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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百十幕 「クライシス・デイズ」

 
海上決戦が終焉の兆しを見せていたその頃、佐藤さん達一行もまた動き出していた。
……尤もそれは作戦と言うには余りにも不確定的な部分の多いものだったが。

「ジョウさん。本当に今の鈴ちゃんは大丈夫なんですかね?」
「……まぁ危険な感じはしないし、あの鈴に憑依した奴からはどっちかと言うと優しさや思いやりを感じる。お前が心配するようなことにはならんと思うぞ?」
「ジョウさんが言うなら信用しますけど、問題は私が何をすればいいのか分かんない事なんですよねー……」

金色の身体を晒すアルキミアと、影の前で待機中のスーパー甲龍(仮称)。周辺には自衛隊あさがお部隊と文先生の打鉄、そしてジョウさんの夏黄櫨(なつはぜ)が護衛として周辺を警護している。

前にも説明されたが、スーパー鈴ちゃんが何らかの方法を用いてあの使徒を物理、概念の両方で縛り付けるから私はその間に影に突入してベル君を確保し、さらに内側からA.T.フィールドをブチ破ればいいそうだ。しかし、そもそも影の中に広がっているという虚数空間とはどんなところなのかとか、レーダーが効かないのにどうやって彼を見つけるのかなど疑問に思う事が様々で不安だらけだ。

が、直感に生きる男ジョウさんは「入ってみりゃ分かるだろ」とあっけらかんとしている。
自分が入らないからってそれは流石に無責任じゃない?という怒りを覚えないでもないけど、ジョウさんの勘的にそんなに危機的状況に陥ることはないと予想しているのかもしれない。

もっともジョウさんの勘で100パー当たるのは弟関連に限られるのであんまり慰めにならないが。

めくるめく苦労の予感。だがしかし、ベル君の命が本気で危ないらしいこの現状では助けに行かない訳にもいかない。あの無口で子供でちょっと意地っ張りな同居人を、こんな所で見捨てるなんて――私には無理。

「えーい、女は度胸ぉッ!!」

ぱぁん!と頬を両手で張って気合を入れ直す。よし、OK!!気合があれば何でもできる!好きな男に命を懸ける、それが乙女の心意気ぃッ!!……あ、ちょっと待って今の「好きな男」のことろはオフレコで!勢いで言っちゃっただけだから!

「鈴ちゃん!!例の奴お願い!!」
『承知した。………急急如律令、勅!!』

鈴ちゃんの手が印のようなものを素早く結ぶと、その手に突如炎の塊のようなものが現れる。
目を凝らしてみれば、それは古代中国の物らしい文字が書きこまれた紙の札。炎が分裂するたびに、その炎の中心に札が現れ、やがて32枚にまで増加した札が一斉に宙に解き放たれる。

「う……本格的にオカルティック。ISとは一体何だったのかしら」
『ISは所詮ISでしかありませんよ、マスター』
「いやそう言う意味じゃないんだけど……まぁいいか」

32枚の札はIS的なシステム補助を無視して飛びまわって空に浮かんだ使徒を立体的に取り囲んだ――その瞬間、鈴ちゃんが大きな声で叫ぶ。

『結ッ!!』

瞬間、札と札の間に無数の炎が走り、ロープが絡み合うように32角の立体的な牢獄を形成した。角の一つ一つが陰陽玉になっており、まさに結界か封印といった風体だ。
自衛隊の人達もスーパー鈴ちゃんの説明には半信半疑だったが、あれほど巨大な結界を作り出したとなると流石に動揺を隠せない。少なくとも今のIS技術でこの光景を再現するのはどの国でも無理だろう。

「中国の新兵装……で片づけるには、出鱈目すぎる……!!」
「あわわわ……!?と、止めないでいいのですか隊長!?」
「落ち着けって加藤。だいたい止めるったって……どうやってですかー?」
「よなぁ」

一方の文先生はというと……何故かジョウさんの影にこっそり隠れている。いや、盾にしている?

「どうも今の鈴は信用できないからな。最低でも一人生き残るにはこれが有効だ。ベルーナのために犠牲になれ!」
「このクソ教師!俺だってユウを残してくたばれんわ!アンタが盾になれよ!」
「若いのが体を張れ!お前は織斑にも認められたんだからこれぐらいなら死なん!!」
「何の根拠にもなってねえよ!!ロートルの方が若いののためにとっとと道空けろよ!」
「誰がロートルだ!私は現役だぞ!見よこのボディライン!未だに現役の証拠だ!!」
「生徒につまらん物見せつけんじゃねーよ!!」
「ンだとクソガキぃ!?そこまで言うなら私の女らしい所見せてやろうじゃないか!」

「………何をやっているんだ(あいつ)は」

余りに緊張感のない光景に自衛隊の隊長さんが頭を抱えている。醜い……醜いぞ人間ども!とどこからか無駄にゴツイ天の声が聞こえてきそうなあの二人はさておいて、問題は影の方。見た目には変化が分からないが、恐らくはかなり安定したのだろうか。

「鈴ちゃん、もう飛び込んでもいい!?」
『構わん!飛び込めッ!!』

この広大な闇の中からベル君たった一人を救出するために潜る。
そう、いまの私はベルワンダイバーなのだ。何となくだけど。

「じゃあ行ってきます!」

スラスタの出力を最大にし、私は山を飲みこんだ巨大な闇にフルダイブした。



なんだろう、これは――水の中にいるようで、でも身体はとても軽い。言うならばこれは――

『機体操作を重力下機動より宇宙機動に切り替えます』
「あ、やっぱりこれ宇宙と同じ感覚だったんだ……」

地に足のつかない移動。光の見えない空間。レーダー類は雑音ばかりを吐きだし、ほとんど何があるのか認識できない。だが、ISセンサーの恩恵か、なんとなく周囲に物体があることだけは分かる。これは、恐らく樹木や地面、それに岩などだ。山の表面から影が削り取って飲みこんだ物質とみて良いだろう。

一先ずやることは……っと。息を大きく吸ってー、吐いてー、もう一度吸ってー……

「ベルく~ん!ベルくん朝だよ~!!」

虚数空間を移動しながら叫ぶ。ただただ叫ぶ。
通信はオープン回線にしてあるからISを通して声が伝わるかもしれないし、仮に意識がなかったとしても私がベル君を起こせなかったことなど無い。母の貫録(?)である。

しかし、何故スーパー鈴ちゃんはベル君の危機を真っ先に救おうとしているのだろう。
危ないと言えばシルバリオ・ゴスペルの操縦者であるナターシャさんだって危ないし、あさがお部隊の隊長さんだって結構危ない橋を渡っていた。なのに彼女が助けようとしているのはベル君だけだ。

「ショタコンに目覚めた……っていうのは流石に無いよねぇ」

スーパー鈴ちゃんはそういう世俗的な雰囲気を感じない。と言う事は、彼女とベル君に何かしらの接点があって、それが彼女の行動を産んだ?

――なら、ベルくんとは何者なの?

私の知ってる彼は、3番目のIS操縦者で、天然さんの意地っ張りで、体が弱い癖して無茶したがる男の子だ。ワンサマーのように特別な出生・環境にいたと言う訳ではないし、ユウジョウ兄弟のように破天荒な人格(ユウ君には言っちゃ悪いけど、キミも大概だと思うよ)という訳でもない。目を離せばその隙にいなくなってしまいそうなほどに儚い子だ。

そんな彼の背中にも、何かが背負わされているのだろうか。つらく苦しい運命が待ち構えているのだろうか。そうなった時――私は今までのようにベル君の面倒を見ていられる?それについていける?
ベル君は、いつか私の手の届かないどこかへと行ってしまって――?

初めて出会った思い出。助けてあげた思い出。頼られた思い出。
どんな思い出の中のベル君も、正直可愛らしかった。
仲良くなって心を開いてくれるのが嬉しかった。

そんなベル君がどこかへと行ってしまう?
あの華奢な体のままに、危険な場所へ?

「――駄目だよそんなの。危ないよ……」

君は争いが大の苦手じゃない。運動もてんで駄目で、未だにISの操縦だっておぼつかないのに。
そんな危険な所には行かせたくない。遠くには行ってほしくない。
ベル君の顔を思い出す。時々――本当に時々、自分の居場所がどこにもないような寂しい表情を見せる君の横顔を。

暗闇に紛れて、ベル君はどこかへ行っちゃうの?
いつか私の手を引くって豪語してたのは嘘だったの?
言い知れない不安が胸中を渦巻く。鎖を引きずるような重みが、私を焦らせる。

思えば、この世界に生まれてからずっと自分は世界から疎外されているような感覚があった。でも、ベル君の世話をしているうちに、私は君にどんどん入れ込んでいって――気が付いたら、今もこんなに真剣になっている。

「誰になんと言われてもいい。どんな運命を背負っててもいい。でもベル君……居場所が欲しいんなら私の傍が開いてるんだよ。ううん、君のために空けてるの。だからお願い……!!」

両手の指を絡め、祈る。ただただ祈る。
この祈りよ――ベル君に届いて。


唯一仕様特殊能力(ワンオフアビリティ)『フェストゥム』、解禁します――》


『ベル君、こっちにおいで』


瞬間、アルキミアの全身から黄金に輝く波動が解き放たれた。

ワンオフアビリティ、『フェストゥム』。祈りに呼応するように鳴動する装甲から放たれる波動。

――佐藤さんはその波動に何の機能があるのかさえもまだ知らない。
ただ、レーイチとアルキミアが「今の佐藤さんに必要だ」と判断して勝手に発動させたに過ぎない。発動空間全てを覆うそれは――まるでこの時が来るのを予見していたかのように発動した。

虚数空間を塗りつぶし、世界を改変する。
彼女の声を、この空間のどこかにいるベルーナへ届けるために。

虚数空間が、祝福の声に満たされる。



 = =



呼んでる。

でも、これは違う。

これは――これは、ミノリ?

ミノリの声が聞こえる。彼女の優しい声が耳を擽る。

『ベル君……起きて?こっちにおいで?』

優しく、囁くように、暖かく、包み込むように。

こんな感覚を僕は感じていたことがある。

母さんだ、母さんに似ている。

あの頃は、まだ母さんも父さんも友達もいて――まだあの3人にも会ってなくて。

それで、その頃は別の友達がいて。

ぼくは。

ぼくは、そう。






友達を2人と、大人を、たくさん殺した。






「あ………あ、ああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


無の暗黒が、救いの声を歪める。限りなく希望に近い場所にあった絶望を引き起こす。


抑え込んで抑え込んで、それでも抑えきれずに漏れ出していた、トラウマの源。

異常。狂気。血の赤。罵声。悲鳴。嘔吐。糾弾。崩れる、世界。

思い出すな。思い出すな。思い出すな。思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな。

割れる、頭が、割れる。

死。別たれる命。目の前で、消える。

思い出したくない、思い出したくない、思い出したくない、思い出したくない。

貴方なんて私の子供じゃない。目の前から失せて、どこかへ行って。

やめて。母さん、そんなことを言わないで。

やめて。父さん、そんな目で見ないで。

違うんだ。僕じゃない。僕じゃないんだ。

頭が割れそうに痛い。頭蓋から脳を引きずり出されるようだ。

なんでみんなそんな目で僕を見るの。僕、違うのに――違う、何が。

武器が怖い。刃物が怖い。

嫌だ、捨てないで。置いていかないで。僕をそんな目で見ないで。見捨てないで。

怖い。人と一緒にいるのが怖い。誰にも会いたくない、誰にも近付きたくない。

生きる価値がない。

消えたい。無になりたい。自分の存在を消し去りたい。

苦しい、息が、出来ない。助けて。助けて。頭がおかしくなってしまう。

沈む、僕が、沈む。


僕には存在する価値がないんだ。
ミノリだって本当の事を知ったら僕に近づいたりしない。
だから、僕を求めないで。

来るな。
来るな。
来ないで。

傷付けたくない。傷つきたくない。


嫌だ、ミノリ。見ないで。


君も僕を母さんと同じ目で見るのか?



「僕を見ないで………見ないで!見るなぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!!」



爆発した感情が、ベルーナの閉じ込められていた棺桶を吹き飛ばす。

ISがその感情に呼応して勝手に起動し、ベルーナの全身を包む。

交わらない黒。拒絶の黒。闇の黒。

太陽の下ではただシンプルなだけに見えたその姿が、今この瞬間だけはひどく禍々しい。石像に宿る悪魔が動き出したような、怨霊が呻く怨嗟のようなノイズ。


「ベ、ベル君!無事だったんだね!……ベル、君?」

漸く彼を発見した佐藤さんも、異常に気付いた。
その黒いISの背中から、白と黒を混ぜた禍々しいマーブル模様の「何か」が溢れ出ている。
それは悪魔の翼が広がるように虚数空間へ広がっていく。
天使の羽と呼ぶには余りにも歪。
悪魔の羽と呼ぶには余りにも奇怪。
背中から引きずり出されるように「それ」を放出するベルーナが痙攣する。

「ぅうううう、ううううううーーー……」

獣のように唸り声をあげるその目には理性もなければ野生もない。言うならば、虚無。
その瞳には何も映っていないように見えた。

背中の円柱形バックパックが、切れ目に沿って脱落し、背中から溢れ出た「それ」に融合するように沈んでいく。水の流れのように絶え間なく蠢くその灰色の何かは、やがて収束して形を成していく。包み込む、繭のように。

エネルギー警告。

《これは……いけない!マスター!今すぐこの場所から退避を、いや間に合わないか……!複合拡散シールド『アルヴァトーレ』展開!耐衝撃防御を!!》
「え?え??だってベル君は――」
《そのベルーナ・デッケンから身を守るのです!今の彼は――近づくもの全てを排除しようとしています!》

その言葉の意味を問う事は出来なかった。

「うぅぅぅー………う、う、あ゛あぁぁぁぁあっぁあああああああッ!!!」

次の瞬間、空間そのものを揺さぶるような爆発的なエネルギーが虚数空間ごと周囲を吹き飛ばした。

「――ッ!?きゃぁぁぁぁッ!!!」

耳を劈く轟音とか、目も眩む閃光とか、最早そんな次元の話ではない。

繭のように包まれたベルーナを中心に発生した、音や光を置き去りにするほどの凄まじい衝撃波が、アルキミアを展開したシールドごと虚数空間の外へ――実数空間まで弾き飛ばした。
  
 

 
後書き
佐藤さんの必死の祈りは、本当に優しくて暖かいものでした。でも、それが奇しくもベル君の心の奥底に閉じ込められたトラウマをこじ開けてしまった、という感じです。
アルキミアの武装とかは全部金色ロボ関連から持ってきているのは……今更言うまでもありませんね。
実際には佐藤さん達の行動は正しかったのですが、それは後になって判明する話。

もうほぼ更新停止状態といっても過言じゃないこの小説。つぶやきでも言いましたが、ほぼ続きに着手できていません。なにせ今のスケジュールだと更新には私が3人必要なレベルです。しかしそれでもストップしてる訳じゃないので、一先ずベル君篇は次回で決着です。乞うご期待。 
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