片方ずつ
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第七章
第七章
「一つでもな」
「一つでもって」
「やる。いいな」
こう返すのだった。
「俺の片目をな」
「片目って」
「御前も見えて俺も見える」
リチャードは述べていく。
「俺も目が一つあればそれで投げられる。それでいいな」
「けれどピッチャーは」
「俺を誰だと思ってるんだ」
ここでは妻にそれ以上は言わせなかった。鋭い声になっていた。
「リチャード=シモンズは天才なんだぞ」
「天才・・・・・・」
「御前のおかげで本当の天才になったんだ。その本当の天才が片目だけがあればそれで投げられないと思っているのかよ」
「片目だけで」
「そうだよ。俺は片目だけでも投げられるんだ」
彼は本気だった。それを断言してみせる。そうしてこうも言うのだった。
「それにだ」
「何?」
「御前が見えてそれで俺をサポートしてくれたらそれが片目になるだろ」
それも言うのだった。
「わかったな。いいな」
「片目ね」
「それならいいだろ」
彼は断言だった。
「いいな」
「それはどうしてもなのね」
「ああ、これだけはだ」
引かない彼だった。
「わかったな」
「わかったわ」
ここで遂に、だった。エリーも頷いた。
「もうそれでね」
「よし、それならそれでいいな」
あとはもう言わせなかった。そうしてだった。
リチャードはエリーにその片目をやった。そうしてであった。エリーは目が見えるようになった。そしてリチャードは片目になった、しかしだった。
彼はそれからも勝ち続けた。これまで通り。
確かに片目になった。しかしそれでもその投球はさらに冴え渡っていた。最早誰も彼を止めることはできない程であった。
「なあ、シモンズな」
「さらによくなったよな」
「片目になったのにな」
誰もがこのことに驚く他なかった。
「見事っていうかな」
「どうなんだ?」
「かみさんに片目あげたのにか」
「片目なくてもか」
これまで以上に素晴らしくなったのである。
そしてであった。彼等はこのことをリチャードに問うた。すると。
「そういう問題じゃねえんだよ」
「そういう問題じゃないって」
「片目は」
「ああ、これか」
左目には海賊の様な眼帯をしている。そこにエリーの名前を刻んでいる。それが今の彼のトレードマークにもなっているのであった。
「片目はあるぜ」
「あるって?」
「ないじゃないか」
「かみさんにあげたじゃないか」
彼のにやりとした笑みに対して皆言い返した。
「それであるって」
「じゃあその眼帯は」
「俺の片目はな。あいつなんだよ」
ここで彼はこう言ったのだった。
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