カンピオーネ!5人”の”神殺し
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【魔界】での戦い Ⅰ
前書き
明けましておめでとうございます(ちょっと遅いかも)。
今回も短めですが、投稿します。
全ての機械類が停止し、混乱の渦に巻き込まれた東京。星と月明かりだけが照らすこの舞台で、幾人もの人間が入り乱れて戦っていた。
「貴様・・・!よくもおめおめと私の前に顔を出せたものだな・・・!」
怒りに顔を歪ませ、数えるのも億劫な程の狼をサルバトーレ・ドニにけしかけるのは、バルカンの魔王サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵。彼の権能である【貪る群狼】により生み出された馬ほどの大きさの狼の群は、近づくそばからドニに切り裂かれる。
「そんな昔の話どうでもいいじゃないか。水に流してさ、今はこの時を楽しもうよ!」
笑顔で言って、また狼を切り捨てる。それがまた、ヴォバン侯爵を怒らせるのだ。過去、自分が苦労して行ったまつろわぬ神招来の儀式。数多の犠牲を払った末に招来したその神をドニに奪われている彼としては、ドニの言葉は許せるものではない。
「貴様・・・!」
「どうでもいいからお前ら!さっさとこの国から出て行け!!」
ヴォバン侯爵に突撃し彼の言葉を妨げたのは、最も新しき魔王、草薙護堂である。
【ステータス改竄】の『製鉄』により、無骨ながらも確かな力を感じる神剣を手にした護堂は、それを上段から振り下ろす。
「舐めるな小僧!」
しかし、彼とヴォバン侯爵の間に突如割り込んだ聖騎士の男性によって、その攻撃は防がれた。―――防がれたとは言っても、神剣をただの大騎士程度の魔術師が防げる訳もなく、体を真っ二つに切り裂かれたのだが。
しかし、ヴォバン侯爵がそれを気にする事もなく、新たに生み出された魔女や大騎士が四方から護堂に襲いかかった。
「チッ!」
即座に『製鉄』を削除し、『神速』を装填する護堂。ヴォバン侯爵の反撃を避け、そのまま脇目も振らずドニへと突貫する。
「お前もさっさと帰れ!迷惑なんだよ!」
「ハハハ!この戦いが終わったら帰るさ!」
ドニは世界最高の剣士である。当然心眼も習得している。それを事前に聞いていた護堂は、『太陽』を装填し、両腕から炎を吐き出し、鞭のように叩きつけた。
「うわっアチチチ!」
ドニはすでに【鋼鉄の肉体】を発動していたが、鋼の権能は熱に弱い。更に、剣の間合いの外から襲い来る鞭を避ける為に必死になっていると、その合間を掻い潜って白井早穂が襲いかかった。
「斬るであります!」
「うわわ!」
早穂が使っているのは、今月今夜ではなく、護堂が『製鉄』で作成した神剣である。神器の中でも最高峰の今月今夜ではあるが、ドニの【切り裂く銀の腕】に対抗が出来ないことは、三月の時点で判明している。それなら、性能は落ちるがいくらでも作れる神剣で戦ったほうがいいと考えたのである。
「まて小僧・・・!」
「アンタの相手は俺だ!」
「面倒じゃのう・・・。」
護堂と入れ替わりにヴォバンの相手をするのは、【魔眼の王】長谷部翔希とみーこである。
大地を埋め尽くす程の、ノヅチがヴォバン侯爵を襲う。漆黒のミミズに似たその生物は、自らの餓えを満たす為の餌を求めて、ヴォバン侯爵へと殺到した。みーこのノヅチとヴォバン侯爵の狼は互いを食い合い、一進一退の攻防を繰り広げている。そして、その間をすり抜けて、翔希が迫る。
「まつろわぬ神・・・いや違う!貴様、真なる神か!!!」
現在最古参の魔王は、即座にみーこの正体を見破り叫んだ。その顔は、喜色に満ちている。この場にドニがいることは気に食わないが、長年出会えなかった自分と同等の存在がこれ程いるのである。戦う相手には事欠かず、彼の闘争欲求が満たされていく。
「・・・チッ!鈴蘭がいないとここまでやりにくいのか!」
翔希が呟く。確かに、今この場所に鈴蘭と睡蓮はいなかった。
そもそも、こんな乱戦になったのは、ドニのせいであった。元々彼らは、ヴォバン侯爵が空港に到着した時点で、彼を隔離世に隔離する予定であった。そのために、護堂、翔希、早穂、みーこの四人は空港で待機していたのだ。
居場所の分からないドニよりも、正面から堂々と向かってきたヴォバン侯爵を先に叩き、その後ドニを倒す気でいたのだが・・・。
その思惑を叩き潰したのが、ドニが発動した権能【いにしえの世に帰れ】であった。この権能の発動によって、ヴォバン侯爵の乗った飛行機は、空港のはるか手前で墜落したのである。
勿論、それでダメージを負う彼ではない。自身の権能【死せる従僕の檻】により使役された魔女の飛翔術により、無傷で着地している。・・・が、これがドニの権能によるものだとは分からなかったヴォバン侯爵は、これを【伊織魔殺商会】の先制攻撃だと判断した。敵の居場所を探り当てる為に放たれた、無数の狼。そして魔女や大騎士。裏の世界のことなど知らぬ一般人への秘匿など、欠片も考えられていないその人海戦術により、彼らは発見された。
更に、その狼の群れを追いかけてきたドニが加わり、この状況へと陥ったのである。既に隔離世へと戦いの場は移動しているが、先程までの目撃者は数多い。【正史編纂委員会】の面々は、情報操作や記憶消去などで、しばらく眠れない日々が続くだろう。
「うん?鈴蘭はどうしたんだい?出てこないけど。」
ここで、ドニが護堂へと問いかけた。苦手なハズの熱による攻撃を受けているというのに、避け、防ぎ、そして反撃する。【剣の王】の名は伊達ではないのだということを、護堂は痛感していた。戦闘の経験値が違いすぎる。
彼は、戦闘が始まった段階で、鈴蘭がいないことは把握していた。しかし、それはどこかに隠れて奇襲を狙っているのだと思っていたのだ。彼女の転移は、奇襲や暗殺にはもってこいのスキル。そのため彼は、護堂との戦闘中にも、何度か意図的な隙を作り、彼女をおびき出そうとしていた。しかし、どれほど致命的な隙を演出して見せても、一向に現れる気配がない。これを訝しんだ為に、護堂へと問いかけたのである。勿論、答えを期待してのものではないが。
しかし、このドニの一言は、護堂の神経を大いに逆なでする。・・・そう。彼は、これ以上ないほどに、怒り狂っていた。
「・・・お前ら・・・揃いも揃って迷惑すぎるぞ!!!」
彼がここまで怒っている原因は、先ほど送られてきた念話。彼の眷属となった万里谷祐理から送られてきた、悲鳴にも似た念話は、彼を怒らせ、そして立てていた計画を変更しなければならないほどに、重要なものだった。
「さっさと倒れろよ・・・!救いに行かなきゃならない娘がいるんだ・・・!!!」
―――そう。
今この国にいる災厄は、【バルカンの魔王】と【剣の王】だけでは、ないのだ。
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