フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
アサシン
前書き
タイトルはこうなっていますが、聖杯戦争や架の能力について語ります。
重要な回なので、文章構成にメチャメチャ悩みました。
「やあ、よく来たね・・・ってどうしたんだいカケル君!?その腫れた頬は!?」
「い、いやあ、気にしないでください・・・。」
実験室に入ると、コルベールが一人で待っていた。部屋の様子を見て架はなるほど、ルイズがここを毛嫌いする理由が少し分かった。
ちなみにそのルイズはコルベールの心配する声を聞くと、額に汗をかきながらそっぽを向いていた。
「そ、そうかね。」とコルベールは答えると、二人に座るよう促すと、杖を手に取り呪文を唱えた。すると、何か結界のようなものが実験室全体を覆った。
「人払いの魔法!?先生、何を!?」
「ああ、すいません。あまりこの話を聞かれたくないので。」
そういうとコルベールは架をじっと見た。まるでこちらの正体を探るようであった。
架が思わず身構えているとコルベールの口から、架にとって今までで一番の驚きの言葉が飛び出した。
「・・・カケル君。君は『聖杯戦争』というものを知っているかい?」
「なっ!!!??」
「聖杯戦争?」
架は思わず立ち上がった。まさか、この世界でその言葉を耳にするとは考えてなかった。
忘れるはずもない。巻き込まれる形で知った、あの壮絶な戦いを。聖杯を求め、七人の魔術師と彼らによって召喚された英霊たちの殺し合い。
一方でルイズは聞いたこともない、という風にキョトンとしている。
「君も知っての通り、この世界の使い魔はみなこの世界にいる幻獣や動物に限られます。人間が、しかも異世界から召喚されるのはあり得ないんですよ。唯一の例外を除いてはね。」
「まさか・・・」
「何百人に一人にはいるみたいですよ。そういう・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!何の話をしているのですか!?聖杯戦争って何ですか!?説明してください!!」」
自分の知らない話が進んでいくのに耐えかねたのか二人に食ってかかるルイズ。
それに対しコルベールは真剣な顔で、
「ミス・ヴァリエール。これから話すことは信じられないかもしれませんが、これは本当の話です。心して聞きなさい。」
と前置きしてから、聖杯戦争について説明し始めた。
聖杯戦争とは架がいた世界で起こっているもの。
七人の魔術師がそれぞれ召喚したサーヴァントと呼ばれる存在と共に、万能の願望器である『聖杯』を巡って殺し合うこと。
サーヴァントとは架のいる世界で、過去、現在、未来において生前に偉業を成し遂げた英雄―――――英霊とも呼ばれること。
そして、―――これが一番重要なことだが、架がそのサーヴァントの可能性が高いこと。
コルベールが話し、所々を架が補足をしていった。
突拍子もない話にルイズも理解が追い付かず、ある程度飲み込むのにも数十分要した。
「聖杯戦争自体はある程度分かりました。けど、まだ分からないことだらけです。そもそも、これはカケルの世界での話でしょう。」
「う~ん・・・。そのへんは俺もさっぱり・・・。」
頭を押さえながら難しそうな顔をするルイズ。架もそれは分からなかった。記憶はまだ曖昧だが、少なくとも自分はただの一般人だったはず。それが英霊として召喚されるなど考えられなかった。
それにコルベールが何か言おうとした時だった。
「待ちな。そっから先は俺も混ぜろ。」
「!」「えっ!?」
突然発せられた声に架とルイズは驚きの反応を見せた。
すると、テーブルの隅の方に置かれた席にぼおっと人の姿が浮かびあがった。
その人物を見た瞬間、ルイズからまたしても驚きの声が響いた。
足を机に投げ出し、頭の後ろで手を組むというだらしない体勢のその男。ややボサボサな髪、ヨレヨレのワイシャツと前を開けたスーツ着こんだその男は、ここに来る前に架とルイズの話にも出てきた人物――――――ヴァロナその人であった。
「どーも、『アサシン』のサーヴァントだ。改めてよろしくな。
ああ、言っておくがヴァロナってのは偽名だからな。」
ヘラヘラしながら二人に話しかけるヴァロナ。
それを見たコルベールは顔を顰めた。
「ヴァロナ君。まだ出てきていいとは言っていませんよ。」
「それ以上はこの世界のアンタじゃ限界だろ。俺が手伝ってやろうと思ってな。」
「それにしてもその言葉遣いと態度を直しなさい!」
「どうせ、正体を話すつもりだったんだろ。じゃあいいじゃねぇか。」
「そういう問題ではありません!」
目の前で突然繰り広げられる口論にルイズはあんぐりと口を開けている。
「コルベール先生が、マスターで、ヴァロナさんが・・・サーヴァント!!?」
「・・・。」
一方で、架は黙って二人の様子を見つめていた。
「おや、私やヴァロナ君のことであまり驚かないのですね。」
「ええ、まあ、俺が驚いているのは彼の口調の変わりようですが・・・。先生がマスターについては秘匿されているはずの聖杯戦争についてご存じだという時点で予想はしていました。それで、その傍にいるヴァロナさんもサーヴァントかもしれないと判断しました。」
「なるほど。」
言いながら架は全身を緊張させていた。何せ目の前にサーヴァントがいるのだ。この世界での戦闘は昨日が最初だが、あの時とは違い今は何も持っていない。ルイズを守りながら戦うのは難しい。
加えてここは敵の陣地だ。どんな罠が仕掛けられているかも分からない状況で迂闊に動き回るのは得策ではない。
「ああ言っておくが、今はまだ聖杯戦争は始まってないぞ。というか始まるかね。」
だが、ここヴァロナから予想外の言葉が出た。
「・・・は?それって・・・」
「まあ落ち着けって。こっからは俺がこの世界の聖杯戦争について話してやろう。」
と、投げ出した足を戻してヴァロナが話し始めた。
「さっきから話している通り、聖杯戦争はこの世界でも起こっている。世間から隠されている点は向こうと変わらないが、若干ルールが変わっていてな。」
「そもそも、異世界の、しかも英霊の座からサーヴァントを使い魔として呼び出せるメイジはごく稀だ。それこそさっきコイツが言ったように、何百万人、下手したら何千万人に一人という話さ。」
「故に、同じ時代に複数のサーヴァントが現界する可能性も低い。五人まではそろっても、六人目が召喚されるまでに誰かが寿命を迎えちまう、みたいにな。」
「だが世の中には偶然とか奇跡って言葉が存在する。ごくごく稀に同じ時代にサーヴァントが七騎そろう時がある。これがこの世界の聖杯戦争の始まりとなる。」
「つまり、『同じ時代に英霊を召喚できるほどの力を持ったメイジが七人いて、それぞれがサーヴァントを召喚すること』が聖杯戦争を開始するための条件ってことか。」
「ん、正解。」
架が確認するようにまとめると、ヴァロナが満足そうに頷いた。
架も向こうの世界の聖杯戦争についても完全には理解していない。
だが以前、遠坂凛から聞いた話によると、聖杯がそれにふさわしいかどうかを選定し、選ばれたものに令呪が与えられマスターとなり、サーヴァントを召喚するらしかった。
こちらは逆である。サーヴァントを召喚できたものがマスターとなり、聖杯戦争を始める際に聖杯から令呪が与えられる、というものだ。
「聖杯戦争が始まるまでは、俺たちもそこらの使い魔と同じだ。それに規模はハルケギニア大陸全土ときた。今この世界に何体のサーヴァントがいるかも分からん。まあもっとも、お前が現れてから何も起きないってことは、多くても六騎だってことだがな。」
退屈そうに話すヴァロナ。意外と好戦的なのかもしれない。それとも、何か聖杯にかける願いでもあるのか・・・。
ここで架は最も重要な疑問を口にした。
「じゃあ、何で俺は呼ばれたんだ?俺は英霊じゃないぞ?」
「ん~、確かにそれは謎なんだが・・・」
髪をかきながら困った表情を浮かべているヴァロナはふと、架の異変に気が付いた。
「お前、魔力が乱れているぞ。何かあったのか?」
「え、いや、昨日ギーシュとやりあって、それから体調があまりよくないっていうか・・・」
「魔力不足か?じゃあ霊体化すりゃあいいじゃねぇか。」
「俺もさっきからそう思って試しているんだけど・・・」
「どういうこと?」
ルイズが尋ねると、それにコルベールが答えた。
「サーヴァントは霊的存在、つまり半分幽霊みたいなものなんですよ。だから普段は霊体化して必要な時に実体化するんです。」
「現界するのにも多少魔力が消耗していくからな。魔力供給が上手くいっていないのか・・・」
そこで架は理解した。昨日から感じていた空腹や眠気、さらに脱力感は自身の魔力不足が原因だったのだ。
本来サーヴァントは食事や睡眠を必要としないのだが、多少なりに魔力を回復できる。向こうの世界でもセイバーは魔力補給のためだと言って、こちらが度胆を抜くほどの量を食べていた。
はっ!?まさか自分も、『腹ペコ王』の仲間入りに!?
架が嫌な想像を働かせていると、先ほどまで考えていたヴァロナが「待てよ・・・」と呟き、そしてニヤリと含み笑いをこぼした。
「ルイズ、『コントラクト・サーヴァント』はやったのか?」
「へ?」 「・・・あっ!!」
なんのことか分からない架に対しルイズは思い出したかのように大声を上げた。
使い魔はただ召喚しただけでは意味がない。コントラクト・サーヴァントとは、その呼び出した使い魔と契約するための儀式なのだ。架は召喚してすぐに倒れたりしていろいろあったため、ルイズはすっかり忘れていたのだ。
「やっぱりな~。だから架の魔力も不安定なんだろ~よ。」
「ええ?いや、ヴァロナ君?契約は・・・むぐっ!?」
「ほれ、折角だから今やっちまいな。」
何か言おうとしたコルベールの口を塞ぎ、未だにニヤニヤ顔のヴァロナ。
架が訝しんでると、今度は目の前のルイズが顔を赤くして俯いているのに気が付いた。
「ルイズ、どうした?顔が赤いぞ。」
「ふえっ!?べ、べつに赤くなんかしてないわよ!!」
いや思いっきり赤いです。
架は知らなかった。ルイズとて、今ここで契約の儀をするのはやぶさかではない。しかし、問題は契約の方法にあった。
「い、いいわよっ!やってやろうじゃない!!」
故に、たかが契約の一つでなにをそんなに意気込んでいるのか分からなかった。
と、ルイズが杖を取り出してコホンと咳をひとつついてから詠唱を始めた。
「『我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』」
そして徐に目を閉じて、架と唇を重ねた。
「ッ!!?ッッッ!!!??」
あまりの突然の行為に架は動揺を隠せずにいた。こんなに動揺したのは人生でも初めてではないだろうか。
どのくらいしていたのかも分からず、ルイズが離れると同時に架は抗議の声を上げた。
「ちょっ!おまっ!!いきなりなんにすんじゃ!!」
「し、仕方ないでしょ!これが契約なんだから!」
顔を真っ赤にして言い合う二人を見てヴァロナは愉快そうに笑い声を上げた。
「いやあ、いいものを見せてもらったぜ~、ご両人!」
「ぐっ・・・! ん?」
反論しようとした架であったが、そこで左手に違和感を覚えた。
「何だ・・・これ?」
左手の甲を見ると、何やら文字のようなものが浮かび上がってきた。
当然この世界の人ではない架は読めないが、ルイズやコルベールも読めないらしい。
「これは・・・珍しいルーンですね・・・。」
コルベールがルーンを書き写している間に、架はサーヴァントにとって重要なことを聞いた。
「俺のクラスって何なんだ?」
「ああ、『セイバー』だろうな。昨日の決闘での剣技を見る限りは。」
「まあ、そうか。・・・って、見てたのか?」
「まあな。そのためにも、メイドの嬢ちゃんにも一芝居うってもらったわけだし。」
はっはっはと笑いながら話すヴァロナに、架はしばらく絶句し、昨日に起こった不可解な出来事の真相をようやく知った。
「あ、あれはアンタの仕業だったんかーーーー!!!」
「まあまあ落ち着け。言っておくけど、あれは俺の独断だからな。コルベールは関係ねえよ。」
悪びれる様子もなくヴァロナは言う。コルベールもはあ、とため息をつきながら頭を抱えていることから、彼もどうやら後から聞かされたようだ。
それにしてもサーヴァントのクラスを知るためにそこまでやるか!?下手したら聖杯とか諸々が表に出ちまうぞ!?
「それでカケル君、まだ霊体化は出来ないのかね?」
「・・・ダメです。どうにも・・・」
未だ霊体化出来ない架を見てヴァロナは「あくまで推測なんだが・・・」と言い、ルイズの方を見た。
「俺はルイズが原因じゃねぇかと思う。」
「えっ!?わ、わたし!?」
「どういうことだ?」
「あの召喚さ。」
召喚された側の架を除く三人は、例の儀式の様子を思い出した。
「ルイズのあの滅茶苦茶な召喚の仕方で、恐らく向こうの世界にいた架の意識とか魂的なものが強引にこっちに引っ張りこまれたんだろう。んで、その際に英霊の座を通り抜けたんじゃないか。だから、聖杯はお前にクラスを与えた。」
強引でしかもあり得ない話だが、こうでもしないと説明がつかん。とヴァロナは言った。
「こっちからも一つ質問いいか。お前はなぜ聖杯について知っている?」
「そりゃあ簡単だ。向こうで聖杯戦争を実際にこの目で見たからな。」
架の答えにルイズとコルベールは驚いたようだ。ヴァロナも見開いている。
「まさか、君、あっちではマスターだったのかい!?」
「いえ、俺が知ったころにはもう聖杯戦争は始まっていました。俺は巻き込まれる形で知ったんです。」
正確には自分から首を突っ込んだんですけど・・・と架は付け足した。
そりゃそうだろ。騒ぎを聞いて駆けつけたら、親友たちが岩ののような巨人と戦っていてしかも殺されそうになっていたのだ。助けるのは当たり前である。その所為で、何度か死にかけたが後悔はしていない。
「で、勝者は誰だったんだ?」
ヴァロナの問いに架は首を振った。
「いや、いなかった。聖杯は破壊されたよ。あんなものはあるべきじゃないって。」
「そうか・・・」
ヴァロナはそれっきり興味をなくしたようだ。すると、
「カケル君、いや『セイバー』、そしてそのマスターのミス・ヴァリエール。」
「「は、はいっ。」」
突然改まって話しかけるコルベール。その真剣な様子に架とルイズは居住まいを正した。
「君たちは私の大事な教え子です。例え今ここで聖杯戦争が始まったとしても、私たちは貴方たちと敵対することはありません。今日はそれを伝えようとあなた方を呼んだのです。」
「は、はい!私も、先生とは戦いません!ヴァリエール家の名にかけて誓います!」
「マスターのルイズが言うのでしたら俺も同じです。」
二人の宣言にコルベールは満足気に頷いた。そしていつも通りの優しげな笑みを浮かべた。
「異世界より来たりし者をもつ同士、よろしくお願いしますね。」
「ま、聖杯戦争が起きるかどうかも分からんさ。精々仲良くしようぜ。」
ヴァロナの軽薄な挨拶をもって、今日はお開きとなった。
「どうした、ルイズ。さっきから黙りこくって。」
部屋に戻ってから架が口を開いた。
コルベールの実験室を出てからここに来るまで、ルイズは一言も話さなかった。ずっと俯いており、何か考え事をしているようだった。
「ねえカケル。サーヴァントについてもっと教えて。」
「?いいけど。」
相変わらず俯いたままルイズが聞いた。それを不思議そうにしながらも架は説明を始めた。
「さっきも話したように聖杯戦争には七人のサーヴァントがいる。それでそのサーヴァントには聖杯が用意した七つのクラスで現界するんだ。」
「クラス?それってさっきカケルたちが言ってた『セイバー』とか『アサシン』ってやつ?」
「そう、それ以外に五つだ。それぞれには特徴があって、それに該当する英霊が選ばれる。」
「どんなものがあるの?」
「そうだな。
まずは『アーチャー』。弓兵のサーヴァントだ。弓を操り、マスターの魔力供給なしでも動ける「単独行動」の能力を持つ。
次に『ランサー』。槍兵のサーヴァント。例外もいるが、最速の英霊が選ばれる。
『ライダー』。騎馬兵だ。高い機動力をもつ。
『キャスター』。魔術師で、自分に有利な陣地を作り出すことができる。
狂戦士のクラスの『バーサーカー』。理性を失っている代わりにステータスが上昇している。
そして『アサシン』。名前の通り、暗殺を司るサーヴァント。気配を消すことに長けて偵察なんかを得意とする。ちなみにヴァロナさんはこのクラス。」
「最後に」と言って、架は自分を示した。
「俺がついたのが『セイバー』のクラス。騎士のサーヴァントで剣を扱うのを得意とする。一応七つのクラスの中では最優って呼ばれてる。」
「そう・・・」
「後、知っておいて欲しいのは「真名」と「宝具」だな。」
「シンメイ?ホウグ?なにそれ?」
「真名はサーヴァントの本当の名前。基本、サーヴァントはこれを隠してクラスで呼び合う。」
「なんで?」
「先も話したように、英霊ってのは簡単にいうと歴史に名を刻んだ有名人だ。当然、数々の逸話という情報がある。その中には本人の弱点もあり、真名をバラすってことは弱点を晒すようなものなんだ。」
「ふ~ん・・・。じゃあホウグは?」
「宝具は英霊が英霊である象徴、要は切り札だ。効果や規模はものによって違うけど普通では考えられない威力であることは間違いない。」
「いずれにせよ、サーヴァントって存在はそれだけで強力な兵器みたいなものだ。サーヴァント一人で一個軍隊を相手にできるくらいのな。・・・どうしたんだ、ルイズ。さっきから変だぞ。気になって仕方がない。」
説明をしている間もルイズは口は開いても顔は暗いままだった。寧ろ、話していくうちにどんどん暗さが増していってる。
「・・・カケルは知っているでしょう。私の、この学園での二つ名を。」
「え?・・・ああ。」
それだけで架は理解した。
要するにルイズは不安なのだ。いつも魔法を失敗してばかりの「ゼロのルイズ」の自分が、サーヴァントという強力な存在を使い魔にして大丈夫なのか、と。
普通は「自分は選ばれた人間なんだ!」って浮足立つんだけどな、と架は思った。
残念ながら自分は、彼女のその不安を完全に払拭する術は持っていない。でも、少しでもそれを和らげることができるなら・・・。
「ルイズ、なら俺の能力について話してやる。」
「カケルの・・・能力?」
突然の話題の切り替えに、ルイズは俯いていた顔を上げた。
「ルイズも見ただろ。あれが俺の持つ魔術、『模倣』だ。これは相手の持つ術や動きをコピーするものなんだが、あれには致命的な欠点があってな。それも三つ。」
「・・・欠点?」
「一つは真似るってことは決して本物になり得ない。必ず劣化する。先の決闘で使った時、俺は泥人形を作っていたように見えたろうが、それは違う。ギーシュの「ワルキューレ」を見て真似しようとしたらあんなのが出来たんだ。」
「そう・・・だったの。」
「二つ目は相性の問題だ。いかにコピーしようと、俺自身がその素質がなければ意味がない。
三つ目。見たものというのはいずれ忘れていくものだ。一度コピーしたものは何度でも使えるが、時が経つに連れどんどん劣化していく。今ここでギーシュの真似事をすれば、昨日よりもさらに弱体化した人形が出来るだろうさ。」
「・・・何よそれ。欠点だらけじゃない。」
ルイズのその評価に架は苦笑した。
「そう、欠点だらけだ。それに所詮『真似』だ。俺自身の力じゃない。だから、向こうの世界では俺の周りの奴はみんな俺のことを呼んでいたよ。『出来損ないの魔術師』って。」
「そんなっ!?ちゃんと魔法は使えているじゃない!出来損ないだなんて!」
必死な顔で本心から自分を庇ってくれる彼女を見ながら、架は近づき、そしてその小さな頭にポンッと手を乗せた。
「あ・・・」と照れたような表情をする様子を眺めながら、架は続けた。
「それはお前も同じだぞ、ルイズ。お前は「ゼロ」なんかじゃない。」
「え・・・?」
「お前は使い魔を召喚しようとしたんだろ。そして、結果的に俺はお前の使い魔になった。ほれ、お前の魔法は成功してるじゃないか。」
「・・・。」
歪な形で、英霊でもない自分が召喚されてしまったが、異世界の者を呼び出したことには変わりはない。少なくとも、間違いなくルイズはサーヴァントを召喚できるほどの実力を持っている。ゼロどころか、何千万分の一の才を持つものだ。
「サーヴァントつったって、俺は出来損ないだ。変に気を背負い込む必要なんてない。それでも、使い魔としてお前を守ってみせよう。
だから・・・
もう泣くな。」
何時しかルイズは肩を震わして涙を流していた。彼女にとって、誰かに認められたのはこれが初めてだったのだ。
「うっ・・・うう・・・!」
小さな嗚咽を漏らしながら泣く小さな主人を、架は泣き止むまで撫で続けた。
「ありがとう、カケル。」
しばらくしてルイズは泣き止み、今日はもう寝ることになった。うっかりしていたが、コルベールの部屋を出た時にはもう辺りは暗かったので、今は完全に真夜中である。
「別にいいさ。もう遅いから寝な。」
「うん、じゃあ、おやすみ。」
「ああ。」
暗くなった部屋の床で寝そべりながら、架は思った。
――――ありがとう、か。・・・こちらこそだ。
――――お兄ちゃんは出来損ないなんかじゃない!だって私を守ってくれたもん!私をあそこから連れ出してくれたもん!!――――――
――――二人目だよ。俺を出来損ないじゃないって言ってくれたのは・・・。
遠く離れた妹の言葉を思い出しながら、架は眠りについた。
「守る」という言葉に、頭がズキリと痛むのを感じながら・・・
おまけ
コントラクト・サーヴァントをしたとき より
カ「そういえばコルベール先生。さっき何て言おうとしたんですか?」
コ「ああ、それは・・・」
ヴ「いやあ~、サーヴァントの契約ってのは、術者が名前を明かして、お互いを認めればそれで契約完了なんだよね。架が上手くいっていなかったのは、単に架が自分がサーヴァントだって認識がなかったからだろ。」
ル「(はっ・・・!!)じゃ、じゃあ、さっきの、キ、キスは・・・」
コ「う~ん、キッカケにはなったんだろうけど、必須ではなかったね。」
ル「・・・・・・」(フルフル)
カ「ル、ルイズ・・・?」
ヴ「あ、やべっ」(フッ)←霊体化
カ「あっ!おま、逃げん・・・」
ル「こんの・・・・バカーーーーー!!!」
カ&コ「「ああああああああああああーーーーーーーー!!!」」
後書き
割と独自設定なので分かりづらかったでしょうか。
疑問や感想などがあればお待ちしてます。
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