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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-11 不可避の現実
  Story11-3 二人の居場所

第3者side

次の日

「さて……今日はエギルの店に行くかな…………」


ポーン


その時、聖音のパソコンにメールが届いた。


エギルからのメールだった。
彼とは20日前に東京で再開し、メールアドレスも交換していた。


件名はAlready look?となっていた。

メールを開くと
『ミズキに預けた写真は見たか?』

とだけあった。



聖音は携帯を取りだし、エギルに電話をした。

「もしもし?」

「えーこちら株式会「つまらんジョークはやめろ、シャオン」

あ、バレてた」

「で、用件はなんだ?」

「写真のこと。詳細を聞きたいんだ」

「ちょっと長い話になる。店にこられるか?」

「ああ、今から行く」

聖音はシャワーを済ませ、家を出た。
















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆















エギルが経営する喫茶店兼バーは、台東区御徒町のごみごみした裏通りにある。


煤けたような黒い木造の解りにくいその店を見分けるには、小さなドアの上に造り付けられた金属製の飾り看板だけだ。

2つのサイコロを模ったその看板には『Dicey Cafe』という店名が刻み込まれている。

乾いたベルの音を響かせて途中で合流した和人がドアを押し開けると、カウンターの向こうで禿頭の巨漢が顔を上げてニヤリと笑った。


店内にはどうやら客はひとりもいないようだ。


「よぉ、早かったな」

「相変わらず不景気な店だな。よく2年も潰れずに残ってたもんだ」

「うるせぇ、これでも夜は繁盛しているんだ」

「なんか落ち着く雰囲気で、いいとこだな」

「シャオンは見る目があるな」

「カズにないだけだろ」

「うるさい」

あの世界と同じようなやり取りをしながら聖音たちは丸いすに座った。




エギル、本名アンドリュー・ギルバート・ミルズが、現実世界でも店を経営しているのだと知った時は2人揃ってなるほど、と納得した。

人種的には生粋のアフリカン・アメリカンらしく、それと同時に親の代からの江戸っ子でもあるのだとエギルは話してくれた。


住み慣れた御徒町にこの店を開いたのが25歳の時で、客にも恵まれ、美人な奥方も貰い、さあこれからだ、という時にSAOの虜囚となってしまった。
あの世界から帰還した時はもう店の事は諦めていたらしいが、奥方が細腕で暖簾を守り抜いたのだと嬉しそうに語っていた。


木造の店内は、行き届いた手入れによって全ての調度が見事なまでな艶をまとい、テーブル4つとカウンターだけの狭さもまた魅力だと思える居心地の良さを漂わせていた。

聖音はエギルに珈琲を2つ頼むと、和人が例の写真について問いただした。

「で、あれはどういうことなんだ」

「写真の詳細……教えてくれ」

エギルは淹れたての珈琲を聖音たちの前に出すと、カウンターの下に手をやり、長方形のパッケージを取り出した。


それを聖音たちの方に滑らせる。

和人が指先で受け止めた手の平サイズのパッケージを、聖音は横目で見ながら出された珈琲に口をつけた。


そのパッケージはゲームソフトで、プラットフォームはAmuSphereと右上に印刷されている。

「聞いたことないハードだな…………」

「アミュスフィア。オレたちが向こう側にいる間に発売されたんだ。ナーヴギアの後継機だよ、そいつは」

「…………」

複雑そうに2つのリングを模ったロゴマークを見つめる和人に、聖音は口を開いた。

「確かに、ナーヴギアはあの事件を引き起こした悪魔の機械と言われていたけど、フルダイブ型ゲームマシンを求める声も多くて、それを押しとどめることが出来なかったんだ。


あの事件があってから約半年後、大手メーカーから「今度こそ安全だ」と銘打たれて発売されたのがアミュスフィアで、俺たちが囚われてる間に従来の据置型ゲーム機とシェアを逆転させるまでになった。

SAOと同じジャンルのタイトルも結構リリースされてたな」

「じゃあ、これもVRMMOなのか?」

「そういうこと」

和人が眺めているパッケージのイラストは、深い森の中から見上げる巨大な満月と、その満月を背景に、少年と少女が剣を携えて飛翔している。

格好はオーソドックスなファンタジー風だが、2人の背中からは大きな透明の羽根が生えている。

その下には凝ったタイトルロゴ、ALfheim Onlineとあった。

「アルフ……ヘイム・オンライン? どういう意味だ?」

「アルヴヘイム、と発音するらしい。妖精の国、って意味だとさ」

「妖精……なんかほのぼのした感じだな。まったり系のMMOなのか?」

「それが、そうでもなさそうだぜ。ある意味えらいハードだ」

「ハードって、どんなふうに?」

「どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」

「ど…………」

「あまりプレイせずに強くなりたいやつにはもってこいだな」

「いわゆる『レベル』は存在しないらしい。各種スキルが反復使用で上昇するだけで、育ってもHPは大して上がらないそうだ。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってとこだな。グラフィックや動きの精度もSAOに迫るスペックらしいぞ」

「へぇ…………そりゃ凄いな」

「PK推奨っていうのは?」

「プレイヤーはキャラメイクでいろんな妖精の種族を選ぶわけだが、違う種族ならばPKアリなんだとさ」

「そりゃ確かにハードだな。

でも、いくらハイスペックでも人気でないんじゃねぇのか? そんなマニア向けの仕様じゃあな」

眉を寄せる和人と聖音に対し、エギルはニヤリと笑う。

「そう思ったんだけどな……今大人気なんだと。理由は、『飛べる』からだそうだ」

「「飛べる…………?」」

「妖精だから羽根がある。フライト・エンジンとやらを搭載して、慣れるとコントローラ無しで自由に飛びまわれる」

和人が思わずと言った感じで、へぇっ、と声を上げた。




プレイヤーが生身でそのまま飛行するものは今までなかった。

何故なら、仮想世界であっても現実の人間に不可能なことは同じく不可能だからだ。
例え背中に羽根が生えていても、何処の筋肉で動かしていいのかわからない。

SAO内では、聖音たちも超絶的なジャンプ力によって擬似的になら飛ぶことも可能だ。
だが、それはあくまで跳躍の延長線のものであって、自由に飛びまわることはできない。

「飛べるってのは凄いな。羽根をどう制御するんだ?」

「さあな。だが相当難しいらしい。初心者は、スティック型のコントローラを片手で操るんだとさ」


「…………まあ、このゲームのことはだいたい分かった。
本題に戻るが、あの写真は何なんだ?」

エギルは再びカウンターのしたから二枚の紙を取り出した。
その紙には問題の写真二枚が印刷してある。

「どう思う」

「似ている、アスナに…………」

「こっちの写真の方は、桜華に似てる…………」

「やっぱりそう思うか。ゲーム内のスクリーンショットだから解像度が足りないんだが」

「教えてくれ。ここはどこなんだ!」

「その中だよ。アルヴヘイム・オンラインの」

聖音はパッケージを裏返した。


そこにはゲームの内容や画面写真が細かく配置され、その中央には世界の俯瞰図と思われるイラストが載っている。


円形の世界が、幾つもある種族の領土として放射状に分割され、その中央に1本の巨大樹が聳えていた。

「世界樹、と言うんだとさ」

エギルが大樹のイラストをコツンと叩いた。

「その樹。プレイヤーの当面の目標は、この木の上の方にある城に他の種族に先駆けて到着することなんだと」

「到着って、飛んでいけばいいじゃないか」

「なんでも、滞空時間ってのがあって無限に飛べないらしい。この樹の一番下にある枝にもたどり着けない。
でも、どこにも馬鹿なことを考える奴がいるもんで、体格順に5人が肩車して、多段ロケット方式で樹の枝を目指した」

「ははは、なるほどね。馬鹿だけど頭いいな」

「うむ。目論見は成功して、枝にかなり肉薄した。ぎりぎりで到達はできなかったそうだが、5人目が到達高度の証拠にしようと写真を何枚も撮ったんだ。その一枚に、奇妙なものが写り込んでいたらしい。枝からぶら下がる、巨大な鳥籠がな。

そのパーティーは、こっちからなら!って思ったらしく、今度は反対側から挑戦した。

今度も無理だったが、到達高度の記念に取った写真の中に今度はこっちの写真が写っていたという訳だ」

「鳥籠、ね…………」

それを見た聖音と和人が顔を引きつらせる。

「そ、そいつをぎりぎりまで引き伸ばしたのが、この写真ってわけだ」

「でも、なんで正規のゲームの中に桜華や明日奈が…………」

聖音はパッケージの裏面を見た。

その裏側に書いてある『レクト・プログレス』のメーカー名を見て、和人と聖音の顔が強ばった。

「どうした、キリト、シャオン。こええ顔して」

「…………なあ、エギル、他の写真はないのか?アスナやフローラ以外のSAO未帰還者が、このアルヴヘイム・オンラインで同じように幽閉されてた、みたいな」

その和人の質問に、エギルは分厚い眉丘にシワを寄せると首を振った。

「いや、そういう話は聞いてねぇ…………というか、そんな写真があったらもう確定だろうが。おめぇらじゃなくて警察に電話してるさ」

「そりゃそうだな…………」

「もっともな話だ」

和人や聖音は頷きながらも、考えを巡らせているようで眉間にシワを寄せている。

やがて、考えがまとまった和人が、顔を上げエギルを見やる。

「エギル、このソフト、貰っていいか」

「構わんが、行く気なのか」

「ああ。この眼で確かめる」

「そうだな」

和人と聖音は決意の表情を表す。

「そういやあ、キリトはともかく、シャオンは持ってんのか?ソフト」

「これから買うさ」

「って、一体その金はどこからくるんだ?」

「内緒」

聖音はニヤリと笑いながら言った。

「2人ともあんまり無茶はするなよ」

話を聞いていたのであろう和人はニッと笑い、言った。

「死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ。そうと決まればゲーム機を買わなくちゃな」

「それならナーヴギアで動くぞ。アミュスフィアは単なるセキュリティ強化版でしかないからな」

「そりゃ助かる」

聖音と和人はポケットから合わせて2人分のコインを摘み出すと、カウンターにパチリと置いた。

「じゃあ、俺たちは帰るよ」

「ご馳走様。珈琲おいしかったぜ。また情報あったら頼むよ」

「絶対にアスナとフローラを助け出せよ。そうしなきゃ、俺たちのあの事件は終わらねぇ」

「ああ。もちろんだ」

「いつか……ここでオフをやろう」

和人とエギルと聖音がお互いの拳をごつんと打ち合わせる。

そして、聖音たちは振り向いてドアを押し開けると店を後にした。
















Story11-3 END 
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