もう大丈夫だ、黒歌。取りあえず少しでも治療しないとな」
俺は優しく黒歌に声を掛け校舎から、飛び下りてアーシアの元に歩いていく。
見た感じ致命傷ではないけどこのまま何もしないなんて俺には出来ない。
アーシアの神器ならしっかりと治してくれるはずだからな。
俺がアーシアの所に行くと何やら俺と黒歌に不安げな視線が集中する。何なんだ、一体?
取りあえず考えていてもしょうがないのでアーシアに黒歌の治療を頼む。
「アーシア、黒歌の手当を頼む」
「はい、任せてください!」
俺の頼みに元気に応じてくれたので黒歌をアーシアに預けて他のみんなの方を振り返る。
……相も変わらず不安げな視線だな。本当に何なんだ、俺がなにかしたのか?
俺はただ、黒歌を助けただけなのに何がいけないんだ。
「ルドガー……その人と―――はぐれ悪魔と知り合いなのかしら?」
意を決したように口を開いた部長の言葉に後ろの黒歌がビクリと震えた気配が伝わってくる。
……はぐれ悪魔、確か眷属である悪魔が己の欲望の為に主を殺し、逃げ出した場合に付けられる名前だったか? それが黒歌だって言うのか……。さっきの黒歌の反応からして部長の言っていることは本当なんだろうな。
部長の言いたいことは何となくわかる。
きっと俺が敵じゃないのかを疑っているんだろうな、だからさっきから不安げな目で俺を見ていたんだろう。確かに犯罪者と一緒に居る奴を信用しろって言っても難しいだろうな。
そう思いながら不安げに見つめる部長達に答える。
「知り合いです。でも、はぐれ悪魔だっていうのは今初めて知りました」
再び後ろから黒歌が震える気配が伝わってくる。今度はさっきよりも強くだ。
きっと俺に拒絶されるんじゃないかと心配しているんだろうな。誰だって拒絶されるのは怖い、
あの強かった兄さんでさえ、俺に拒絶されることを恐れて昔の自分の事を話してくれなかった。
結局、兄さんが死んだ後に知ることになったけど俺にはそんなことはどうでもよかったんだ。
兄さんは俺のたった一人の肉親なんだから拒絶するわけがない。
だから黒歌も……そんな心配はいらない。
「そう、それなら――「で、それがどうした?」――ル、ルドガー?」
部長の言葉を遮り少し低い声を出す。それに対して戸惑った表情を見せるみんな。
俺はそんなみんなの様子を無視してハッキリと告げる。
「黒歌は俺の家族で大切な人だ。何に代えてでも守り抜くと決めた人だ!
だから……黒歌に手を出すなら誰であろうと俺は容赦しない、全てを壊す!」
「ルドガー…私の事を…受け入れて……グスッ…」
もし黒歌に手を出すようなら、俺は誰であろうと容赦しない、全てを破壊すると言うと、部長達は俺の気迫に恐れをなしたように一歩後退る。当然だな、部長達でも黒歌に手を出すようなら殺すって言っているようなものだからな。黒歌の方は俺に拒絶されなかったことが余程嬉しかったのかしゃくりあげている。
俺は部長達に背を向けてそんな黒歌の元に行き優しく抱きしめてポンポンと背中を叩いてやる。
本当に……どうして俺に拒絶されるなんて考えているんだよ。俺が黒歌を拒絶するはずがないだろ、俺はもう黒歌が居なかったら生きていけないぐらい、君の事を愛しているのに。
「黒歌……これが終わったら伝えたいことがあるんだ」
「ルドガー……それ死亡フラグにゃ」
俺の言葉に少し笑いながら返して来る黒歌。しまったな……ナチュラルに死亡フラグを立ててしまった。大丈夫だよな、俺死んだりしないよな? 最近自分が不幸の星の元に産まれてきたような気がしてき始めたんだよ。だから、こういうフラグを立ててしまうと高確率で成立させてしまう気がするんだよな……。
この前も鳥の糞なんて本当にピンポイントで人に当たる物なのかなんて考えた瞬間に降ってきたからな。あの時は何とかギリギリでかわすことが出来たけど俺が立てたフラグが成立しやすいのは良く分かった。今回もそうならないように祈ろう。
「そうならないように頑張るよ……それじゃあ、行ってくる」
「頑張ってにゃ……ルドガー」
黒歌を離して再びアーシアに預けてからイッセー達の元に向かう。小猫の目が何だかとげとげしいのは敵だと疑っているからだろうか? それにしてはちょっと違うような気もするな……まあ、いいか。今はコカビエルをどうにかする方が先だな。俺は足を止めてからイッセー達を見つめて声を掛ける。
「みんな、俺は今からコカビエルを倒す。俺のことが信じられないなら一緒に戦わなくていい。
でも……もし、俺のことを信じてくれるなら一緒に戦って欲しい」
そう言ってみんなの反応を確かめる。全員が何やら葛藤しているような表情になって考え込む。信じてくれないのなら信じてくれなくてもいい。俺はただ黒歌が守れたらいいだけなんだから、それ以外の事はどうでもいい。でも……どちらかと言えば信じて欲しいな。
アルヴィンも、もしかしたらこんな気持ちで俺と最初に会った時にあんなことを言ったのかもな。そんな事を思い出しているとイッセーが何かを決心したように口を開いて来た。
「正直言って…リドウの言っていた事とか、部長の言っていたことのどれも分からねえ。
何を信じていいのかも分からないし、何が正しいのかも分からない。
でも……ルドガーなら、今まで見てきたお前なら信じられる。だから俺はお前を信じる!」
「そうね……イッセーの言う通りだわ。私もあなたを信じるわ」
「僕も君を信じるよ、ルドガー君」
「私も恩人である君を信じよう、ルドガー・ウィル・クルスニク」
イッセーの言葉に続いて他のみんなも迷いが吹っ切れたように俺を信じてくれると言ってくれる。そんな様子に俺は嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまう。信じて貰えるって言うのは本当に嬉しいな、俺もあの時アルヴィンに信じるって言ってよかったな。少し皮肉気味に返されたけどあれはただの照れ隠しだったんだな。ありがとうな……みんな。
それと、リドウが言っていたことって何なんだ? あいつまた、碌でもないことを言ったのか……俺の過去でもばらしたのか? それだと否定はできないから辛いな。
まあ、何にせよ……今はあいつを倒さないとな。そう決めてコカビエルをきつく睨みつける。
「ようやく、待ち望んだ戦いが始められるのだな。それとだ、リドウが組んだこの町を破壊する術式は俺を倒さんと止まらんぞ」
「何も問題は無い。俺達はお前を倒すんだからな」
「その威勢、どこまで続くかな?」
「お前を倒すまでさ!」
まずは俺とゼノヴィアとイリナが駆け出していく。今回は追い込まれない限り、骸殻は使わないつもりだ。さっきのリドウとの戦闘で結構使ってしまったからな。これ以上は出来れば使いたくない。そう考えながら双剣を創り出し手に持つ。イリナはガイアスが好みそうな刀を手に持ち、ゼノヴィアは何やら強力な力を感じさせる巨大な大剣を持つ。ゼノヴィアのあれはこの前に見たエクスカリバーとは違うな。奥の手みたいなものだろうか?
「剣で来るなら俺も剣で相手をするとしよう」
そう言って両手に光の剣を創りだすコカビエル。そんなコカビエルにまず、イリナが斬りかかる。コカビエルはそれを右腕の剣で防ぎ、左腕の剣でイリナを斬りつけようとするがそこに俺が割って入り受け止める。そして攻撃手段がなくなったコカビエルの顔面目掛けてゼノヴィアが飛び上がりざまに両手で大剣を振り下ろす。
「切り裂け! デュランダルッ!」
「そう簡単には当たらん」
コカビエルはすぐさま鍔迫り合いを続けていた剣から力を抜いて後ろに下がり、ゼノヴィアの攻撃を回避する。そのためゼノヴィアの剣は大きく空振りすることになってしまったがコカビエルが立っていた地面が大きく抉られていることから見てデュランダルの力の大きさを思い知らされる。まあ、若干ゼノヴィアが振り回されているようにも見えるけどな。多分、相当なじゃじゃ馬なんだろうな。見るだけでも扱うのが相当難しいのがわかる。
「三人とも離れなさい! 行くわよ、朱乃!」
「はい、部長!」
コカビエルの傍から俺達三人が離れたのを見るや、部長と朱乃さんが大量の魔力弾と雷を放って攻撃する。しかし、コカビエルはそれをくらっても大してダメージが無いのかに平然としているので俺も双銃に持ち替えて攻撃する。
「ヴォルテックチェイサー!」
「ぬっ!」
電撃を纏う銃弾を地面に撃ち込み辺り一帯を痺れさせる。まあ、大して効いているようには見えないけどな。朱乃さんの雷撃で何ともないんだから俺の攻撃で食らうとも思えない。
次はハンマーで攻撃するか、少々重い一撃を加えないとダメージをくらいそうにないからな。俺はそう思って瞬時にハンマーに切り替え、同時に小猫とイッセーに呼びかける。
「小猫、イッセー頼む!」
「……はい!」
「ああ!」
『Transfer』
まずはイッセーから倍加の力を譲渡して貰う。そしてパワーの上がった俺がコカビエル目掛けて突進していき、コカビエルの目の前にハンマーを振り下ろす。コカビエルは俺が直接ハンマーを叩きこんでくると思っていたのか正面に光の盾を構えているだけだ。はたから見たら空ぶっているように見えるかもしれないがこれは計算通りだ。これはそう言う技なんだからな。
「ファンドル・グランデ!」
「下からか!?」
『ファンドル・グランデ』この技は地面に衝撃を流して正面に巨大な氷塊を隆起させる俺のハンマーにおける奥義だ。俺の持ち技の中では最大の威力を発揮する技だ。しかも今回はイッセーの倍加の力でその威力は何倍にも跳ね上がっている。それを証明するかのように今まで出したこともないような氷塊、いや、どちらかと言うと、もう氷山と言った方が分かりやすいかもしれないものが
コカビエルの足元から出現して奴を上空に吹き飛ばす。
「ガハッ!?」
「今だ、二人共!」
俺の技をくらったことでコカビエルは少しの間、脳が揺れて動けない。そして身動きが出来ないまま落ちて来る奴に小猫とイッセーが突っ込んで行く。俺はその間に素早く祐斗を呼びあることが出来ないか耳打ちする。それに対して驚くも頷いて了承してくれる祐斗、そのことに満足して再び
コカビエルの方を見ると丁度イッセーと小猫が奴の顔面に目掛けて拳を叩きこんでいたところだった。
「どりゃあっ!」
「……ふん!」
「グフォッ!?」
如何にコカビエルとあいつらの実力差があると言えど、顔面を本気で殴られれば幾分かは効く。
ビズリー? ……あいつは人外過ぎて効きそうにないな。まあ、あんな人外滅多に現れないだろうけどな。あれ? でもそれを倒した俺も、もしかして人外なのか。
て、そんな事を考えている場合じゃないな。一気にたたみかけないと。
「イッセー! 祐斗に譲渡してくれ!」
「分かったけど、殆ど残ってないぞ」
「それでもいい! 早く!」
出来ればコカビエルが起き上がる前に次の一手を打っておきたいからな。それに俺の方の譲渡された力も後少ししか、もたないだろうしな。イッセーが祐斗に力を渡すのを確認したと同時に俺はコカビエルの方へと走り始める。後は祐斗しだいだ。
「当たっても知らないよ!」
その言葉を引き金にして空から雨あられのように剣を降らしてくる祐斗。
地面に剣を生やすことが出来るからもしかしたら出来るかと思って頼んだけど本当に出来るなんてな……昔を思い出すよ。俺とガイアスとの共鳴秘奥義を再現出来るなんて感激だ。
俺は剣の雨を浴びながらも何とか立ち上がるコカビエルを睨みつけながら降って来た剣を二本ほど拝借する。うん、良い剣だ、想いが籠っている。
「相変わらず、君には驚かされるよ」
「慣れれば簡単さ」
そんな俺の横に並び話しかけて来る祐斗。俺はそれに返事を返しながらまだ、若干脳が揺れているためかフラフラとしているコカビエル目掛けて速度を上げる。それに合わせて祐斗も速度を上げる。そして二人で同時に―――切り裂く!
「「閃剣斬雨・駕王閃裂交!」」
「ガアアアアッ!?」
斬撃による閃光が迸ったと同時に爆発が起こり、コカビエルを飲み込んでいく。
……前から思っていたけど何で斬ったのに爆発するんだ?
様式美? それならしょうがないな。
俺はそんなことを考えながら剣を置き右手を上げる。それを見て祐斗も察したらしく右手を上げる。そしてパシンと良い音を立てながらハイタッチをする。
そして二人で笑い合っていると後ろから立ち上がる気配がしたので慌てて振り返る。
「ぐうっ……まさか、貴様らがここまでやるとはな」
コカビエルが何とか立ち上がっていたがその姿はすでにボロボロだったので一安心する。
あの状態ならもう何も出来ない。後は止めを刺してやるだけで十分だ。
俺は双剣を創り出し、ゆっくりとコカビエルの元に近づいていく。
「止めだ、コカビエル」
「貴様にならこの首をやっても惜しくはない」
俺が相手ではどうやっても勝てないと判断したのか、観念したように目を閉じるコカビエル。
俺はその姿に少しだけ尊敬の念を覚えてせめて苦しまないで逝けるように一気に首を落としてやろうと剣を振り上げ―――
「きゃあああっ!?」
この声はアーシア!? アーシアの元には黒歌が居たはずだ。まさか何かあったのか!?
そう思い慌ててアーシアの居た方向を見てみるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ルドガー君、この女の命がどうなってもいいのか?」
「ごめんなさいにゃ……ルドガー」
「リドオオオオオオオッッ!」
そこにはアーシアを吹き飛ばして自分の傍から離れさせ、少しふらつきながらも骸殻状態のまま
ニヤニヤとした表情を浮かべ、黒歌の首筋にナイフを突きつけるリドウの姿があった。
くそっ! どうして俺はあいつに止めを刺さなかったんだ…っ。あの時しっかりと止めを刺していればこんなことにはならなかったのに! 後悔の念が押し寄せてくるが今はそんなことをしている場合じゃない。とにかく黒歌を何とかして助け出さないと!
「黒歌を離せ、リドウ!」
「さあ、それはルドガー君次第だぜ」
勝ち誇った笑みでそう言って来るあいつの顔を今すぐにでもぶん殴ってやりたいけど黒歌が人質に取られているために下手には動けない。俺はどうしようもない悔しさにギリリと歯ぎしりをしてあいつの要求を呑むことにした。
「……どうすればいんだ、リドウ」
「何、簡単さ。ルドガー君がこの女の希望の―――架け“橋”になればいいのさ」
“橋”という言葉を強調して言うリドウに思わず顔を歪ませてしまう。こいつが言いたいことは分かった、俺に“魂の橋”になれと―――黒歌の為に生贄になれと言っているんだ。
まったく……前世で橋に変えられた恨みか? それならビズリー相手にでも晴らしてくれればいいのにな。
俺はそんなどうでもいい事を考えながら片手の剣に目を移す。黒歌の為に命を捨てる覚悟なんて
とうの昔に出来ている。何も迷う事なんかない、俺は大切な人を守る為に一度命を捨てた。
なら、今もう一度―――大切な人を守る為に命を捨てよう。
俺はあの時、兄さんが俺の為に“橋”になろうとした時のように自分の首筋に刃を当てる。
それを見たみんなの息をのむ音がしっかりと聞こえてくる。コカビエルでさえ驚きの表情を浮かべている。多分、聞かされていなかったんだろうな。それに戦う事に拘りを持っていそうだから戦わずに殺すことは嫌いなのかもしれない。まあ……もうすぐ死ぬ俺には関係ないことか。
「リドウ、黒歌を離せ。俺はいつでも死ぬ覚悟は出来ている!」
「開放するのはルドガー君が死んでからに決まっているだろう?」
「卑怯な手を!」
「勝てれば何したっていいんだよ、グレモリー嬢」
そんな保証がどこにあるって言うんだよ! そう怒鳴りたいのをグッとこらえて黒歌を見る。
部長が何か言ってくれているが俺の耳には届かない。俺はただ、黒歌だけを見つめている。
黒歌が人質に取られている以上は下手な真似は出来ない。
ここで俺が死んでも黒歌が助かるとは限らないけど……俺が死ななきゃ絶対に助からないんだ。
最後だからこそ、笑って別れたい。エルの時もそうだったからな。
俺は最後にもう一度だけ黒歌を―――愛しい人の顔を見て笑いかける。
「だめ…そんなのだめにゃ! ルドガー!」
「……姉様。……ルドガー先輩…っ!」
「黒歌……目を閉じていろ。みんなもだ」
ダメだという黒歌とどちらかを選ばなくてはいけないのかと絶望した表情で俺達を交互に見つめる小猫とみんなにそう言う。何も嫌な光景を見せる必要もないからな。
兄さん、ミラ、悪いけどもう少しでそっちに行くよ。
特にミラはごめん、君と約束したのにもう生きられなくなりそうだ。でも……俺はこの人生に後悔なんてない。俺はグッと刃を首筋に押し当てる。冷たい金属の感触が伝わって来るが不思議と恐怖はない。そこで俺は最後の一言を言うために口を開く。
「勝手な男でごめん。でも、最後にこれだけは言わせて欲しいんだ。……愛しているよ、黒歌」
「だめえええええっっ!!」
最後にそう告げて俺は刃を―――
「人の愛情を弄ぶなんて酷いことするわ」
「ガッ!? くそっ! 誰だ!?」
突如一つの魔力弾がリドウの背中に当り、その衝撃でリドウは思わず黒歌を離す。
その隙に黒歌はなんとか逃げ出して直ぐ近くに居た小猫の元に行く。
俺もそれを見て剣を投げ捨てて、すぐさま黒歌の元に駆けていく。
「……姉様、無事で…良かったです。……それにルドガー先輩も」
「黒歌、無事か? どこか傷つけられたりしていないか?」
「私の事より、ルドガー…っ!」
黒歌が俺の首筋を指さしてくるので何事かと思い触ってみると赤い液体が付着していた。
ああ……皮膚を何枚か切ったんだろうな。でも、大きな血管とかを切ったわけじゃないから多分、放っておいても治るだろ。そんなことよりも黒歌が無事で本当によかった。
そう思って笑いかけると何故か泣きそうな顔で見つめられた。
あれ、そんなに俺の傷の事が心配なのか? こんなの大した傷じゃないんだけどな……。
そう思っても心配をかけているなら声を掛けてあげるべきだと考え口を開く。
「気にするなって、こんな傷すぐ治るから」
「でも…っ!」
「君が無事なら……それでいいんだ」
そう言って黒歌の頭をポンポンと撫でてやる。すると耐え切れなくなったように、また泣き始めたので抱きしめて胸を貸してやる。そして、そのままの状態でリドウの方を見る。正確にはリドウに攻撃した奴の方をだけどな。そこには月光を受けて光り輝く純白の鎧を身に纏い、背中に青白い光を放つ翼を生やした人物が浮いていた。あれはまさか―――
「白龍皇! 赤龍帝に引き寄せられてきたか!?」
「残念だけど、違うわ。確かに今代の赤龍帝がどんな子かも見させてもらったけど、本来の目的はあなたの回収よ、コカビエル」
「何だと…?」
「アザゼルの命令だから恨まないで頂戴ね、それとそこのあなたにはお仕置きね」
白龍皇、声と話し方からして恐らくは女性だと思われる奴がコカビエルとリドウにそう言い放つ。そしてまずはコカビエルの居る場所に瞬時に移動しその顔に強烈な拳の一撃を入れて一撃で気絶させた。弱らせていたから一撃で倒せるのは分かるけど……あの動きからして相当な実力者であることは間違いないだろうな。まあ、最初からコカビエルを討つつもりで来ていたんだろうから当然と言えば当然か。
「さてと…こっちは終わらせたから次はあなたへのお仕置きね。簡単に逝かないで頂戴ね」
「そんな物はお断りするぜ」
「あら、つれないわね。一曲ぐらい踊りましょうよ」
「グハッ!? ゴハッ!?」
今度は素早くリドウの後ろに回り殴り飛ばす白龍皇。そして間髪を入れずにもう一度殴り飛ばす。なんというか……リドウが殴られるのを見るとすっきりとするな。うん、ざまあみろってとこだろうな。頑張ってくれ、名も知らない白龍皇!
そんな応援が聞こえたのか、さっきよりも張り切っているように蹴り飛ばしたり殴ったりといい感じにリドウをフルボッコにしていってくれる。『Divide』という音声が響き渡っているのは多分白龍皇の能力なんだろうな。そう言えば白龍皇と赤龍帝は戦う運命にあるって言っていたな。
……今のイッセーじゃ絶対に勝てないだろうな。
「これで止めよ、消えなさい」
「俺は…まだ……死ぬ気はないぜ」
最後に片手を前に出してそこからありったけの魔力を込めたであろう魔力弾を撃ちだす、白龍皇。リドウは最後にそんな捨て台詞を吐いて光の中に消えていった。
……どうでもいいが、今の技はベ○ータのビック○ンアタックに似ていた気がするのは気のせいか? まあ、気のせいだよな。そんな事よりも今は白龍皇が何者かの方が大切だよな。
『久しぶりだな、白いの』
『久しぶりだな、赤いの』
どこからともなく声が聞こえてくる。これは神器の中に居る二天龍が話しているのか。
なんというか貴重な光景(?)だな。
『そちらの宿主はどうだ、赤いの?』
『一言で言うと弱いな。だが見ていて一番面白いとも思える奴だ』
『そうか…こっちは一言で言えば強い。見る分には……まあ、面白い』
なぜだろうか、若干、白龍皇の方が言葉に詰まっていたような気がするけど気のせいか?
その後も二天龍は軽く話し続け、喋ることが無くなったら黙り込んで宿主に丸投げした。
この話辛い空気を作り出しておいて最後は放置するなんて、なんて身勝手な龍なんだ。
あいつらに実態があったらトマト料理をトマト中毒になるまで食べさせてやるというのに。
命拾いしたな、二匹とも。
「じゃあ、私はコカビエルを回収して帰るとするわ。そうそう、まだ名乗ってなかったわね。私の名前はヴァーリよ」
コカビエルを持ち上げて、思い出したようにそう言って、鎧の頭の部分だけを解除して顔を見せる白龍皇改め、ヴァーリ。端正な顔立ちにショートカットに整えたダークカラーの銀髪、いかにもクールビューティーっていった感じの女性だな。
イッセーがちょっと目の色を変えているがお前は相手が宿命の相手だという事を理解しているのか。それと横で拗ねているアーシアと部長に気づけ、いつか後ろから刺されても知らないぞ、俺は。
「それじゃあ、また会いましょう。未熟だけど面白い赤龍帝君。それとルドガー君はしっかりと覚えておくわ」
「は?」
なんで俺もその中に入っているんだ? というか、なんだかその言い方だとイッセーよりも重要視しているように聞こえるんだけど。そんな事を考えているとヴァーリが最後に投げキッスをして飛び去って行った……なぜか、俺に向けて。
そのことに訳が分からず、ポカンとしていると黒歌に頬を抓られた。どうやら俺が照れていると解釈したようだ。いや、別にそんな事を思ってもいないし俺は黒歌一筋だし……取りあえず痛いから離して欲しいです。
「はあ……取りあえず、話を聞きたいのだけど、いいかしら?」
俺はこちらを見て呆れたような顔をしてくる部長の言葉に頷く。
それと本当に痛いからそろそろ離してくれ黒歌。
「はあ…はあ……くそっ! あと少しでルドガー君を殺せたのによ…」
人通りの無い道をボロボロの体で歩く一人の男が居た。その男はつい先ほどヴァーリによって消されたと思われていた、リドウだ。彼は最後の力を振り絞って逃亡を図っていたのである。
その執念深さと生命力は流石だと言わざるをえないだろう。
「俺はまだ…死なない。もっと…生きてやる」
「残念だが、それは無理な話だ。リドウ・ゼク・ルギエヴィート」
「誰だ!?」
そんなリドウの後ろに突如現れ、声を掛ける男性。その男性の姿はまるで闇にまぎれるかのごとく全身黒づくめであった。リドウはその男の出すただならぬ気配に直ぐに戦闘態勢に入ろうとするがその場に崩れ落ちてしまった。何故か、その理由は簡単だ。謎の男に足を切り裂かれていたからだ。自分が気づく間もなく。
「グッ!? 誰なんだよ、お前はよお!?」
「答える必要はない。最も“偽物”の君には借りがあるがね」
「っ! そういうことか……お前は分史世界の―――」
「サヨナラだ。リドウ・ゼク・ルギエヴィート」
乾いた銃声が辺りに響き渡り、リドウは力なく崩れ落ちていく。一瞬の静寂が辺りを支配し突如として、その体はまるで空気に溶けるかのように薄くなり完全に消えていってしまった。そのことに謎の男は僅かばかり顔をしかめる。
「所詮は作られた肉体とでも言うところか……」
男は自分の手を見つめながら無感情にそう呟く。男にとって重要なことは生き残ることではない。いかにして邪魔者を消していくかだ。男は自分の力に絶対的な自信を持っている、誰が相手でも負けることは無いという自負もあり、その実績もある。
男は自分の手から目を離しどこか遠くを見つめながら口を開く。
「私は必ず全てを取り戻す……それまで待っていなさい―――ルドガー・ウィル・クルスニク君」
後書き
リドウさんの活躍が前回までだと思っていたなら残念だったな、今回で終わりだ(´・ω・`)
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