【ネタ】 戦記風伝説のプリンセスバトル (伝説のオウガバトル)
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23 闇よりの使者
今更の話だが、私の進軍エリアはメインルートではない。
それでも天使長ユーシスを手に入れる必要から、デスティンには苦労をかけて来てもらったりしている。
デスティン率いる王国軍主力はオルガナを攻略し、三騎士の一人氷のフェンリルを仲間にしていた。
更にカオスゲートを使ってムスペルムを攻略する予定だが、私はどうしても一つ落としておきたい場所があった。
アンダルシル。
封印されし魔王ガルフが居る場所である。
アンダルシル地方は魔王ガルフが封印されている場所である。
内陸部の盆地と海岸の間には高い山々がそびえ、ロシュフォル教会による封印結界によってガルフを盆地より出さないように作られている。
同時にこの地に魔物が巣くうことを奇貨に、闇の世界からめずらしい品物や武器を取り引きして莫大な利益をあげている。
その交易先は神聖ゼテギネア帝国。
帝国軍の武器防具から魔獣の供給源の一つがここだったりする。
その為にここは是が非でも制圧しておきたかったのである。
我々の戦力強化の為にも。
アンタリア大地の本拠地カンダハルを拠点に降伏した帝国軍を再編する。
オミクロンの人望のなさからか、帝国軍の降伏兵のほとんどがこちらに従う事になった。
その数5000。
アンタリア侵攻軍の戦力が4000だからいかに彼の人望がなかったかわかろうというもの。
ゴーストとスケルトンは天使長のユーシス様によって成仏してもらい、デーモンも掃討戦の段階で姿を消した。
ブラックナイト・ゴエティック・ニンジャマスターあたりはまあ仕方ないと組み込んだが、問題はウェアウルフ達だった。
昼間は人間で、夜だけ狼となる彼らは元が病気というのと、この地特有の魔族との混血もあってそのまま組み込むことになったのである。
ついでだが、ウェアウルフはこの地では女性にもてもてだったりする。
もちろん夜に狼となるからで、夜間に陣内を見回ると狼の鳴き声と女の喘ぎ声のうるさい事といったら。
とどめに、降伏兵の女性のほとんどがウィッチ適正があった。
その為、地味にこの地方のウェアウルフ率は高く、その変化種のウェアタイガーも居たのにはびっくり。
閑話休題。
そんな夜盗寸前の彼ら降伏兵をまっとうな戦力に作り変える事が私には求められている。
同時に、カンダハルを首都としたアンタリア大地・アンダルシル・ガルビア半島・サージェム島を担当地域とカンダハル行政府の設立準備に入る。
この先に攻略する予定の永久凍土もこの行政府に入れる予定で、最終的には新ホーライ王国を立ち上げられればと思っている。
かなり広大な領土を持つが、ゼノビアからの統治だとどうしても遠隔地になるので独立させたほうが新生ゼノビア王国の国力回復が早まるという裏事情もあったり。
この新ホーライ王国だが、国王と王妃をリア充ロードカップルことサイノスとアーウィンドに任せようと企んでいる。
その下に宰相としてジュルクをつけてやれば、悪い統治はしやしないだろう。
なお、このままだとデスティンと結婚して新ホーライ王妃になりかねないので先に塞いだという理由もあったりなかったり。
話がそれた。
サイノス・アーウインド・ジュルクの三人に後方行政を任せ、ポグロムの森従軍組で編成した私の信頼できる古参兵1000とアンタリア大地降伏兵3000の4000にてアンダルシルに侵攻。
宗教都市ヤウンデと自治都市ボッサンゴアは戦わずしてこちらの軍門に降り、北部の主要都市も抵抗する気はないらしく占領統治は驚くほどあっさりと進んだ。
その代償は、南下する時に払う羽目になるのだが。
「アンダルシルにいる魔族の総数が二万以上ですって!?」
仮拠点を置いている自治都市ボッサンゴアで私は悲鳴をあげる。
私に悲鳴をあげさせたのは、この地のロシュフォル教会に接触してもらったプリーストのエリナである。
「そうみたい。
魔導師ラシュディはガルフとなにやら取り引きをしたみたいで、ガルフのいるアンタンジル城には多くの帝国軍と、ガルフに従う悪霊どもがむれをなしているそうよ。
おまけに、帝国が来てからというもの盗賊が出るようになって、治安が悪化しているわ」
それにスザンナが疑問の声をあげる。
さすがに五倍の敵を相手に戦うと聞かされて顔が青ざめている。
「おかしいではないか?
それだけの戦力があるならば、どうしてアンタリア大地を我らが攻略していた時に援軍にこなかったんだ?」
それにはオデットが答える。
しっかりと夜ウェアウルフ達の下で喘いでいたためか実に眠そうだ。
「山の外側の結界のせいらしいわ。
ガルフに召喚された魔物や悪霊ならば山を越える事ができないのよ。
だから、魔の気配で凶暴に育った魔獣や魔界製の武器・防具が限界って訳」
このあたりの交易を担っているのが、ウェアウルフやウェアタイガー達である。
そのため、山向こうに彼らの作ったムパンダカ、アンタンジル、貿易都市イノンゴはこのご時世に繁栄を極めているとか。
山向こうの平原には生きている人間がおらず、湖をかこむ森ではゴーストやスケルトン等の魔物達で住めないという理由もあるのだろうが。
「それじゃあ、山の方には手を出さなくてもいいのでは?」
ヴェルディナが消極的意見を出してくる。
実際、ここが攻勢限界点に近いのだ。
ガルフというは、暗黒のガルフと呼ばれ、オウガバトルの時代に悪魔やオウガどもを統べていた魔界の将軍のひとりで、天空の三騎士の手によってその魔力をうばわれ、この地に封印される。
その封印をロシュフォル教会が解けぬように、祈りを捧げて監視していた。
だが、新生ゼテギネア帝国の成立がこれを変えた。
魔導師ラシュディはガルフをこの地から解き放とうとしたがガルフは力を失った結果、自力で封印の外へ出ることはできずにいた。
彼にパワーをあたえるアイテムを渡して契約をするならば話は別だが、 そのアイテムは2つある。
一つは、失われた秘石『キャターズアイ』。
もう一つは、聖剣『ブリュンヒルド』である。
もちろん、契約などするつもりはない。話がそれた。
今もゼノビアに向かって天宮シャングリラが接近している。
ガルフの力はいらないが、ここで戦をせずに降伏兵を再編すれば10000程度の戦力を抽出する事も不可能ではない。
だが、それでは足りないのだ。
「おそらく、カストロ峡谷周辺で行われた新生ゼテギネア帝国とローディス教国の会戦は、そろそろ結果が出たと思う。
帝国軍の勝利で終わるはずよ。
そうなると北からの圧力がなくなった帝国軍は、シャングリラを拠点に30000以上の兵力でゼノビアに突っ込んでくる。
再編するとはいえ烏合の衆に近いこの増援に、帝国軍の相手ができると思う?」
私の言葉に参加者一同沈黙で私の意見を肯定する。
つまりそういう事なのだ。
「けど、ここに張り付いている戦力は違う。
結界の維持管理の為に必然的に強くならざるを得なかった、ロシュフォル教会のテンプルナイト達はね。
彼らを引っ張る為には、どうしても彼らが留まっている元凶であるガルフを叩く必要があるの」
神聖都市ポアントノアール・貿易都市ムーアナ・魔法都市オショグボ開放。
やはり帝国軍は出てこない。
帝国軍の方もガルフを何処まで信用できるかという思いがあるのだろう。
その一方で神聖都市ポアントノアールにて、この地のロシュフォル教会と接触する。
「はじめまして。
新生ゼノビア王国宰相のエリーと申します」
「ようこそ封じられし地へ。
ドュルーダ修道会騎士団団長のオルシーナと申します」
裏切りの使徒と呼ばれた13番目の使徒ドュルーダの名前を冠した修道会が、この地のロシュフォル教会を取り仕切っている。
ドュルーダは12使徒の中でもっともすぐれた賢者で、 白き魔道を極めた後お約束のように暗黒の力を求め、ドュルーダを恐れた他の賢者たちはかれの魔力をひとつの宝石に封じ込め、魔力を失ったドュルーダは歴史の闇に消える。
天空の三騎士は新たに彼の代わりにひとりの賢者をむかえ、十二使徒としたと伝承が残っている。
その宝石こそ『キャターズアイ』で、持つ者は強大な力を手にするだけではなく、魔界の神たちと自由に契約できるといわれていたり。
話がそれた。
テンプルナイトが女性とは……いや、女性優位のロシュフォル教会ならではか。
あきらかに、ここのテンプルナイト達は他の騎士団とは違っていた。
というか、騎士にあるまじきどうみてもウィッチじゃないかと思う露出の激しいテンプルナイトが闊歩している時点でうっすらとは分かっていたりするのだが。
こっちの思いを察したらしく、オルシーナが自嘲する。
「神から見捨てられた地で生きる為には、悪魔にすら身を捧げることも必要でした。
多くの者達はそれを嫌い私達を非難するでしょうがね。
その為、私達は裏切りの使徒と呼ばれたドュルーダ様の名前を頂いてこの地にて活動しております」
「お気持ちは良くわかります。
ですから我らに協力して貰うために、このようなものを用意してきました」
差し出したのは、テレポートでアヴァロン島に飛んで大神官ノルンに書いてもらった赦免状。
それを読み進めたオルシーナの目に涙が光る。
「本当に……本当に大神官は私達を許していただけるのですか?
悪魔にすら身を委ねた私達を……」
「償えない罪はありません。
私も多くの罪を犯し、大神官に許しを請うた身です。
犯した罪は償いましょう。
私もその力になりたいと思っているのです」
考えてみれば分かることなのだが、悪魔は防げる結界でも低級悪魔や人間は防げない。
そして、この見捨てられた地に帝国は武器や戦力供給源として投資をしたからこそ、ここは繁栄してる。
それを押しとどめるにはロシュフォル教会の掲げた正義だけではとうてい生きていけなかったからこそ、彼女たちは自虐の意味をこめてドュルーダ修道会を名乗っていた。
アンダルシル交易のこちら側の輸出品は人間。
各地の反乱で捉えた連中の処分もできて、帝国にとって一石二鳥の取引だったのである。
それを彼女たちの存在理由であるガルフ封印の名のもとに黙認した。
かくして、中継地点としてロシュフォル教会も繁栄した。
力がすべてで仮にも魔族、ワーウルフやワータイガーがかなりの人口にいる人間達の中継地点で、結界があるとはいえ女が多いロシュフォル教会がどのように扱われたか想像に難くない。
ちなみに、現実にも似たような歴史があったりするから、人というのは現実でもここでもたいして変わっていないのかもしれない。
なお、ドュルーダ修道会騎士団は、新生ゼテギネア帝国トップクラスの売春婦集団としてその名を確立している。
その理由が、魔物にすら身を委ねる彼女たちが金銭のためだけでなく、感謝される為、神の使命であると信じきった女達の奉仕を心から軽蔑しきって、己の優越性をくすぐるからに他ならない。
「一つだけお願いがあります」
協力を約束したオルシーナから出た言葉は少し意外なものだった。
警戒して身構えると、オルシーナは男に見せるような笑顔で私にその要求を告げる。
「私達は貴方の旗の下で戦いたい。
ロシュフォル教会でなく、新生ゼノビア王国でもなく、貴方の旗の下で」
「……理由は?」
「私達にも目があり、耳があります。
新生ゼノビア王国復興の立役者である貴方の話は、帝国兵達の寝物語から耳にしていました。
人体実験を行っていた魔女デネブを助け、悪徳商人で私達のお得意様だったトード様を引き込み、人魚の女王ポルキュスと手打ちをした手腕。
ここに来られる時、きっと私達に手を差し伸べるだろう。
そう信じて今日まで待っていたのです」
うわ。
向こうにも情報流れていたか。
派手に動きまわっていたからなぁ。
少し反省。
「私達はこのような経緯から、どこからも嫌われ、蔑まれてきました。
それでも手を差し伸べるのはきっとエリー様だろうと信じて待っていたのです。
それはこうして果たされました。
だからこそ、私達は私達を初めて受け入れてくれた貴方の下で戦いたいのです」
古の昔、
力こそがすべてであり
鋼の教えとやみを司る魔が支配する
ゼテギネアと呼ばれる時代があった。
ああ。
なんと過酷な言葉だろう。
だからこそ、きっと彼女たちは私の差し出した手を絶対に離さないだろう。
彼女たちは私の命で魔物にすら体を捧げ、命まで捧げるだろう。
私の行いが功績として世に広まり、魅『力』として彼女たちを捕らえて離さない。
それは、神すら見捨てた封印の地に利を求めた下心があったとはいえ、手を差し出した私の必然であり、背負わなければならない枷。
「どうか、私達を閣下の騎士に」
オルシーナが差し出したエストックを受け取る。
きっと、この剣を捧げる人もおらず、クラス的に騎士ではあったのだろうが、それを認める人は本人を含めてだれも居なかったのだろう。
受け取ったエストックをオルシーナの肩に当てる。
「我、誓いをもって汝らに騎士を授けん。
たとえ我が敗れ、命運つきようとも、我のため戦う事を誓うか?」
「たとえ我らの盾砕け、鎧朽ち果て、我らのこの身魔物に嬲られようとも、エリー様を護り続けん事を誓います」
工業都市ガボン・貿易都市ポーパハーコート・宗教都市キンシャサの制圧が終わると、この地の王国軍の総数は6000にまで膨れ上がっていた。
ドュルーダ修道会騎士団を中核にこの地で志願者を募ったからに他ならない。
神聖魔法が使えるテンプルナイトが入ったのは大きいが、ウェアウルフ・ウェアタイガーにブラックナイト、バーサーカーにヴァンパイア……
時々自分が帝国軍を率いているのではないかと錯覚する。
拠点を貿易都市ポーパハーコートに移し、軍を三つに編成する。
自治都市ボッサンゴアから出すスザンナ指揮のヴァルキリー隊1000を南下させて、ムパンダカを目指させる。
魔法都市オショグボから出すのはヴェルディナ率いるアーチャー隊1000で、こっちはスザンナ隊と連携して貿易都市イノンゴを目指す。
とはいえ、この二隊は陽動。
本隊はポーパハーコートから私が直卒する4000である。
「帝国軍!
オショグボとボッサンゴアの周囲に大軍を集結させています!
すごい数です!!」
グリフォンを使った偵察部隊が敵の動きを随時教えてくれている。
制空権はこっちにあるが、下が森のために効率的な攻撃がいまいちできない。
案の定、数に勝る帝国軍はこっちを潰しに大兵を繰り出してきている。
こっちにもこれ以上の兵を伏せているのだが、それは船で連れてきたぽちとアイスドラゴン二匹の砲撃でつぶせるだろう。
あとは時間との勝負……なにか騒がしいな。
「これは大将軍!」
部屋の護衛についていたオルシーナがドア向こうから素っ頓狂な声をあげる。
大将軍……ってデスティン!?
慌ててドアを開けると、そこにはデスティンとそのお付が三人ばかり。
「あんた、ムスペルム攻略どうしたのよ?」
後の三人に気づいたから答えは分かっているのだが、それでも尋ねるのが礼儀だろう。
あった時と変わらない笑顔でデスティンはいけシャーシャーと言いやがりましたよ。
「終わったよ。
だからエリーを助けに来たんだ」
私は、この時に勝利を確信した。
たとえ万の魔族が待ち構えていようが、三騎士の二人、赤炎のスルストと氷のフェンリルが居て、天使長ユーシスの加護の下、デスティンが聖剣『ブリュンヒルド』を振るうのだから。
戦いは、最初の一撃で終わった。
ゴブリンが、グレムリンが、スケルトンが、ゴーストが、ゴーゴンが、ヒドラが、サイクロプスが、サタンが、ファントムが、スケルトンナイトが、ドラゴンゾンビが、デーモンが、サテュロスが、オウガですら。
赤炎のスルストと氷のフェンリルとデスティンの剣技に切り刻まれ、天使長ユーシスのジハドが炸裂し、残った敵を私のスターティアラが一掃する。
なまじ大軍なだけに統制が取れない魔物達に帝国軍は巻き込まれ山を転がり落ちてゆき、多くの者達がその生を終える。
これは戦いですらない。
虐殺だった。
「……よくぞ、ここまで来たな。おろかな人間どもよ。
ラシュディには何の義理もないが、貴様らを倒せば、礼としてあの石をオレにくれるそうだ。
アレさえあればオレをしばりつける封印をかんたんに打ち消す事ができるからな。
封印さえ無ければ、かつての力を、あのパワーを取り戻せる……」
アンタンジル城で待ち構えていた暗黒のガルフは封印されていても魔王だった。
けど、前列が赤炎のスルストと氷のフェンリルに聖剣『ブリュンヒルド』を持っているデスティン。
後列が私に天使長ユーシス。見事なまでのハメプレイである。
「ねぇ。
貴方考えたことなかったの?
何の義理もないラシュディが、『キャターズアイ』を素直に渡すなんて事を」
激しく剣戟を交わすガルフにMPが切れた私は、マジックペーストを飲みながら精神攻撃をしかける。
その一言がガルフの剣を鈍らせる。
やっぱり、それは疑っていたのか。
「かつてのパワーがないとはいえ、貴様らを倒すことなど朝メシ前だ!!」
「で、弱った貴方を『キャターズアイ』の力でラシュディが倒すと」
「黙れ!!!」
湧いてくる魔物をスターティアラで一掃。
魔物が湧いてガルフが回復する時間より、前衛三人がガルフの体力を削り切る時間の方が速い。
だからこそ、不利を悟ったガルフは焦り、そこを更に突かれる悪循環。
「ま、待ってくれ!
剣をおさめてくれないか!?
オレはおまえたちに怨みがあるわけではない。
どうだ、オレと契約しないか?」
その命乞いの滑稽さが哀れさを誘う。
命欲しさにその矛盾に気づいてないのか、気づかないふりをしているのか。
「おまえたちが持っている聖剣『ブリュンヒルド』をオレにくれッ!
その代わりに、このオレがおまえたちの手助けをしてやろう。
どうだ悪い話じゃないだろ?」
デスティンは何も言わずにガルフに剣を突き刺す。
それが答だった。
ガルフが最後の望みをかけて、一番堕ちそうな私へ訴える。
「バカな……なぜ、このオレが…?
オオオ、身体がくずれていく……
そこのお前!
お前ならばどうだ?
おまえとの相性は悪くなさそうだし、おまえは俺と組んだ方が面白くなれるぞ!
さあ、オレと手を組めッ!
世界を我らのものにしようッ!!!」
ガルフの目を見た瞬間、その力が私に溢れてくる。
なるほど。
悪魔の魅了で、ブリュンヒルドがないと体が乗っ取られるか。
「エリー!」
デスティンが慌てて駆け寄ると、私はそのぎりぎりの意識で彼が持っている聖剣『ブリュンヒルド』を握る。
痛みと神聖なる力が私の中の悪魔を蹴散らしてゆく。
「おあいにくさま。
悪魔を殺すのはいつだって人間なのよ」
赤炎のスルストと氷のフェンリルの剣がガルフを突き刺し、天使長ユーシスのジハドが魂まで消し去る瞬間、ガルフは私に向けて嘲笑う。
その笑顔を見てしまった私は、その呪いを受けてしまう。
「ははっ!そりゃ叶わないな。
悪魔以上に狡猾なお前たちは、神や悪魔の手すら借りずにこの地上で終わるまで殺し合えばいいさ。
ラシュディのような人間がいるかぎり、おまえたちの世界に争いが消えることはないのだ……」
「あなたたちのおかげでガルフは永遠に魔界へ封印されました。
感謝します。
これでこの呪われた封印の地も平和なところとなるでしょう」
「この封印の地の役割もついに終わりとなったわけですね」
「聖なる父よ。
王国軍にご加護をあたえたまえ!」
「しかし、魔導師ラシュディがいるかぎり、封印されし魔界の住人は現世へ出てこようとするはず。
ラシュディを倒してください。それができるのはあなたたちだけです」
魔王ガルフ討伐成功。
この報は、カストロ峡谷の戦いで帝国軍の勝利に湧いた新生ゼテギネア帝国に冷水を浴びせ、勢力を伸ばしていた新生ゼノビア王国の士気を大いに高めた。
けど、人々の明るい顔とは別に私の気分はすぐれなかった。
自分でブーメランが突き刺さった形だが、人というものが本質的に飽きもせずに争い殺しあう歴史を知っているからだ。
その愚かさをよりにもよって悪魔から保証されてしまった。
アンタンジル城での残務処理での中、その自己嫌悪を心に抱え込んでいたのを見ぬかれたらしく、デスティンがふいに私を連れ出したのが貿易都市イノンゴだった。
盆地の真ん中にあり湖に浮かぶこの街は、オウガバトルの時代に魔界と契約した者たちの末裔が住んでいる町で、人が住む街の中で随一の繁栄を極めていた。
「ヒヒヒ……。
よく、いらっしゃいました。
私達は暗黒のガルフという悪魔をこの地に封印したときに、一緒に閉じこめられたんですよ。
封印は北の山々にそってほどこされており、われわれは山より外へは出れませんでした」
私達を案内するイノンゴの人の顔は明るい。
その笑顔を眺めるだけだった北の山々に向ける。
「あなたたちのおかげで、やっと封印の外へ出れます。
……もう、うれしくって。
なんだかナミダがでちゃう。お~い、お~い……」
デスティンが見せたかったのは、きっとこれなのだろう。
私のやったことは無駄ではないと。
それを見せるために、彼は私を連れだした。
その気遣いがすごく嬉しい。
「ありがとう。
デスティン」
私のお礼に、デスティンはあっさりととんでも無い事を言ってのける。
「たとえ何があっても、エリーを信じるよ。
だから、こまった時は遠慮無く助けを求めてくれ」
彼の笑顔が眩しくて見れない。
自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。
嬉しいし、恥ずかしいし、そんな自分に腹が立つし、あたまがいろいろめちゃくちゃになって考えがまとまらない。
「お二人さん。
宿屋はあっちだから。
今夜はお楽しみですね」
「黙ってなさい!」
私の一喝に周囲の人が目をそらし、注目を集めていた事を知って更に頭が茹で上がる。
けど、周囲の人と同じように笑顔を浮かべるデスティンの笑顔は決して嫌いではなかった。
私は私がやった事を、私がやったことが間違っていなかった事を確認したかったのだ。
その夜、一人ベッドの中で嬉しくて悶々として翌朝寝不足でデスティンにからかわれたが、それも楽しかったのは内緒。
後書き
オリキャラメモ
オルシーナ テンプルナイト
この地の封印を守るために体すら差し出すドュルーダ修道会騎士団団長。
ただの「くっころ」要員がここまで化けたのは史実のえぐさのおかげ。
基本この手の話大好きな私がドン引きした史実ってガルフも納得する修羅道。
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