リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~
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第三十六話 蘇る魔法使い
前書き
ツカイモン進化の話です。
ワームモン[リリカルアドベンチャー始まります]
空はすっかり暗くなり、子供達はおもちゃの町に泊まることになった。
もんざえモン[この町はワシが守っております。安心してお寛ぎ下さい]
黒い歯車が外れ、すっかりいいデジモンに戻ったもんざえモンが言った。
町には沢山の家がある。
子供達はその中の1つに泊めてもらえるそうだ。
部屋はあまり広くないので、男女別ということで落ち着いた。
ちなみにアリシアは…。
[[[[[お姉ちゃん!!俺とデートしてえええええええええ!!!!]]]]]
アリシア「だから嫌だってばあああああ!!!!!!」
夜のおもちゃの町でヌメモンと逃走劇を繰り広げていた。
はやて「アリシアちゃん、可哀相になあ…」
なのは「…うん」
女性陣はアリシアに同情しつつも、自身も巻き込まれないように他人のフリに徹した。
男性陣も部屋の窓からヌメモン達に追い掛けられるアリシアを見ていた。
賢「ふむ。どうやらアリシアは汚物系デジモンに好かれる体質のようだね」
ルカ「…助けなくていいの…?」
大輔「大丈夫だろ、ヌメモンも危害を加えたりはしないだろうし。さあ、寝ようぜ…」
子供達は電気を消して毛布に包まり、目を閉じる。
疲れが溜まっていたのか、直ぐに子供達の寝息が聞こえ始めた。
皆が寝静まった頃、ユーノはふと目を覚ました。
物音を聞いた気がして、ユーノはキョロキョロと周囲を見回した。
そして、窓の外を歩く人影を見つけた。
ユーノ「なのは……?」
1人で歩くなのはを見て、ユーノは部屋から抜け出した。
なのはは宛てもなく、おもちゃの町を歩いていた。
なのは「ふう…今日は色々あったから眠れない…」
ヌメモンの必殺技やら、もんざえモンやら、あまりのインパクトに目が冴えてしまったのだ。
ユーノ「何してるの?なのは」
背後から聞こえたユーノの声になのはは振り返るとユーノとガブモンXとツカイモンがいた。
なのは「あ、ユーノ君……何か目が冴えちゃって」
ユーノ「あ、あははは…仕方ないね。今日は色々ありすぎたし…アリシアは?」
なのは「…疲れて寝ちゃってる」
ヌメモンを撒いたアリシアは疲労困憊で、横になるのと同時に寝静まった。
ユーノ「…明日、何か言われそう…」
なのは「そうだね」
ユーノとなのはが苦笑しながら言う。
テリアモン[それより、寝た方がいいよ。明日も早いんだから]
ユーノ「うん」
なのは「そうだね」
無言で歩く2人と2匹。
響くのは足音だけだったが、ふいに、どこからかメロディーが聴こえてきた。
なのは「これ…歌……?」
ユーノ「一体何処から…」
無意識の内に、ユーノとなのは、ガブモンXとツカイモンはおもちゃの町の外れまで来てしまっていた。
ツカイモンが耳を兼備している羽を動かしながら音源を探した。
ツカイモン[…この歌の旋律はマーメイモンの物だ]
なのは「マーメイモン?」
ガブモンX[マーメイモンがどうして此処にいるんだ?確かに近くに泉はあるけど。此処にいるのはおかしいよ]
ユーノ「どういうこと?」
ツカイモン[マーメイモンは本来なら海に住んでいる。此処にいるはずがないんだ。]
ガブモンX[う~ん…もしかしたら…海で怪我をして、ここに来たのかもしれないよ…?]
なのは「そんな!なら助けてあげないと!!」
なのはは歌の聞こえる方向に向けて走り出した。
ユーノ「なのは!!」
ガブモンX[ちょっと待ってよ!危ないよなのは!!]
ツカイモン[やれやれ…]
ユーノとガブモンX、ツカイモンもなのはを追い掛ける。
しばらく走ると森の開けた場所にあり、月明かりで輝いている。
比較的大きな泉で、川が流れ出していた。
更に辺りに咲いている花から純白の淡い光が放たれている。
月明かりを受けて輝いている泉に純白の淡い光を放つ花。
なのは「綺麗…」
そのあまりにも神秘的な光景に目を奪われた2人と2匹。
ガブモンX[あれは…]
ふとガブモンXは泉の近くにある岩に座っているマーメイモンを見付けた。
なのは「あれがマーメイモン…なの?」
マーメイモンは人魚のような姿をしたデジモンだった。
ユーノ「…あれは……」
ユーノはマーメイモンの尾鰭に黒い歯車が突き刺さっているのを見た。
ツカイモン[どうやら、敵のようだ…]
ツカイモンの目に映るマーメイモンの顔は狂気に染まっていた。
なのは「え…?」
なのはがツカイモンの方を向いたと同時にマーメイモンが黄金の錨を振るう。
ツカイモン[危ない!!]
ツカイモンとガブモンXが押し倒し、ユーノ達は間一髪、マーメイモンの攻撃を避ける。
ガブモンX[プチファイアーフック!!]
ツカイモン[ふわふわアタック!!]
ガブモンXの炎の拳がマーメイモンに直撃する。
その隙にツカイモンがマーメイモンに体当たりを喰らわせるが、マーメイモンにダメージは感じられない。
ツカイモン[やはり今の我々では…]
ガブモンX[でも…負けられないよ!!]
ツカイモンとガブモンXがマーメイモンに向かって行くが、成長期と完全体の力の差はどうしようもなく、ツカイモンもガブモンXもマーメイモンが振るった錨で地面に叩きつけられてしまう。
マーメイモンが錨をなのはに向けて投げる。
ユーノ「なのは!!」
ユーノがなのはを押し倒し、錨を回避するが、錨がユーノの肩に掠り、肩から血が出る。
なのは「ユーノ君、大丈夫!?」
ユーノ「大丈夫だよ…」
ユーノが肩を押さえたまま立ち上がろうとするが、マーメイモンはすぐ側まで来ていた。
ユーノ、なのは「「っ!!」」
マーメイモンがユーノとなのは目掛けて錨を振り下ろす。
ツカイモン[止め…ろ…止めろーーーっ!!!!]
痛む身体に力を入れながら叫んだと同時にユーノのD-3から光が放たれた。
ツカイモン[ツカイモン進化!ウィザーモン!!]
ツカイモンは魔法の世界・ウィッチェルニーから大魔導師になる為の修行にやってきた魔人型デジモン。
炎と大地の高級プログラム言語を操るウィザーモンに進化した。
マーメイモンが目を見開いて驚いているとウィザーモンが杖を振り下ろす。
ウィザーモン[マジックゲーム!!]
杖から無数のカードがマーメイモンに向けて放たれた。
マーメイモンは即座にカードをかわすとウィザーモンに向かっていく。
ウィザーモン[テラーイリュージョン!!]
マーメイモンの錨がウィザーモンに叩きつけられた…ように見えた。
マーメイモン[!?]
マーメイモンが攻撃したのはウィザーモンの幻影であった。
ウィザーモンのテラーイリュージョンは幻影には影がないという弱点があるが…。
1度騙せれば充分。
ウィザーモンの杖が電撃を纏う。
狙いは黒い歯車。
ウィザーモン[サンダークラウド!!]
電撃は正確に黒い歯車を貫いた。
黒い歯車は瞬く間に消滅した。
マーメイモン[…私は……?]
黒い歯車の消失によってマーメイモンの狂気が消えた。
ユーノ「大丈夫ですか?」
なのは「あなたは黒い歯車に操られていたの」
マーメイモン[歯車…あの時、私は…満月の夜になると光を放つ花を見に此処に来たんです。ですが…]
ユーノ「その途中で黒い歯車があなたに向かって飛んできた…というわけですか…」
マーメイモン[はい…どうやら迷惑をかけてしまったようですね…]
なのは「気にしないで」
ユーノ「そうですよ」
なのはとユーノは微笑みを浮かべながら言う。
マーメイモン[…お詫びと言ってはなんですが…歌を聞いてくれませんか?]
ユーノ「歌…ですか?」
ウィザーモン[珍しいな…マーメイモンが他人に歌を聞かせるなんて…]
ウィザーモンがユーノの肩の治療をしながら呟く。
なのは「聞きたい!!」
マーメイモン[では……]
マーメイモンはゆっくり起き上がると、その美しい声で旋律を紡ぎ始めた。
なのは「この歌……」
ユーノ「さっきの…」
ユーノとなのはは顔を見合わせた。
なのは「そっか。あなたが歌っていたんだね」
なのはの表情はとても穏やかなものだった。
マーメイモンの救ってくれた子供達への感謝と、喜びの旋律がなのは達の心を穏やかにしてくれる。
その歌は風に乗り、森を越えておもちゃの町で眠る子供達までも幸せな気持ちにしたのであった。
~おまけ~
時間軸は大輔と賢が一時的に元の世界に帰った時。
ブラックウォーグレイモンとの邂逅前。
賢「やあ、高石君」
タケル「一乗寺…君」
タケルの前に現れたのは、かつてデジモンカイザーとして現れ、罪なきデジモンを操り、そしてキメラモンを造り出して暴虐の限りを尽くした少年。
賢もそれに気付いているのか、苦笑をしてタケルを見るだけ。
何だか馬鹿にされているような気分になり、タケルの眉間に皺が寄る。
賢「別に君達に何もしたりはしないよ。」
近くの自販機からコーヒーを購入し、それを飲む。
賢「…最近、機嫌が悪そうだけど…大輔が僕と一緒にいるのがそんなに腹ただしいかい?いや、寧ろ、君が大嫌いな暗黒デジモンが彼の第二のパートナーであるというのも気に入らない…かい?」
タケル「…っ」
図星を突かれ、表情を歪めるタケルに賢は何の気持ちも抱かず、空を見上げる。
賢「大輔は随分とデジモン達に感謝されていた。デジモンカイザーを倒した英雄・本宮大輔」
タケル「英雄…」
確かにキメラモンを倒したのは大輔とブイモンだ。
そこを否定する理由なんてどこにもないし、自分達も納得している。
しかし、ある時を境に、大輔は急激に自分達との距離を開け始めた。
最初はいつものことだと流していたが、賢とワームモンがダークタワーデジモンを破壊した時をきっかけに彼と行動を共にし始めた。
理由を問い詰めようとしても大輔には逃げられてしまう。
デジタルワールドで会ってもダスクモンの瞬間移動で逃げられてしまう。
しかもあのダスクモンはキメラモンの生まれ変わりらしく、あのデビモンのデータを使ったデジモンといる大輔が信じられなかった。
タケル「大輔君はあいつといるようになってから変わったよ。とても冷たくなった」
賢「大輔は変わってはいない。寧ろ、本来の大輔に戻っただけ。」
タケル「…大輔君と知り合って間もない君が大輔君の何を知ってるの?」
賢「少なくても、君達よりは分かってるさ。今の大輔の心情はね」
タケル「………」
賢「悔しいかい?君の方が大輔と一緒にいたのに敵だった僕が大輔の親友になったことに。それとも大輔が君を親友に選んでくれると思っていたかい?」
タケル「っ…」
賢「傲慢だね。努力もしないで親友になろうなんて」
タケル「君に言われたくない!!」
思わず叫んでしまったが、賢は怯まず口を開いた。
賢「高石君に質問。英雄とは何だい?」
タケル「は?」
唐突な質問にタケルは怒りを忘れて目を見開いた。
賢「一般的なイメージだと、英雄は大きな力を持っていて、真っ直ぐで一点の曇りもない完璧な存在といった所かな?」
タケル「…そりゃあ、誰からも一目置かれて、強くて、絵に描いたような正義の味方ってイメージがあるけど…」
賢「そう…」
目を伏せ、暫く黙った。
次に眼を開けた時、賢の瞳は陰っているように見えた。
しかし、何故だかそれを問い質すには躊躇いが生まれた。
賢「……確かに大輔は強いし、性格も面白いくらい熱血で真っ直ぐ。けれど、大輔も所詮は人間。万能じゃない」
タケル「……何が言いたいの?」
タケルが尋ねると、賢はスッと立ち上がり、空き缶を捨てる。
賢「大輔も、勿論僕も君も…人は皆、暗い部分を抱えている。あの大輔だって、暗い部分が表に出る時は驚くくらい冷静な時がある。ただ、自分でそれに気付いていないだけ。大輔の嫌いな言葉を知っているかい?」
タケル「…知らない」
タケルは首を横に振った。
賢は笑い、空を見据えながら言う。
賢「…正義」
タケル「は?」
タケルの呆けた表情すら、賢の想像の範疇だったらしいく、溜め息混じりに薄く笑った。
賢「大輔は正義という言葉が嫌いなんだよ。向こうで色々なもの見てきたからね。自分のやり方、思想を正義という大義名分の元、押し付けるようなことを嫌う…正義が嫌いなんて英雄にあるまじき性格だよね」
タケル「正義……」
賢「大輔はこうも言ってたよ。“正義なんてものは、簡単に成立しちゃうから…だから、正義がどうだとかいう前に…一番大切なことは…自分が自分の思う最善の選択をしているか否かだと。自分が正義だっていう奴は、絶対に許さない。それも、俺の最善の答え。正義は人の判断じゃ決められないんだ”…ってね。でもそれが大輔という人間。受け入れろとは言わない。けれど知っていて欲しい。大輔はそういう人で、そういう存在。君達や世界の評価がどうであれね」
賢はそれだけ言うとこの場を後にした。
タケルは急激に大輔と自分達の距離が遠ざかったような気がした。
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