ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
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第3部 始祖の祈祷書
第6章 宝探し
タバサにキュルケ、ギーシュにシエスタは、息をひそめて、建物の外壁に身を潜めていた。
目の前には、廃墟となった寺院がある。
かつては壮麗誇った門柱が崩れ、鉄の柵は錆びて朽ちていた。
明窓のステンドグラスは割れ、庭には雑草が生い茂っている。
ここは数十年前に打ち捨てられた開拓村の寺院であった。
荒れ果て、今では近づく者もいない。
しかし、明るい陽光に照らされたそこは、牧歌的な雰囲気が漂っている。
旅するものがここを訪れたなら、昼飯の席をここに設ようなどと思うかもしれない。
そんな牧歌的な雰囲気が、突然の衝撃音で吹き飛んだ。
ウルキオラの虚弾が、門柱の隣に立った木を、倒したのだ。
隠れている四人は、それを見ていた。
中から、この開拓村が打ち捨てられた理由が飛び出てくる。
それはオーク鬼だった。
身の丈は二メイル程もある。
体重は、標準の人間の優に五倍はあるだろう。
醜く太った体を、獣から剥いだ皮に包んでいる。
突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにそっくりだ。
その数はおおよそ十数匹。
人間の子供が大好物という、困った嗜好を持つこのオーク鬼の群れに襲われた所為で、開拓民たちは村を放棄して逃げ出したのだ。
ウルキオラの攻撃により、オーク鬼は、次々に斃れていく。
ウルキオラの攻撃を受けたオーク鬼は、体が粉々になり、見る影もない。
地面に落ちた手足が、主人を失い、微動だにしない。
「ふぎぃ!ぴぎっ!あぎっ!ぐぶぅ!」
オーク鬼たちは、醜い声を上げて次々に倒れていく。
暫くすると、数十匹のオーク鬼たちは、手足を残して、姿を消した。
その様子を見ていたタバサ、キュルケ、ギーシュ、シエスタは、ウルキオラに駆け寄った。
「おつかれ、ウルキオラ」
キュルケは色気のある声で、ウルキオラに言った。
「まさか、空想上の生物がいるとはな」
ウルキオラは手をポケットに入れて答えた。
「空想上の生き物?」
「俺の世界では、こんな生物は存在しない」
キュルケは「ふーん」といいながら、地面に残されたオーク鬼の手足を見つめた。
先ほどまで、身を潜め、震えていたシエスタが駆け寄ってきて、感極まったようにウルキオラに抱きついた。
「すごい!すごいです!あの凶暴なオーク鬼の群れを一瞬で!ウルキオラさんすごいすごいですっ!」
シエスタはそれから恐々と、オーク鬼の手足を見つめた。
「しかし、あんなのがいたのでは、おちおち宝探しにもいけないね」
ギーシュは造花の薔薇を顔の近くに近づけて言った。
ウルキオラは、服についた血を、迷惑そうに見つめている。
そうしていると、シエスタがポケットから布を取出し、血をふき取った。
「すごいですけど……、やっぱり、戦いは、よくないですね」
シエスタが呟いた。
一方、あんな戦い(ほぼ蹂躙に近かったが)の後なのに、ウルキオラは呆けている。
地図を眺めながら、キュルケが口を開いた。
「えっとね、この寺院の中には、祭壇があって……、その祭壇の下にはチェストが隠されているらしいの」
「そしてその中に……」
ギーシュがごくりと唾をのみこんだ。
「ここの司祭が、放棄して逃げ出す時に隠した、金銀財宝と伝説の秘宝『ブリーシンガメル』があるって話よ?」
「ブリーシンガメルってなんだい?」
ギーシュが尋ねた。
キュルケは、地図につけられた注釈を読み上げた。
「えっとね、黄金でできた首飾りみたいね。『炎の黄金』で作られているらしいの!聞くだけでわくわくする名前ね!それを身に着けたものは、あらゆる災厄から身を守ることが……」
その夜……、一行は寺院の中庭で、たき火を取り囲んでいた。
ウルキオラ以外は皆、疲れきった顔であった。
ギーシュが、恨めしそうに口を開いた。
「で、その『秘宝』とやらはこれかね?」
ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚であった。
祭壇の下には、なるほどチェストはあった。
しかし、中から出てきたのは、持ち帰る気にもならないガラクタばかりであった。
「この真鍮でできた、安物のネックレスや耳飾りが、まさかその『ブリーシンガメル』というわけじゃあるまいね?」
キュルケは答えない。
ただ、つまらなそうに爪の手入れをしていた。
タバサは相変わらず本を読んでいる。
ウルキオラは、倒れた木に腰かけ、月を眺めている。
ギーシュは喚いた。
「なあ、キュルケ、これで七件目だ!地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、見つかるのは金貨どころかせいぜい銀貨が数枚!地図の注釈に書かれた秘宝なんか欠片もないじゃないか!インチキ地図ばかりじゃないか!」
「うるさいわね。だから言ったじゃない。『中』には本物があるかもしれないって」
「いくらなんでもひどすぎる!廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし!苦労してそいつらをやっつけて、得られた報酬がこれじゃあ、割に合わんこと甚だしい」
ギーシュは薔薇の造花をくわえて、敷いた毛布の上に寝転がった。
「化け物や猛獣を倒したのは全部ウルキオラじゃない。それに、化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が入ったら、誰も苦労しないわ」
険悪な雰囲気が漂った。
しかし、シエスタの明るい声が、その雰囲気を払ってくれた。
「みなさーん、お食事ができましたよー」
シエスタは、たき火にくべた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。
そして、シエスタはウルキオラの近くの地面に紅茶とシチューを置いた。
「はい、ウルキオラさん」
シエスタは可愛らしい声で言った。
ウルキオラはそんなシエスタを見向きもせずに紅茶を啜った。
紅茶のいい匂いが鼻を刺激する。
「こりゃうまそうだ!と思ったらほんとにうまいじゃないかね!いったい何の肉だい?」
ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。
タバサとキュルケも、口にシチューを運んで、うまい!と騒ぎ始めた。
シエスタは微笑んで言った。
「オーク鬼の肉ですわ」
ぶほっと、ギーシュがシチューを吐き出した。
さすがのウルキオラも唖然としてシエスタを見つめた。
「じょ、冗談です!ほんとは野兎です!罠を仕掛けて捕まえたんです」
キュルケはほっと溜息をついた。
「驚かせないでよね、もう」
微笑しながら言った。
シエスタは「えへへ」といいながら頭を掻いた。
おいしい食事のおかげで、座は和んだ。
学院を出発してから、十日ばかり過ぎている。
ウルキオラはシチューを頬張りながら、夜空を見上げていると、何故か頭の中にルイズの顔が浮かんだ。
どうして、ルイズの顔が出てくる?と思った。
「ウルキオラさん、おいしい?」
いつの間にか、隣にはシエスタが座っていた。
尻に敷いた木が、みしっと音を立てる。
ウルキオラは、紅茶を一口飲み、シエスタの方を見た。
「ああ」
シエスタの笑顔は、どことなく懐かしい。
このシチューもどこかで見たような感じがする。
それが、遠く離れた……、どのくらい離れているのかもわからない、現世のそれを思わせた。
食事のあと、キュルケは再び地図を広げた。
「もう諦めて学院に戻ろう」
ギーシュがそう促したが、キュルケは首を振らない。
「後一件だけ。一件だけよ」
キュルケは、何かに取り憑かれたように、目を輝かせて地図を覗き込んでいる。
そしてわ一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。
「これ!これよ!これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」
「なんというお宝だね?」
キュルケは、腕を組んで呟いた。
「『竜の羽衣』」
皆が食事を終えた後、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっと吐き出した。
「そ、それほんとですか?」
「なによあなた。知ってるの?場所は、タルブの村の近くね。タルブってどこら辺なの?」
キュルケがそう言うと、シエスタは焦った声で呟いた。
「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……、私の故郷なんです」
翌朝、一行は空飛ぶ風竜の上で、シエスタの説明を受けていた。
シエスタの説明は、あんまり要領を得なかった。
とにかく、村の近くに寺院があること。
そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるモノが存在していること。
「どうして、『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」
「それを纏った者は、空を飛べるそうです」
シエスタは言いにくそうに言った。
「空を?『風』系のマジックアイテムかしら?」
「そんな……、たいしたものじゃありません」
シエスタは、困ったように呟いた。
「どうして?」
「インチキなんです。どこにでもある、名ばかりの『秘宝』。ただ、地元の皆はそれでもありがたがって……、寺院に飾ってあるし、拝んでるおばあちゃんとかいますけど」
「へぇええ」
それからシエスタは、恥ずかしそうな口調で言った。
「実は……、それの持ち主、私のひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりと私の村に、ひいおじいちゃんは現れたそうです。そして、その『竜の羽衣』で、東の地から、私の村にやって来たって、皆に言ったそうです」
「すごいじゃない」
「でも、誰も信じなかったんです。ひいおじいちゃんは、頭がおかしかったんだって、みんな言ってます」
「どうして?」
「飛ばさなかったんです」
「飛ばさなかった?」
「はい。『許可なく勝手に飛ばすことは許されぬ』って…。けど、皆が信じるわけもなくて。それで、私の村に住み着いて、一生懸命働いてお金を作って、そのお金で貴族にお願いして、『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に大事にしてました」
シエスタがそういった後、ウルキオラが口を開いた。
「だか、そんなものを貰うわけにもいかんだろう」
ウルキオラが言った。
「でも……、私の家の私物みたいなものだし……、ウルキオラさんがもし、欲しいって言うなら、父に掛け合ってみます」
シエスタは悩んだ声で呟いた。
ウルキオラはいらんな、と思ったが、キュルケが解決策を打ち出した。
「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよ。世の中にバカと好事家は吐いて捨てるほどいるのよ」
ギーシュが呆れた声で言った。
「君はひどい女だな」
一行を乗せて、風竜は一路タルブの村へと羽ばたいた。
さて一方、こちらは魔法学院。
ルイズは授業を休んでいた。
今のような気分の時には、誰にも会う気がしない。
ベッドの中に閉じこもり、食堂に食事に行くときと、入浴するときだけ部屋を出た。
ヴェストリの広場にウルキオラが居ることは知っていたので、先日様子を見に行ったら、そこにウルキオラは居なかった。
通りすがったモンモランシーに尋ねたら、ウルキオラやギーシュ、そしてキュルケとタバサは授業をサボって宝探しに出かけたという。
先生達はカンカンで、帰ってきたらキュルケたちに講堂の全掃除を命じるつもりらしい。
なんだ楽しそうじゃないの、と思ったら、ますます悲しくなった。
自分だけ仲間はずれにされたような、そんな気分になってしまった。
そして今日もルイズはベッドの中で、泣いていた。
空っぽの椅子を見ると、どうしても泣けてきてしまうのだった。
そして、机の上にある始祖の祈祷書が目に入った。
未だに、詔を完成させていないことに気づいた。
ルイズは寝返って呟いた。
「ウルキオラのバカ…どこ言ったのよ、もう…」
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