美しき異形達
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第三十六話 古都においてその五
「金さんが桜吹雪を」
「だよな、あそこでな」
「服を脱いで」
「実際に撮影していた場所か」
「そうなのよね」
菖蒲は表情はないままだがやはり言葉に感慨を込めていた。
「色々な役者さんが演じてきた役で」
「大岡越前でもな」
薊はこの作品についても言うことを忘れていなかった。
「撮影に使われてて」
「そうだったのね」
「そういえば戦隊ものでもな」
ここでだ、薊はこんなことも言った。
「映画村って撮影に使われてるよな」
「うん、毎年みたいにね」
裕香は薊のその話に答えた。
「使われてるわ」
「そうだよな」
「戦隊も東映だからね」
「同じ会社だからいいんだよな」
「そうよ、使えるのよ」
「そう思うと只の観光地じゃないんだな、ここは」
「映画やドラマについて勉強出来る場所よ」
ただ観て遊ぶ場所ではないのだ。
「そうなるわ」
「だよな、そういえばな」
「そういえば?」
「東映の作品って悪役も重要だよな」
薊はここでこうも言ったのだった。
「このお白州でいつも獄門とかになる」
「ああ、恒例の」
「そう、ああした人達もな」
「いい役ばかりじゃ成り立たないからね」
時代劇にしろ特撮にしろだ、特撮は最近は勧善懲悪とは言い切れないところがあるが敵役と言えば悪役の範疇に入るだろうか。
「だからね」
「絶対に必要だからこそ」
「重要だよな」
「東映の昔の悪役の人って凄かったわよね」
向日葵もこう言ってきた。
「うちのお父さんが好きで言うのよ」
「あの住職さんの」
「そうなの、誰がよかったとかね」
「それはまた具体的だな」
「そうでしょ、お父さんが一番よかったっていうのは月形龍之介さんだったわ」
東映の悪役の中でも最高位にあると言われた役者だ、水戸黄門でも評判の高いまさに伝説的盟友である。
「あの人が最高だったって」
「月形龍之介?」
「その人がってね」
「かなり昔の人だよな」
「戦前から活躍していた人みたいよ」
一行からしてみれば相当な昔である。
「何しろ水戸黄門の初代さんだから」
「水戸黄門のか」
「そう、初代だったのよ」
「じゃあ本当に相当に昔だな」
「だからね」
「あたし達が知らないのも当然か」
「うちのお父さんが生まれる前か子供の頃に死んだらしいわよ」
つまり向日葵の父もそうした年代だというのだ。
「だからね」
「知ってる筈がないか、あたし達が」
「まだ東映が野球チーム持ってた頃で」
「ああ、東映フライヤーズな」
今の北海道日本ハムファイターズである、このチームはかつては東映が親会社として経営していたのだ。
「無茶苦茶昔だな」
「そうでしょ」
「あたし日本ハムしか知らないよ」
つまりフライヤーズの頃は知らないというのだ。
「ついでに言えば野球に興味持った時は北海道にいたよ、日本ハム」
「私もよ、まあ東映もそれだけ古くてね」
「歴史があってか」
「役者さんにも歴史があるのよ」
「そういうことなんだな」
「そうね、じゃあとりあえずね」
「ああ、とりあえずな」
薊は向日葵がここから言うことを察して述べた。
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