勉強は駄目でも
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第一章
勉強は駄目でも
浜野千代子と勝恵は実に対称的な姉妹だ。
千代子は成績優秀で学校で一番の優等生と言われている、だが勝恵は。
勉強は全く出来ない、しかし体育と図工はだ。
抜群に出来る、それで二人の母である昌代は言うのだった。
「あんた達本当に正反対ね」
「ええ、私は運動が出来なくて」
千代子は眼鏡をかけた顔で勝恵を見て言うのだった、勝恵の小柄で小学四年というよりも幼稚園児に見える幼い顔を。尚千代子は五年生だ。
「図工も駄目で」
「私勉強全然駄目よ」
勝恵も勝恵で言う。
「もう全然」
「けれどあんた体育と図工はね」
「そっちは得意よ」
笑顔で言う勝恵だった。
「もう任せておいてよ」
「逆に私は勉強なら」
まさにそちらは、とだ。千代子は言った。
「何でもござれなのよね」
「お姉ちゃん本当に勉強は得意よね」
「覚えることは得意よ」
「私は身体を動かすことがよ」
「そうよね、それはね」
「得意よ」
「だから何でそう違うのかしら」
昌代は細面の顔でぼやくのだった。
「言っておくけれどどっちも私とお父さんの子供よ」
「冗談抜きでどっちか捨て子とか?」
「そうじゃないの?」
千代子と勝恵がそれぞれ言うとだ、昌代はだった。
姉妹に怒ってだ、こう言うのだった。
「そんな筈ないでしょ」
「そうよね。それはね」
「絶対に違うわよね」
「当たり前でしょ、あんた達は紛れもなくお父さんとお母さんの子供よ」
「それでどうしてなのよ」
「私達全然違うの?」
二人は今度はお互いの容姿を見た、千代子は癖のある茶髪で眼鏡をかけた昌代に似た顔立ちだ。しかし勝恵は。
黒髪を短くしてツインテールにしている、そして童顔だ。しかもかなり小柄だ。
その勝恵にだ、昌代は言うのだ。
「あんたは死んだひいお祖母ちゃんにそっくりよ」
「そうなのね」
「そう、二人共お母さんの家系の血を引いてるけれど」
「ここまで正反対なんてね」
「本当に嘘みたいよね」
「冗談抜きに血がつながってないんじゃないかとか」
「クラスメイトに言われることもあるし」
これが二人の悩みでもある、それで半分本当に血がつながっていないのではないかと思うこともあるのだ。
しかしだ、昌代はその二人の娘達に言うのだ。
「まあそれでもね」
「私達はお父さんとお母さんの子供で」
「ちゃんと血はつながってるのね」
「そう、お母さんこれでも勉強は出来たし」
実は昌代の仕事は弁護士だ、最近は家事に専念しているところがあるが。
「ひいお祖母ちゃんはそれこそ死ぬまで野山を駆け回っていた人だから、百歳までね」
「それで私達はそれぞれ受け継いでるのね」
「お母さんとひいお祖母ちゃんの血を」
「だから私は勉強が出来て」
「私はスポーツなのね」
「千代子ちゃんはそのまま勉強していたらね」
昌代はまだ千代子に対して言った。
「普通にいい学校に行けるけれど」
「私はっていうのね」
「勝恵ちゃんはどうするの?」
次娘の勝恵に対してはだ、心配している顔で言うのだった。
「お勉強頑張らないと」
「高校もよね」
「高校は何処かに行けるでしょうけれど」
それでもというのだ。
「やっぱり勉強出来た方が何かと便利なのが世の中よ」
「体育と図工だけじゃ駄目なの?」
「正直なところね」
「けれど私勉強大嫌いよ」
絶対に勉強はしないと言う勝恵だった。
「もう教科書開くと蕁麻疹出る位にね」
「それじゃあ何処のタツノコプロさんの大魔王なのよ」
呆れて言う昌代だった。
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