英雄は誰がために立つ
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Life3 天と地の局地戦
一誠はリアスに事情説明をしていた。匙がソーナに尻叩きを受ける歪なBGMをバックに。
聞き終えたリアスは叱りつつも、何時もの様に優しく抱き寄せてから離れる。
そして――――。
「――――そう、シロウが・・・・。それにしても、イッセーとシロウが幼馴染だったなんて、思わなかったわ」
一誠が士郎の乱入について話してから、困惑するリアス。
「いやー、俺も士郎さんに会うのは久しぶりだったんですよ。フルネームも知っていた訳じゃありませんでしたし。――――それで、部長。士郎さんはホントに一般人なんですよね?」
「ええ、それは間違いない筈よ。シロウは只の人間だし、魔力も感じた事も無いわ」
一誠の疑問に簡潔に答えるリアス。しかし今度は、小猫が聞いて来る。
「でも、部長。藤村先輩、すごく強かったです。それに動きも、尋常じゃない速さでした。それでもですか?」
「・・・・たまにね、いるのよ。一般人の中に、体術だけでとんでもなく強い人間って」
そのリアスの答えに何所か引っかかる部分はあったものの、小猫は取りあえず納得する。
一方、リアスは自分の愛しき眷族たちの疑問に素で返しただけではあったものの、シロウと言う只の人間であり幼馴染を巻き込みたくなかったからと言う理由で、頑なに否定した私的感情部分があったのではないかと言う想いを否定できなかったことを自覚すると同時に、嘆息する。
もし、もし私の悪魔である事がばれれば、シロウとの関係が壊れるのではないかと言う危惧を抱いたためだ。
何といってもシロウはリアスにとって、只の人間の中では初めての友達第一号なのだから。
-Interlude-
人間界の某空中宙域に白い物体が高速で駆け抜けていた。
その物体は白い翼を生やした白い人間?である。
彼の名はヴァ―リ・ルシファー。
とある事情により、堕天使組織神の子を見張る者の長たるアザゼルに拾ってもらい、里親なっている彼の者の頼みによりコカビエルら討伐及び回収の理由で、ヴァ―リは自身の神滅具の白龍皇の光翼を禁手化させた白龍皇の鎧状態のまま駒王町に向かっていた。
『ん?ヴァ―リ、前方に何か見えるぞ?』
「何?」
宝玉からのアルビオンの声に反応する、ヴァ―リ。
知らせ通りの方に向けば確かに、進行方向に何かが見えた。
それは近づくにつれ、よく見えてきた。それは・・・・黒。
いや、僅かに空の色も見えるモノの、基本的には黒にまみれていた。
更に近づいてからよくわかる。それは群れだった。
目の形をしていたり、人面の虎だったり、蜥蜴だったり、共通点があるとすればどいつもこいつも色は基本的に黒く翼が付いていた。
しかも、偶然に群れている訳では無い。確かに異形の群れたちは此方を――――ヴァ―リを見ていた。
『何なのだ、奴らは?まさか、コカビエルの手先か?』
「さぁな。だが、邪魔をすると言うのであればすべて薙ぎ払ってから進むだけだ」
そして、そのままヴァ―リは異形の群れに突貫していった。
-Interlude-
士郎は今、玄関先に居た。
確かに夜更けこそ魔術師・魔法使いや悪魔・妖怪などの活動に打ってつけの時間帯ではあるが、訓練をするにしても戦闘時の赤い外套赤いフードと言った格好は遣り過ぎ感を否めないだろう。
その理由として、駒王学園方面から魔力の波動を感知して出かけるところなのだ。
夕方の2人だけならばリアス達全員で行けば事足りるであろうが、《戦争狂》と言う悪癖を持つ聖書に記される堕天使の一体、コカビエルではリアスたちだけでは荷が重すぎるであろう。
故に救援と言う理由から、居間から出発するところだったのだ。何より、サーゼクスからの通信での直々の頼みでもあったからだった。
そこに、念話が来る。
【――――――・・・・―――――・・・・・―――】
「ああ、今から行ってくる。だから、いざという時は頼んだぞ」
そうして、士郎は念話相手の返事を聞く間もなく家を後にした。
それは、この相手への信頼の証であろう。
この事に相手自身は苦笑しながら・・。
【――――これ位は任せておけ】
と、誰に聞かせるでもなく宙に言い放った。
-Interlude-
リアスたちは今現在、駒王学園のグラウンドにて戦闘を繰り広げていた。
まず最初に、コカビエルに嗾けられたケルベロス2体を連携で撃破した。
その後に、その戦闘で時間稼ぎに使い完成させた4本分のエクスカリバ―を使う外道神父フリードを、亡くなった仲間たちの思いを受けて禁手化による聖と魔の融合双覇の聖魔剣を使う祐斗と、亜空間から取り出したデュランダルを携えたゼノヴィアの猛攻になすすべなく倒れた。
その光景を見ていたバルパーは、何か色々とのたまわっていたが上空から落とされた光の槍により絶命した――――いや、してはいなかった。
光の槍からバルパーを助けたのは、件の魔術師だった。
「む、むぅ?誰だか知らんが、助かっ、ぐっ・・・」
『寝てろ』
件の魔術師は、助けたバルパーを首に手刀を撃ち放ち、即座に気絶させた。
その様子を、上空から光の槍を放った本人のコカビエルは、クククと笑い声を漏らす。
「自分で助けておいて気絶させるか・・。と言うよりも、貴様は何所の誰だ?」
(コイツの外見、何所かで・・)
その疑問に、ゼノヴィアだけは同意した。隙のない構えなどから、尋常ならざる人物と言う事だけは理解したようだが。
それ以外の・・・つまり、リアスとその眷属たちは身に覚えが有り過ぎた。リアス自身は直接この目で。眷族らはゲーム後の映像で見ていただけではあったが。
「あ、貴方、一体如何して此処に?」
『・・・サーゼクス閣下からの依頼により参上したのだ。リアス嬢及びその眷属らなどの支援も含まれているが何より――――』
コカビエルに顔を向けるように上空に視線を向ける魔術師。
『――――今回の首謀者らの討伐及び拘束を言い渡されている。これが理由だよ、リアス嬢』
その言葉に聞き捨てならないのは他でもない、コカビエルだった。
「魔術師風情がこの俺を倒すだと・・・・・っ。自分が出る幕までも無いとでとも言いたいのか奴はっ、見くびられたものだ!」
コカビエルは言い終えると同時に、掌上に極大にも膨れ上がった光の槍を創り出した。
それを見たオカルト研究部の祐斗以外の面々は、驚愕した。
先の体育館を吹き飛ばした光の槍よりも巨大故、頭の中で警鐘が鳴り響いた。
そしてコカビエルは、そのまま光の槍を魔術師に向かい投擲する。
「逃げて!」
思わずリアスは、逃亡を促すが魔術師は意にも返さずその場に留まる。
そして、いつの間にかに彼の魔術師の掌には、一本の朱赤い槍が握られていた。
その赤い槍で自身に向かってくる光の槍を迎撃して、霧散させる。
「なっ!?」 「「「「「「「なぁあああ!?」」」」」」」
その光景に放ったコカビエルも、オカルト研究部+αも驚愕した。
あの巨大な光の槍を、赤い槍一本だけで掻き消して見せたのだから。
「っ・・・・成程、な。サーゼクスが送ってきた奴だ、半端なわけはないと言う事か・・面白い。なら俺からも相応の歓迎をしてやろう」
コカビエルが指を鳴らすと、辺りに数重もの転移型の魔法陣が浮かび上がった。
そして、そこから現れたのはオカルト研究部の面々が連携で見事撃破したケルベロスだった。
それが次々に彼らを囲むように出現してくる。その数何と30体。
その光景にオカルト研究部+αは戦慄した。
「何だよこの数はっ!」
「多すぎですわよ!?」
「クククク、俺のペットがたった2匹と言った覚えは無かったはずだが?」
そのコカビエルの言葉に歯噛みするリアス。
『リアス嬢、提案がある』
「え!?な、何かしら?」
『一時の間、奴の相手を貴殿らに頼みたい』
「えぇええ!?」
魔術師は上空を見上げながらリアスに語り掛ける。
『あくまでも一時だ、私が周りの駄犬共をできるだけ迅速に片づけた後に、私が相手をする故防戦に徹してもらい、たいっ!』
魔術師は言い切る直前に、リアスの背後に迫って来ていたケルベロスに、強烈な蹴りをお見舞いさせた。当のケルベロスは仲間を巻き込みながら吹き飛んでいく。
如何やらそれが開戦のきっかけとなりケルベロス達がこちらに向かい襲い掛かってきた。
話し合う余地はないようだと、仕方なしにそれを受け入れるリアス。もとより自分たちだけでやる気だったのだ。ただもう一度腹を括り直すだけだった。
『すまないが、宜しく頼むっ!』
言い終えると同時に、オカルト研究部の面々に向かって迫って来ていた先頭のケルベロスに向かい、赤い槍を投擲する。
赤い槍は、深々とケルベロスの真ん中の顔の額に突き刺さり、そして・・。
『壊れる幻想』
魔術師の詠唱により、槍は爆発し周りのケルベロス達も巻き込んでいく。
魔術師自身は、瞬時に両手の指の間に剣を出現させてそれらを彼方此方に投擲、丁度ケルベロス達の中央の顔に命中させてまたも爆発させていく。
その光景に凄いと感じながらも、オカルト研究部の面々はコカビエルに向かい真っすぐに見据える。
「行くわよ皆、目標は死なない事!いいわね!」
「「「「はい!」」」」「ああ!」「ええ!」
再度、死闘が始まった。
-Interlude-
人間界某上空。
ヴァ―リは今も直、異形の群れと戦闘を繰り広げていた。
しかしながら今回はアザゼルの頼みにより、駒王町に行くのが最優先故動き自体それほど速くも無いこいつら異形の群れを突っ切ってしまえばいい。
それに戦闘して気づいたようだが、こいつらは見た目は異形だが中身は機械仕掛けで出来ていることが判明した。更には有象無象の雑魚と来たものだ。
いくら彼が戦闘狂だとしても彼が望むのは強者との戦い、雑魚との戦いなど愉しむに値しない。
にも拘らず今も戦闘が続いているのは何故か?それは挑発を受けたが故だった。
異形の群れの中に一際でかいのが居て、その上に黒いローブに真っ白で模様が一切入っていない仮面を付け、片手に拳銃を所持している人物がヴァ―リが横ぎった瞬間にこう言った。
『君はあの、リリン――――リゼヴィムによく似ている』
リゼヴィムとはヴァ―リの憎むべき敵であり実の祖父でもある。
そんな怨敵として定めたやつと同じ血を引いているからと言って、彼からすれば到底聞き捨てならぬ言葉だった。
うまい具合に体を反転させたヴァ―リは、たった今呟いた人物を睨む。
「取り消せっ!」
『ふむ。取り消させたいのであれば、君の一番の自慢である“力”で無理矢理させればいいのでは?』
その言葉に、言われずとも!と心の中で吐きつつ殴り掛かろうとするが、ものの見事にすべて躱されていく。
しかし、ここでヴァ―リに待ったをかける声が有る。
『ヴァ―リ、そのような素顔を晒す事の出来ぬ馬の骨『フフ』何だ貴様・・っ』
『ふむ?これは失礼したな。だが、まさかあの名前負けの堕龍に、その様に評価されるとは微塵も考えていなかったものでね』
『堕龍だとっ!?何所の田舎ものかは知らんが、二天龍と呼ばれた内の一体の我の事を知らんとは甚だしいにもほどがある・・・・っ!』
『既に神器の分際で吠えるとは・・。甚だしいのは一体どちらだと言うのだろうな?いや、これは二度にわたって失礼した。自身のあまりの矮小さ故、二天龍と自分を称して身を守るしかなかった只の白蜥蜴だったと言う訳か・・。悪かったな、自称二天龍の片割れアルビオン』
『~~~っっっっ!!――――肉片どころか、魂魄の一片すらも残ると思うなよっ、下郎!!』
と、この様にストッパー役に唯一成り得るであろうアルビオンすらも挑発して、今に至っていた。
仮面の人物は回避動作だけでは無く、拳銃で応戦していた。
確かに撃ちはするものの時たまに、銃が掌の上で独りでに分解したかと思えば、一つ一つの部品が膨張して巡洋艦の主砲並にでかくなったりする事もあった(一発撃つごとに元に戻る)。
あまりにふざけた攻撃故、ヴァ―リが文句と質問を同時にする。
「何だ、それは!?随分とふざけた攻撃だな!」
『魔と科学を融合した魔科学による力だ。れっきとした技術をふざけたモノとは、そのような観点しか持てないのは同情したくなるほど哀れだな。それに君と君の祖父程ふざけてはいないはずだが?』
「一々奴の話を持ち出すなぁああああ!!」
空中を自在に飛びながらの直接攻撃や魔力弾を撃ち込むなどの猛追をしているモノの、仮面の人物はそよ風のように受け流す。
『フフ、そのぎらついた瞳など、本当にリゼヴィムによく似ている。だが、威勢の良さしかとり得がないのかな?白蜥蜴の宿主よ』
『「きっさまぁああああああああああああああ!!?」』
この様に挑発される白龍皇コンビ。
挑発した本人は避け続けながらも冷静に観察していたが・・。
『ふむ、そろそろか・・』
相槌を打ちながら一人納得している仮面の人物の隙を、ヴァ―リは逃さなかった。
『(ここだ!)』
ヴァ―リは、後方に魔力弾を撃ち込むことで自分の速さにブーストを掛けて、遂に捉えたと確信しながら殴り掛かる姿勢のまま仮面の人物に突貫していく。
「『もらった!!』」
今度こそ躱させることなど不可能な距離を詰めていたため、確実に捉えられたと思ったものの、奴の体を突き抜けていった。
「『何!?』」
貫いたのではない。幻術か立体映像化は知らぬが、すり抜けだのだった。
『私はこれで失礼させてもらう』
「逃がすと思うか!?」
『攻撃の当たらない相手をどうやって捉えると言うのかな?』
その言葉にヴァ―リは歯噛みする。
『・・・・私は一応Kraと名乗っている』
「・・・何故それを俺に言う・・」
『何、君らが今も直、私の事を塵芥に変えたいような表情をしているから、チャンスをやろうと思ってな。ヒントでも与えない限り、私の事を追えないだろう?旧・ルシファーの忌み子や自称二天龍の白蜥蜴風情では、難題も良い所だろうからな』
『貴様・・・っ!』
「・・・・・・」
あまりの侮辱に白龍皇コンビは激情を募らせるものの、攻撃が当たらないと理解しているので何とか自制していた。
『まぁ、覇龍を使わなかったことだけは評価しておこうか。当たらなければどれだけ高威力になろうと、意味を為さないからな。低能にしては良くやったと言えるか』
この言葉にヴァ―リは、歯で噛んでいた唇から口内にて出血が迸り、両腕の血管が浮き出ており今にもブチ切れそうだった。
『ではな、次の邂逅を楽しみにしていてくれ』
「ああ、次こそは貴様を消滅させてやるっっっ!!」
『・・・・・そうか。では期待せずに待つとしようか・・』
最後まで皮肉気味の言葉と共に、その場から消え失せる仮面の人物Kra。
それに何時の間にか、周りの残存していた異形の群れも居なくなっていた。
これがヴァ―リたち――――いや、いずれD×Dと呼ばれる対テロリストチームとの戦いの中の最初の邂逅となった。
-Interlude-
リアスと眷族対コカビエル、魔術師藤村士郎対ケルベロスの群れとの戦いは続いていた。
また一匹倒したところで、背後から新たなケルベロスが士郎を噛み殺そうと牙をむいて来る。
「グォオオオオオオオオ!!!」
『フン!』
振り返りもせず背後に居たケルベロスに、強烈な肘打ちを鳩尾にお見舞いする。
その一撃により、3つの口から吐血したまま崩れ去るケルベロス。
戦闘の最中、士郎は思い出していた。
士郎はこの世界に来てから戦闘面で役に立つ、とある才能を獲得していた。
それは剣術の才能――――では無く、徒手空拳の才能だった。
その才を得られた士郎は17年間ちょいの間、ひたすら鍛錬に励んでいった。
士郎が選んだ無手の武術は中国拳法。それは衛宮士郎の時からある程度修得していたものだった故、この機会に極めて見ようと選んだのだ。
そうして年々、力量を上げていきながら考えていた事が有った。
(魔術属性が剣である俺が、無手の才能は生まれたのに剣術の才能が無いとは、なんて皮肉なんだろうな)
と、自嘲気味だったのだから。とはいえ、無いもの強請りをした事のない士郎は只、以前の《衛宮士郎》の頃から変わらずに愚直なまでに積み重ねていくだけだった。
その形こそが、『―――士郎』なのだから。
そこに、コカビエルと対峙していた内一人であるゼノヴィアの怒声が、士郎の鼓膜に響いてきた。
「如何いう意味だっ、コカビエル!」
彼女の形相にも目もくれずに笑い飛ばしたコカビエルは、口の両端を愉快そうに吊り上げながら説明しだした。
聖書に記された3大陣営間のかつての戦争で死んだのは、悪魔側の四大魔王だけではないと天使側の神も消滅したのだと言うのだった。
しかしながら四大魔王の事は兎も角、神の消滅については重要機密事項とされたようだ。
その事にも詳細に説明されてしまい、ゼノヴィアは崩れ落ちアーシアもあまりのショックに気絶してしまった。
「俺は戦争を始める、これを機に!お前たちの首を土産に!俺だけでもあの時の続きをしてやる!我ら堕天使こそが最強だと、サーゼクスにもミカエルにも見せつけてやる!」
聖書にも出て来る有名な天使の名に、臆面も見せずに戦争を仕掛けるというコカビエルの言葉にリアスを含む眷族らは委縮してしまった。只一人を除いては・・。
「ふざけんな!お前の勝手な言い分で俺の街を、俺の仲間を、部長を、アーシアを消されてたまるかっっ!それに俺はハーレム王に成るんだぜ、テメェに俺の計画を邪魔されちゃ困るんだよ!」
そんな弟分の発言に、士郎は誰にも聞こえない様に「なんでさ」と口にした。
「ククク、ハーレム王?ハハハ、赤龍帝はそれがお望みか。なら俺と来るか?直にハーレム王に成れるぞ?行く先々で美女を見繕ってやる、好きなだけ抱けばいい」
(おいおい、いくら一誠がオープンスケベだからと言って、そんな話に乗る訳が・・)
と、一誠を見れば徐々に涎を垂らしながら一時停止していた。
「ハッ!?お、おおおお俺がそんな甘い言葉に、(じゅるり)だ、だだ騙されるモノかよ!(じゅるじゅる)」
我を取り戻しつつ涎を戻しながらコカビエルに言い放つ一誠に、士郎は何時から自分の弟分はこんなにも残念になってしまったんだと、右手を聖骸布越しで額に当て乍ら嘆いていた。
そんな士郎の隙を狙ってか、もう最後の一匹であるケルベロスが背後から襲い掛かるも、最初に肘打ちで鳩尾に入れてその衝撃で吹き飛ぶ直前に強烈な裏拳で中央の顔に居れて牙の何本かを砕く。しかもよく見れば、いつの間にかに両手に黒い手甲を装備していた。
因みに、一誠はリアスの怒られながらも会話している。
しかも最後には、『赤龍帝の籠手』の宝玉が嘗てないほど輝きだし、宿主たる一誠は雄たけびを上げ乍らセクハラじみた言葉を連呼する。
その一誠の反応にリアスは頬を赤く染める。気恥ずかしそうに。
「女の〇首を吸う想いだけで力を解き放つ赤龍帝は初めてだ。――――なんだお前は?何所の誰だ?」
「リアス・グレモリー眷族の『兵士』!兵藤一誠さ!覚えとけコカビエル!俺はエロと熱血に生きるブーステッド・ギアの宿主さ!」
言い切ると同時に突っ込んでいく一誠。
そんな迂闊すぎる行動に対してテンションの高さから先読みしていた士郎は、仕方ないなと嘆息しながらもすでに、黒塗りの弓と先ほど出した赤い槍を矢のように番えていた。
「テンションを上げたからといって勝てる程、世界も俺も甘くは無いぞ!赤龍帝ぇええ!!」
口の両端を吊り上げながら叫ぶコカビエルは、当然迎撃するために光の槍を創り出して投げた。
「って、そうだったうぉお!?」
テンションが上がり過ぎて無策に突っ込んだものだから、光の槍に対してどうすると窮地に考えようとしたものの、考える間もなく自分の後方から何かが過ぎ去っていき光の槍を掻き消す。
そして、そのままコカビエルに向かい直前にて――――。
『壊れる幻想』
ズゥォオオン!
爆発する。
今がチャンスだ!と張り切り突っ込もうとする一誠だったが、後ろから襟首を掴まれ引き戻される。
「うお!?な、何するんだよ!?あんた!折角のチャンスを」
『何所がチャンスだと?よく見てみろ』
一誠は魔術師に促されて爆発先を見ると、直前で後方まで下がったのか無傷でいたコカビエル。
「ククク」
不敵に笑うコカビエル。
『無策に突っ込むんじゃない。勇気と蛮勇は違うぞ、現赤龍帝』
「んなこと言ったって・・。つうか!アンタはケルベロスの方はいいの・・か・・・・よ」
後方を見ると、ケルベロス達は口から涎を垂らし気絶しているのが多かったが、顔や足が切られていたりするのも居た。要するに全滅していた。あれから2分もたっていないにも拘らず。
『もう既にことは終えた。何匹か再起不能になっているがな』
「んなぁぁ・・・」
先程の一誠の異常な語りで、戦意を再び向上させていたアーシアとゼノヴィア以外の者達4人も、驚きを隠せずにいた。
そんな空気の中で大声で笑う者が現れた。コカビエルだ。
「クハハハハハハ!!そうか!思い出した!?思い出したぞ!その格好に戦い方は聞き覚えがどこかであったと疑問に感じていたが、貴様《幻想殺し》だな?」
『・・・・・・』
「幻想殺し?」
「何の事です?」
言い当てられた士郎は無言でコカビエルの言葉を聞く。
「ここ数年、魔術協会内にて最低でもAAAの依頼書を次々と完遂させていると言う、戦闘にあまりに特化しすぎた正体不明の魔法使いの噂をちらほらと聞いていたが、その噂と被るな。その格好と戦闘力の高さは!付いた異名は《幻想殺し》!」
『・・・・・』
魔術協会には、外道に堕ちた魔術師・魔法使い、はぐれ悪魔やはぐれ堕天使、そしてetc・・・。
そんな奴らの討伐依頼や土地や物の調査依頼なども入ってくる。
当然、それらにはランクが有り、一番上が公式上ではランクSSSまであるのだ。
因みに、昔は悪魔のようなオカルト的な物たちを幻想類などと呼ばれていた。《幻想殺し》と言う渾名は、そこから来たと思われる
「無言は肯定と取られても、おかしくは無いぞ?まさか歴代最強の魔法使いに届き得る――――いや、既に超えているんじゃないかと言われているが、まさか本物にこんな極東の地で巡り合えるとは思ってもみなかったぞ!しかもサーゼクスの子飼いとはなぁああ!!」
コカビエルの言葉に、魔術協会の事はそれなりの知識としてだけ知っているリアスと朱乃は、瞠目していた。それ以外も良くは知らないが《歴代最強》と言う言葉から、とんでもない人物だと言う事は想像できたため、目を離せずにいた。
『・・・サーゼクス閣下はその事を知らない。報告していないからな。魔術協会のトップとも個人的にコネクションを築けたため、誰かに聞かれても噂程度に留めてもらっていた。だからこそ――――』
そこでリアスたちを見る。
『――――先のレーティングゲームにもゲスト枠で参加できたのだ』
空気が一瞬しんと静まり返る。だがまたしても、コカビエルの高笑いでその空気が消し飛んでいく。
「なるほどなぁああ!確かにこいつは、それなりに楽しめそうだ!俺の光の槍を消し飛ばす赤い槍に、ケルベロス達を容易に圧倒できる膂力!だが、所詮は人間!どこまで俺についてこれるかなぁ!」
言い切ると同時に士郎に――――士郎の居た所に光の槍を剣状に作り変えて、両手に携えながらコカビエルは突っ込んでいくが・・。
「なっ!?何所だ!?っ後ろか!?」
いつの間にか士郎が消えていた。と言うか、ほとんど一緒に居た一誠も消えていた。
その事に驚くも、一瞬でその虚を突かれた心情をねじ伏せて、背後を警戒して直に振り向くが居なかった。誰もが。
「何!?《幻想殺し》どころか、リアス・グレモリーも眷族共も居なくなっているだと!?」
そうして、コカビエルが周りを見渡しつつ探している処に、100メートルくらい離れている処に彼らはいた。建物の影とかなどでは無く、普通に。
但し――――。
「どうなってますのこれ!?」
『あまり大声を出すな。これは俺の魔術の研究で作り出した、特殊な布でな。今のように被るだけで隠密と保護色性能を同時に得られるんだ。つまり、ステルスみたいなものだ』
魔術の研究などでは無く。無論、士郎の宝具による投影。
小人の隠れ蓑
彼の有名なニーベルングの歌に出て来る龍殺しの大英雄、ジークフリートが小人のアルブリヒより譲渡された特殊な布である。
これを一人一人が被り、或いは気絶している二名に被せた上で、合計八人が被れるくらいのサイズも投影して、相談の真っ最中だ。
「光の槍を掻き消した赤い槍と言い、ライザーをフルボッコにした鎌と言い、とんでもない物ばかり持ってるわね。貴方?」
『否定はしないが、今は無駄口を聞いてやる余裕はない。故に直截に尋ねる。君らコカビエルに向かって、一撃ずつ入れたくないか?』
目の前の士郎の言葉に、皆は「え?」と声を零す。
『こう言っては何だが、別段貴殿らの力を借りずともコカビエル位何とか出来るが、貴殿らも随分言われて頭に来てるのではないか?』
『貴殿らの力を借りずとも』と言う部分にムッと来るものの、今迄の戦闘力を見せつけられては分相応な言葉の上、実力不足の点についても否定できなかった。故に皆、暗いこの空間内で頷き合う。
その反応に士郎も納得した。
『理解してくれたならそれでいい。まず私が出て、奴の背中にある邪魔な翼に大ダメージを加えたら、君らも間髪入れずに最大限の一撃を加えてくれ。隙作りも協力するから、安心してくれていいぞ』
その言葉にも皆は頷き合った――――いや、一人だけ聞きたい事が有る奴がいた。
「その作戦を成功させたら〇首を吸えるのか?」
「「「「・・・・・・・・」」」」
『・・・・・・ハァ』
兵藤一誠だった。しかもあろう事か真剣さを孕んだ言葉で聞いてくる処が性質が悪かった。
「何だよ!?その反応は!俺からすれば死活問題なんだぞ!」
『・・・・・今回は諦めろ』
「ふざけんじゃねえよ!こんな餌ぶら下げられて、何も無いなんて生殺しも良いトコなんだぞ!?コンチクショウ!」
『なら、貴殿だけで奴を倒せると?そのブーステッド・ギアがどれだけ凄かろうと、使いこなせていなければ何ら役に立てない上、今の貴殿とコカビエルの戦力差は巨像と黒蟻に等しいのだぞ?』
その言葉に「ぐぬぬぬ!」と悔しそうにする一誠。
『とはいえ、無責任な事は云いかねるが安心しろ。リアス嬢程の女性が好きでもない・・・ましてやお気に入りでもない男に、その身を預けるなどする筈も無いだろう?』
その言葉にリアスは、この暗い空間内で分かるくらいに頬を染める。
『――――兎も角、今回は諦めろ。あんまりもたもたしているとあのカラス、何を仕出かすかわからんからな・・・準備はいいか?』
その言葉に一誠は未だに悔しそうに歯噛みしながらも、頷いた。他の者達も同様に頷く。
『ならば、行くぞっ!』
そう言うや否や、士郎はタルンカッペから一人だけ出る。
他の者は、この大きなタルンカッペからゼノヴィアとアーシアの二人を置いたまま、タルンカッペを被ったまま散開する。
「ん!?何所に隠れていたかは知らぬが、漸く出て来たか!」
士郎は、コカビエルの真正面に姿を現すと同時に、両手の指の間に黒鍵を二本づつ投影してコカビエルに向かい投擲する。
「はっ!下らん!」
それを二本の光の槍もとい、光の剣で消し去りもう二本も消し去ろうとした処で・・。
『壊れる幻想』
爆発する。
しかし、当の本人にはダメージは何らない。
そして、それは士郎も承知済みだった。つまりは。
(目隠しか・・。本当に下らん。どうせこれで背後に来るのだろう?)
そう考えている通り、何かが背後に本当に来た。
(ハッ浅知恵なやつだ。――――戦闘能力は兎も角、頭の方は残念の様だなぁああ!!」
コカビエルは、まるでカトンボを払いのける様に背中の羽ではたき落とす。
しかし、はたき倒したはずの士郎は目の前に居た。コカビエルは気づけなかった様だが、はたき落としたのは士郎が投影で作り出した単なる剣だった。
「何!?どう、ぐっ!!?」
コカビエルは、気付いた時にはもう既に士郎の掌底によって、上空に打ち上げられていた。
「ごふっ、こん、なっっ!?」
そんな宙に浮いていた時に、今度こそ背後に気配を感じた。悪寒が走る様な途轍もないプレッシャーを携えて。というか、自分の背中を足場にして立っている士郎。しかも黒塗りに弓に歪な矢を既に番えている。そして・・。
『I am the bone of my sword―――――――偽・螺旋剣!』
宝具を発動させた。
「ぐっっ!?ぬぅぬぬぬぬぬぬぬぬぅううううううう!!!!」
瞬時に自身の羽で防御するも、それも長く耐え切れずに・・。
「ぐぉおおおああぁああああぁあああああ!!!!?」
ズッゥオオオオオン!!!
グラウンドに叩き付けられるコカビエル。そして、彼の翼のほぼ全ての第一関節部分からその先が削り取られていた。
その事に、尋常な痛みよりも激しい憤怒に駆られながらコカビエルは立ち上がり、いつの間にかに着地していた士郎を睨む。
「きっさまぁああああ!!よくも私の羽をぉおおおおおお!!!許さん!貴様はこの俺自らの手で、今この場で消し去ってく、ぐぉお!!?」
言葉を言い切れずに右から、掌打によるダメージを喰らうコカビエル。
それを喰らわせたのは、いつの間にか姿を現していた小猫だった。
(馬鹿なっ!?いつの間に俺の懐にぃいい!!?)
と、心の中で毒づいていると、何と目の前から突如として聖魔剣を携えた祐斗が現れて、心底驚くコカビエル。
「喰らえっ!!」
「ぐがっっ!!?」
祐斗の聖魔剣による斬撃を喰らってしまったコカビエル。しかし、体力面もかなり削られはしたがまだ耐えられた。
「おっのれぇえええ!!下級悪魔如き、がっ――――」
またも言い切る直前に、コカビエルにダメージが入る。今度は雷属性の力によるものだ。
それを遠くから当てたのは朱乃だった。
「――――ががががっががががががぐががががっががぁああああ!!?」
その攻撃によりコカビエルから煙が上がるモノの、まだ倒れるに至ってはいない。
「至高のぉおおお、堕天使からぁああ、悪魔に成り下がった恥知らずがぁああああ!!!」
その朱乃に対して、両掌に作り出した光の槍を投擲させようとするも・・。
「させるかぁああああ!!」 「させないわっ!」
またも突如として現れたリアスと一誠に、驚きはするがその投擲を止める事は無いコカビエル。
しかし、左掌上の光の槍はリアスの滅びの力に消し飛ばされた。
「おのれぇえ!リアス・グレモリィイイイイイイ!!ならば、こっちの右手「やらせねぇぞおおおお」ええい!?小賢しいぃいい!」
リアスをやらせないために、先ほど以上の力の高まりを維持したまま一誠は、ブーステッド・ギアを殴るような姿勢のまま突っ込んでくる。
「ならば、貴様に喰らわ!?なんだこの鎖はっ!!?」
これからいざ放とうとした処で、右腕にいつの間にかに鎖が巻き付いてあった。
その鎖は、士郎の手元から伸びていた。
天の鎖
それが、士郎が新たに投影で作り出した宝具の真名だ。
傲岸不遜なる英雄王、ギルガメシュを懲らしめるためにメソポタミアの神々から送られてきた神性に対して絶対の拘束力を持った鎖だ。
例え堕ちたとはいえ、元は天使だ。このコカビエルにも効果はテキメンであろう。
「ええい!?外れん!何なのだこの鎖は!!?」
「うぉおおおおぉおおおおお!!!」
「ぬぅう!?」
鎖に気を取られていたコカビエルは一誠に接近を許してしまい、もう5秒にも満たずに辿り着きそうだった。
「・・っのれぇえ!前大戦も知らぬ餓鬼どもにぃ!この俺がぁあああああああああ!!」
「行きなさい、イッセー!」
「これで終わりにして、イッセー君!」
「今度こそ決めるんだ!イッセー君!」
「決めて下さい、先輩!」
『行け、兵藤一誠』
「うぉおりゃぁあああああぁああああああああ!!これでぇええええええ!!!」
そのまま、威力を増加し続けた一誠のブーステッド・ギアを付けた左手の拳が、コカビエルの顔面に突き刺さる。そして・・。
「ラストォオオオ!!!」
突き刺さってから、左腕に溜めに溜めた一撃が炸裂した。
コカビエルは痛みによる呻き声も上げられずに宙に浮き、7、8回回転しながらグラウンドの土の上にうつ伏せ上になり、沈んでいった。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
一誠が息を整えている間に、後方ではリアスたちが勝鬨じみた声を上げており、前方では先程コカビエルの腕に巻き付いていた鎖が全身上に回っており拘束されたようだった。
「イッセェェェー!」
後方から一誠を呼ぶリアスの声が聞こえる。
それに手を振りながら戻ろうとした一誠は・・。
(部長の〇首、吸いたかったなぁぁー・・)
夜空に浮かぶ満月を仰ぎながら、ふとそんな事を思うのであった。
後書き
原作を知っている方には分かると思いますが一応性器ではないものの、伏字にしておきました。
シリアスのみの部分もいくつかあるけど、兵藤一誠の性癖とその影響でシリアスになり切れない部分も多数にある。だからこそ面白い!だからこそハイスクールD×D!!
次回更新も7日~10日ほど頂くかもしれませんが、宜しくお願いします。
ではでは。
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